9-2
「電気、消すよ。」
「あ、待って。まだランプ点けてない。」
「早くしろ。」
ベッドの中から手を伸ばして小さなスタンドライトに明かりを点けると、ほぼ同時にシャーロックが部屋の電気を消した。
サイドテーブルの上で発光する僅かな明かりを頼りに、シャーロックがベッドに潜り込んでくる。
しばらくごそごそと其々が落ち着く体勢を探る。
背中合わせになってみたり、向かい合ってみたり、寒い日は布団の中が温まるまでお互い引っ付きながら眠る。
赤ひげが居なくなったあの晩から、私達は自然と一緒に眠るようになっていた。
喧嘩をした日は狭いシングルベッドの端っこと端っこで掛け布団を引っ張り合いながら眠る。
寝る前に面白いミステリードラマを見た日なんかは、照明を落とした後もしばらくおでこをくっ付け合いながら、ドラマの感想を言ったり、僕ならこうやって殺す。とか物騒な事を言って過ごす。
たまにシャーロックが徹夜してもやりたい実験があったりして一人でベッドに入る事があると、上手く寝付けなかったりするのだ。
徹夜明けのシャーロックが朝方一人でベッドに入ってもそうらしい。
学校から帰ると、いの一番に君のせいで寝不足だ、と理不尽なクレームを受けたりしたこともある。
「ねえ、シャーロック。」
「……ん。」
「リビングのカーテン、閉めたっけ。」
「……んん。」
ぬいぐるみか抱き枕のように私を抱え込んだシャーロックが、聞こえているのかいないのか、ぼんやりとした返事を返した。
すうすうと寝息を立てる彼を小さなランプだけの薄明かりの中で見つめ、カーテンが閉まってないくらいまあいいかと私も目を瞑る。
近くで聞こえる彼の寝息に呼吸を合わせると、本当に良く眠れるのだ。
−−
何時かは分からない。
話し声が聞こえた気がして、意識が浮上した。
辺りは真っ暗で、きっとまだ真夜中なのだろう。
シャーロックが消したのか、サイドテーブルのランプの明かりも無く部屋の中の様子は殆ど分からない位真っ暗だった。
ベッドの中にシャーロックの気配が無い事に気付き、ゆっくり起き上る。
ドアから細く漏れている光に誘われるようにベッドから足を下ろす。
ひたひたとスリッパも履かない素足で音も立てずに近づいた。
「――……から、びっくりしたわ。」
「僕も驚きましたよ。こんな時間に物音がしたので泥棒かと。」
ママとシャーロックの声が聞こえ、ドアノブに伸ばした手をはっと下ろした。
ドアに張り付くように突っ立ったまま、まるで盗み聞きのように二人の会話に集中する。
「シャーロック?よね?少し見ない間に随分背が高くなったのね。」
「……ええ、まあ。」
「今日は遊びに来たの?よく来るのかしら?」
「……。」
「あ、おばさんね、今日は残業でこんな時間になったのよ。あら、確かに泥棒みたいな時間ね?驚かせてごめんなさいね。」
「今日は、良いんですか?」
「……何がかしら?」
「背の高い彼氏ですよ。それと彼の子供。」
「……何の話。」
「ほら、あの、赤毛の。」
「……。」
始めのうちは愛想よくシャーロックに話しかけていたママのが、彼氏の話題を振られて口を噤んだ。
一方シャーロックの方は、初めから淡々と同じ調子で話していた。
「あ、えっと……エレナは……。」
「エレナは眠っていますよ。こんな時間ですから。」
「……そうよね。」
「ご安心を。貴女が彼氏とその子供にかまけて家に帰っていない事はうちの両親は知りません。」
「なにを、」
「根拠に?と仰るつもりですか。……では、逆に聞きましょう。ノールズさん、貴女がここ一年、眠っている姿でもいい、エレナの顔を見た事は?」
「もちろん、毎日見ているわよ。仕事のせいで起きているあの子にはあまり会えないけれど、こうやって帰って来てあの子の寝顔を見てから、学校に必要な物をチェックしたり新しいお洋服を揃えたりするの。」
「それは嘘だ。」
「だから!子供の貴方に何が分かるの!」
「それなら僕によく遊びに来るのかしら?なんて質問は出ないはずだ。2年も前から僕たちは1日も欠かさず一緒に寝ている。」
少し声を荒げたママに返したシャーロックの言葉の後、しばらくの沈黙が訪れた。
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