No.12-side:CREW




ああ、しまった寝過ごした。

すっかり閑散とし、残っている人もまばらな食堂で、少々急いで食事を口に運ぶ。
この食堂で食事を摂っている人はほんの数人で、しかもおれ以外の人はもうじき食べ終わる様子だ。
早くしないと後片付けが遅れて迷惑をかけてしまう。

それでもギリギリとはいえ、時間内に目が覚めて良かった。
まだ勝手の慣れない環境で、食事まで抜くことになったら本気で落ち込んでしまいそうだ。


ハートの海賊団に入って、5人部屋に入れられた。

おれの部屋のメンバーは、比較的若い人が多く、船に乗って日の浅い人たちが多いらしい。
しかし若いと言っても、おれより5歳から8歳上の人たちだ。
部屋の人に限らずクルーは皆いい人たちで、おれが歩いていれば気にかけ声を掛けてくれるし、分からないことを聞けば皆親身になって教えてくれる。
けど、食事や休み時間を共にする決まった人はまだ居ない。

仕方ないと思う。
子供の集まりに大人が1人混じればやっぱり空気は白けるし、話す話題も限られる。
……だろう?逆もまた然りだ。
おれはもう大人だと言い張るほど子供っぽい主張はないと思うし、そんなこと思ってもいない。

ただ、食事を一人で摂るのは少し寂しいなあ、と思う。
あと、食事の時間に誰にも起こしてもらえないのも。
孤児院に居た頃は、食事の時間などといえばそれはそれは宛ら戦争の如く騒がしさだったし、父に引き取られてからは、静かな食卓ではあったけど必ずテーブルに着くときは二人でと決まっていた。

きっと、こんな食事もそのうち慣れる。
おれがもう少し大人になるくらいにはきっとこの海賊団はもっと大きくなって、おれと同じ年代のクルーも入ってくるだろう。
それまでだ。

端っこが欠けたオムライスにもうひとつスプーンを挿し込み、目いっぱい口を開けてそれを頬張る。
トマトの酸味に、バターと玉子のまろやかで甘い香りが鼻を抜け思わず頬が緩む。
この食事を作っている女性を思い描き、改めて尊敬の念を抱く。
お世辞にも海賊の素質が露程もあるとは思えない女性だが、この船でのその存在は大きい。
キャプテンから特別な寵を受けている事を抜きにしてもだ。

ぱくん、もうひとくち。
その存在の大きさを主張する一つが、このごはんだ。

特別に凝った食事ではない。
レストランで食べるようなものは出てこない。
よくある、家庭料理の範囲内の食事だ。
例えば、カレーとか、パスタとか、シチューとか。
一つ一つがとても丁寧なのだ。
毎食何十人分も作っているとは思えない。
このオムライスだって薄い玉子がまあるくチキンライスを包み、バターでつるりと光っている。
玉子が破れている場所や、焦げ目なんて一カ所もない。
丁寧なのだ。
味付けもレトルトはなるべく使わない。沢山の量も流れ作業でしない。だから美味しい。
彼女の性格を凝縮させたようなオムライスを更に切り分ける。


「いいなあ、美味しそう!おれももう一回夕飯が食べたくなっちゃった。」


ふいに頭上から掛けられた声にスプーンを咥えたまま顔を上げた。
声を落とした主を無言で見上げると、目の前にレインボーカラーを突きだされた。


「マシュマロ、好き?」


パッケージの透明部分から覗く丸いお菓子を見つめ、それを自分に差し出している主を見上げる。
そして、また菓子を見る。
そんな事を2・3回繰り返し、最後にはぽかんとお菓子を差し出したままの先輩クルーに視線を固定して止まった。

なんで?彼はおれに何か用だろうか?
おれがこの船に乗ってから、殆ど――寧ろ避けられているのかと思うくらい彼とは関わりが無かった。
ハルさんはクルーの中で彼が一番の仲良しだと言っていたけど、実際二人でいる所を見た事は随分前、数える程しかなかった。
口にしたことは無いけど、本当はハルさんの一番の仲良しはキャスケットさんなんじゃないかと思っているくらいだ。


「えっと……。どうかしましたか?」


おれに何か用ですか?
そういう意味を込めて問いかけてみると、彼はマシュマロのパッケージを僅かに下ろし、こくりと首を傾げた。


「マシュマロ、嫌い?」

「……いや、マシュマロは好きですけど。」


何なんだ?
要領を得ない会話に困り眉尻を下げた。


「ね、ご飯はやく食べちゃってよ。おれとラウンジで遊ぼう。」


バフッ
マシュマロのパッケージを勢いよく破り、ポイポイとカラフルな丸いお菓子を口に放り込んでいく白熊の先輩をもう一度呆然と見つめてしまった。


どうしたんだろう?急に。


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