No.23
少し、買いすぎたかもしれない。
クザンから『お小遣い』と言われて渡された時は、物価が分かっていなかったから、本当に小遣い程度と思い、お礼だけ言って受け取ったのだが、
こうやって町に出るようになってみると、ポン。と渡されたお金がとても多かった事がわかった。
ちょくちょくお小遣いを貰うつもりもないから、大事に使おうと思ってたのに、自分好みの洋服を売っている店を見つけ、テンションが上がって少し買いすぎてしまった。
「やばいなぁ。大金があると思うと欲に勝てなくなっちゃう。自重しなきゃ。」
大きく膨らんだ袋を見て、思わず呟く。
ショップの袋の紐が手に食い込み、指先が悲鳴を上げ始めている。
頑張れ、私。もう少しだ。
もう目の前に見えている司法の塔を見上げ、自分を奮い立たせた。
「なんだ、ナツ。外で会うとは珍しいな。」
すっかり馴染んだ声が聞こえ、そちらにに顔を向けた。
そちらの方角は丁度太陽の昇っている方で、思わず眩しさに目を細めながらも、逆光の影はジャブラのものだとすぐに分かった。
袋を持たない手を眉の上で翳して目元に日陰を作り、ジャブラが近くに来るのを待つ。
目の前に来た彼が、袋を持つ私の手元をチラっと見たのに気づいた。
「買い物に行ってきたの。」
「やけに重そうじゃねえか。」
袋を持つ方に体の重心が傾いているからだろうか。
私の手元を見たまま彼が言った言葉に思わず苦笑した。
「服なの。買いすぎちゃって……。」
「貸せ。」
私の手からひょいと袋を取り上げたジャブラを驚いて見上げた。
「うわー、ありがとう。」
「うわーってなんだよ。うわーって。」
痺れた指先をもう片方の手で押さえながら、彼に御礼を言うと、少し眉を顰めながら返された。
「だって、荷物持ってくれるとは思わなかったから。ルッチさんにも驚いたけど……CP9の人って皆そうなの?」
「はぁ?別に、向かう先が一緒だから持ってやっただけだろ?」
「わぁ。自然に出来ちゃうのね。ジャブラの癖に。」
「なんだそりゃ。訳分かんねえが、なんかむかつく言い方だな。」
む、とした表情で返したジャブラに少し笑う。
「ごめん。素直じゃないからさ。ありがとね。」
今度はジャブラが驚いたように此方を見てから、ふん。と鼻を鳴らした。
「本当にな。もうちっと素直なら多少は可愛げもあるだろうに。」
外人のように手のひらを空に向け、肩を竦めるジェスチャーをしたジャブラの腕をグーで殴る。
私の太腿くらいの太さはありそうな彼の腕は、それ位じゃびくともしないのだが、ジャブラは大げさに痛がって見せた。
調子に乗って彼の脇腹に軽くパンチを繰り出すと「怖ぇ怖ぇ」と言いながら小走りで逃げ始めた。
追いかけて私の荷物を持った彼の腕を捕まえると、腕を上げて私をぶら下げながら歩く。
「おい!重いっつーの!荷物持ってやってんだから自分で歩け!!」
「きゃー!力持ちのジャブラ、格好良い!後でギャサリンちゃんに言わなきゃね!」
「おう!これくらい屁でもねえぜ!!」
本当は、ぶら下がっているのも結構しんどいんだけど、わざと黄色い声を出せば、ジャブラは大きく上げた腕に私を引っ掛けたまま走った。
ジャブラにぶら下がったまま、ぎゃあぎゃあと言い合って笑い賑やかに塔の中に入る。
塔に入った瞬間、ものすごく大きな影が頭上を飛んだ気がして、思わず手を離し、ジャブラの腕からボテッと落ちた。
お尻を付いた状態から立ち上がりながら、天井を見上げて影の正体を探し、その姿を見つけた時、半分浮かせていた腰をまたペタン……と下ろしてしまった。
「チャパパパー。見たのだ、見てしまったのだー。ジャブラが女連れで帰ってきたー。」
「ちげえ!フクロウ、こいつはそういうんじゃねえよ!!」
天井を見上げた先に居たのは、とてつもなく大きな……人?体を此方に向け、後ろ向きに壁に張り付いていた。
クザンで、かなり大きい人を見ても驚かなくなっていたが、彼はクザン以上に規格外のサイズだ。縦も横も……。
まるでアリスに出てくるハンプティダンプティのような風貌。
隣のジャブラも、スパンダムやルッチも、背の高い部類の男性だと思っていたが、フクロウと呼ばれた彼は、その何倍あるだろうか。
驚き、腰を落としたまま立ち上がれずに彼を見上げていると壁に張り付いていたフクロウはシュッと音を立てて消えた。
シュッ!シュッ!と音だけが下に降りてくるのを感じていると、すぐ目の前に大きな体が現れた。
「わぁっ!!びっくりした!!……な、何今の……。」
ヒュッ!!という音と共に現れた彼に驚き大きな声を出すと、ファスナーのような形の不思議な口を大きく開けて「チャパパパー」と言った。
「お前、剃しらないのか?六式も知らないって事はCP9じゃないんだな。じゃあ、やっぱりジャブラの彼女か。チャパパパ。」
「違ぇって言ってんだろうが!!給仕室近いんだからでかい声でそういうこと言うな!馬鹿!!」
愉快そうなフクロウに、声を荒げて咬みつくジャブラの足をトントンと突付く。
