QT10-3
イブの夜はホームズ家と私の5人で教会へ行き、帰って来てからミセスホームズが腕によりを掛けたディナーを食べ、いつも通りに床に就く。
朝リビングへ出て行くと、前日まで何もなかったクリスマスツリー周辺はギフトラッピングで山になっているのだ。
といっても、そこに置いてあるプレゼントは殆どが私とシャーロック用の物で、いつも5つくらいずつ用意されている。
5つのうち4つはお菓子だったりハンカチだったり安価なもので、1つだけ少し高価なメインのプレゼントがある。
マイクロフトと少し年が離れているせいか、ホームズ夫妻は私達のクリスマスプレゼントに律儀だった。
私もホームズ家の皆当てにささやかなプレゼントを携えて行く。(12月はママのカードからお小遣いが一年で一番引き出される月だ。)
例えばミセスホームズには温かい靴下だったり、ミスターホームズには可愛いボウタイ、マイクロフトには若草色のポケットチーフだったり、だ。
ツリーの脇に他の皆へのプレゼントを置いてから、自分あてのプレゼントを開封し始めることにした。
「C&Hのドロップだわ!私がこのキャンディに嵌っている事サンタさん知ってたのかしら。」
「もちろんよ。サンタクロースはなんでも知っているわ。」
“当たり”はひとつだけとはいえ、他の4つの小さなプレゼントも嬉しいものだ。
プレゼントから出てきたキャンディを口に含むと、いつもなら「まあ、朝食前なのに!」険しい顔をするであろうミセスホームズも、今日は怒ることは無くにっこりとした。
最後に一際ずっしりと重量感のある包みを破り、中の箱のパッケージが見えた所で思わず声を上げた。
「すごいわ!ポータブルのCDプレイヤー!素敵!こんなの友達の中じゃ誰も持っていないわ!」
「あら、その様子じゃサンタクロースは今年も外さなかったみたいね?」
「最高だわ!高いのに。サンタさんったら!!」
「大事にしなさいね。」
「はい!」
思わず目の前のチーム・サンタクロースの一人であるミセスホームズに抱きついた。
もう一人のチーム・サンタクロースの一員は現在ハミングをしながらシャワーを浴びている。
あとで思いっきり飛びついてやろう。
ポータブルプレイヤーといえばカセットテープが主流で、数年前ポータブルCDプレイヤーが発売されたが、まだ子供が持てる程メジャーではなかった。
カセットとCDは音質も全然違う。しかもソニーだ。最高にクール。
これは最新式だから300ポンドはしたに違いない。
中の説明書を読んでいると、少しして起きてきたマイクロフトがすれ違いざまに小さな包みを押し付けてきた。
包装を破ってみると楕円型の箱の中に蝶のモチーフが付いた繊細なヘアピンが入っている。
とても可愛らしく、包みを押し付けてきた主とはあまりにイメージがかけ離れ過ぎていた。
“ワーオ”と声には出さず口の動きだけで感嘆し、早速前髪に差し込む。
「ヘーイ、ミスターサンタ。どう?似合うかしら?」
ティーポットを傾けて静かにカップへ紅茶を注ぐ後姿に抱きついた。
急にじゃれ付いた事で手元が狂ったのか眉を顰めて振り返った彼は、私の前髪に付いた飾りを見て肩を竦めた。
「可愛いね、コレ。マイクロフトが選んでくれたの?」
彼は言葉を返すことなく、少し口元に笑みを浮かべて首を傾げた。
「いいのよ。ガールフレンドに選んでもらった物だとしても嬉しいわ。」
彼は浮かべた笑みはそのままに小さく首を振った。
……まさか。
くっ付いていた背中からそっと離れて距離を取る。
「……ボーイフレンド?」
「Hey!」
恐る恐る口にした言葉をマイクロフトが速攻咎めた。
「そんなわけないだろ。」
「……だって、」
「確かに自分で選んだわけじゃないのは悪かったね。でもボーイフレンドは無いだろう。私はノーマルだ。
選んでくれたのは女性だよ。でもガールフレンドじゃない。」
「ごめんなさい。でもそれならそうと答えてくれればいいのよ。」
「まったく、君は相変わらず騒がしい。少しは静かな時間を私に与えて欲しいものだね。」
「それは申し訳なかったわ。ここに居てはまた騒いでしまいそうだからお寝坊さんの貴方の弟を起こして来ることにする。」
「それはありがたいね。最高のクリスマスプレゼントだよ。」
「喜んでもらえてなにより。プレゼントのおまけでそのグリーンの包みも貴方に上げる。」
相変わらずの皮肉に返しながらツリーの下に置いた箱を指さす。
ようやくカップを口元に運ぶ事が出来た彼は、こくりと紅茶を飲みながら“了解”という様にソーサーを持っている手を掲げた。
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