No.13-side:CP9




サアァァァァ……

ピチチチチ……チュンチュン……


「ハァ……。」


夜中から朝に掛けて任務を遂行していた俺は、ようやく眠れると自室の扉を開け、部屋の中央を見て溜息を吐いた。
手入れの行き届いた自慢の芝生の上には、女が一人手足を投げ出し仰向けで寝ている。

この女、ナツは、数日前から此処エニエスロビーに住み着いている。
CP9の新しいメンバーでも、給仕でもない。
どうやら、海軍大将青キジの姪っ子らしいが、あのノッポには正直似ても似つかない。
こいつは青キジのように、特別身長が高い訳ではない。かといって低くもない。
際立って美人ではないが、別に醜い訳でもない。
言ってしまえば、どこにでも居るような女。
胸だって、ギャサリンちゃん以上カリファ以下といった所か。
ああ、そういえば、ギャサリンちゃん。今日も可愛かった。
廊下ですれ違ったとき、少しお辞儀をしてくれた……あの笑顔!
……なんで俺の部屋で寝ているのが、ギャサリンちゃんじゃなくてこの女なんだ。

口を半開きにし、くぅ……くぅ……と小さな鼾をかく女を見下ろす。
……ああ、良く寝るところは青キジに似ているか……。


「おい、ナツ。起きろ。」


ナツの脚をつま先で軽く蹴るが、身じろぎ一つしない。
ナツの寝ている横に、胡坐をかいてドカリと座った。


「起きろっつってんだろうが!!」


ナツの耳元に口を寄せ、思い切り叫んでやる。


「む……。」


眉根を寄せ、目を薄く開けて此方を睨む。
ごそりと、俺と反対側に寝返りを打ち、またすうすうと寝始めた。


「おおい!!寝んな!馬鹿!!」

「ぃだあ!!」


天井を向いていた耳を掴み、引っ張り上げれば、情けない声を上げてようやくナツが起きた。
俺が引っ張ったせいで少し赤くなった耳を押さえながら、むくりと起き上がる。


「なんでお前が勝手に部屋に入ってんだよ。」

「……部屋?庭でしょ?」

「はあああ?ばあか!あの壁に書かれた文字が読めねえのか?」

「……狼。」

「ほらみろ。俺の部屋なんだよ。ここは。」


ナツに、部屋の壁に掛けてある額と、俺の肩近くに彫ってある刺青の文字を交互に指して見せ、既に何度もしている主張をした。
こいつは自分の部屋と同じ階に俺の部屋があると知ってから、しょっちゅう俺の部屋を訪れるようになった。
部屋の主が不在でもお構いなしだ。


「私は、コッコに会いに来てるんだもん。ねぇー?コッコ。」

「チュン!」


コッコと呼ばれたニワトリは、ナツに話しかけられニワトリらしからぬ鳴き声で返した。
はぁ……。ともう一度小さく溜息を吐き、立ち上がる。


「あれ?今日は煩く言わないんだね。」

「疲れてんだよ。俺ぁ。」


そう毎回毎回同じネタで構っていられるか。
酒を取り出し、ナツの隣へ戻る。ドカリと座り酒を煽ってから、片肘を付いて頭を支え横になった。
ナツが投げ出していた足を折り曲げ、両腕で抱えて俺を見下ろした。


「そっか。疲れてるなら、じゃあ……いいや。」

「……なんだ?」


ナツが用事があって此処に来るなんて珍しい。
こいつはいつも適当に来て、適当に帰るのが常だ。
片目を開けて見上げると、ナツは苦笑を浮べながら首を少し傾げて言いにくそうにした。


「いや……さぁ……。買い物に付き合って貰おうとおもったんだよね。」

「買い物?」

「うん。長官と一緒だとゆっくりお店回れなさそうだし、ギャサリンちゃんはお仕事あるから誘っていいかわかんないし。」

「買い物くらい自分で行けよ。」

「あー……うん。でも行ったことないからさ。問題ないと思うんだけど、最初だけ誰かと行きたくて。」

「エニエスロビーの店も他の島と変わりねえぞ。」

「うー……ん。買い物自体行ったこと……ない……っていうか?」

「ああ、そうか。買い物自体。なら、仕方……………………………………はぁ?」


思わず起き上がり、ナツを見つめる。
ナツがバツの悪そうな顔をして目を背けた。


「行ったことないって。お前、じゃあ、今までどうしてたんだよ。」

「えっと、マリンフォードに居るときと此処に来るときは女の海兵さんが買ってきてくれて……」

「お前……どんだけ箱入りで育てられてんだ……。」


心底呆れてナツを見つめると、俺の表情の変化に慌てたように付け加えた。


「いや、あのね。クザンからお金はちゃんと貰ってるし、どの紙幣が何ベリーなのかも覚えたの!だから、問題はないとは思うのよ!!」


……そういう事じゃねえよ……。ていうか、今更それかよ。
一見普通なのに、所々常識的な事がすっぽ抜けている目の前の女が他人事ながら心配になった。
買い物行ったことねえって……今時天竜人でも買い物くらい行くぞ。たぶん。


「まあ、いいや。明日日曜日でルッチさん来る日だから一緒に行ってくれるか聞いてみる。」

「はあ?なんでそこで化け猫がでてくるんだよ。」


唐突に出てきた名前に怪訝な顔をしてみせると、ナツはあれ?という顔をした。


「え?だって、私が此処で暮らすようにクザンと長官に言ったのはルッチさんだもん。」

「はあ?ルッチが……??」

「でも、あの人ちょっと怖いんだよね。」


いやいや、ちょっとまて。ただでさえ疲れ切っている俺の頭では、こいつの言っていることが一から十まで理解できない。
まず、なんでこんなに大人になるまで買い物したことがないんだ……?そして、ルッチがなんでこの女を……?
そもそも、あいつは任務中だろう?なんで帰ってくる必要が……?
あああー………………駄目だ。

バタンと倒れるように仰向けになった。


「寝る。」

「うん。じゃあ、私行くね。おやすみ、ジャブラ。」


そう言ってナツが立ち上がり、カーテンを閉めて部屋を出て行くのを横たわったまま見送った。
そういやあいつ、なんで青キジや俺のことは呼び捨てなのに、化け猫には敬称つけやがるんだ……。

−コンコン

ノックの音に、またナツが戻ってきたのかと苛付いた。
俺は疲れてるっつってんだろうが!!


「なんだ!!」


ドアの向こう側に乱暴に返すと、控えめに扉が開いた。


「……あの。ジャブラさん、失礼します……。」


聞こえてきたナツとは違う高い声に驚き飛び起きる。


「ギャ……ギャギャギャ……ギャサリンちゃん!!」

「お邪魔してごめんなさい。これ、ナツさんがお持ちするようにと……。」


ギャサリンちゃんはそう言って、ホットミルクの乗ったトレイをこちらに向け、シュンとした顔をした。
慌てて彼女に駆け寄り、トレイを受け取る。


「い、いや。悪い。ギャサリンちゃんだと思わなくて……。」

「いえ。ナツさんが、お酒の勢いで寝るのは体に良くないから……だそうですよ。」


俺が謝ると、ようやく笑顔を見せてくれた。
ああ……可愛い。
「では。」と首を傾げるようにお辞儀をして部屋を出て行く彼女に、放心しながら手を振った。
さっきまでナツの話でもやもやして苛付いていた頭の中がスーッと穏やかに晴れて行くのを感じた。
もしかして、それを分かっててギャサリンちゃんをこの部屋に寄越したのか?


………………あいつ。いい奴かもしれない。


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