「んあ?」と私を見下ろすジャブラを見上げ、小声で聞いた。
「ジャブラ……これ……人?」
「あ?……ああ、一応な。CP9だ。」
「チャパパー、聞こえたのだ。失礼な女だな、お前。」
「あ、すみません……。」
まるで、初めてクザンに会った時のような会話だと思いながら、なんとか足に力を込めて立ちあがる。
彼もどうやらCP9のようだし、挨拶をしておこうと頭を下げた。
「初めまして。海軍大将青キジの姪でナツと申します。エニエスロビーでお世話になってます。」
ここに来て、何度繰り返したか分からない、すっかり言いなれた台詞を口にした。
「チャパー!青キジの姪か。強いのか?」
「いえいえ、普通の一般人ですので。私。」
“青キジの姪”で私も強いとか偉いとか、勘違いしたのだろう。わくわくした顔で見られ、少し焦って否定した。
フクロウが、ずずいっと私に近寄り、期待を込めたままの顔を私に近づけた。
「ナツ、俺の体を力いっぱい殴れ。チャパパ。」
「……は?」
え、何?この人何かそういう性癖でもお持ちなのかしら。……たとえば、M的な……。
困惑してジャブラを見上げると、彼も楽しそうな顔をして「いいから殴ってみろ。」と私を促した。
訳が分からないながらも、片手を握り締め、拳を作る。
「全力で殴れよ」と念を押すようにジャブラから声が掛かった。
……いいのかな。本人が殴れって言ってるんだし……良いんだよね……。
「ご……ごめんなさいっっ!!」
戸惑いながらも、腕に力を込め、何故か謝罪の言葉を口にしながら、彼の大きなお腹に力いっぱい拳を叩きつけた。
見た目からは想像できないほど堅い体に、私の拳に鋭い痛みが走った。
赤く熱を持ち始めた手を押さえ、涙目でフクロウを見上げる。
「六式遊戯、手合!!」
フクロウが両手の指を合わせ、なにやら難しい顔をして叫んだ。。
何事かと彼を見つめていると、続けて彼が口を開く。
「暴くぞ暴くぞ……ナツの強さ。武器を持った一人の衛兵の強さを“10道力”として……ナツの強さは……」
「“4道力”だ!!」
フクロウが、ピッと私を指差し叫んだ。
数秒の沈黙の後、ジャブラがお腹を抱えて笑い出した。
「ぎゃはははは!よ、よえええ……想像以上に弱ええ!!なんだよ、“4”って!!ぎゃはは!!」
「な、なによ!武器も何も持ってないんだから、“4”なら上出来じゃないの?!」
大笑いするジャブラを睨みつけながら、少し怒って言い返すが、彼は私の様子など構わずに笑い続けた。
「ちなみにスパンダム長官は“9道力”だチャパ。」
「ええ!“9”?武器も持っていないのに、武器を持った衛兵とほとんど変わらないの?!」
……長官て、そんなに強かったんだ。さすが、偉くなるだけのことはある。
私が驚きの声を上げると、ジャブラの笑い声がさらに大きくなり、遂には床に転がってヒーヒーとのたうち回り始めた。
そこまでツボに嵌られるといい気はしない。
すっかり機嫌を損ねてフクロウに聞いた。
「ここでのたうち回ってるナマズ髭はいくつなの?」
「たしか2000道力位だったと思う。チャパパ。」
「…………は?!」
あまりに普通に返ってきた答えに口を開けたまま、呆けた顔でフクロウを見つめる。
「……なにそれ、人間の強さなの?」
「チャパパパ。CP9は幼い頃から強くなるために鍛えられてるからな。」
「CP9は……って、じゃあ、ルッチさんとかも?」
「ルッチはもっと強いチャパー。」
「ええ……なんなの。CP9って……。」
眉を顰めてフクロウとジャブラを交互に見る。
ようやく落ち着いてきた様子のジャブラが目尻の涙を拭いながら立ち上がった。
「まあ、簡単に言うなら超人集団だ。CP9は。」
「ああ、笑った笑った」と言いながら、ジャブラとフクロウが歩き出した。
「それにしても、青キジの姪つっても大したことねえなぁ。」
「チャパパパ、期待はずれだったー。」
私を置いて階段を上り始めた二人の会話に、カチーン!と頭の中でお決まりの音が鳴った。
「給仕の女より弱いチャパー。」
「本当だなー。」
と好き勝手な事言いながら並んで階段を上る2人の足元を目掛けて階段を駆け上がった。
「だから、私は一般人だって……言ってる、で、しょうがっっ!!」
ドンッ!と二人の足元に力いっぱい体当たりをした。
「うおっ!!危ねえ!!馬鹿かお前!!!」
バランスを崩しそうになりながらも持ちこたえたジャブラが私を振り返って怒鳴る。
意外にも、体の割に足が細すぎたフクロウが、見事バランスを崩し「チャパー!!」と叫びながら階段を落ちて行った。
「鉄塊!!」とフクロウの叫び声が聞こえたが、ゴロンゴロンと転がる彼の体はスピードを緩めずに下り、踊り場でもボールのように跳ねながら結局1番下まで落ちた。
やばぁ……と青ざめながら、手すりから身を乗り出してその様子を見る。
同じように隣で手すりから下を見下ろすジャブラの笑い声が「ぎゃははは」と塔の吹き抜けに響いた。
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