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その日の放課後、部活中に烏養が日向と月島にウシワカも止められるようなブロッカーになってもらうぞと一発気合いを入れさせるとそのまま鶫に任せているブロック練習へと彼らを送り出す。そして近くにいた武田にこっそり声をかけると、ボールを拾っていた彼は足を止めた。
「……ところで先生よ。テストは大丈夫だろうな? 特にバカな四人」
「最近は授業でも真面目なようですし、大丈夫だと思うんですが……」
「……心配だな」
「だ、大丈夫です! やれば、やればできる子たちだと僕は信じてますから!」
そのやればできると武田の希望を背負っている四人は、先日提案されたように部活後の部室内でそれぞれ勉強を見てもらっていた。鶫も部員たちの着替えが終わった頃にお邪魔しているが、日向と影山については月島や山口に任せることにしたらしくほとんど口出しはせず横でじっと様子を見ている。
「はい、さっさと次。日向、問六の一つ目は?」
「……」
問六。次の( )内に当てはまる語句を入れ、ことわざを完成させなさい。
「……」
(一)無慈悲な者にも、時に慈悲の心から、涙を流すことがある、という意味のことわざ。
「……」
鬼の目にも(金ぼう)。
「痛い!」
「お前、鬼に酷いんじゃないか」
「うーん……」
山口の反応に続いて影山がそう冷静にツッコんだが、そういうことではないと鶫は思わず苦笑いをする。月島は鬼に金棒だとでも思ったのかと言って問題文を読めと叱る。そのミスに恥ずかしくなった日向は煩いと声を上げていたが、これは流石にと山口は口元を引き攣らせる。
「鬼って見て問題も良く読まないでガーッて書いちゃったんでしょ。ホント単細胞」
「答え、涙ね」
「そうだお前はもうちょっと落ち着け。そそっかしいんだよ」
「お前らなんでひと言余計なの!?」
「うーん……」
月島の言い分は尤もで影山も間違ったことは言っていないものの、鶫は彼の答案を見てそれに同意するのは憚られた。何とも言えないというように曖昧に相槌を打っていたが、月島の指導は日向から影山へと移動する。
「影山も他人のこと言えないんだけど! 全体的に日向よりできてないんじゃないの!?」
「!」
「超基礎的な数学の公式とか英単語くらいは自分で何とかしなよ!」
「日本人に英語が分かるか!」
「と、飛雄くん……」
流石にそれは屁理屈が過ぎると鶫が苦笑いをし月島が東京行きは諦めるんだねと影山に苛立っている時、先程まで田中の勉強を見ていた澤村が顔を覗かせたことに気が付いた。何かあるのかと鶫が声をかけるより早く澤村は影山に声をかけ、おもむろに左手の指を二本地面と平行に伸ばす。
それを見た鶫はその意味が分かったものの今どうして此処でと小首を傾げたが、同時に影山が口を開く。
「Bクイック」
「!?」
「A・C、セッター前の時間差。レフトバックアタック」
次々と澤村から出されるサインに即答で答えて行く影山。それを見ていた途中で澤村が何を言いたいのか察した鶫はまた苦笑いをし、そっと澤村の前を開けた。
「D、平行。セミ、セッター前の時間差」
「……」
「おー……」
「これ、どの位で覚えた?」
「? 教えて貰った日、スかね?」
それで暗記が出来ないとは言わせないからな。
「!!」
澤村の厳しい言葉を頂戴した影山ははっと表情を変え、隣でそれを聞いていた日向は何を思ったのか影山には負けねえと声を上げた。そんな彼らから視線を外した澤村は全員に聞こえるように、そろそろ上がるように声をかけると朝練遅れんなよと続ける。
そして田中と西谷が土曜の練習後に田中の家で勉強をする約束をしているのを聞いた日向は、先輩にも負けねえとまた声を上げる。それに月島が、だから君はもう少し落ち着きなよと声をかけたものの、然程効果は無かった。