No.17-side:LUCCI




「入れ」


中から声が聞こえた瞬間、ナツが勢い良く扉を開けた。


「ファンクフリード!!」


叫んでデスクの横に立つ大きな動物に駆け寄る。
まるで、部屋の主など視界にも入らないとでもいうかのように。


「てめえ!ナツ!ファンクフリードの前に俺に挨拶をしろ!……ルッチ良く来たな。」

「どうも、長官。」


コーヒーカップをひっくり返しながら、ナツに向かって声を上げる長官に返事をしながら、少し俯いて僅かに上がる口元を隠した。
この男、ナツにまでこんな扱いをされているのか。

ソファーの上にドサリとナツの荷物を置き、その横に腰掛ける。
象の鼻を撫でていたナツが振り返って俺に近づき、林檎の入った袋を手に持ち、目の合った俺に笑いかけてまた象の元へ戻った。


「お土産だよ。ファンクフリード。」


ナツが紙袋から林檎を取り出し、ファンクフリードの鼻先に近づける。
器用に鼻で林檎を挟み、口元に持っていく象をやさしく撫でている。


「パォオン。」


ファンクフリードはあっという間に林檎を飲み込むと強請るように鼻先でナツの手を突付き、一声鳴いた。


「はいはい。どうぞ。」


クスクスと笑いながら袋からもう一つ林檎を取り出してファンクフリードの鼻先に持たせた。
長官が何かに気付いたようにナツに話しかけた。


「土産って……ナツお前、外に出ていたのか?」

「そうですよ?ルッチさんを迎えに駅に行って、帰りにお買い物してきたんです。」


長官の問いに、それが何か?と言う様にナツが返した。


「買い物のついでに、駅まで来たんですよ。」

「違いますよ。迎えに行ったついでに、お買い物したんです。」


俺が言うと、すかさずナツが言い直す。
買い物が目的だったくせに何を言うか。
少し驚いた表情を浮べている長官にナツが近づく。


「はい。長官にはこれ。」

「俺にか?」


手渡した小さな箱は、先ほど寄ったチョコレート屋のものだ。
3つのうちの一つは長官への土産だったのか。


「お前、何企んでんだ?」

「失礼ですね。いらないなら返してください。」

「いや、貰う貰う。ありがとな。」


自分が土産を貰うことがよほど意外だったのだろう。
訝しげにナツを見た長官を、ナツがキッと睨み付けた。
慌てて礼を述べ、箱を開けはじめた彼に、ナツがふっと笑みを零した。


「コーヒー、淹れ直さなきゃですね。」


ひっくり返ったコーヒーカップを見て、ナツが長官のデスクの上の電伝虫を手に取る。


(はい、給仕室です。)

「あ、すみません。長官室にコーヒーを2つお願いします。」

(畏まりました。)

「2つ?」


受話器を置いたナツに長官が不思議そうな声を掛ける。
ナツが笑顔で返した。


「ええ。私はもう、失礼しますので。」


そして俺の隣に置かれた荷物を持ち、俺に頭を下げ、入り口に向かう。
俺もソファーから立ち上がり、その後に続いた。
長官室の扉の外で、少し驚いたように、ナツが俺を見上げる。


「ルッチさん……良いんですか?」

「俺は、お前に会いに来ているんだ。長官には用はない。」


俺の返事に、少し目を見開いてナツが動きを止める。
少しの間の後、「そうですか。」と言って、部屋に向かい歩き出した。
4階に着いたところで、ナツが足を止め俺を見上げる。


「あの、私の部屋にいらっしゃるんですよね?」

「……ああ。」


もちろん、そのつもりだ。
今更、部屋に男を招くのが嫌だというタイプにも見えないが、何か問題でもあるのだろうか。
ナツが、少し申し訳なさそうな顔を向けた。


「では、先に行ってて下さいますか?私、少し用事を足して行きたいので。」


ああ、土産のチョコレートを誰かに配りに行くんだろう。
彼女に了解の返事をすると、ホッとしたように笑い「では」と歩き出してしまった。
ふと彼女の荷物に気付き、呼び止める。


「ナツ」

「なんですか?」

「荷物をかせ。運んでおいてやる。」


俺の申し出に、驚いた顔をした後、困ったように眉を下げ目線をうろうろ動かし、伺うように此方を見た。


「い……いいんですか?」

「早くかせ。」

「じゃあ、お願いします……。」


そう言って差し出してきた荷物を受け取った。
チョコレート以外の荷物を渡されると思ったが、彼女の手に残ったのは野菜の苗の袋。
俺の手にある荷物の中には、チョコレート屋の紙袋が入っていた。
……これを配りに行くんじゃないのか?
ペコリと俺に頭を下げ、踵を返して廊下を走っていく彼女を首を傾げて見送った。


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