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午後の授業を消化した放課後。ジャージに着替えた谷地が第二体育館へ向かうとその姿に気付いた日向が谷地に声をかけ、鞄から小テストを引っ張り出して谷地に駆け寄った。
「午後の小テスト、さっき教えて貰ったトコ出て……三分の一も点取れた!」
「!」
それに日向と共に喜んでいる谷地の姿を見ていた菅原はもう彼女と仲良くなっている日向のコミュニケーション能力の高さに驚き、東峰もそういえば音駒のセッターとも最初から知り合いだったなと溢していた。その脇では月島が三分の一で喜んでいる彼らに苦笑いをしていたが、それに鶫は良いと思うわと笑ったので月島はそちらに顔を向けた。
「何事も小さなことからだと思うわ。ね、月島くん」
「……この調子じゃ本番が大変そうだけどね」
「小さなことの積み重ねで遣り甲斐を感じられれば伸びて行くから。だからお願いね」
「あの馬鹿二人を相手にするのはかなり疲れるけどね」
「ふふ。でも付き合ってくれているじゃない」
鶫はそういうとまた楽しげに笑って部活の準備の為に背中を向けて歩いて行ったが、その顔色がやはり優れないことに月島はそっと目を細めた。
「じゃあ今日は練習見学だね。緊張しなくて良いからね」
「シャチ!!」
「? あっ、でも流れ球には気を付けてね」
「ハイ!」
そんな彼らのやり取りがなされている脇では清水が谷地にそう声をかけていて、清水に注意を受けた谷地は反射的に返事をしたものの改めて流れ球というフレーズを考えてまさか暗殺かと周囲を見回していたが盛大な勘違いだった。
それから始まったランニング含めたアップ。それから始まった練習は谷地を驚かせるものばかりで、男子高校生の熱気や気合いを間近で見て圧倒されながらも目が離せなくなっていた。スパイクにブロック、レシーブ。そして掛け声。
「――……!」
「レフトォ!」
「ブロック二枚!」
東峰のスパイクを二枚ブロックが弾き飛ばし、ボールは大きく左に逸れた。そして其処には谷地が立っていて、勢い良く飛んできたボールに気付いた谷地が顔を逸らした時、横から日向が飛び出してそのボールを手で弾いた。そのまま日向はコートに戻って行ったが、それを見た清水が慌てて駆け寄り谷地の無事を確認すると、それなら良かったと僅かに表情を緩めた。
「体育じゃないバレーこんなに近くで見るの初めてでして……! 凄い迫力です!」
「ウチは攻撃力なら県でもトップクラスだと思うよ」
「うへー」
「うおおおお潔子さんがしゃべっとる……笑っとる……お口動いとる……」
「鶫ちゃんともしてるの見てたけど、あれがガールズトークって奴なのか……!」
「ふわふわしてんじゃねーぞゴラアアアアア!」
「ギャーッ!」
清水と谷地のやり取りに夢中になっていた田中と西谷には烏養からの制裁が下り、烏養の傍でサポートをしていた鶫は苦笑いをした。そんな彼らを見た清水は烏野も昔は全国大会に行けるくらいに強かったことを話すと谷地はそれに目を輝かせる。
「でもここ数年は、“堕ちた強豪飛べない烏”なんて呼ばれてた」
「……」
「……今度こそ行くんだ。全国の舞台」
「全国の舞台……!」
「今までもそれを目指して来なかった訳じゃないけど、それが夢じゃなくなると思わせてくれたのは今年の新入生。プレイヤーも勿論凄いけど――」
それと同じくらいに、小柄で頼もしいもうひとつの戦力がある。
「もうひとつの、戦力?」
「うん。もう始まるから、見てて」
「?」
清水がコートに目を向けたので谷地もそちらへ顔を向けると、先程まで指導をしていた烏養がコートから出て行き代わりに鶫がその場に立っていた。それに谷地は驚いて目を丸くしていたが、直ぐに始まった練習に目を奪われる。
「日向くん、もっと腰を落として!」
「アス!」
「次、レフト!」
「……凄い」
普段の鶫ちゃんからは考えられないくらいの気迫と表情。凛とした声に、女の子とは思えないボールの速さ――何か、本当に凄い。
「鶫が来てからチームとしても個人としても着実にレベルアップしてる。練習は勿論、試合中も頭をフル回転させて頑張ってる」
「凄いなああ私とは違うなああ……!」
「……?」
「えー、明日ですが急遽扇西高校から練習試合の申し入れがありましたのでお受けしました」
「おお!」
「IH予選を見て是非とのことでした」
部活後のミーティングで武田がそう告げると部員たちは目を輝かせ、大きく返事を返す。それに烏養は気合十分だなと言葉を溢すと、目の前の彼らを逡巡して真っ直ぐに前を見据えた。
「――青城に負けた悔しさも苦さも忘れるな」
でも負ける感覚だけは要らねえ。とっとと払拭して来い!
「オオオオオ!」
「戦ってるって分かる。わくわくする、ぞくぞくする」
「練習試合……!」