No.16-side:BEPO




「違う!何回その説明をさせれば気が済むんだ。」

「初歩的な質問をするな。そこは船長に教えてもらった範囲だろう。」

「聞く前に自分で最大限調べろを言ったはずだ。それは“新世界かじとりの基礎”に載っている。」

「寝るな!いいか、この図面を描きあがるまでに寝たらそこで俺は降りる。そしてその足で船長へ報告へ行くからな。」

「この部屋ではお菓子は禁止だ。満腹になるとすぐ眠くなるだろ。……泣くな!」

「お前は手元が不器用すぎる。もっと繊細に道具を使え。そうだな、3分以内に100個の大豆を箸で掴めるようになるまでこれから毎日キッチンへ行け。ハルに話を通しておく。」


「……ぐすんっ……ハイ。」


ペンギンは、事前に言っていた言葉に違わずそれはそれは厳しかった。

今思えば、キャプテンは優しかった。ペンギンに怒られるたびにキャプテンを想って泣きそうになる。
正直、ペンギンは先生には向かないと思う。
こんなの生徒はみんな逃げちゃう。
でもおれはなんとか歯を食いしばってペンギンの部屋から逃げ出すことはしなかった。
ペンギンの部屋を出るといつも、おれの手の毛の中は払った消しゴムのカスが沢山絡んでいて、鉛筆やインクで白い毛が薄黒くなっていた。


「……う……うぅ……。」


下唇を噛みしめて廊下を進む。
キャプテンの部屋で教えて貰っていた時に持ち運んでいた資料やノートは手に持つことは無くなった。
道具は全てペンギンの部屋に置いてある。
本やノートはもちろん、スケールやペンも全部だ。
「船長に秘密なら徹底しないと駄目だ。」という完璧主義のペンギンの主張に、別に……文句はない。

薄汚れた手で、ごしごしと目元を擦りながら、キッチンを目指す。
ようやくたどり着き、ドアを開けて、倒れ込むように中に入った。


「うわーーん、ハル〜〜〜〜っ!!」


堪えていたものが一気に噴出した。
そのままバタバタとキッチンを通り抜け食堂へ入り、適当な椅子へ腰掛けてテーブルへ突っ伏した。


「おれはもうだめだ。才能がないんだ。ペンギンの言っている事も10のうち3くらいしかわかんない!!」


テーブルに突っ伏したまま両足をバタつかせ「わーーん」と声を上げる。
ハルはクスクスと笑いながらキッチンから出て、俺に近づいてきた。


「3も分かるの?凄いじゃない!私ならそんな難しい話1も分かんないと思う。」

「ハルならちょっと勉強すれば分かるよ。」


む、と口を尖らせて言うと、ハルが嬉しそうに笑った。


「でも、ベポが話してくれるお話は最初に比べるとすごく難しくなっているし、どんどん進んでるんだなぁって思うよ?」

「……まぁ、ね。」

「さて、ベポ。」


ハルの言葉に気を取り直して、椅子に座り直すと、にっこり笑ったハルが、ポンと一つ手を打った。


「すぐにその真っ黒な手を洗ってくるならおやつを出します。そのままでいるなら、大豆を100個とお箸を持ってくるけど、どうする?」


にやにやと続けた言葉に、サァッと血の気が引いた。
酷い……こんな所にまで、ペンギンの魔の手が……。
うぅ……と呻いて瞼をぎゅっと瞑ってから、勢いよく立ち上がる。


「手!洗ってくる!!」

「はい、行ってらっしゃい。」


ペンギンに長い時間お菓子を禁止されていたためにぐぅ、となるお腹を気にしながら洗面所へ向かう。
おれ、もしかしたら航海士になれる頃には、どんどん痩せてガリガリのみすぼらしい白熊になってしまうかもしれない。

廊下へ出る扉のノブに手を掛けてから、あ、と気づいてハルを振り返る。


「ハル、おやつの後、ちゃんと大豆の特訓するからね。用意しておいて。」


さて、おやつおやつ。と。


残したおれの言葉に、ハルがポカンとした後、ウキウキとスキップするようにキッチンに入った事は、洗面所へ急ぐために廊下を走り、ぶつかりそうになったクルーに怒られていたおれには知る由もなかったんだ。


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