QT10-4




真新しいCDプレイヤーを手に持ってシャーロックの部屋を開けると、薄暗い中ベッドが薄らと膨らんでいるのが見えた。
さっきまで私もその中で寝ていたはずなのだが、今や私が入り込む隙がないほどベッドの主はのびのびと四肢を放り投げて眠っている。


「Hey!起きてシャーロック!」


大人になった今でもそうなんだけど、昔から彼は自分で“起きる”と決めた時以外の寝起きは最悪だ。
冬休みで、実家で、クリスマスで、しかも起こしに来ているのが私とくればかなりの長期戦を覚悟しなくてはいけないだろう。

カーテンを勢いよく開けるが、あいにく外は曇天。今にも雪が降り出しそうである。
多少部屋の中が明るくはなったが、シャーロックを目覚めさせるに効果的な日差しを得られそうではなかった。


「おきてよぉー。」


ベッドの膨らみの上にばたりと倒れ込むと布団の中から「ぐぇ」だか「ぐぅ」だか呻くような音がした。


「学校に行ってからの寝不足は昨日までで解消したでしょ?クリスマスよ!シャーロックのプレゼントを早く開けて見せて!」

「……開けていいよ。勝手に見ればいい。」

「そんな事出来るわけないでしょ!他人のプレゼントを勝手に開ける程私は卑しくないわ!」


寝惚けているのか掠れた声で唸るように答えるシャーロックを布団の上からボスボスと叩く。
「……やめろ。」と心底鬱陶しそうな声が続いた。


「ねえ、私の分のプレゼント。なんだったと思う?」

「……さあ。」

「当ててよ!」

「……しらない。」


スリッパを放り投げるように脱ぎ捨てベッドに乗り上げる。
彼の横にお尻を押し込んで座り、頭の上まで掛かっている布団を捲って隠れていた顔を出した。


「いいから当てて。」


シャーロックは不機嫌そうに顔を顰めながら薄目を開ける。
そしてほとんど開かない目で私を見つめた後、ほんの少し鼻をひくつかせた。


「……C&Hのレモンキャンディー。」

「当たり。でも当てて欲しいのはそれじゃなくてメインのプレゼントの方。」


薄く開いていた彼の目が更にほんの少し開き私を観察した。


「んー……、新しいドライヤー。」

「ハズレ。」


彼の出した答えが外れていた事で嬉しくなり、答えながら舌を出す。


「しかも、キャンディーの答えも半分しか合ってなかったのよ。正解はフルーツミックスのクリスマス限定瓶!でも確かにさっき舐めたのはレモン味ね。」

「サワーチェリー味は僕が貰う。」

「絶対あげない!」


ころころと笑いながらシャーロックの言葉に首を振る。
クリスマスプレゼントを貰った後の時間は大人でも暫く浮き浮きするものだ。
子供の私はそれはもう機嫌よく、しかも寝起きのシャーロックが推理を外した事が愉快さに拍車を掛けて、まだパンチも飲んでいないのにまるで酔っ払いのようにケラケラと笑い転げた。

仰向けで枕に上半身を預けていた彼がゴロリとこちら側に寝返りを打ち、片肘を付いて頭を支え私を見上げた。


「それで?結局何を貰ったんだ?」

「あれ?もう降参なの?」

「ああ、降参降参。」


ハナから考える様子の無い彼は、頭を支えているのとは逆の手をヒラヒラと振った。
まあ、彼がしつこく推理を続けなくて良かった。
私は一刻も早くこれを彼に自慢したかったのだ。


「Ta-dah!」


足元に隠していたCDプレイヤーを取り出し、口で効果音を付けながら彼の顔面に付きつける。
シャーロックは眉を顰めて目前に迫ったものに焦点を合わせた。
そしてそれが何であるかが分かると、彼はむくりと体を起き上らせた。

最近は冬場だろうとパンツ一枚で寝ている彼は掛け布団がはだけ、白くて華奢な上半身が露わになった。
非常に寒そうである。


「返してこい。」


真剣な顔で言われ、思わず「はあ?」と呆けたような声を上げてしまった。


「なんで?」

「なんでって、ポータブルプレイヤーなんかカセットテープがあれば充分だろ?CDが聴きたいなら、ほら、僕の部屋にCDとカセットテープのコンポがある。」


シャーロックはライティングデスクの隣に置かれたミュージックコンポを指さす。
至って真剣だ。
私の中を満たしていた浮き浮きとした気分が少しだけシオシオと萎んでいった。


「シャーロック。私はこれが嬉しいの。せっかくおじさんとおばさんがくれたのに返したりなんかしないわ。カセットより音も綺麗だし、どんなに聞いたってテープが伸びたりしないし。……コンポは持ち運べないじゃない。」


シャーロックはム、と口をへの字に曲げて不機嫌そうなオーラを滲ませた。
そして勢いよくベッドマットレスの上に立ち上がると、大股で私を乗り越えベッドから降りて、クローゼットの前にだらしなく出しっぱなしにしてある大きなバッグの所へ裸足で歩いて行った。
そして、バッグから中身をいくつか取り出すとガウンも羽織らずに私の所へ戻ってくる。


「メリークリスマス、エレナ。プレゼントだ。」


そしてベッドサイドテーブルの上に散らばっている本や鉛筆やプレパラートやマグカップをぞんざいに掻き分け、腕の中のものを順番に置いた。
コン、コン、コン。と音を立てて置かれたものを見て驚きと困惑で首を捻る。

メトロノーム、香水、カセットテープ。

並べられた3つに全く関連性を見いだせず、説明を求めるようにシャーロックを見上げる。
彼は相変わらず不機嫌そうに私を見下ろしていたが、目が合うと私の視線の意図を探るような表情をしてはっと気づいたようにサイドテーブルの上を見た。


「……そうか。ラッピングしてない。」

「いや、そうじゃなくて。」


彼は観察眼が鋭いのか鈍いのかたまに分からなくなる時がある。
少し呆れて彼の顔から目を逸らした。


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