【灰原家のお隣さんは夏油家】
気付いた時には既に『前』の記憶があった。ある日突然ガツンと頭を殴られるような衝撃は無く、いつの間にか気づかぬ内にそれが自然であるかのようにストン、とその記憶は私の中に収まっていた。今世では呪霊は存在せず、あれほど嫌っていたはずの猿に成り下がったというのに嫌悪感が一切沸かないという事実に笑ってしまう。
別に『前』の自分の行いがくだらないなんて思っていないし、あれが最善であったと今でも思っている。まぁ立ち回りは悪かったかもな。今更考えても仕方ない『前』を思い出に、今を生きている。
「そういえば灰原、今度妹が生まれるんだって?」
「はい!2人目です!」
「楽しみだね」
「とっても!!」
『前』の記憶は持っていないらしい後輩だった男灰原雄は夏油家のお隣の家の子供だ。
まだ小学生の灰原は、年相応に元気で活気のある子だ。変わらないな本当に。「げとーお兄さん!」と犬のようにちょこまかと私の後を着いてくる灰原が可愛くて、しょっちゅう頭をわしゃわしゃと撫でている。完全に犬扱いだ。『前も』犬っぽかったな。「名前はもう決めてあるんですよー!」と灰原はとても嬉しそうな顔をする。
「元気に生まれてくるといいね」
「ぼくの妹なんで元気いっぱいですよ!」
説得力半端ないな。現在進行系でブランコを、まるで空中一回転しそうな勢いで漕いでいる灰原を生暖かい目で見つめる。いや止めたほうがいいか?「椛っていうんです!生まれたらげとーお兄さんも呼んであげてください!」クソデカボイスで公園の周りの家にも聞こえる勢いだ。「うん、椛ね。憶えた」そう言うと嬉しそうにブランコは更に勢いを増した。おいやめろ危ない。
「もーみーじー!お兄ちゃんだぞーーー!!!」
「気が早い」
イマジナリー妹でも見えてるのか?少し灰原が心配になる。
「兄は弟を守らなきゃいけない。お兄ちゃんだからな」うわぁああああ!?びっくりした。なんか隣に変な髪型の男が座っていた。いつの間に?気配は一切なかった。「弟じゃなくて妹です!」こら灰原、変質者に返事するんじゃない。「妹もまた良いな。家族はしっかり守ってやるんだぞ」それだけ言って男は去った。何だったんだ今の…怖。「ぼくは、妹を守る!」ぴょん!とブランコから手を離し宙に飛びだす灰原。引力には逆らえない。そのままベシャっと地面に落ちた。当然ギャン泣きした。
「…兄さんが、ご迷惑をおかけしました」
「うん、大丈夫。いつものことだから」
「い"た"い"い"い"い"」
子供らしいといえば子供らしいので微笑ましくはある。毎回怪我するのは如何なものかと思うけども。
そういえばいくつだか下の妹の桜ちゃんは随分としっかりしてるな。小学1年とかじゃなかっただろうか。雄よりずっと大人びているな。似るなら兄ではなく姉に似てくれ、生まれてくる灰原末妹、椛よ。
[[rb:灰原兄妹を足して2で割ったような妹 > フルスロットル腐女子]]が爆誕するのだが、この時の私はまだ知る由もない。
それからちょっとして、灰原が「昨日妹が生まれたので今日会いに行きます!」朝4時に夏油家の呼び鈴を鳴らし、クソデカボイスで宣言しに来た。朝っぱらから近所迷惑この上ない。まだ日も昇ってないぞ灰原。「何してるんだ雄!あああああ本当にすいません!!」疲れ顔の灰原父。きっと奥さんの出産に立ち会い、一時帰宅したのだろう。南無。「椛ー!今から会いに行くぞー!」なんて言いながら灰原父に引き摺られ家に戻された。多分、面会時間にならないと駄目だと思う。なんせあの騒がしさだ。病院側がOKをだしても灰原父が待ったをかけるだろう。ちょっとしてから「いやだぁあああ!今すぐいくぅうううう!!」とクソデカ泣き声が聞こえたのでやっぱりな、と思った。
