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「すげー……烏野のセッター。一年なのに及川と張り合ってる」
「ザ・セッター対決って感じだな」
「すっげーじゃん! 大王様に負けてねーぞ影山!」
「……たとえ“総合力県ナンバー1”の人だろうと」
セッターとしては負けねえ。
「でもお前次サーブだよな? 後衛だよな。“次も同じのやる”って後衛でツーアタックは反則なんじゃ」
「う、うっせえ!」
次に前衛に来たらってことだよと日向の正論を切った影山はボールを受け取りライン外まで下がる。指先までボールの感触を確かめるルーティンは何時も通りだったものの、鶫はそのルーティンの僅かな違いを見逃さなかった。
「……ちょっと力み過ぎかな」
「え?」
「次のサーブ、恐らく――ホームランかもしれません」
「ええ!?」
その言葉を聞いた菅原が思わず聞き返すとその鶫の言葉通り、影山が打ったサーブは本人でさえも打った瞬間にアウトだと分かる程度に盛大に飛び、ボールは壁に叩き付けられた。
「……やっぱりそうなると思った」
「良い良い! 思いっきり行っとけ!」
「盛大にフカしたなー」
「なんて凄いホームランだ!」
「スミマセン!」
影山の“ホームラン”によりサーブは青葉城西へと移り、及川へとボールが渡った。
「――それじゃあ、お手本を見せようか」
――きた。
強烈で精密な及川のサーブを受ける側の烏野に緊張が走る。宙へと放られたボールは及川の右手中央でしっかりと捉えられ、強烈な勢いで烏野側へと打ち込まれる。――その標的は、西谷。
「!」
速、すげえドライブ、でも正面
い や――曲がる
たった数秒間の読み合い。及川のサーブを見切った西谷は素早くボールの正面へ重心を移動させると、強烈なボールの勢いを殺してセッター位置へとボールを返した。
「おおお! 及川のサーブ上げた!」
「やっぱ烏野のリベロスゲーッ!」
「あいたー。やっぱ凄いなー」
「何がお手本だ! 普通に拾われてんじゃねーか!」
「うへへ」
岩泉の叱咤に及川は誤魔化すように笑ったが、その笑みの裏で考えていた作戦に気付いていた鶫は西谷がサーブを上げてくれたことにほっとして、影山へと上がったボールへ視線を向ける。綺麗にセッター位置へ上がったボール、影山はボールの落下地点と時間を把握するとライト側へ顔を向けた。
「!」
ネットを挟んだ向こう側にいた金田一がライト側に視線に釣られた瞬間、レフト側に飛んだ日向へ変人速攻のトスを上げる。日向のスパイクはブロックに邪魔をされることなく青葉城西側のコートへと沈み、日向は嬉しそうにガッツポーズを取った。
「よしっ」
「ッシャアイヤァイ!」
――たとえこの速攻を知っていても、日向について来れなきゃ簡単には止められねえ。
相手が対応し始めてからが勝負……!
「うん、飛雄くんやっぱり凄い」
研磨くんがしていた視線誘導のやり方は私が少し指導しただけで直ぐに覚えてしまった。それに加えて一瞬目を離してからの寸分の狂いもないトス――あの技術は並大抵の選手ではこなせない。
「あんな神業トス反則だよ全く!」
「……」
「及川くんのサーブはやっぱり怖いですねえ」
「初っ端のサーブをあの威力できっちり入れて来る辺り、“お手本”て言うだけあるな」
「あ、でも西谷君に打っちゃったのは失敗だったのかな?」
「いいえ」
「?」
隣で話していた武田の言葉を鶫は直ぐに否定し、試合から目を離さないまま西谷へと目を向けた。
「あれは意図的に西谷先輩を狙っています」
「えっ」
「“西谷先輩が取れない”ということだけで他のメンバーに与える精神的ダメージは大きいです。それを狙ったんだと思います」
「が、ウチのリベロはその上を行ったけどな!」
鶫に続いて烏養はそう言うと上げてくれて助かったと内心で思いながら、鶫の分析力に改めて感心する。しかし今の説明を前提とするなら、今後及川はサーブで西谷を狙わないということになる。これからどうするかと鶫が考えていた時、騒がしいこの空間で及川の声が耳に届いた。
――多分、もう直ぐだから。
「……もう直ぐ?」
「それより金田一。“影山の相棒の座”をあのチビちゃんに奪われて、さぞ悔しいことだろう」
「? いや別に――」
「良いんだ良いんだ。中学時代、飛雄がお前を“あんま使えない下僕”だと思っていたとしてもな」
「……」
「この及川さんがな、神業速攻なんか使わなくても“金田一はちゃんと凄いんだぞ”と証明してあげよう」
安心してとべ。
「は、はい!」
次のラリーは田中のサーブから始まり、相手リベロの渡がセッター位置へ返したボールは及川に渡る。綺麗なトスモーションから金田一へトスが上がり目の前にいた日向がブロックに飛んでいたが、高さの違いに気付いた時には金田一のスパイクが日向より高い位置から打ち込まれた。
「いいぞいいぞユウタロウ! 押せ押せユウタロウ!」
「もう一本!」
「……なんだろうな気の所為かな」
「え?」
「あの12番、練習試合の時より高く跳んでる気がする」
「ジャンプ力ってそんな短期間に伸びんのか?」
「だから気のせいかもって」
「……」
気のせいじゃない。金田一君の最高到達点は、あれで間違いない。
得点は02-04、青葉城西がやや優勢。相手サーブを受けた澤村のレシーブがやや乱され、影山がカバーに入った。
「すまん、カバー!」
「ハイ」
「くれっ!」
そう叫んだ日向はライト側に駆け出し、影山を目で追う。綺麗なトスモーションからトスはレフト側の東峰に上がり、国見が目の前でブロックで跳んでいたものの重いボールを防ぎきることは出来なかった。
「……うん」
「……」
その一部始終を見ていた及川のささやかな様子に気付いた鶫がベンチから僅かに腰を上げた。彼女の様子に菅原が何か目立ったことがあったのかと首を傾げたのもつかの間、及川の要求で青葉城西は一回目のタイムアウトを取る。客席の面々も烏野の面々も此処でタイムアウトを取る理由が分からないと首を捻っていたが、ただ一人鶫だけはそのタイムアウトの意味を理解していた。
「……」
気付かれた。日向くんと飛雄くんの速攻の使い分け。
「録画したやつだと音声が分かり辛くて確信持てなかったんですけど、多分間違ってないと思います。トビオとチビちゃんの神業速攻と普通の速攻の使い分け方」
「!」
「"来い"と"くれ"です」