No.29
ウォーターセブンは大きな街だ。
エニエスロビーのように、それぞれの店が1件ずつしかない小さな街とは違う。
この街は、八百屋も、魚屋も、肉屋も花屋も、何件もあり、それぞれそれなりに繁盛している。
人の往来が多く、活気がある。
「さて、どうしましょうか?ホテルはともかくとして、行きたいところとか、ある?」
もちろん、事前に買っていたガイドブックはばっちり頭に入っている。
目を煌々とさせて、彼女に答えた。
「行きたいところ、というか、とりあえず、ブルに乗りたいです!」
「ベタねー。でも、この島はブル無しじゃ少し不便だから丁度良いわ。」
私の答えに、笑いながら、「じゃあ、レンタルショップに行きましょうか」と先に立って歩き出した。
ニー!ニー!ニー!ニー!
騒がしい鳴き声が聞こえると思ったら、川の一角が囲われて、その中に沢山のブルが泳いでいた。
「う……わぁ!本で見たのと一緒!!」
「その囲いの中は、ヤガラブルだけみたいね。」
「なんか可愛いですねー。」
店の方に目を向けると、店の入り口には既に人の良さそうな店主が立っていて、ニコニコと笑いながら此方を見ていた。
「いらっしゃい。」
私と目が合うと、店主は笑みを深くし、遠慮なく此方へ近づいてきた。
そして、カリファを見て少し驚いたような表情をする。
「おや、カリファさん。今日はアイスバーグさんとご一緒じゃないんですね。」
「ええ、友人が遊びに来たもので。」
先ほどまで、可愛く笑っていたカリファが急に少し冷たい表情になり、顔の横に手の平を持って行き、眼鏡のブリッジを上げた。
店主はそんなカリファの態度を気に留める様子も無く、ニコニコと愛想良く言葉を続ける。
「そうですか。ヤガラ……で、よろしいですか?」
「ええ、十分です。急ぐ移動じゃないから、一番性格の穏やかな子をお願いします。」
わかりました。とにっこり頷いた彼は、一匹のヤガラブルを慣れた調子で呼び寄せてその背中に椅子の付いた小さな船を乗せた。
レンタル代の1000ベリーを払い、店主に手を取ってもらいヤガラに乗り込む。
ヤガラの背中の2脚の椅子は前後に並んでいて、どうせなら前に乗りたかったけど、操縦があるから、とカリファが前に乗った。
「楽しんでな。」と手を振る店主に、笑って振り返す。
「おじさん、どうもありがとう。」
「ああ、気をつけて行っておいで。カリファさんも、お気をつけて。」
「ええ、ありがとう。」
ツン、と澄ました顔で店主に返したカリファは、背筋を伸ばして眼鏡のフレームを上げてから、ヤガラの手綱を軽く引いた。
レンタルショップから少し離れたところで、カリファが此方に笑顔を向けた。
「中心街に向かいましょう。そちらの方が大きなお店が沢山あるし、チザのホテルも中心街にあるの。」
「はい!」
私たちの乗ったヤガラブルは、島の中心に見える巨大な噴水に向かって進み始めた。
カリファは手馴れた調子で手綱を弾いたり、たまにヤガラに話しかけたりしている。
「カリファさん、慣れているんですね。」
私の声に、カリファが横顔を向けた。
「ええ、自分で操縦することは滅多にないけれど、仕事で乗る機会がよくあるのよ。」
「へぇー!あ、エレベーター……、入るんですか?」
「ええ。あれを越えると、中心街よ。」
水を上手く利用したエレベーターに感心しながら、中心街に入った。
先ほどの町も、それなりに人が多く、活気に満ち溢れていると思っていたが、中心街はそれとは比べ物にならないくらい賑やかだった。
水路を渡るブルや船の数もかなり多い。
混んだ水路をぶつからず渡っていけるのは、ブルが生きた乗り物だからこそ出来ることだ、と思う。
水路横に並んだ店をゆっくりと興味深く見ていく。
ブルの形のキーホルダーや、巨大噴水の写真のポストカード、水水饅頭、W7の美しい水を使って染めたという布まで売っている。
目に付いた店にいちいち止まっていると、あっという間に沢山の土産物の袋に囲まれた。
念願の水水肉も買い食いした。
頬っぺたが落ちそうなジューシーさに驚きながらも、私には大きすぎて半分ヤガラに手伝ってもらった。
「あ、カリファさん、見て!素敵!水上カフェですよ!」
「あら、いいわね。ブルから降りて、あそこでお茶にしましょう。」
水の上にパラソルが刺さったテーブルを何台も置いたカフェを見つけ、そこに入ることにした。
私たちが座るテーブルの横にヤガラを繋ぎ、席に着く。
今日は天気が良い。パラソルの日陰に癒される。
太陽が水面に反射して、上からも下からも照り付けられる感じがしていたのだ。
「ご注文はお決まりですか。」
ヤガラに乗って現れたウエイターに、冷たいドリンクを注文した。
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