No.48




「ここはパスタも美味しいんだけど、ジェラートも絶品なの。」

「ジェラート!……じゃあ、デザートに食べちゃいましょうか。」

「そうね。食べちゃいましょうよ。」


お昼に入った会社の近くのイタリアンレストランで、カリファが魅惑的な情報をくれた。
デザートまで頂くつもりは無かったが、欲に勝てずにカリファに提案すると、彼女もクスクスと笑いながら賛同した。


「一応会社の中にカフェテリアもあるんだけど、人が多いから今日はここで、ね。」


カリファの言葉に頷き、メニューを開く。


「カリファさん、普段はカフェテリアでお昼摂るんですか?」

「そうね、まぁ大体。あとはアイスバーグさんにお付き合いする事も有るし……ナツ。」


私の質問に答えながら、カリファが微妙な顔をした。
名前を呼ばれ、エビとアスパラのクリームパスタの写真から目を離し、向かい側に座る彼女を見る。
目が合うと、カリファが少し眉を下げた。


「その、私に対しての敬称と敬語をとってくれないかしら?」

「え?変ですか?」

「……そうじゃないんだけど、履歴書を見たらあなたの方が年上なのよ。これじゃなんだか私偉そうじゃない?」


苦笑を浮かべながら首を傾げる彼女の言葉に、少し浮かせていたメニューの冊子をパタンとテーブルの上に落としてしまった。


「えっと……ごめんなさい……知らずに。あの、失礼ですがおいくつなんですか?」

「22よ。」

「……若っ!その歳で社長秘書ってすごい。」

「そうかしら?」


カリファが私の言葉を受けてあまり実感がなさそうに首を傾げる。
デキる女だと思ってはいたが、まさか私より年下だったとは……。

しかし、クザンやジャブラなどずいぶんと年上の人たちへは普通にタメ口なのに、
歳の近いカリファやルッチは何故かタメ口を利くのに抵抗がある。
キャラって……大事だよね。


「えっと……カリファは何にするか決めた?」

「ええ!私、この、ムール貝のトマトソースにするわ。」


意識して、彼女を呼び捨てにして話しかけると、カリファは嬉しそうに目を輝かせ、声を弾ませた。

−−

食事の途中で思いついたようにフォークを置いたカリファが、バッグの中から折りたたまれた紙を取り出し差し出してきた。


「そうそう、私、ナツに見て欲しいものがあったのよ。」

「……何?」


受け取り、何枚か重ねられて半分に折りたたまれた紙を広げる。
それは、何件かの不動産情報だった。


「あ……。」

「通勤と買い物に便利で、女性が一人で歩いても危なくない所を選んだつもりよ。」

「あの、カリファ。」

「もし、気に入ったのがあって、時間が有ればこの後実際に見に行ってみるといいわ。」

「あのね、カリファ。」

「私のお勧めは一番上と3番目の……」

「あの!カリファ!」


次々話すカリファの言葉を遮るのに、少し大きな声を出してしまった。
パスタに絡ませながらフォークを回していたカリファが手を止め、少し驚いたように顔を上げた。


「あのね、ごめんなさい。お部屋はもう、決めちゃって。……でも、ありがとう。嬉しい。」


申し訳なく思いながらカリファに告げると、彼女は意外そうな顔をしながらもにっこり笑って首を振った。


「あら、そうなのね。いいのよ、気にしないで。……でも、いつの間に?あれからウォーターセブンに来たの?」

「ううん。ルッチさんが、探してくれて。」


彼女の問いに答えると、私の返事を聞いたカリファが、ぴたりと動きを停止した。
そして、徐々にその美しい眉の間に皺を刻む。


「……はぁあ……?!ルッチが?!」


ようやく口を開き、心の底から信じられないといった顔で聞き返したカリファに、何か変な事を言ってしまったかと不安を覚える。


「なんで、ルッチが?」

「なんでって……なんでだろう?でも、ルッチさんて意外と面倒見いいよね。」


前々から少し思ってた事を言うと、彼女はキョトンとしたあと、くっと吹き出すように笑った。


「あはは……面倒見?良い訳ないじゃない!見た目通りよ。」

「え?そうなの?」


でも、彼は何かと気に掛けてくれるし、それが自然だったりするから彼はそういう人なんだと思っていた。
カラカラと、さも面白そうに笑ったカリファは、はぁ……と息を吐いて目尻に浮かんだ涙を指先で払った。


「……まぁ、わざわざ変な家に住まわせるような嫌がらせはしないと思うけど、多分、あなたが思うより良い奴じゃないわよ。ルッチって男は。」


カリファが、困ったような微笑みを浮べて言った。
彼女の言葉に返す言葉が見つからず、肩を竦めてから食事を続けた。


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