No.125




「あんな魚型のワッフルの何が良いのかさっぱり分からない。」


相変わらず凶悪な目つきで不機嫌を露わにするルッチに、まあまあと苦笑を浮かべる。


「いいじゃないですか。焼き立てですよ。しかも日本食ですよ。せっかくならルッチさんと一緒に食べたいじゃないですか。」


そう言いながら、ルッチの腕に絡ませている腕で彼の脇腹を小突いた。
彼と手を繋いだりするのは、私が酔っぱらっている時か弱っている時ばかりだったから、こんなにシラフで自然と彼にくっ付いている事が不思議で、嬉しかった。
「今買う必要性を感じない。」と尚も主張するルッチにクスクスと笑う。

塔に入った所で、ルッチがふと足を止めた。
何事かと彼を見上げると、僅かに眉を顰めた彼がこちらを向く。


「そういえば、あいつはいつもここら辺にいるんじゃないか?」

「あいつって?」

「フクロウだ。」


そう言って視線を上に向ける。
私の腕からすり抜けて、一歩前に出た彼は、見上げていた視線を一点で止めた。


「そこか。」


私が視線を彷徨わせていた辺りより、随分上に向かってルッチが声を掛ける。
彼が向く方向に顔を向けると、シュッと黒い影が動いた。
シュッ、シュッ、と音に合わせて何かの影が所々で動く。
相変わらず大きな姿をパッと目の前に現したフクロウに、思わず仰け反るが、ルッチはビクともせず平然としていた。


「チャパパパ。見つかったチャパー。」

「ふん。居たか暇人。」

「暇人とはご挨拶だチャパ、ルッチ。」

「暇人だろう。下らない噂をウォーターセブン組に流す暇があったら任務を増やせ。」

「噂?」


フクロウとルッチの会話に割り込む。
面白そうに口角を上げるフクロウと、不機嫌そうに眉を歪めるルッチ。
対照的な顔をした二人が同時にこちらを向いた。


「噂じゃないチャパ―。俺は見た事をそのまま伝えたんだから、非常に信憑性のある話チャパ。」

「何が信憑性だ。」

「本当チャパ。エニエスロビーに来た瞬間寝込んだナツを、毎日甲斐甲斐しく見舞っていたのはジャブラだ。残念ながらお前の入り込む余地はないほど二人はラブラブだチャパパー。」


フクロウの言葉を受けて、ギロリとこちらに視線を寄越したルッチに、両手を上げて無実を主張する。


「えっと、今の話の中で正しい事は1点。惜しい所が1点。あとは不正解ですね。」


えっ!と声を上げてフクロウがこちらを向く。


「寝込んだのは本当です。風邪ひいちゃって。あとジャブラが見舞ってたのは毎日ではなくたまーに。あとは全部不正解。」

「なんであの野良犬が。」


私の弁明を聞いても、彼の眉の溝は浅くなることは無い。


「それは、倒れたのがジャブラの前だったからでしょうね。目の前でぶっ倒れた人のその後の経過は誰でも気になるでしょう。お見舞いって言ったって“おう、調子どうだ?”程度です。」


軽く片手を上げて、ジャブラの口調を真似する。
ルッチは数秒睨むように私を見つめていたが、ふとフクロウに視線を移し表情を緩めた。


「だ、そうだ。次の大ニュースの連絡網の時に、今の件を訂正しておけ。」

「チャパパパ!!!言われなくてもそうするチャパ―!良いもんみせて貰ったチャパ!」


口のチャックを大きく広げ、チャパパパと笑ったフクロウが、フッと姿を消した。
きっと、早速自室で今の事を誇張してウォーターセブン組に伝えに行ったんだろう。
次こそ、強力な瞬間接着剤(金属用)を買って来なくちゃ、と溜息を吐いた。

チラリと隣の男の機嫌を窺う。
鯛焼きを買っている間もずっと不機嫌を貫いていた彼だったが、ようやく普段の無表情に戻っていた。

ポケットに手を入れたルッチの腕が不自然に服から浮いた。
込み上げる笑みを抑えながら、その隙間に自分の手を差し込む。
願わくば、このまま帰るまで彼のご機嫌が持ちますように。


「早く戻りましょう、鯛焼きが冷めちゃう。」


笑って声を掛けると、彼の眉が僅かに上がった。



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