No.88




食後にコーヒーを淹れ、カップの一つをルッチの座るダイニングテーブルへ置いた。


私も腰を落ち着けようとしたところで、シェルフ横に置いてある今日からの新入りの家具が目に入った。
家具屋で見たときは、この家具の良さがあまりよくわからなかったが、ここに置かれてみると他の家具のとの色合いや雰囲気がよく合っていてアンティークな高級感も感じられる。


「このキャビネット、素敵ですね。」

「ああ、まあまあだな。」

「あの上、何か飾るんですか?」

「……お前、空いている所を無理に埋めようとする貧乏根性やめろ。」


……ぐ。返す言葉もない。

たしかに、私は空いているスペースに何か置いたり飾りたくなってしまう性分だ。
結果、汚いわけじゃないんだけど生活感あふれる部屋となる。
自覚があったので、この家ではインテリアに関して口を挟んだことなかったのに、少し調子に乗っていた。


「ルッチさん。テレビってもう観れるんですか?」

「ああ。」


返事を聞いてキャビネットに近づく。

彼もコーヒーを持って立ち上がり、ソファーへ移動した。
キャビネットの扉を開けると、黒い画面が現れる。
テレビと一緒に収納されたリモコンを手にとり電源ボタンを押すと、画面の右下の赤いランプがグリーンに変わり、一瞬の間を置いて黒い画面に光が点った。


−それでは、海列車沿い明日の天気をお伝えいたします。
−まずはセントポプラ地方
−日中は大変穏やかな陽気となりますが、朝晩は冷え込みが厳しく……


おおっ!!


「ついたついた!つきましたよ!」


思わずテンションが上がり、一人掛けのソファーに座るルッチを振り返る。
彼は振り返った私を見て、少しだけ肩を竦め、一言。


「見ればわかる。」


……そりゃそうだ。

少々冷静になって、リモコンを持ったまま私の定位置であるロングソファーに移動した。
ソファーに腰を落ち着けて、チャンネルを変える。
ザザザ、と砂嵐の画面が現れる。
次のボタンを押す。また、砂嵐。
12個のチャンネルボタンを全て押してみたが、番組が映るのは一つだけだった。


「あれ、一個だけ?」

「まあ、それは仕方ない。この辺にテレビ用の映像電波を発信している局はひとつしかない。」

「あ、そうなんですか。」

「ああ、だから天気予報やここら辺のローカルニュース、情報番組が主だな。」


なんだか、ますますこの一局の為に彼がこれを買ってくれたことが申し訳なくなってきた。

迂闊に口に出さなければよかったなぁ。
もっと自分で調べてから、自分で買うなり彼に相談するなりすれば良かった。
少ししょんぼりとしてしまうが、それでもただの天気予報なのに映像が動き、音声を発している様子が新鮮で楽しく目が離せない。
ソファーの上で膝を抱え、脚の上に頬を乗っけながら天気予報を眺める。


−では次に、市役所からのお知らせです。
−ウォーターセブン市役所では明日から約1週間の改修工事に伴い、市民課の窓口が……


画面が変わり、小奇麗な女性が笑顔で情報を伝えている。
ぼんやりと平和なニュースを読み上げる女性キャスターの声を聞きながら、チラ、と横のソファーに座るルッチを覗き見た。
彼は肘掛に腕を預け、脚を組んでゆったりとコーヒーを飲みながらテレビ画面を眺めている。


「あの、ルッチさん。」


これ以上、この話題を出したら流石に鬱陶しがられるかもしれない、と思いつつもモヤモヤが拭えず、思い切って、もう一度だけ彼に話を振る。


「本当に、このテレビ、私が言わなくてもそのうち買ってました?」

「……。」


カチャン、
しばらくの無言の後、ルッチがソファーテーブルにマグカップを置き、私に顔を向けた。


「お前は、これが欲しかったんだろ?」

「……はい。まあ。」

「じゃあ、買っていた。そのうち。」


何でも無いように言い放つ彼に対し、それを聞いた私の心中は何でもなくなかった。
会話が途切れ、またテレビに視線を戻す彼の横顔から目が離せない。

心の半面で、いやまさか、という思いを持ちながら、何度も彼は私の事好きなんじゃないだろうか、と思える場面があった。
もう、これは確信と言ってもいいんじゃないだろうか。
と、いうかこれが確信じゃなくて何が確信か。と!いうか!たとえ確信じゃなくても、私はもうやられた。
心臓を、打ち抜かれた。

この人が、好きだ。


「ルッチさん。」


もう少し、冷静になっておけば良かったのだ。ここで。

私の呼びかけに彼が振り返り、軽く首を傾げて無言で私に言葉の先を促す。
ドクドクと心臓が大きく動き、喉に息苦しささえ感じる。

早く、呼吸が楽になりたい。早く。


「ルッチさん。私は、貴方が、好きです。」



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