二度寝からすっきりと起きた私は学校で授業を受けていた。「今頃灰原は妹さんに会ってるのかな」なんて思いながら「猿でもわかる算数ドリル!」を解いていた。記憶有る状態でこれはキツイ。数分で解いて窓の外を眺めた。…小学生のドリルで「猿でもわかる」とかタイトルつけるなよ、ネーミングセンスクソか。う○こドリルなるものがあると知り驚愕するまで後少しのことである。
授業が全て終わり、特に放課後は何もないので真っ直ぐ家に帰る。家に帰ったら灰原が生まれた妹のことを、そりゃあもう大きな声でしゃべるんだろうなと予想を立てた。が、その予想は外れる。
家の前、灰原が俯き小さくなって座り込んでいた。どうも様子がおかしい。まさか、妹さんに何かあったのか…?「灰原」声を掛けるとバッと灰原は顔を上げる。酷い顔色だった。
「灰原、どうした」
「…ぁ、げ…[[rb:夏油先輩 > ・・・・]]」
ただそれだけで、理解した。
「椛を見た瞬間、バチンって電気が走ったんです。それでぼく…、俺全部思い出して…。夏油先輩は最初から…?」
「薄っすらとね。今はもう全部思い出してるけど」
「…俺、あの時やっぱり死んだんですね…あ!七海は?七海は生きてましたよね!?」
「五体満足でね。灰原が死んでだいぶ憔悴はしてたけど」
「七海…ほんとごめん。でも無事で良かった」
「七海はね、高専卒業後呪術師にならず一般企業に入社したよ」
「えっ」
「ちなみに私は3年の途中で呪詛師になって、猿どもを殺して…まあ最終的に悟に殺されたよ」
「…は、え!?猿!?殺さ…は??」
「あははは」
「笑い事!?ちょっと情報量多すぎるんで待ってください!」
『前』のことなんて今更気にしたってどうしようもないのだ。「ところで妹さんはどうだった?」「い、今聞くのはズルくないですか!可愛いですよ!前と変わらず!!」成程、妹さんたちも生まれ変わっているということか。
「あ、そういえば」
「うん?」
「妹の、あ、椛のほうじゃなくて」
「桜ちゃんの方ね」
「はい。なんか、椛を見た瞬間顔色悪くなって…」
「…妹さんたち、何かあった?」
「俺が存命のときは、仲良い姉妹だったはずですよ。まだ小さかった椛の面倒を見てたのは桜でしたし…」
じゃあ灰原が死んだ後の話か。そういえば桜ちゃん随分大人びてるなとは思っていたが、私と同じで記憶持ちだったか。灰原…みんな灰原だな面倒くさい。雄と同じで桜ちゃんも椛ちゃんを見て、更に何かを思い出したか…。藪をつついて、って感じだな。部外者は触れないほうが良い気がするが…さて。
なんて考えていたらガチャ、と背後から音がした。そちらに目を向けると桜ちゃんがドアを開けこちらを見ていた。
「家の前でどうしたの兄さん。あ、夏油さん」
「やあ桜ちゃん、妹が無事生まれたようだね。おめでとう」
「ありがとうございます。うちの中で話します?上がってください」
「、えっと」
どうしたものか。雄自身聞きたいことが色々あったりするだろう。家族間の話で私が居るのは良くないのでは?と思い「いや」と声を出そうとした所でガシッと雄に手首を掴まれた。ああ、うん。私を巻き込むスタイルなんだな。腕を解こうとしたがガッチリ掴んで離さない。フゥー、分かった好きにしろ。
「桜…ぼく、いや俺前世の記憶があるんだ!」
好きにしろとは言ったがもうちょっとなんかあっただろう。ただただ痛い発言である。しかもクソデカボイス。
「やだー厨二病?」くすくすと笑う女子高生の声が聞こえた。ここ家の前の道路。ここら辺は小中高大学までが揃っていて、中々に人通りが多い。そして丁度学生の下校時刻である。注目の的になるのは必然。
