最近彩君はしおらしくなった。しかし距離が以前より近く感じる。
控えめな仕草の中に、好意的なものが見えることが多々あり慕ってくれているんだろうなと思っていた。

「彩君は家で映画を観る時は電気を消す派なのか?」
「うーん……いつもは点けて見てましたけど、今日は消して観るのはどうでしょう」
「分かった。では消してこよう」

家の近場にレンタルビデオ屋があったから、今日は映画でも借りて観ないかと彼に提案したら喜んで頷いてくれた。
部屋の明かりを消し彩君の隣に座ると、彼はさりげなくこちらに寄り私を一瞥する。
……これが彼なりの慕いの表現なのだろうか。
本当に、ここ数日からこんな事が続いていて。困ったり、嫌だと思う気持ちは全くないしこうして行動してくれているのはとても嬉しい。けれど彩君の行いはその、一般的に言うと同性などにするそれとは少し違うのではないかと私は思っている。

けれどよく考えてみろ。こんな私に好意だなんて、そんな馬鹿な話……
精々家に招いた恩と友愛くらいが似合う私だ。人から愛情を表現されるほど私はできた者じゃない。
第一、彩君は……

「丸三音さん?大丈夫ですか」
「えっ……あ、あぁ。すまない、少しぼーっとしていた」

映画は既に始まっていた。まだ序盤も序盤なので大丈夫そうだ。今はこれに集中しよう。

……とは思っても変に気持ちが浮ついていて呆然と目の前の画面を眺めることしか出来なかった。
断片的にしか入ってこない情報。物語は佳境に入りラブロマンスの展開へ。
2人の清くて淡い関係。
何故この男女を私と彩君を重ねようとしているのだろう。
勘弁してくれ。色ぼけた人間が考えるような事をする自分に嫌悪感を覚えていたら、突然彩君に手を握られた。
いきなりの出来事だったので何も声が出すことが出来ない。
彼の意図を知りたくて、顔を見つめようとしたその瞬間。

自己と色恋に嫌悪する塊に、彩君は、口付けてきた。

唇に熱が伝わった瞬間すぐさま彼の肩を掴み引き離す。
突如訪れた緊急事態に私の頭は大変な事になっていたが、1つ冷静な部分があった。

「まだ子供なのに、こんな事をしてはいけないだろう!!!」

押しのけられた彩君は、言葉に言い表し難い、衝撃を受けた表情でこちらを見ている。

「なんで、俺がガキってこと、知ってるんですか」
「……いま、漸く認めてくれたね」
「あっ……いや、ち、ちがう」
「もう、隠すのはやめてくれ。君、17歳だろう。少し前身分証が出しっぱなしになっていた時、知ったよ」
「ちがう、ちがう。さっきのあれも、全部違うんです。待って丸三音さん」

キャパオーバーになってしまった彩君は、肩を震わせつつ全てを否定するが、やってしまった事や年齢のことは事実だ。
しかし今の彼をこれ以上責めるのは出来ない。きっと先程のは若気の至りだ。年齢だって、嘘をつかねば警察に突き出されてたからだろう。
彼は追い詰められてるんだ。だからこうして、私に縋ってきたのだ。縋り方が分からずああして間違った表現をしたんだ。

啼泣し始める彩君を抱き寄せる。先程驚き、拒絶するように押し返した謝罪も込めて。
彼が嘘をついて居ても、追い出しはしない。あれは事故だと思えば全く何も感じない旨を彩君に伝えると静かに「丸三音さん、なんでそんなに俺に優しいんですか」と呟いた。

夜と朝のあいだの透明
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