No.11-side:LUCCI




−カラン
テーブルに置いたグラスを拾い、再度酒を煽る。

任務中とはいえ、休みの日にわざわざエニエスロビーに戻ってくるのは面倒だったが、来た甲斐があったというものだ。
青キジが、面白いものを連れてきた。
いや、話を聞いていると、どうやら連れてきたのはハットリらしい。

青キジに呼び出され長官室に行くと、そこに居たのは、先日、革命軍のアジトの捜索で入った無人島に居た女だった。
驚く俺に対し、女はまるで初対面のような顔をしていて、無人島で自分が獣化していた事を思い出した。

そして驚くことに、青キジがその女をニホン人だと言う。
ニホン人とは、どこから現れるのか未だ解明できていない異世界人で、この世界で過ごす内に特殊な能力を身につける。
ニホンと言う場所が本当に存在するのか、この星にあるのかないのかさえ、わからない。
話には聞いたことがあるが、どんな文献にも載っていない、まるで都市伝説のような存在だ。

本来なら端から嘘と決め付けるところだが、連れてきたのが海軍の大将殿だ。
海軍がそう言うからには何かしらの根拠があってのことだろう。
面白い。ウォーターセブンでの長期任務も2年が過ぎ、少々マンネリ化して退屈してきたところだ。

ナツというこの女。
ハットリがこの世界に連れてきたと言う。
それなら……こいつはハットリの飼い主である俺のものじゃないか?
こいつがあの無人島からどういう経緯で青キジの元に居たのかは知らないが、こんなに面白いもの海軍大将とはいえ、みすみすくれてやるつもりはない。

ソファーの背もたれに止まっていたハットリが、ナツの元へ飛んでいった。
コイツが、俺以外の人間にこれほど懐くというのも珍しい。
ナツは腕に止まったハットリの背を指先で撫でている。
ハットリもナツの腕の中で寛ぎ、時折目を薄く閉じている。


「ルッチさん。この子なんて名前でしたっけ?」

「ハットリだ。」

「そうそう、ハットリ。」

「クルッポー。」


ナツが名前を呼んで喉元を撫でてやるとハットリが小さく鳴いた。
先ほど長官室で、鳩相手に泣きながら怒っていた女とは思えない。
青キジの隣に居たときは少女のように見えたが、今は俺とさほど変わらない年頃の雰囲気を纏っている。
不思議な女だ。

先ほどまで俺を警戒していた様子だった。
俺との会話の後の考え込む表情を見ても、ただ周りに流されるばかりの餓鬼というわけでもなさそうだ。
しかし、自ら新しい流れを開拓するタイプにも見えない。
それならここはひとつ、俺がお前を流れに乗せてやろう。


「ナツ。」


ナツが僅かに肩を震わせてから、此方を見る。


「……はい。」


なんだ。まだ警戒してたのか。
簡単には飼いならされない、ということか。
ふん。まぁ、今は其れなら其れで構わない。


「こっちに来てみろ。」


顎を振り目の前の窓を示す。
ナツが怪訝そうな表情でハットリを腕に乗せたまま此方に近づいてきた。
俺から少し距離をとって窓の傍に立ったナツを確認し、窓の外を見る。


「あそこに列車が止まっているのが見えるか。」

「列車?」

「あの、向こうの門の近くだ。」

「あ。はい。」

「あの列車は海の上を走り、ウォーターセブンという島へ向かう。」

「海の上を?!」

「水面の少し下に線路が通っていてその上を走る。」

「へえー!……あ、海列車って、ルッチさんが今日乗ってきたの、あれですか。」

「そうだ。俺は今、長期任務でウォーターセブンに住んでいる。」

「任務……諜報の。」

「ああ。俺を含めCP9が4名。」


自分の事を話すのは、相手の警戒心を解く手っ取り早い方法の一つ。
少しの沈黙の後、視線を感じ、ナツに目をやった。
ナツが少し恥ずかしそうに口を開く。


「あの……ただの興味本位な質問で申し訳ないんですが、諜報って、具体的に何するんですか?」


少し口元に笑みを浮べて答えてやる。


「船大工だ。」

「……またまた。」


当然冗談だと思っているらしい。
それ以上は答えずに少し肩を竦めてまた窓の外に目をやった。


「……本当に?」

「ああ。潜伏任務だ。」


疑わしそうに尋ねてきたナツの質問に答えると、少し間を置いて、クスリと笑う音が聞こえた。
眉を顰め、睨みつけてやる。
ナツが慌てたように口元を片手で覆った。


「ごめんなさい……だって船大工って、似合わない。」

「ふん。当然だ、バカヤロウ。」


似合ってたまるか。


「や、でも。見てみたいです。……るっ……ルッチさんの船大工。……っ……ぷぷ……。」


笑いながら話すナツを睨みつけたまま見つめる。
ナツは俺から目を逸らして「ハァー」と息を吐き、笑うのをやめ、窓の外に目をやった。


「海の上を走る、不思議な列車も乗ってみたいし……早く、この世界の人間にならなきゃ。ね。」


外を見つめてナツが呟く。
その声は、俺に話しているのではなさそうだ。独り言のような、ハットリに話しているような……。
ナツの「あ。」と言う声に外に目を向けると、丁度海列車が発車する所だった。
波飛沫を上げゆっくりと、徐々に早く、列車が海の上を走って行く。
横目でナツを見ると、見開いた目で列車を見つめ、わくわくとした表情を浮べていた。


そうだ。
もっと興味を持て。
お前の社会化だけを担って、あっさり青キジの所へなど返してやるものか。
ハットリが連れてきたお前は俺のもの。


上手く流されろよ。ナツ。


[*prev] [next#]

ALICE+