ちょっとイマドキのアニメを見過ぎちゃったみたいなんだ。ほら、転生ものが流行ってるしね。そういうのに引っ張られちゃったんだ。生暖かい目で見てやってくれ。雄だけを。私は関係ないです腕離してくれ頼む。
桜ちゃんの顔がスンっと真顔になった。
「こっちの夏油お兄さんは昔俺の先輩だった人で、前世では闇落ちしたんだ!」
「おいやめろ」
そういう巻き込み方あるか??的確に情報を削るな。何呪詛師になったことを闇落ちって言ってるんだ。…いや大体合ってるな?一般人かるーくブチ殺してたな?完全なる闇落ちだった。私は額に手を当て空を仰いだ。
「能力を持たない一般人を猿呼ばわりしながらも、ナントカ教っていうところの教祖やって一般人から金を巻き上げて、使い終わったらぐしゃっと捨てて。そりゃあもう魔王みたいな悪い人だったんだけどさ!あ、前世の話だよ!」
「お前は私に恨みでもあるのか?」
魔王言うな。というかなんで教祖やってたことを知ってるんだ。そこまでまだ話してないし、私の性格的確に当てるんじゃない。金巻き上げられなくなったら猿なんて処分に決まってるだろう。おっとこれはもう『前』の話で今の私には関係ない。クールになれ私。
「最終的には最強を自称するイケメンだけど性格はクソみたいな五条先輩に殺されちゃうんだけどさ!前世の話だよ!!」
「前世の話もうやめろ!」
何気に悟のことをボロクソ言うのは面白かったがそれどころではない。雄の背中をグイグイと押し「お邪魔します!」と灰原家の玄関をくぐった。次の瞬間ガチャン!と勢いよく玄関のドアがしまった。桜ちゃんがドアのノブを握っていた。ゆっくりと首だけがこちらを向く。見える横顔はにこにこだったが、目は笑っていなかった。わかるよその気持ち。
「外で、しかもあんな大声で話さないでよ兄さん…もう、恥ずかしい…」
「恥ずかしい?」
「傍から見たらただの厨二病患者だからな」
「夏油先輩の前世が?」
「テメェ」
「兄さん記憶思い出してもそんな感じなの…?」
高専時代は今よりちょっとだけ落ち着きがあるけど、大体おんなじだった気がするな、と遠い目をした。
所変わって灰原家リビング。お茶を出してくれた桜ちゃんにお礼を言い、一口喉を潤わせた。
雄は緊張な面持ちで口を開く。
「やっぱり桜もあるんだ記憶」
「もうだいぶ前に」
だからかな、兄さんの方が歳上なはずなのに兄さんに記憶がないからまるで弟が出来たみたいで…複雑だった。と苦笑いする桜ちゃんにそれな、と頷いた。「俺が!兄だよ!」と地団駄を踏む雄は無視する。
「椛見て顔色悪くなったのは?」
「…そ、れは」
きゅっと、桜ちゃんは口を閉ざした。うーん、やっぱり部外者の私はこの場に居ないほうが良いんじゃないかな。「私はお邪魔させて、」と立ち上がろうとしたところで雄に腕を捕まれ、桜ちゃんには「地獄に行くときはみんな一緒なので居てください」と言われた。なんだそれ不穏すぎる。
「まず兄さん、前世で15歳になった椛は呪術高専に行ったの」
「…は?え、だって俺2人には絶対来るなって、そう言ったよね!?」
「私は当然兄さんの言いつけを守ったよ。兄さんが呪霊に殺されたって聞いて凄く泣いて、そんな恐ろしいものに近づくなんて無理だったから。でもね、あの子「お兄ちゃんが守ろうとしてくれた人たちを、今度が私が守るんだ」って、そう言って。ごめんね、なるべく呪術界からは遠ざけようとはしたんだけど…中学の頃からお付き合いしてた子が、その…呪術師の卵だったみたいで。そこから」
