15-2




バーニーに出会って、あと少しで2年になる。
そうすると彼は学校を卒業してしまうし、私はようやく大手を振ってパブに行ける年齢になる。
彼が私に気があるのはもちろん気づいている。
私も彼には少なからず好意を抱いていて、そんな私たちを周りの友人たちがやきもきしながら見守っていることも知っていた。
でも、彼とはいつもタイミングが合わず、彼が決定的な事を私に告げることも無く、軽いキスすらも交わすことなく、お互い秘めた気持ちを持ったまま、友人関係を貫いていた。


*


その日、私は朝から慌てていた。
今日はこれからバーニーが我が家に来るのだ。

別に初めて彼が来た日の様に構える事はなくなったけど、学校の友人が来る日は毎回一応飲み物や食べ物は多少用意している。
本当は昨日のうちに適当に買い物に行ってくるつもりでいた。
なのに、まさかのシャーロックが昨日帰って来たのだ。
今までイースターなんて短い休暇に帰ってきたためしがないのに、今年に限って帰って来たのだ。
別に嫌なわけじゃないけれど、まあ、それで私の予定が少々狂ってしまったことは確かだ。

空気が読めないと言えばシャーロック、シャーロックと言えば空気が読めない、というくらい、彼が関わると様々な事柄が予定通りに進まなくなる。
だから彼の居る日は予定なんか立てない方がまだマシ。という認識が私の中にあるくらい、彼が帰ってきた瞬間から嫌な予感しかしていなかった。
ああ、神様。なぜシャーロックの居る日に私のスケジュール帳に文字が書かれているの。と嘆いた程だ。

しかし、いざ当日になってみると、ありがたいことに朝食の後から彼の姿を見ていない。
良かった、きっと何処かに出かける用事があったのだ。
少し肩すかしを食ったようだけど、私は安心して近くの雑貨屋にチョコレートや普段は飲まないコーラなんかを買いに行った。


バーニーが来て、冷凍のピザやフィッシュ&チップスを食べ、彼がレンタルビデオ店で借りてきた映画をリビングで見た。
ソファーに並んで座り、ソファーテーブルにはクリスプスも甘いマフィンもジュースも全部並べて、一昨年公開したケヴィン・コスナー主演のヒット作を観ていた。


「これ、何か賞を獲ったんだっけ?」

「さあ……ノミネートはされたのかな。音楽はヒットしたよね。」

「確かに、去年はどこに行ってもホイットニーの歌ばかり流れてた。チョコいる?」

「うん、貰う。ありがと。」


何でもない会話を交わし、お菓子を食べ、二人とも映画に集中する素振りをしながら、たまにチラリと電話に意識を向ける。
ソファーに置いた二人の指先が偶然触れ合う度、
映画のホイットニーとケヴィンが良い雰囲気になる度、
つい、シャーロックと並んでいるときみたいに彼の肩に頭を凭れてしまう度、
二人ともハッとなって電話に視線を向けてしまうのだ。

何度目かの時に、流石に可笑しくなって彼に提案した。


「もう!こんなの普通じゃないわ!バーニー、私たちマイクロフトに怯えすぎよ!彼は今日も仕事だし、何か連絡があったって絶対にすぐに切る。だからもう電話を気にするのはやめましょう。」

「そう、だね。そうだ、うん。分かった。もう電話は見ない。」

「そうよ、電話は見ない。」


電話は、みない。

バーニーが再度自分に言い聞かせるようにゆっくりと言い切り、私たちはブラウン管の中のラブストーリーに意識を戻した。
不思議なことにその日は本当に一度もマイクロフトから連絡が来ることはなかったのだ。
バーニーと二人きりの日に何も邪魔が入らないなんて今までなかった。
きっと今日という日を逃したら二度と恋人に進展する機会なんかない。
私たちはいつしかお互いを励ますように手をつなぎ、ブラウン管の中で身の危険を回避するホイットニーやケヴィンの活躍を見つめていた。

バーニーの手のひらがじわじわと汗ばんできている。
彼はきっと映画どころの心境じゃないだろう。

バーニーが3回足を組み直し、私の手を2回つなぎ直し、大きな咳払いをひとつする間に、ケヴィン・コスナー扮するフランクはホイットニー扮する歌手レイチェルを庇って被弾した。
映画も大詰めだ。

意を決したように彼が繋いでいた私の手を引いた。

……きた。

内心ドキドキしながら、でもなんとかポーカーフェイスを保って彼を向く。


「エレナ。」

「……なあに?」


ひとつ、深呼吸。


「ずっと、君に言いたかった事があって……。」

「……うん。」


ゆっくり、彼の言葉を促す。


「俺は、君に出会えてすごくラッキーだったと思ってるんだ。だって君と会ってからの俺は……」


バーニーがようやく話し始めた時だ。
ガタン!!と大きな音がして、彼はひゅっと息を飲んで言葉を止めた。
私も物音がした方向へ耳を欹てる。

ガタゴトバタン!と追って物音が立ち、私たちの目の前に現れたのは……、


「エレナ、僕のパンツ出してくれない?」


フリルとレースが付いたピンク色のバスローブをつんつるてんに着こなし、ほかほかと体中から湯気を上げているシャーロックだった。


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