No.27-side:LUCCI




「なんじゃ、シケた顔しておるのう。」


積んである材木を背中にして、ドッグの連中が彼方此方と忙しなく動いているのをぼんやりと眺めていると、目の前に影が落ちた。
独特の喋り口調でそれが誰か見上げなくても分かる。
返事を返さず、目線だけ一瞬相手に向けると、腰を曲げて俺の顔を覗き込んでいた影の主は、逆光を浴びながら黒い影の中で苦笑した。


「サボりか。」

「休憩だっポー。」


俺をサボり呼ばわりしたくせに、俺の背後の材木に一緒になって腰掛け始めた。
お前こそサボりじゃないのか。
せっかく一人で居たのにと、小さく溜息を漏らす。


「最近、週末は忙しそうじゃの。」


少しからかいを含んだ口調で聞こえた声に僅かに眉根を寄せた。


「お前には、関係ないっポー。」


ナツの事をこの男に話すつもりはなかった。
目線もくれずに適当に話を流す。
相手にするのも面倒だ。さっさと何処かに行ってくれないかと思う。
少しうんざりした気持ちで、葉巻を咥えた同僚が軽い身のこなしでロープを伝いマストに上がっていくのを眺めた。


「パウリー、あいつまたギャンブルでスったそうじゃ。」

「そうか。」


俺の気持ちが通じることなく、隣の男は、どうでもいい話を一人で話し始めた。
俺は、そんな話まったく興味が無い。


「また給料の前借りをアイスバーグさんに強請っていたが、あっさり断られていたわい。」

「そうか。」

「仮にも職長なんじゃから、それなりに給料も貰っているだろうにのう。」

「そうか。」

「カリファに頼めばいいと助言したら、あいつは破廉恥じゃから近寄れんと、こう来たわい。」

「そうか。」

「ホントに成長しない奴じゃ。」

「そうか。」

「さっきから、上の空じゃのう?」

「そうか。」

「……。」


話の内容など頭に入らず適当に相槌を打っていたら、急に話が途切れた。
良かった。ようやく話が終わったのだろう。さっさと何処かに行って早く一人にしてくれ。


「青キジの姪か?」


!!

思わず、勢い良く隣の男に顔を向けてしまった。
なんで、こいつがナツのことを知っているんだ。
睨みつけるように凝視すると、クスリと笑みを浮べた後に愉快そうに口を開いた。


「フクロウが態々わしに電話してきたんじゃよ。」


ちっ……あいつが居たか。
あの男、本当にあの口の軽さだけはどうにかならないのか。
そのうち絶対に任務に支障をきたす。


「フクロウは、あいつの事を何と?」

「知りたいか?」


俺の問いにニヤニヤとしながら聞き返してくる。
くそ。気に入らない。


「まあ、大した情報じゃないと思うがの。わしが聞いたのは、エニエスロビーに変な女が住んでるチャパー。青キジの姪なのに道力4だチャパパ。って事くらいじゃ。」

「そうか。」


へえ。道力4……思った以上に弱いな。
ニホン人で備わる力が戦闘に使えるような能力じゃなければ簡単に殺されかねない位弱い。


「ああ!そうじゃ、最後に言っていた事は少し興味深かったのう!!」


わざとらしく、さも、たった今思い出したかのような声を出し、ニヤニヤとした笑いから嬉しそうな笑顔に変えた。
言葉の先を促すように、俺を見つめる笑顔に視線を合わせれば、長い鼻が得意そうにヒクヒク動き、丸い目が愉快そうに細められた。


「フクロウ曰く、ジャブラの彼女だチャパー。だそうじゃ。」

「……彼女?」


思わず、腹話術の声を忘れ、地声を出して、眉を顰める。
そんなこと、先日エニエスロビーに行った時、ナツは一言も言わなかった。
俺の表情の変化など物ともせずに、カクは笑顔を崩さす話を続けた。


「ああ、随分仲が良いそうじゃ。所構わずイチャついているらしいわい。」

「……何だと?」

「おっと、わしに怒っても仕方ないじゃろうが。なんでも毎日ジャブラが青キジの姪の部屋に通っているらしいぞ。」


俺に出された白いカップ&ソーサーとは違う、あのでかいマグカップが頭を過ぎった。


「わしはホッとしたんじゃ。ジャブラもああ見えてもう良いオッサンじゃしのう。彼女の一人や二人出来てもらわんとのう。」


カクが、笑顔を空に向けながら話を続けた。
細めていた目が、太陽の眩しさによって完全に瞑られた。


「俺らの仕事に恋人など必要ないっポー。邪魔なだけだ。」

「……そうか。」


カクが少し眉を下げて此方を見た。


「ストイックなルッチらしいの。少し寂しい気もするが、まぁ、それも一つの考え方じゃと思う。」


俺がそれに答えずに居ると、また、顔を上に向けたカクは、「んー」と言いながら両腕を空に突き出し、伸びをした。
トン。と地面に足を付いて材木から腰を上げ、手のひらを腰に当ててコキ。と小さな音を立てた。


「しっかし、そう言う割には、誰かさんの態度は矛盾しておるのう。」


独り言のように小さく呟いて、自分の部下が作業している所へ足早に向かっていった。
その後姿を見ながら小さく溜息を吐く。
気に入らない。

−所構わずイチャついている?毎日ナツの部屋に通っている?−

たった今カクが話していた事が頭の中をグルグルと回る。
腹の中に沸々と黒い怒りが湧き出てくるのを感じた。

……怒り?
……気に入らない?
なぜ、俺がそんな感情を持つ必要がある?

ナツが、馬鹿犬と付き合っていようが、俺には大して関係ないはずだ。
俺の物の癖に、勝手に馬鹿犬と付き合っているのが気に入らないのか?
それとも、馬鹿犬の癖に俺の物に手を出したのが気に入らないのか?
ああ、後者の方が正解な気がするな。

しかし、別に、ナツがあの馬鹿犬とどんな恋愛模様を繰り広げようが関係ない。
あいつは俺の傍でニホン人の能力を目覚めさせる。俺が決めたことは絶対だ。
……しかし、あの馬鹿犬の傍を離れたくないと言ったら?
もし、本当にあの二人が付き合っているのだとしたら、ありえない話じゃない。
恋愛が絡んだ男女が面倒くさい事は、幼い時から関わっている諜報任務で嫌というほど身を以て知っていた。

あの野良犬ごときに、俺の計画をぶち壊されてたまるか。

ふと、何年も前の任務で、標的の暗殺の為に、その恋人に手を出したことを思い出した。
……そうか。野良犬に向けられた気持ちを俺に向ければいい。単純だ。
難しいことじゃない。アサシン任務ではよく用いられる手だった。

俺は、歴代CP9の中でも最強の男。
最強と呼ばれる所以、ただ、戦闘力だけの話じゃない。
必要と有らば、何者にもなれる。
あの二人が本当にそういう関係だとするなら……。
そう。必要と有らば……。

身内をも欺く役柄になりきってやろうじゃないか。


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