No.97
キャラキャラと鈴を転がすような笑い声を立てる同僚達に挟まれ歩く。
今日はダリアが居ないから、相槌役は私一人だ。
少し前は、一人で行動するのが常だった私とは思えない現状だった。
以前は一人でブラブラと適当に移動し、その途中で顔見知りや友人と出会えば話をしたりそこから行動を共にしたりはするが、こう毎度毎度同じ顔ぶれで最初から最後までくっついていることなんかなかった。
昔から終始他人とつるむのは得意な方ではない。
周りから浮かない程度に愛想を振りまいてた自分が、まるで女子高生のように可愛らしい同僚たちと連れ立って歩くのがなんだか不思議だった。
すれ違う人々の中に、ピンピンと跳ねた金髪が視界に入る。
すぐにその正体を理解し、その金色を視界から追い出すようにわざと視線を正面に向けた。
すれ違う瞬間、嗅ぎ慣れた甘い紫煙が嗅覚を擽る。
無意識に詰めていた息をはぁ、と吐き出した。
「ねえねえ、今パウリー職長こっち見てなかった?」
「見てた見てた!」
「やっぱり?私もそうおもった!」
きゃあ、と言いながらチラチラと後ろを振り返る同僚達。
「ナツを見てたんじゃない?パウリー職長と仲良かったでしょ?」
「え、本当?全然気づかなかった。」
恍けてみるが、もちろん嘘だ。彼の視線には気づいていた。
そして、もし一人で歩いていたら、すれ違う前に、存在を認めた瞬間回れ右していたであろう事も。
気まずいと思いながら彼に話しかけるのを躊躇っていたら、なんだか機会を逃しまくり、今ではどうやって話しかけていいか分からなくなっていた。
以前彼とどんな話をしていたっけ。
あんなに頻繁に飲みに行っていたはずなのにそれさえもうまく思い出せない。
友人である彼に不意打ちを食らわせるように、ルッチと付き合う報告をした事。
時効という訳ではないが、流石にそれについて気にする時期は過ぎたように思う。
勿論、勝手に気にしていたのは私で、パウリーに何か言われた訳ではない。
彼との気兼ね無い関係は楽で楽しかった。
可愛い女の子達との囀りのようなお喋りも楽しいが、女子の性質上、全く気を使わずにその場は成り立たない。
その点、彼相手だと、少々乱暴な意見をぶつけても、無言の時間が訪れても、気遣いはお互い不要だった。
勝手に避けてた癖に、我ながら自分勝手だなぁ、とは思うが、あの、屋上の日々に戻りたい。
……彼はまだ、あの高い場所に居るだろうか。
今すれ違ったばかりで、仮にパウリーがどんなに急いで向かってもまだそこに居るはずもないのに、中庭に差し掛かったところで屋上を見上げた。
太陽の眩しさに目を凝らすが、柵が太陽を反射して光るばかりでやっぱりそこに誰の人影も無かった。
屋上と空を見上げながらぼんやりと歩いていると、周りが壁に囲まれている中庭に、同僚たちのきゃあという声が一際大きく響いた。
吃驚して思わず立ち止まり、キョロキョロと女の子達の顔を見回す。
隣に立つ子が肘で私の脇をつつく。
彼女たちの視線を追って見れば、中庭に面した通路を白い鳩を肩に乗せた黒い男が歩いていた。
私達の視線が自分に向いているのに気付いたのか、彼もこちらを見て立ち止まる。
周りのきゃあきゃあ言う声が、嬉しそうにクスクス笑う声に変わった。
トン、と背中を押され、たたらを踏んで数歩前に出る。
何事かと同僚達を振り返ると、皆一様にニコニコと笑みを浮かべ私を見ていた。
「一緒に食べてきていいよ。」
「うん、私達いつもの場所で食べてるから。」
「いいなあー職長の彼氏!」
「ええ!なんで?良いって!」と、慌てて彼女たちの輪に戻ろうとするも、「いいからいいから」「遠慮しないで」とまた輪から押し出されてしまった。
戸惑いながら数歩歩き、また彼女たちを振り返ると、嬉しそうに手を振られてしまった。
女の子達は他人の恋愛も嬉しいものなのか。
諦めてルッチに向かって歩く。
女の子達の輪から外れて歩いてきた私を彼は意外にも立ち止まった場所で待っていてくれた。
「なんだ。仲間外れにされたのかっポー?」
「……ご覧の通りです。」
小さく溜息を吐きながら彼の言葉に頷くと、彼は少し眉を上げ呆れたような顔をした。
顎を振り、無言で「行くぞ」という事を示す。
歩き出した彼の後を付いて私も歩き出すと、またも中庭からきゃああと歓声が上がった。
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