No.31
ホテルに荷物とヤガラブルを預け、徒歩で酒場に向かう。
真っ赤に染まった太陽を背に、水路横の道を歩いた。
夕焼けの中歩くなんて、ハットリを追ってこの世界に来た日以来かもしれない。
上を見上げれば、赤い空の中にキラリと数個の星が見えた。
「疲れた?」
黙って空ばかり見上げながら歩く私にカリファが尋ねた。
彼女の問いに首を横に振る。
「いいえ、全然。ずっとブルに乗っててほとんど歩いてないから。」
「そういえば、そうね。」
「水の上でずっと遊べちゃうってすごい。」
「ほんとね。」
話しながら歩いていると、カリファが一軒の店の前で立ち止まった。
「ここよ。」
そこは、まるで西部劇にでも出てきそうな雰囲気の酒場だった。
店の外観は、バッファローをモチーフにしているように思える。
外壁の両側に牛の角のようなものが飛び出ていた。
やはり、まだ開店には時間があるのだろうか。
外に置かれた看板には「CLOSED」と書かれた札が掛けられていた。
そんな札に構う様子のないカリファが、ギギッと音を立てながらウエスタンドアを開け、私もそれに続き店に入った。
「今晩は、ブルーノ。」
「あァ、カリファ。いらっしゃい。」
カウンターの中には水玉のシャツの上に、花飾りの付いた可愛いエプロンを身につけた大柄の男が立っていた。
あと、ひとつ訂正。この店の店主であるらしい彼を見て、気が付いた。
店の外観は、バッファローをモチーフにしたものではなかった。
……彼の髪型をモチーフにしたものだ。
カリファが振り返り、私の背中を少し押して前に出した。
「ブルーノ、彼女がナツよ。ナツ、彼はこの店のマスターのブルーノ。」
「ブルーノさん、初めまして。」
「へへ、よろしく。」
右手を差し出すと、大きな手にスッポリと包み込まれ、2回軽く振られて離された。
まだ他に客が居ないこともあり、カウンターにカリファと並んで座った。
「ナツ、貴女、お酒は?」
「沢山は飲めませんけど、好きです。」
「そう。じゃあブルーノ、ビール貰える?皆が集まるまでの繋ぎだからグラスで。」
「はいよ。」
すぐにグラスビールと、コーンチップスの入った小さなバスケットが置かれた。
コツリとグラスを合わせ、ビールを煽る。
一日遊んだ喉はシュワシュワ通るビールが美味しく、幸せになった。
ガタン、と音がして少し驚いて横を見ると、いつの間にか店内に入っていたルッチが私の横の椅子を引いたところだった。
「あら、ルッチ、早かったのね。」
「いらっしゃい、ルッチ。」
カリファとブルーノが、それほど驚いた様子も見せず、彼に声を掛ける。
ルッチが私に横目で視線を向け、無言で隣に座った。
「あの、ルッチさんは何飲まれますか?」
いつも私の部屋でブランデーだの赤ワインだの飲んでいる彼だ。
もしかしたらキープボトルとかあるのかもしれない。
声を掛けた私を無視して、ルッチがブルーノに声を掛けた。
「ビール。」
あれ?
「ルッチさん!!声!!」
この島では地声出しちゃ駄目なんでしょ?!
慌てて彼を見ると、飄々とした表情で前を向いている。
訳が分からず、ブルーノを見上げると、サーバーにジョッキを傾けながら口元に笑みを浮かべている。
もしかして……と思いながらカリファを見ると、私と目が合った瞬間肩を竦めた。
「CP……9……?」
「そういうこと。」
カリファが首を傾げてニコリと笑い、グラスに口を付けた。
つまり、この店には彼の素性を隠す必要が無い人物しか居なかったので地声だったということか。
「なんだぁ、びっくりした。ずるい、そうならそうと言ってくださいよ!」
「俺は別に秘密にしたつもりは無い。それに、前に言ったはずだ。俺を含めCP9が4名居ると。」
確かに、ルッチを睨みつけたのは筋違いだったかもしれない。
私の抗議の言葉に、ルッチは眉間に皴を寄せながら返した。
そういえば、初めてルッチと会った日に、そのような事を聞いた気がする。
4名……ということは、もう一人……。
「わはは。本当におったわい!!」
ギイ。と扉が立てた音と共に明るい声が聞こえた。
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