No.45-side:CP9
サアァァァァ……
ピチチチチ……チュンチュン……
「ハァ……」
任務から帰ってきた俺は、自室の扉を開け、部屋の中央を見て溜息を吐いた。
そこにはいつか見た光景とほぼ同じものが広がっていたからだ。
手入れの行き届いた自慢の芝生の上には、女が一人手足を投げ出し仰向けで寝ている。
「帰ってたのか。」
ポツリと呟いてから、静かに歩いて眠りこけるナツに近づき、その横に胡坐を掻いて座る。
仰向けで眠るナツの腹の上にはニワトリが脚を畳んで乗っかっていた。
普通のニワトリより小さめだとは思うが、それでも腹に乗せて寝るには結構な重量だ。
そっと鳥を持ち上げ、放り投げるように部屋に放した。
バサバサと俺に放られたニワトリが大きな羽音を立て、その音で目が覚めたのかナツが身じろいだ。
「ん……んん……。」
「よお。」
目を開けないまま眉を顰めたナツに声を掛けると、薄く目を開け俺を確認し、ゆっくりと体を起こした。
「お前はなぁ……寝るなら一旦自分の部屋へ帰れよ。」
「ん……寝るつもりなかったんだもん。」
寝るつもりのなかった奴が、なぜ堂々と大の字になっていたのか些か疑問だが、それについてはあえて言及しないことにした。
「……で、どうした?海軍土産ならいらねえぞ。」
「はははっ!無いよ。残念ながら。」
ウォーターセブン土産で貰ったガラクタの数々を思い出しながら言うと、ナツが吹き出した。
じゃあ、何の用なんだ?と言葉を待つが、ナツは答えずにおもむろに立ち上がり、埃を払うようにポンポンと尻を叩いた。
そのまま見上げていると、俺が色んな植物を寄せ植えにしている方へ歩いていく。
その一番端の一角にしゃがみ込んだ。
何事かと俺も立ち上がり、そちらへ向かえばナツが顔を上げて俺と目を合わせた。
「ねえ、これ。いつバレたの?」
ナツが指差す先を見てみれば、そこにはいつの間にか植えてあった野菜の苗。
順調に成長しているので、先日支柱を立てて、ナスとピーマンと思われる苗に追肥をしてやったところだった。
「いつってなぁ……何週間か前だな。つーか、バレねえと思ったのか?俺は毎日水遣り欠かさねえんだぞ?」
俺が答えると、ナツはムスッとした顔になる。
今までのやり取りで、こいつが機嫌を損ねる理由がわからない。
「なんだよ。」
「だって、悪戯だったのに、嫌がってないし。しかも積極的に世話しちゃってるし。」
不服そうに唇を尖らせ、茎の先に付いた花の蕾を突付くナツを鼻で笑ってやった。
「野菜に罪はないしな。まぁ、俺の部屋には合わないが、多年草植えられた訳でもねえし。実の時期が過ぎたら引っこ抜いてやるよ。」
「……食べる?野菜が生ったら。」
「あー?そりゃ食うだろ。」
聞くまでも無い質問に答えてやるとナツがニヤニヤと笑いだした。
何だこいつは。膨れたり笑ったり気持ち悪ぃ奴だな。
「ジャブラが家庭菜園とか……。やる事がガーデニングから中年の趣味の園芸になってきた感じ。」
「てめえが植えたんだろうが!」
軽く失礼な事を抜かしやがった女の後頭部を手のひらでバシッと叩く。
前のめりになり、「いっ……たぁー……」と頭を抱えたところに、ぎゃはははと笑いながら「ざまぁみろ」と声を掛けた。
頭をさすりながら、顔を上げたナツが、俺の方を見ないまま口を開いた。
「私、近々引っ越すから。」
あまりに、サラッと告げられ、思わず聞き流してしまいそうになった。
「……え?」
暫くの間の後、聞き返す。
ナツが、眉を下げて微笑み、繰り返した。
「引っ越すの。ウォーターセブンに。」
「……旅行じゃ、なくてか?」
呆けたまま聞くと、ナツが静かに首を縦に振った。
はっ?!なんでだ?
なんで?エニエスロビーが嫌になったのか?
なんで?もしかして俺が何かしたか?
なんで?引っ越す先が青キジの所じゃなくて、W7なんだ?
なんで?こいつはCP9じゃないからルッチ達との任務には関係ないだろう?
なんで?お前が行ってしまったら、俺は誰と茶飲んで、くだらない話をすればいいんだ?
なんで?なんで?なんでだ??
「……え?なんで、引越し?」
瞬時に頭の中にぐるぐると色んな疑問が浮かんだが、口をついて出たのはほんの一言だけだった。
「なんでって、うーん。……普通に働いて生活してみたいなぁ。って思って。」
「そ……か。」
言いたいことは色々あるのに、言葉が出てこない。
固まっている俺に、尚もナツは笑いかける。
「長官も、私の部屋はそのまま残してくれるって言うし、誰かに告げて引っ越すつもり無かったんだけど、ジャブラは仲良くしてくれたから。」
「……お、おお。」
言葉にできない感情がぐるぐると頭の中を渦巻いていて、ナツの言葉に簡単な同意の言葉しか、返せなかった。
「引越す日が決まったら、また、言いにくるね。」
「……ああ。……だな。」
いつも通り、笑って「じゃあね」と部屋を出て行くナツに、最後までまともな言葉を返すことが出来ない。
バタン。と部屋の扉が閉められる音を合図に……
−ドサッ……
俺は、自慢の芝生の上に、倒れこんだ。
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