No.19
俺様ロブ・ルッチは何故だかすこぶる機嫌が良いらしい。
目の前の大きなチョコレートの箱を眺めながら、小さな箱から一つ口に入れた。
「気分が良い」という理由で買い与えられた大きな箱を前に、小さな箱の中身はすっかりその有難みを失ってしまった。
目の前の彼は、意外にも紳士で大人だということが分かった。
先週話した時の印象から、もっと自己中心的で傍若無人な人間かと思っていた。
まぁ、基本的に自分中心であることには変わりなさそうだが、思ったより周りを見る目を持っているらしい。
ただの気まぐれかもしれないが、時折気遣いも見せる。
あの目で鋭く睨みつけられると、思わず萎縮して竦み上がってしまうのは相変わらずだが、こうやってただ話す分には苦手意識は若干薄らいだ。
チョコレートによって甘ったるくなった口内をアイスティーで流す。
大粒で赤く輝く苺を手に取り半分ほど齧った。
香りが強く、甘い。
さくらんぼもかなり美味しそうだったが、苺にして正解だったかもしれない。
残りの苺を口に放り込みながら、ルッチさんを見る。
会話が途切れてしまい、沈黙が流れるのを気にする様子もなく、長い足を組み片肘をソファーの肘掛に預け、シャンパンから立ち上る泡をを見つめている。
私は沈黙の時間を何もせず過ごすことができない性質なので、何かする事はないかとすぐに探してしまう。
そういえば、雑誌を何冊か買ったのだったと、本屋の紙袋を手元に手繰り寄せ、中身をテーブルの上に出した。
一番上に乗ったファッション誌を手にする。
クザンの部下の女性が用意してくれた服の半分は、ボディラインに沿った基本ミニスカートのデザインで、ジップアップになっているものが多いのだ。
これは用意してくれた彼女の趣味なのか、それともこの世界の流行なのかを見極める必要があった。
流行遅れの格好をしたくはない。
が、仕事でもパンツスーツで、プライベートでもミニスカートなど履くことのない私は、これがこの世界の流行となると色々考えを改めなければならない。
齢24……まだミニスカートの許される歳か否か……・。
クローゼットに仕舞いこんであるミニワンピと寸分違わないものを身に纏ったモデルの写真を見ながら頭を抱える。
目の端に筋張った手が伸びてきて、テーブルの上の雑誌を1冊抜き取っていった。
「これは……。」
「……ああ、それ。」
呟き声が聞こえ目を上げると、ルッチさんが私が買ったガイドブックを手にしていた。
彼が手にしているガイドブックのタイトルは<海列車で行く!−W7・サンファルド・セントポプラ・プッチ食べ歩き完全攻略ガイド−>だ。
テーブルの上には<水の都・W7/女性の為の日帰りレジャーマップ>もある。
「せっかく海列車に乗れるところに居るのだから、此処に居るうちに一回は海列車沿線の島へ行ってみたいと思って。」
パラパラとページを捲るルッチさんの手元を眺めて言った。
彼から返事が返ってくることはないが、構わず言葉を続ける。
「その本棚にルッチさんが手配してくれた資料の中に情報誌があって、ウォーターセブンが載ってたんです。」
ルッチさんが、本から此方に目線を上げた。
「綺麗な街ですよね、ウォーターセブン。街中に水が流れてて、それを生活の移動手段にしているなんて素敵です。」
パタン。と音がして、閉じられたガイドブックがテーブルの上に置かれた。
ジャラリと氷が動く音がしてワインクーラーからボトルが抜き取られ、中身が少なくなったグラスにシャンパンが足された。
グラスの7分目位……少し多めに中身が入ったグラスをルッチさんが煽る。
一気にグラスの3分目位まで減った。
彼が苺を一つ手にして口元に運びながら、此方を見てにやりと笑った。
形の良い唇に真っ赤な苺が咥えられ、少しドキリとする。
「来れば良い。ウォーターセブンに。」
もちろん、そのつもりだが、彼から言われるとは思わなかった。
苺を挟んだ口元から視線を僅かに上げ、彼と目を合わせる。
「え……まさか……ルッチさんが案内してくれるんですか?」
私の言葉に、ニヒルに笑っていた彼の表情がムッと不機嫌そうに歪んだ。
…………でーすーよーねー。
まさかね。期待はしてなかったけど、やっぱりそんなつもりで言ったのではなかったらしい。
彼がもう一つガラスボウルから摘み上げた苺の行方を目で追う。
私から顔を背け、窓の外を見ながら苺を口に入れたルッチさんが、シャンパンで苺を流した後に口を開いた。
「ああ、あいつを紹介してやってもいい。」
「あいつ?」
首を傾げ聞き返すと、彼は此方を見ないまま返した。
「ウォーターセブンに居るCP9の他のメンバーだ。女が居る。」
「へえ、女性が……。」
「女同士の方が、俺と歩くよりいいんじゃないか。」
最後に付け加えられた彼の言葉に驚き、数秒言葉を失う。
「ルッチさんて……意外と気遣いと面倒見のいい人ですよねえ……。」
彼の眉が盛大に歪んだ。
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