No.76-side:CP9




とはいえ、ぐったりと力が抜け、かろうじて上体を支えているだけのナツを自宅まで運ぶのは非常に難儀だ。
改めて店の選択を誤ったことを後悔する。
素直にブルーノズバーに向かっていれば、彼女がどんなに酔い潰れてもブルーノのドアドアの実の力で私の部屋まで送り届けてもらうことなど造作も無い事だったのに。
こんな事を奴に申し出るのは非常に不本意だったが、目の前の男にだめ元で口にしてみる。


「ねえ、そういうわけだからナツを私の部屋に運んでくれない?」


だめ元だ。
即答で断られると思っていた。
良くて、それなら家に連れ帰る。と言われると。
しかし彼はあっさりとそれを了承し、ナツを容易く担ぎ上げた。


「ポッポー。いいだろう。お前の家で詳しく話を聞こうじゃないか。」


いや、運んだらそのまま帰っていただいて構わないのだが。

−−


「うー……。」

「ナツ?大丈夫?」

「ん〜……こ、この体勢……気持ち悪い……かも。」

「ルッチ!」

「我慢しろ。直に着くっポー。」


ルッチの肩に担ぎあげられているナツは、丁度胃の辺りが彼の肩に乗せられており、彼の背後にある頭は自らの重さで項垂れている。
長い髪を止めていた髪留めは彼女の後頭部で僅かな量を挟み込むだけで殆ど意味を成しておらず、ほとんどの髪は項垂れる彼女の顔を隠している。
覗き込めば、さっきまでチークを乗せすぎたように赤く火照っていた顔が今は見るからに青白くなっている。


「ルッチ、急ぎなさい。なんで剃で帰っちゃだめなのよ。」


先程提案し、却下された事をもう一度口にする。


「剃の衝撃で町中にこいつの吐瀉物をまき散らすのはごめんだっポー。」

「……。」


たしかに、普通の人間でもその速さに耐えることがやっとであろう剃に、今の状態の彼女が耐えられるとは思えなかった。
私たちに残された方法は、なるべく揺らさないように、速やかに徒歩で移動するしか方法はなかった。

玄関に入り急いでリビングへ向かうと、大きめのソファーの上にクッションを集める。
後から入ってきたルッチが、その上にナツを降ろす。
彼女が無事ソファの上までたどり着いた事に3人同時にほーーと、長い息を吐いた。


「とりあえず、温かいお茶淹れるわね。ナツ、飲める?お水にしましょうか。」

「……ん、ごめん、お湯。」

「了解。」


私がキッチンへ向かおうとすると、くつくつと笑い声が聞こえる。
そちらへ目を向けると、一人掛けソファーのクッションをナツに向けて放り投げ、そこに脚を組んで座ったルッチが愉快そうに口角を上げた。
ルッチの投げたクッションが俯いたナツの頭にポスンと当たって床に落ちる。


「いいのか?ミントティーじゃなくて。」

「……いまは……味のついたもの……無理。」


足元に落ちたクッションを拾い上げ、そこに顔を埋めたナツは、顔を上げないまま首を振った。
その様子にますます愉快そうな顔を見せたルッチがさらに続ける。


「遠慮するな。飲んでおくと明日が楽らしいぞ。お前の経験上。」

「本当、意地悪な人……。」

「バカヤロウ、親切だ。心外なことを言うな。」


ナツがクッションに鼻から下を埋めたまま、じっとりとした目をルッチに向ける。
エニエスロビーでも、ガレーラでも見たことのない、まるで年相応の男の子のようにナツと言葉を交わすルッチに私はひどく驚いていた。
思わず彼らのやり取りを呆然と見守ってしまったが、我に返り急いでキッチンへ向かった。


トレイにカップとティーポットを乗せリビングへ戻ると、ナツは沢山のクッションを抱き込むようにしてソファに横になっていた。
眠ってしまう前に少しでも水分を摂らせた方が良いだろう。
トレイをソファテーブルへ置き、ぬるめにした白湯が入ったグラスを手に取る。


「ナツ、眠る前にこれだけ飲んで。」

「……ん。」


肩に手を添えて上体を起こすのを手助けしてやる。
半分目を瞑ったままの彼女にグラスを差し出すと、一気にグラスの半分ほどを飲み、ハアと息を吐いてまたソファへ倒れこんだ。
半分残っているグラスと、すうすうと寝息を立て始めたナツを交互に見やり、まぁいいかとグラスをトレイへ戻す。

ティーポットから二つ分のカップへお茶を注ぎ、一つを偉そうに座っている男の前に差し出した。


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