No.84




私が見た所で結局、ルッチの思う通りのキャビネットを買った。

そりゃそうだ。
私が半額出すと言っても、結局は彼が全額出して買った物なのだから。
別に今の家でインテリアに拘りがあるわけではないし、あのお世辞にも綺麗とは言えない乱雑な家具屋の中ではどれを選んでも変わりがないように思えた。
それでも、彼が選んだものは彼なりの拘りがあるようだったので、全面的に賛成しておいた。


店を出て、また迷わず歩きはじめるルッチに後れを取らないように慌てて付いていく。


「ルッチだわいな。」

「本当だわいな。こんな所にルッチが居るわいな。」


不意に背後から聞こえた言葉に意識を取られる。

ルッチの知り合いだろうか。
少し前を歩く彼の顔を見るが、気づいていないのか振り向くこともスピードを落とすこともなく歩き続けている。


「女連れだわいな。」

「デートだわいな。生意気だわいな。」


私たちの後をつけているのか、同じ距離感から聞こえる声に気付いてない訳ないだろうと思うのだが、どうやら彼は無視を決め込むつもりのようだ。
しかし、こんなにも分かりやすく、私たちの後をつけている人達を無視っていうのも……。

先を歩くルッチの腕の袖を軽く引っ張った。


「ルッチ、さん。」


私が小さく彼を呼ぶとゆるく立ち止まり、あからさまに眉を顰めた彼は、諦めたように後ろを振り向いた。

彼の袖を持ったまま、私も振り返るとほんの数メートル離れた所に変わった形のアフロヘアーの女性が二人立っていた。
格好が少し違うだけで背も顔もそっくりの彼女たちはおそらく姉妹だ。


「クルッポー。お前らに構ってる暇はないんだっポー。」

「お前がわざとらしく無視するからだわいな。」


ルッチの腹話術に合わせてハットリが薄目を閉じて溜息を吐くかのように体を上下させた。


「ルッチさん、お知り合いですか?」


会社でも硬派で通っている彼だ。
こんなに露出の多い……風変りではあるけれど綺麗な女性と知り合いだったというのは意外だ。
私が少し声を落として彼に問うと、彼は殆ど顔を動かさないまま一瞬だけ目線を此方にむけた。


「こいつらは解体屋だっポー。」

「解体屋さん……って、たしか裏町のフランキー一家でしたっけ。」

「そうだわいな。あたしらそのフランキーアニキの子分だわいな。」

「じゃあ、さっさとあの変態の所に戻れっポー。」


微動だにしないルッチだけでなく、ハットリさえもついにやる気をなくしたように動かなくなった。

解体屋。
話だけだけど聞いたことがある。
ガレーラカンパニーが表の顔なら、フランキー一家は裏の顔。
造船所の陰に解体屋あり。
お互い持ちつ持たれつの重要な関係なのだ。

さっさと立ち去れと言わんばかりのルッチの様子に構うことなく目の前の姉妹の目は私に向いていた。
視線に気づき、少し姿勢を正して挨拶をする。
弊社と持ちつ持たれつの解体屋だ。好印象を残しておくに越したことは無い。


「失礼しました。私ガレーラカンパニーで事務をしております、ウミノと申します。」

「あたしはモズだわいな。」

「キウイだわいな。」


ちゃんと挨拶をすれば、笑顔で返してくれる美人姉妹。


「あんたはウォーターセブンの人だわいな?」

「そうですね。」

「見た事ないわいな。」

「裏町に来たのは初めてなので……。」

「あたしらだって中心街位行くわいな。」

「どうせ飲み屋だっポー。」

「それの何が悪いんだわいな!」


キウイが口を挟んだルッチに苛ついた口調で返した。


「えっと、飲み屋でご一緒されるんですか?」


場を和まそうと、話題を振る。
ダルそうにルッチの肩に止まっていたハットリが、面倒くさそうに片翼をバサリと揺らした。


「別にご一緒している訳じゃないっポー。たまに煩い変態とこいつらが一緒に居るんだっポー。」

「アニキを変態って言うんじゃないわいな!」

「そうだわいな!身内以外に言われると腹が立つわいな!」

「彼女がガレーラの事務とか、手近な女で手を打ったくせに生意気だわいな!」

「それの何が悪いんだっポー。」


うわお。飛び火。振った話題が悪かったか……。
というか、彼は今彼女たちの話を肯定したような言い方しなかったか?

まあ何にしろ、彼女たちとルッチの相性はあまり良くなさそうだ。
と、いうか、ルッチが一刻も早くこの場から去りたがっているのがビシビシと伝わってくる。
これはまずい。彼の機嫌が悪くなる前に私も立ち去りたくなってきた。


「えっと、立ち止まってすみません。行きましょうか。」


ルッチに声を掛けると彼もすぐに踵を返したので、それじゃあ、と美人姉妹に頭を下げる。


「さ、帰ってアニキに報告するわいな。」

「わいな。」


結局そのアニキがどんな人かは知らないが、人の噂の面倒くささは身を以て知っていた。
思わず歩く足が止まりかけると、ルッチが私の二の腕を取り歩かせる。


「クルッポー、勝手にしろ。」


この人、やっぱり私の事好きなんじゃないだろうか、……3回目。

振り向かないまま彼の言った言葉が後ろの彼女たちに届いたかは分からなかった。


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