No.132-side:LUCCI




数えきれないほどの絶頂を迎えて、遂にナツは糸が切れたように意識を手放した。
同時に、幾度目かの欲を彼女の中に解き放つ。
腕の中でコトリと脱力した柔らかい身体を抱きしめた。
ずっと彼女の中に埋まったままでいたくて、離れてしまいたくなくて、名残惜しむように腰をゆるゆると揺らすが、とっくに限界に達していたナツが目を開けるようなことは無く、渋々、熱く蕩けた甘美な彼女の体内から自らを抜いた。

彼女の部屋の、狭いセミダブルのベッドの中。
くうくう、と小さな鼾をかく彼女を半分自分の体に乗せるように抱き、まだ体の中に籠る熱から顔を背けるように目を瞑った。


*


俺の部屋のものの半分ほどの大きさのベッドで、窮屈さに身を捩らせながら目を覚ました。
相変わらずすやすやと眠り続けている彼女の頬に唇を落とし、出来る限りマットレスを揺らさないように静かにベッドから抜け出る。

一週間も留守にしたので少し埃っぽいはずの部屋だ。
空気くらい入れ替えようとカーテンと窓を開けると、少し肌寒い空気と朝の光が部屋の中に入り込んできた。
彼女を起こしてしまわなかったかとベッドを振り返ると、あれほど小さいと思ったセミダブルのベッドは彼女だけが入った状態だとそれほど小さくは見えなかった。

昨夜、食事の片づけもそこそこにベッドに雪崩れ込んだ為、リビングとダイニングは溜息を吐きたくなる有様だった。
普段なら悪態の一つも吐くところだが、こうなった責任の8割は自分にあるとので素直に片付けることにする。
ガチャガチャと汚れた皿を重ねる俺を見て、ハットリが喉の奥をクルクルと鳴らし、バサバサと羽を揺らした。


「ああ、そうか。……悪いな。」


慌ててハットリ用の皿に水とトウモロコシを入れてやる。
目をつり上げたハットリが「クルッポー。」と一声鳴き、がっつくように餌皿に嘴を埋めた。

汚れたグラスと皿をシンクに運び、空き缶と空になったワイン瓶をゴミ箱に放り込んだところで溜息を吐く。
甘い。あまりにも胸の奥で甘ったるいものが渦巻き過ぎている。

……これは、早めになんとかした方が良いかもしれない。

今、この瞬間の俺なら、今までと変わらない仕事が出来るだろう。
今までと変わらず島中の人間を欺き、神経を研ぎ澄まし、完璧な任務を遂行できる自信がある。
でも、1か月後なら?半年後なら?1年後なら?
ナツをさて置いて、仕事が出来る人間であり続けられるだろうか。
それすら、未知であるくらい、俺は人に興味を持ったことが無かったのだ。


愛すべきは正義。血、正当な殺し。弱者は悪だ。
それは俺が培ってきた俺の根本の全てだ。しかし、弱者であるはずの彼女がそれを覆す。
弱い人間を愛し、愛され、それに満足するなど、今までの俺ではありえなかった。
同時に今後の自分がどうなるかの予測もつかなくなった。
自分がどうなってしまうか分からない位、きっと俺はあいつを愛している。


早く、この任務を終わらせなければ。
完璧な仕事が出来るうちに任務を終わらせ、さっさと引き上げて体制を立て直さなくてはいけない。
しかし今までと違うのは、この手の不安が脳裏を過っても、もう、あいつを手放そうだとか、別れようなどとは微塵も思わなくなった事だ。


白いタンクトップに、サスペンダー付きのボトムス。
下らない、船大工になる為のいつもの小道具を身に纏い、鏡の前に立つ。

肩に彫ったタトゥーの少し上付近が僅かに赤くなっているのに気が付いた。
ああ、これは……
指先で痛くも無い痣を撫でる。

これは、昨夜ナツが噛みついた痕だ。
口が触れるところ余すことなく赤い痕を残す俺に、いい加減にしろと言わんばかりに吸い付いてきた彼女。


「なんで、あなたにはキスマークの一つも残らないんですか!一体どんな体なの?」


怒ったように噛みついてきたのがこれだ。
彼女なりに思いきり噛みついたのだろうが、一晩経った今、薄らと痕が分かるくらいでもう殆ど消えかかっている。
思わず緩む頬に、はっと意識を戻す。
まったく、これだから厄介なのだ……。
眉間に力を籠めて、玄関に向かう。

「ポッポー。」と声がして肩に馴染んだ重みが加わった。


会社へ着いたらまず、カリファを探す。そして、カクに話を。
そして、今夜にでもCP9のメンバーを徴集しよう。
各自のんびり情報を集めるのは終わりだ。


仕事を進める。


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