No.60
船の下までなんとかたどりつき、マストを見上げる。
逆光で眩しくて、まともに目が開けられない。
しかもこの場所からだと、誰かが居るのは分かるが、皆黒い影でどれがパウリーだか分からなくなってしまった。
ひとまず、誰かに呼んでもらうのが良いだろう。
パウリーと同じ艤装やマストの作業をしている大工は居ないかと周りを見渡す。
麻布で包まれた船の部品らしきものを運んでいる人を見つけ声を掛けようとすると、
その向こう側に居た、設計図から顔を上げたカクと目が合ってしまった。
私を確認した彼は、丸い目を大きく広げ口を半月型に変えて、手に持っていた図面を部下に押し付け此方に歩いてくる。
あらら、カクには用事はなかったんだけどな。
とりあえず、艤装職らしき人に声を掛けるのはやめ、此方からも数歩カクに近づく。
「こんな所でどうしたんじゃ?ワシに会いに来たのか?」
冗談とも本気とも取れないような言い方で声を掛けてきたカクに苦笑を漏らす。
「残念。今はパウリーに用事。」
ちらり、とマストを見上げれば、カクも私の目線を追い、パウリーの影を確認したようだった。
「おーーーーい!パウリーーーーー!ちょっと下りてきてくれんか!」
片手を口の横に付け、大きな声を出したカクに少し驚く。
そうか、さっさとカクに呼んでもらえば早かったんだな。
目の上にひさしを作るように手のひらを当て、逆光のマストを見上げると、影の一つが、蔓にぶら下がって移動するターザンのように
ロープにぶら下がりながら此方に向かって降りてくるのが見えた。
凄い速さで頭上を何かが横切ったのを感じ、起こった風が髪を乱す。
思わず頭に手を当てた時にはもう、目の前にパウリーが立っていた。
「カク、なんか用か?……あ?ナツ?」
「あ、ごめんね?お仕事中下りてきてもらっちゃって。」
口端に挟んでいた葉巻を指で取り上げ、私に目線を下げた彼に慌てて謝り彼の分の資料を差し出した。
「これ、1番ドッグの職長さんみんなに配る発注分の資料。……と、これはパウリー用。ダリアから、在庫表。」
「あ……あぁ、サンキュ。」
何故か微妙な表情を見せながら差し出した資料を受け取ったパウリーは2・3枚ページを捲った。
その姿を確認し、それじゃあ、と踵を返そうとすると、「えっ」とカクが声を上げる。
「なんじゃ、ワシにはくれんのか?えっと、ワシも一応職長なんじゃが……?」
苦笑しながら片手を差し出すカクに、ああ、と向き直る。
「カクの分は、あとでダリアが持ってくるよ。他に渡すのもあるみたいだし。」
「……そうか。」
少し考えるように間を置いて返したカクの視線が斜め下を向く。
反射的に視線の先を見ると、パウリーの手元で。
そのパウリーも眉間に一本シワを寄せて首を傾げて自らの手元を見ていた。
「あ……。」
そこでようやく、自分と上司が矛盾した事を言っているのだと気づき、そしてその矛盾した理由が先ほど私が気づいた事柄である事は火を見るより明らかで、困りながら私も首を捻り、ごまかすようにその場を後にした。
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