No.15
−エニエス・ロビー、エニエス・ロビー、終点です……
−お忘れ物の無きよう……−
10時。
時間通りに到着した列車から、スーツを着た人や、兵隊のような格好をした人がパラパラと降りてきた。
確かに司法の島は、一般人には用事はないだろうから、降りる人はほんの僅かなのだろう。
ホームに立って、目的の人物が降りてくるのを待つが、そのうちにホームには私一人になってしまった。
あれ?ルッチさんが乗ってくるのって10時着って長官言ってなかったっけ?まさか10時発?
少し不安になり、司法の塔に戻ろうか迷いながら列車に背を向けた所でバタバタと羽音が聞こえた。
瞬間右肩がずしりと重くなる。
「クルッポー。」
「……ハットリ。」
右側に目をやると、白い小さな頭に小さな黒いネクタイ。
……なんだ。やっぱり乗ってたんじゃない。
列車の方を振り返ると、入り口から長い足とシルクハットが見えたところだった。
ずいぶんと、ゆっくりなご登場で……。
トン。とホームに降り立ったルッチさんは、ハットリを探しているのか、少し目線を上に上げ、ゆっくりと左右に首を振った。
そして、ふと私の方をみて、すぐに顔を逸らし、バッと勢い良く此方を向いた。
……2度見。
予想は外れてしまった。
眉を顰めもしないし、当然という顔もしない。
正解は3番の『2度見をして驚く』でした。
目を見開いて私を見るルッチさんに内心大笑いしながら近づいた。
「こんにちは、ルッチさん。お疲れ様です。」
「……ああ。」
微笑んで彼に挨拶をして、肩に乗っているハットリを手の甲に移し、驚いた表情で私を見つめるルッチさんの肩にハットリを乗せた。
やっと、ルッチさんの表情がいつもの不機嫌そうなものに変わり、長い足で歩き出した。
「一人で来たのか?」
「ええ。」
此方を見ずに、歩きながらルッチさんが口を開く。
「俺を、待っていたのか?」
続いたルッチさんの言葉に彼を見上げるが、顔が背けられていて表情を窺い知る事はできない。
少し、肩を竦めてから答えた。
「もちろん。」
私の答えには返すことなく、ルッチさんはそのまま黙ってしまった。
長い足でスタスタと歩いていくルッチさんに早足で付いていきながら、勇気を出して声を掛けた。
「あの!ルッチさん。」
「なんだ。」
顔を向けることはせず、横目で私を見る。
「あの……買い物に付き合ってくれません……か?」
「買い物?」
彼の眉が少し寄った。
うわ、御機嫌を損ねたかしら……怖っっ!!
「あー……やっぱり、いいで……」
「どこだ。」
「え?」
やっぱり、いいです。と最後まで言い終わる前に遮られた。
彼を見上げれば、立ち止まって私を見ている。
……付き合ってくれるの……?
「……あ、じゃあ、本屋さんと八百屋さんに……。」
私が答えると、それに返事をすることなく、ルッチさんが歩き出した。
門を通過し、エニエスロビーの街中に入ると、やたらと通りすがる人が此方を見てくることに気がついた。
なんだろう?と思って考えていると、振り返る人のほとんどは女性で、今朝ギャサリンが言っていた言葉を思い出す。
……この人、エニエスロビーで人気って本当だったんだ。
こんなに眉毛吊り上ってて怖いのに。
“人気者”の彼と並んで歩く私にも、セットで付いてくる視線に少し気まずさを感じながら本屋へ向かった。
店に入り、数冊のファッション誌と情報誌、ツアーガイドブックを手にした。
レジへ向かうと、ルッチさんが横に立ち、胸元の内ポケットから黒い革製の財布を取り出した。
私に買ってくれようとしている彼の行動をものすごく意外に思いながらも慌ててその財布を出す手を押さえた。
「ルッチさん!あの、ありがたいですけど、私が払わないと、この買い物は意味がないんです。」
彼は怪訝そうに私を見てから、何かに気づいた顔になり、ふっと一瞬口元だけで笑った。
「ああ、そういうことか。」
そう言って素直に財布を仕舞い、私から少し離れた。
無事に紙幣もコインも間違えることなく支払いを済ませ、ほっとして、彼の元へ近づく。
「お待たせしてすみません。ありがとうございました。」
「いや。次の店に行くぞ。」
「……はい。あ、あと、来るときに見かけたチョコレート屋にも行ってみたいです。」
意外にも文句一つ零さず、睨みつけることもせず、買い物に付き合ってくれる彼に、恐る恐る言ってみた。
ふん。と一つ鼻を鳴らした彼は「勝手にしろ」と一言言い、スーツのポケットに両手を入れて歩き出した。
[*prev] [next#]
|