10-2
「ふうん。じゃあ、その……シャーロック?って言ったっけ。そのクレバーな幼馴染は寮付の学校へ行くことが決まったの?」
「うん。」
ジミーの問いに伏し目がちのまま頷く。
彼はすぐに話を明るく下らない方向へ持って行こうとするのだが、今日の彼は口調こそ明るかったけど、その表情は真剣そのものだった。
「ずっと前から知っていたの。私が3歳の時に彼のお兄さんが同じように学校の寄宿舎に入って、いつかは彼もと聞かされていたから。」
「ふうん。……ところでさ、11歳まで彼は本当に学校に通ってなかったの?」
「ええ。」
「本当に?今時?この街で?」
「ええ、そうだけど?」
だからなんだと言うのだろう。
顔を上げて、身を乗り出して問い質してきたジミーを見つめる。
彼は興味津々な顔をしているかと思いきや、酷く真剣な表情をしていた。
シャーロックの事をジミーに話すのは初めてではない。
ジミーとはとても多くの事を話してきた。アビーにも言ったことがない事もだ。
赤ひげが居なくなってしまった時も、ママが帰って来ない理由も、その為にシャーロックがしてくれたことも。
そういう話をしていく中で、シャーロックが学校に通わない子供なのだと話したことがあったはずだ。
その時は彼はこんなに突っ込んで聞き返したりはしなかったのに。
怪訝な顔で私が彼を見つめ返すと、彼は「いや……」と言って僅かに私から目を背けた。
「珍しいと思ったんだよ。君から初めて聞いた時は、それでも直に何処かの学校に通うんだろうと思ってた。……だって、家と学校が何十キロも離れてるド田舎でもあるまいし、そんな事、やっぱり普通の家庭じゃ珍しいからね。」
「そういえば、そうね。」
彼の言葉に頷く。
「シャーロックは、君以外の子供と遊ぶことは?」
「おそらくないと思う。お兄さんも7つも年上だし。それに私と一緒に居ても遊ぶことはあんまり。」
「じゃあ、2人で何をするの?」
「別に……特に何も。一緒にTVを見たりすることもあるけど、大抵は同じ部屋に居るだけでやってることはバラバラ。」
最近のシャーロックの研究はいろんな燃えカスを集めて形や色、細かさ、匂いなどを観察したのち、色んな液体と混ぜて反応を見るというものだ。
正直そんなものの研究に全く興味はないし、付き合う気はサラサラないのだ。
ジミーは私の話を聞くと、眉を顰めて黙り込み、しばらくするとふっと表情を緩めた。
そして申し訳なさそうに私を見る。
「ごめんね、エリー。僕は彼が居なくなる事で君が寂しく思う気持ちを共有してあげられない。……だって、僕はシャーロックが君の下から居なくなる事を喜んでる。」
彼の言葉に首を傾げる。
シャーロックと会った事のないジミーがなんでそんな風に思うのだろうと不思議だったのだ。
「エリー。」
ジミーが改まって私の名を呼び、右手を取った。
「この学校で僕より仲の良い人は居る?」
「……たぶん、居ないわ。」
アビーはかなり仲の良い友人だと思うけれど、今までに彼女よりジミーを優先させてきたことが何度かあった。
と、いうことは、やはり私の中で一番はジミーだろう。
少し考えて答えると、彼は「僕もだよ」と頷いてから持ち上げた私の右手を見つめる。
「……じゃあ、僕とシャーロックでは?」
か細く紡ぎだされたジミーの問いに返すことなく、まじまじと彼の顔を見つめる。
そんな事、考えた事もなかった。
だってシャーロックは血が繋がっていないけど家族位近い人物だし、どちらが仲が良いなんて比べる意味もないもののように思える。
答えを返さないでいると、ジミーが私と目を合わせないまま自嘲的に笑う。
「僕より仲の良い男の子がずっと君と一緒に居るなんて、なんかすごく、嫌だったんだ。……だって僕はもうすぐ君と離れなきゃいけないのに。」
「そうだけど、でも、1年もすれば私もセカンダリースクールに行くわ。」
確かにジミーが同じ学校に居ない1年間は痛いけど、最近はアビー以外のクラスメイトと話してても楽しい時間が増えた。
そして1年を乗り越えればまた学校でジミーに会える。
私の学校生活はそれほど変わらないはずだった。
「エリー、聞いて。……話さなきゃ、今日こそ。……僕は君にずっと話さなきゃいけなかったんだ。」
嘆くように言いながら、ジミーは手に取っていた私の右手を俯いた自分の額に当てた。
「僕、9月から、サセックスの学校へ行くんだ。」
瞬間、私の思考はフリーズした。
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