No.70-side:LUCCI




-バチンッ!

ナツが思い切ったように手元のシガーカッターを握る。
ポロッとキャップの切れ端が灰皿の中に落ちた。
席に着くと同時に、パウリーがポケットからシガーカッターと葉巻を取り出し、ナツが当然のようにそれを受け取った。
まさかこいつが吸うのか?と眉を顰めていれば、葉巻のキャップをカッターで切っただけだ。
少しキャップの切り口を眺め、それで満足したように葉巻をパウリーに返す。


「はい。」

「おう。」


軽いやり取りをし、受け取った葉巻を口に咥え火を点けるパウリー。
それに火がつき煙が立つのを笑顔で眺めてからメニューに視線を落とすナツ。

ざわざわざわざわ

また、胸に何か分からないものが渦巻くのを感じた。
普段は、嫌でもないその胸のざわつきが、今日はなんだか不快で仕方が無い。


「ルッチさん、何にしますか?」


俺の視線に気づいたのか、ナツがメニューから顔を上げる。
重なった視線を外さないまま表情を変えずに答える。


「ポッポー。ビール。」

「はいはい、了解です。ブルーノ!!」


ナツがカウンターに向け片手を上げる。
ブルーノがカウンターから出る間もなく、大声で3人分のビールと料理をいくつか注文した。

たまにこいつ等が二人或いは数人で飲みに行くのは知っていた。
俺自身も、仕事の延長で1番ドッグの船大工達と飲みに出る事はある。当然パウリーも居る。
だが、こうやってこの二人が飲む席に、自分が同席するのは意外にも初めてだったと気づく。
いつもは齧り取る葉巻のキャップをナツがカットする事や、パウリーが何も言わなくてもナツが最初のビールと料理を勝手に注文する事。
この二人の慣れた空気に少々当てられ、若干の居心地の悪さを感じる。

以前、似たような苛立ちを覚えた、と思い返す。
ああ、あれは、エニエスロビーのナツの部屋。
馬鹿犬が勝手にナツの部屋に入り込んで、馬鹿でかいマグカップでコーヒーを飲んでいた時の事だ。
思わぬ流れで、思い出したくも無い事を思い出し、益々苛立ちが募った。
グラスを一気に飲み干し、既に何杯目かのお代わりをブルーノに申し出ると、その様子を見ていたナツが口を開く。


「そういえば、ルッチさんて。」


苛立った気分のまま睨みつけるように視線を送るが、彼女はそれに気を止める様子も無い。


「こういう所ではビールなんですね。ワインとかブランデーとか、じゃないんですか?」

「は?ルッチはいつもビールじゃねえか。」

「え?むしろビールの方が少なくない?」


俺と飲むときはブルーノズバーか、あと2・3件の似たような酒場でしか飲んだことの無いパウリーが俺の代わりにナツに返す。
怪訝そうなパウリーの表情を物真似するようにナツが返した。


「大体、こういう所ってなぁ、こういう所以外で他にどんな所で酒飲むんだよ。」


至極当然な質問に、ナツがはっとした顔をし、ぐ……と答えに詰まったのが分かった。
馬鹿め。
テーブルの上に片肘をついて顎を乗せ、一人で墓穴を掘って嵌っているナツを眺める。
どう言い逃れるのか見ものだ。
無理矢理にこやかな顔を作ってはいるが、視線がたまに宙に飛び、どう誤魔化そうか考えているのが手に取るようにわかる。
さっきまでの苛立ちが若干消え、少し愉快な気持ちになり、手元のビールを煽った。


「の、飲むよ!ルッチさんだって、ワインくらい。ねえ?ルッチさん。」

「クルッポー。ああ、飲むな。家ではな。」

「家?」

「ルッチさん!!」


俺は嘘は言っていない。
しかし、俺の言葉を咎めるように声を上げた彼女はむぅ。とした顔でパウリーを見た。
そして、葉巻の先に人差し指を突きつけるようにして強い口調で葉巻の主に主張する。


「誤解しないでね。前に言ったでしょ。ルッチさんは私の親代わりの人と親しいの。だから知ってるってだけだから。」

「お……おお。言ってたな。そういや。」


は?
何を前に言ったって?


「ポッポー。ルッチがなんだって?興味あるな、その話。」


ナツが、しまった、と言う様に少し片目を細めパウリーを見る。
そんな彼女の視線を受けたパウリーが少しだけ肩を竦めた。


「別に大した話じゃないだろ?ルッチが仕事で知り合った海兵がナツの保護者だった。ってだけの話だ。」


腕を組んで、ナツの顔を見据えた。
彼女は俺の視線から逃れるように、テーブルに肘を付き、手で額を覆って少し俯く。


「おい!そんなことよりさ!お前ら、好きな数字言えよ!明日はそれで賭けてみるぜ!!」


俺とナツの空気なんぞ1ミリも感じ取っちゃいないパウリーが一人能天気な声を上げた。


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