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一瞬の暗転と反転、身体を刺す痛み。
もう前のことなのに、ずっと私はあの場所で立ち止まったまま。
「……」
「鶫?」
痛くて怖くて、悲しくて――何より自分が情けない。
このままではいけないと思いながら、ずっと背中を向けている。
「私は、弱虫ね」
「中学のことなんか知らねえ。おれにとってはどんなトスだってありがたーいトスなんだ! おれはどこにだって飛ぶ! どんなボールだって打つ! ――だからおれにトス、持ってこい!」
「ネットのこっちっ側に居る全員! もれなく味方なんだよ!」
バラバラだったら何てことはない一人と一人が出会うことで、化学変化を起こす
今この瞬間も、どこかで世界を変えるような出会いが生まれていて
それは遠い遠い国のどこかかもしれない
地球の裏側かもしれない
もしかしたら、東の小さな島国の、北の片田舎の――ごく普通の高校のバレーボール部かもしれない
「……何回ブロックにぶつかっても、もう一回、打ちたいと思うよ」
「だからもう一回、トスを呼んでくれ! エース!」
「三年生なのに可哀想って思われても、試合に出られるチャンスが増えるなら何でも良い」
だから力を貸してくれ。
「――負けは弱さの証明ですか?」
君たちにとって負けは試練なんじゃないですか? 地に這いつくばった後、また立って歩けるのかという
君たちが其処に這いつくばったままならば、それこそが弱さの証明です
「……俺はもう、謝んねえ」
謝んなきゃいけないようなトスは上げねえ。
――バレーは一人では繋げられない。
何時も誰かが誰かのために、思いとボールを繋いでいく。
「だから私は――バレーが大好き」
「鶫?」
底が見えない成長がある、先が見えないプレーがある。
「本人さえ分からない未来の、またその向こうに道がずっと続いている」
何処までも続く高い壁と困難な道のり。それでも目の前の困難に挑もうとしている人たちを支えたいなら、私は私に背中を向けたままではいられない。
正直に言えば今も怖くて苦しいけど、それでも大切なのは――。
立ち止まってしまいたいと思った瞬間からの、一歩。
「おい、鶫――」
「飛雄くん」
「!」
体調が悪い状態で考え事をするのは体に障ると影山が口を挟もうとした瞬間、彼女は影山の名前を口にすると伏せていた目を真っ直ぐに上げた。
「……鶫」
その目は何かに怖がり世界を逡巡している目ではなかった。
コートを攻略し相手を追い詰めるための策略を練っている目でもなかった。
それは、これから歩む道を決めた一人の少女の目だった。
「飛雄くん」
私、きちんと話そうと思う。
「……お前」
「私なりに誠意をみせたい」
彼女がなにを誰に話そうとしているのか直ぐに影山は理解した。
そして同時に彼女がその言葉を取り下げないことも同時に理解していた。
それでも彼は、弱虫でも気丈に振る舞う彼女を気遣い問いかけずにはいられない。
「良いのか、それで」
その道を選んで後悔しないのか、と。
「うん。私も前に進まないといけない」
「……分かった。お前がそう決めたなら俺は何も言わねえ」
例えその手が少し震えていたとしても、前に進むと決めたなら。