No.61




「どうしたっポー。顔が変だぞ。」

「え?私?」


資料を渡した私の顔を、横に積まれた丸太の上に座る彼の代わりに白い小さな頭が覗き込む。


「すみませんね、顔が変なのは元からです。」


ふん、と横を向き、私を覗き込んでいる白い頭から顔を逸らす。
さっきのやり取りの動揺を少し引きずってはいるが。
ポン。と頭の上に手が下ろされたのを感じ、丸太の上の彼を見上げ、目が合う。


「ポー。疲れてるんじゃないのか?休んでいけ。」


もう片方の手で自分の横をポンポンと叩きながら言う彼に心底驚き、少し呆然と見上げる。
片眉を上げて見下ろしたルッチをポカンとしながらしばし見つめ、ようやく口を開いた。


「え……どうしたんですか?ルッチさんが超優しい。」


私の言葉を受けた彼が整った顔を歪ませる。


「格好だけのエセ紳士の気まぐれだ。気にするなッポー。」

「げ、まだそれ覚えてたんですか。」


今度は顔を歪ませるのは私の番で。


「あの時のルッチさんの意地悪にはちょっと頭にきたんですよ?ハットリはタダでさえ鳩の中では大きめの子なのに……!!」


前の話を蒸し返して抗議しながらも、差し出されたルッチの手を取り丸太の上に上がる。
彼の横に腰を落ち着けると、私より大きい彼の体が強い日光を遮り、丁度良い日陰を作っていた。


「全ドッグの全職長さん分の資料といったらそれはそれは重いのに、さらにハットリが乗ったらどうなるか位わかr ……」

「うるさいっポー。少し黙ったらどうだ。」


無表情の彼の代わりに、ハットリが顔の前を払うように片翼を緩く振った。


「うるさいって……ルッチさんが蒸し返したのに!!……いっ!!いひゃ……」


座っても抗議の終わらない私に呆れた目線を向け、それでも黙らないでいると、グニ、と頬の口元に近い部分が抓られた。

抓まれた側の目尻に少し涙が溜まるのを感じながら彼の顔を見ると、無表情ながら目元は愉快そうな色を滲ませていた。
他人が痛がるのを見て面白がるとか鬼か。
ギブギブ!とルッチの大きな腕を叩けば、一瞬口元を吊り上げてから抓っていた手は離された。


「……ったいなぁ、もう。」


絶対に赤くなっているであろう片頬を手のひらで押さえながら、目線をルッチから外す。
そこでようやく、ルッチの部下である木挽き職の大工達の視線が一つ残らず自分達に集まっていることに気づいた。

床に釘をばら撒いているのにも気づかず、金槌をもったままポカンをした顔で此方をみている人もいれば、
中途半端に木材に刺さったのこぎりに手をかけたままフリーズしている顔もある。

え、なになに……ザ・ワールド??

なぜ彼らが凍りついたように固まっているのか、なぜ自分達に視線が集中しているのか全く理解できず、軽くパニックになる。
大いに戸惑い、え?え?とルッチに視線を戻せば、私が向いたのに気づいたルッチもチラリと横目を此方に向けてから、面倒くさそうに一番近くの大工を睨みつけた。
ルッチに睨まれた大工は跳ね上げたように大きく肩を上下させ、咳払いのつもりか「ゴ……ゴホン!」とわざとらしく棒読みに叫ぶ。
それを合図に視線は一斉に外され、時が止まっていた大工達の動きが再開した。


「そろそろ戻ったらどうだッポー。十分休んだだろう。」

「……そ、ですね。」


確かに、先ほどの小さな動揺は治まった。
代わりに今はさっきのザ・ワールドに大いに動揺しているけど。
スタンド使いになったつもりは無いんだけど……おかしい。

一段下の丸太までお尻を滑らせ、そこから床までジャンプして降りた。
変わらない場所に座ったままのルッチを見上げ、じゃあ、と軽く頭を下げて歩き出す。
それを一瞥しただけのルッチに代わり、手を振るようにハットリの翼がバサバサと揺れた。

手元から職長達に渡す資料が無くなり、妙に手持ち無沙汰になってしまったのを少し心細く思いながら、作業の邪魔にならないようにドッグの端を歩く。
作業をする船大工達とすれ違うたび、ほんの一瞬チラリと目線を向けられるのに戸惑った。

なに……私、何か変な事をしただろうか。

戸惑いながら会社の出入口へ向かう。

建物の中に入る瞬間、沢山の人でごった返す大きな出入口の向こう側で、綺麗な栗色が揺れた。
思わず目を向けると、太陽に照らされた明るい色の髪を踊るように揺らし、少女のように駆けるダリアの後ろ姿があった。


そして、


その日の就業後には、あの硬派なロブ・ルッチに彼女が出来たというのが、社内のトップニュースになっていた。


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