No.22-side:LUCCI




白いマーブル模様のローテーブルに、シャコ貝を思わせる形の薄い陶器のカップアンドソーサーが置かれた。

そのカップアンドソーサーとセットのデザインのティーポットから、目の前で紅茶が注がれる。
向かい側のカップにも同じように注がれ、脇に寄せられたトレイの上にポットが置かれるとカリファがようやく腰を下ろした。


「……で、なあに?話って。」


ソーサーを片手に持ち、反対の手でカップを口に運びながらカリファが俺を見た。
彼女に目線を合わせ、ゆっくりと口を開いた。


「……カリファ。ニホン人というのを聞いたことがあるか。」


俺の言葉にカリファが薄く笑いを浮べた。


「ええ、もちろん聞いたことはあるけど?……珍しいわね、ルッチがそんな話をするなんて。空島より信憑性の無い話よ。」


彼女の反応に小さく溜息を吐く。当然の反応だ。
窓の外に一瞬目を向ける。
……さて、どうすれば……。
話す順序を間違ってはいけない。

本来なら、彼女にも話すつもりの無かった事だが、ナツを俺の傍に置くためには、カリファの協力がないと不可能だ。
気は進まないが、彼女には話す必要がある。


「先週、青キジがエニエスロビーに来た。」

「ええ、知っているわ。貴方が呼び出されて行った日ね。」


彼女の言葉に小さく頷く。


「青キジが、一人の女を連れてきた。」

「……女?」

「俺に会わせるために。」


カリファが、話が掴めないと言う風に首を捻った。


「……いや、俺じゃないな。ハットリに会わせる為にだ。」

「貴方の言っている意味が分からないわ。」


カリファが、少し呆れた顔で首を振る。
構わず話を続ける。


「青キジは言った。この女はその鳩に連れられて、こちらの世界へきた。と。」

「……こちらの、世界……?」


眉を顰めるカリファにニヤリと笑って頷いた。


「ああ。そして、女は言った。……自分をニホンへ帰して。と。」


一瞬目を見開いた彼女は、次の瞬間不機嫌そうな顔になり、前に乗り出していた体を起こしてソファーに背中を預けた。


「馬鹿馬鹿しいわ。その彼女はイカレてるのよ。それか狂言。……だって、ありえないわ。」

「狂言に、いくらあの青キジでも、海軍の大将が付き合うか?」

「それは……。」

「彼女のことは、センゴク元帥と、大参謀の中将も確認しているらしい。」


馬鹿にしたように顎を上げ口元に笑みを浮べたカリファに言葉を続ければ、彼女はまたすぐに眉を顰め口元を歪めた。


「大将青キジは、彼女をどこで保護したの?」


カリファの問いに、思わず動きを止める。
無言で彼女の目を見つめると、ごくりと彼女の喉が動いたのが分かった。


「俺が、先週任務で行った無人島でだ。」

「……あの、革命軍のアジトがあるかもしれないって言ってた島?」


彼女の目から視線を離さずに頷く。


「ああ。あの島で、俺も、あいつに会った。」


カリファの目が大きく見開いた。


「……ちなみに、あの島に革命軍のアジトがあるなんて言う情報はガセだ。アジトどころか人っ子一人居なかった。」


「何も無い島の真ん中で立ち尽くす、あいつを除いて、誰も居ない島だった。」


カリファが、口元を手で覆った。
俺から視線を外し、少し下にやった目線をうろうろと動かす。


「そんな、信じられないわ。……そんな。……そんな事って……。」

「これは、海軍上層部と、俺と長官……そしてお前しか知らないことだ。……他言はするな。」


俺の言葉にカリファが口元を押さえたまま、小刻みに頷く。
ようやく、信じた様子の彼女に少し安堵し、冷めた紅茶を啜った。


「今はエニエスロビーで預かっているが、俺はいずれ、此処にあいつを連れてくるつもりだ。」


カップを、テーブルの上のソーサーに戻しながら言った。
カリファが、眉を上げ、睨むように目を見開く。


「……つもりって、貴方がそう思っているだけなのね?」

「ああ、しかし、必ずそう仕向ける。」


カリファが、張っていた肩をガクンと落とし、片手を額に当ててから呆れたように溜息を吐いた。


「……仕向けるって……。」

「ガレーラに、求人はあるか。」

「……それが目的ね。」


頭を抑え俯いていた顔を上げ、キッと俺を睨みつけた。


「ニホンでは、建築物の設計に携わっていたらしい。ジャンルは違うが設計図は読める。運動神経は良くはなさそうだ。デスクワークがいいだろうな。」

「ちょっと、待ってよ。貴方どんどん決めているけど、彼女はどう思っているの?」


少し慌てたように俺の話にカリファが言葉を被せた。


「ウォーターセブンに来ることをか?」

「当たり前よ!今までの話の流れで他に何があるの?」


……あいつがどう思っているか……?


「そうだな。近々観光に来たいとは思っているらしい。」


俺の答えにカリファが大きく溜息を吐いた。
降参と言う様に両手を顔の横に上げ、呆れた顔のまま俺を見た。


「分かったわ。つまり、“仕向ける”のはまだ先の話なのよね?……それまでに、上手く仕事の空きを作るわ。」

「ああ、頼む。」


口角を上げてカリファを見れば、彼女は気に入らないと言う様に首を振って立ち上がった。


「今日はもちろん奢ってくれるんでしょうね?ルッチ。」

「もちろんだっポー。」


CP9だけしか居ない時は使うことの無い腹話術で返事を返すと、不機嫌そうなカリファにバンッと肩を叩かれた。
しかし、俺はそんな事では機嫌が損なわれることの無いくらい、愉快な気分で満たされていた。
一人ならば、大笑いでもしていたかも知れない。


カツカツと高い踵を鳴らしながら数歩先行くカリファの後をゆっくりと歩き、看板に明りの灯ったブルーノズバーに向かった。


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