No.55
「パウリー、ありがとう。」
会議室に着き、数冊資料が乗った両手をパウリーに差し出す。
「もういいのか?」
「うん、ありがとう。助かった。」
私が持った資料の上にパウリーが持ってくれていた資料の束が重なった。
会議室には既に職長が数人集まっていた。
楕円形の会議テーブルの上に各ドッグの報告書や資料が数冊置かれている。
その上にダリアから預かったファイルを1冊ずつ重ねていった。
テーブル横では職長達が固まって雑談をしており、会議テーブルとピープリー・ルル職長の間の細い隙間を通る際、彼に一声かけなければならなかった。
「あの、ルル職長、後ろ失礼します。」
「ん?……ああ、すまない。」
私に気づいたルル職長は、大きな体を捻って私の通る隙間を作り「すみません」と言いながら通過する私を見守った。
「君は……たしかダリアの部署に入った子だったかな。」
「え?はい、そうです。ウミノナツと申します。」
書類配りを再開した手を止めてルル職長に軽く会釈して答えた。
先ほどは気にならなかったが、こちら側の角度に立ってみるとルル職長の頭にはピンと立った派手な寝癖が見えた。
どうしよう……他の職長も居るし、指摘するのも憚られる……しかし、他の職長も注意してない様子であるし、誰かが教えてあげなければ……。
「どうした?俺の顔に何かついているか?」
しまった。
此方から切り出す前に不信感を与えてしまった。
「いえ、あの……、」
少し顔を近づけ、小声で伝える。
「職長……寝癖が……。」
「ああ、こりゃいかん。」
私の言葉に素早く反応した彼は尖った寝癖に手のひらを当てた。
瞬間肩のあたりからニョッと突起が飛び出し、驚き息を飲む。
「どうだ?直ったか?」
「……あ…………はい。」
確かに“髪の毛の”寝癖は直った。
ルル職長の体は一体どんな仕組みになっているのか気になるが、無理矢理気にしない事にして書類を配るのを再開した。
いや、気にしないようにしながらもその後3回は彼の肩をチラ見した。
他の職長たちは全く気にする風でないので、あれが普通の状態なのだろう。
そうこうしているうちに、1番ドッグから7番ドッグまでの職長達が集まってきてあっという間に会議室はいっぱいになってきた。
丁度全ての席に配り終える頃に、意気揚々としたカクと、その少し後ろからファイルを両腕で抱え僅かに俯いたダリアが入ってくるのが見えた。
「おう、ナツ。なんじゃ、参加するのか?これは職長会議じゃぞ?」
「参加しないよ。資料持ってきただけ。もう、事務室に戻るよ。」
明るく声を掛けてくるカクに、笑って答える。
「なんじゃ、そうか。ご苦労さん。」
「うん、またね。」
ニカッと笑って労ってくれるカクに手を振る。
カクの後ろに上司の姿を発見し、ダリアにも手を振った。
「あ、ありがとう!ナツ!」
何故か少し顔が強張って見えるダリアに、違和感を覚えるが、再度手を軽く振り会議室のドアを閉めた。
「ああー、そうじゃそうじゃ、ナツはダリアの部署に入ったんじゃったなー。」
カクの、あの明るい大きな声を背中で聞いた。
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