No.98




ルッチに付いて行った先は社内のカフェテリアだった。

朝食夕食は一緒に食べているが、基本昼食は各自で摂っていたため彼が普段何処で何を食べているのかは知らなかった。
まあ、どこかで適当に食べているんだろうとは思っていたが、こんなに人の多い所で……ちょっと意外だ。

人でごった返すカフェテリアをキョロキョロと見渡しながら適当な席の椅子を引く。
注文カウンターへ向かおうとしていたルッチが足を止めて椅子に腰かけた私を振り返った。

手にしていた袋を軽く上げて見せる。


「さっき売店で買ったんですよ。私、これ食べるんで。」


2・3歩こちらに寄ったルッチは、私が掲げた袋を取り上げ、中身を覗いて僅かに顔を顰める。
ハットリが広げた翼を天に向け呆れるように肩を竦める動作をした。


「ポッポー。たまにパン屋に寄らなかったと思ったら売店でパン買うのか。パン以外食い物をしらないのか?」

「いいでしょ。好きなんですから。」


ふん、と顔を背けた私に売店の袋を返した彼は、やれやれといった様子で注文カウンターへ向かった。
カウンターの列へ並び始めた彼の後姿を眺めながら、先に食べ始めていようかと袋に手を伸ばす。


「あれ、ナツちゃん?カフェテリアにくるの珍しいね。」


ふと掛けられた声にパンを取り出す手を止めて、顔を上げた。
そこには6番ドッグの職長の顔。
彼とは仕事で顔を会わせる機会がある。
特別仲が悪い訳ではないが、こうやって仕事の絡みの無い所では殆ど話をしたことは無い。
珍しい……のは此方の台詞だ。と思いながら首を傾げて彼を見返す。


「カリファさんと一緒?」


目線だけで辺りを見渡しながら彼が問いかけてくる。

ああ、なるほど。
彼もカリファのファンか。

仕事が出来て美しいカリファには社内社外問わず、彼女に好意を持っている男性が沢山いる。
仕事にストイックな彼女が彼らを歯牙に掛けることは無いのだが、中にはどうにかしてカリファと何らかの繋がりを持ちたいと願う者が居た。
外堀から埋めようとする人は、カリファのコネで入社してきた私に接触してくる人もいるのだ。
目の前の6番ドッグの職長もその一人であろうと憶測する。


「今日は、カリファは一緒じゃないんです。」


済まなそうな表情を浮かべ、彼に返した。
私の返事を聞いて、彼が意外そうな表情を浮かべる。


「へえ?じゃあ、一人?」


言いながら彼が自然な流れで私の隣の椅子の背もたれを引き、そこに腰掛けた。
まさかカリファも居ないのに隣に座ってくるとは思わなかったので、少し驚いて彼を見つめると、彼はいたずらっぽい笑みを浮かべて私の顔を覗き込んだ。
急に馴れ馴れしい顔つきになった彼に少々引きながらも、彼の問いを否定しようと頭を振る。

ガチャン!

私が言葉を発する直前、何かの影が私たちの間を通り抜け、さらに大きな音がして2人とも椅子から飛び上がらんばかりに驚いた。
私達二人の間を通り抜けたのは食事の乗ったトレイで、今現在私たちの間を遮っているのはそのトレイをテーブルに叩きつけるようにして置いたルッチの腕だった。


「……あー。一人ではないんです。」

「……そう、みたいだね。」


ルッチの腕越しに彼に言うと、彼はルッチの顔を見ないまま引き攣った笑みを浮かべた。
そして居心地悪そうにガタガタと椅子を揺らしながら立ち上がり、相変わらずルッチを視界に入れないように「じゃあ。」と言って去って行った。
去って行った6番ドッグの職長の後姿を見送り、チラ、と横に立つ人間を見上げる。
彼も、去って行った職長の後姿を冷たい目で見送り、その瞳を私に落とした。


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