「…そっか。そっかあ…高専に…ん?お付き合い?椛彼氏居たの?中学からのお付き合い?ちょっとそこら辺詳しく」
「ちなみに椛の享年は15歳よ」
爆弾投下が早すぎる。え?可愛い妹に彼氏?どんな子だったの?って盛り上げようとした雄がソファに突っ伏した。15歳…雄より早くに亡くなってるじゃないか。桜ちゃんも兄妹がどっちも亡くなって大変だっただろうに。やっぱり呪術界はクソだな。
「死…え、なん」
「ハロウィンの日渋谷が壊滅してね」
「シブヤガ、カイメツ?」
「特級呪霊?ていうのが何体も居て。あと呪詛師も。その討伐にみんなであたって。黒幕は夏油さんの死体を使ってた呪詛師らしいんですけど」
「ハ?」
渋谷が壊滅とかいうとんでもワードにもびっくりしたが、私の死体を使った呪詛師?は??とんでもない爆弾がこっちにも投下された。「その偽夏油さんが五条さんを封印して」悟が封印された?嘘だろ何やってんだ馬鹿。というか私の死体を知らぬ呪詛師に使わせてる時点で詰めが甘い。私の最後を看取ったのはお前だろう悟。
「呪霊も呪詛師も入り乱れてて、本当に酷い惨状だったんだって。あの子もボロボロになって、そしたら死にかけてるあの子の彼氏を見つけたらしくて」
「それ、で?」
「椛、その子を助けるためにね、命を使ったらしいの」
他者の命を救うために、自身の命を使う。反転術式とは別物か。
「そ、そんな」
「…死体も、残らなかったんだって。元々そういう術式を持ってたわけでもないのに、呪力と祈りだけの力技だったから、本当に『すべて』を代償にしたんじゃないかって。ずっと後になって、全てが解決した時に五条さんが言ってた」
残された側は堪ったもんじゃないだろうな。罪悪の重みに、耐えられたのだろうか。
「恵くん…椛の彼氏だった子ね。もうずっとずっと自分を恨んでた。自分の軽率さが椛を殺した、本当に申し訳なかったって何度も謝りに来てね。見てられなかったなぁ…。いつか自殺しちゃうんじゃないかって、怖かった。でも『死ねない。あいつがくれた命だから、俺が自身で終わらせるなんてこと出来ない』って言ってね」
生き地獄だ。心底同情する。
「末の妹さんはひどい子だね」
「夏油先輩!!」
「ふふ、私もそう思います」
「さ、桜!?」
「残された方は、本当に悲しいんだよ」
ずきん、と痛んだ心は気の所為ではないのだろう。私も随分、みんなを置いていってしまったから。悟、硝子。美々子に菜々子。
使われてしまった肉体の私に遭ってしまった彼らは、どんな気持ちだっただろうか。
「ちなみに七海さんも同じ時に亡くなって、あと夏油さんの娘さん?のお二人も亡くなったそうですよ」
「桜ちゃん人の心がないのか?」
雄はその場でマジ泣きしたし、私も少し泣いた。
◇ ◇ ◇
数年経ったある日「そうえば、俺たち以外に呪術師だった人たちにまったく会わないんですけど、居ないんですかね…?」雄が尋ねてきた。「どうだろうね」と私は返したが、実のところ私達以外の前世で呪術師だった人間がこの世にいることは知っていた。
調べやすいのは悟だった。某大企業が「五条」と名の付くものだったからだ。ついでにライバル会社に「禪院」「加茂」と来ればもうお察しだ。取締役五条家に同年代の息子が居ることはちょっと調べればすぐに分かることだった。前世に引き続きボンボンのおぼっちゃまだなぁ、と私は笑った。
さて、前世で呪術界の御三家と言われていた彼らだが、五条の本拠地は東京、禪院と加茂の本拠地は京都、支社は全国各地に多く存在しているのだが、どの会社も何故か渋谷にだけは事務所を構えていなかった。何故かっていうか、桜ちゃんに聞いた前世での大事件が原因だろう。みんなのトラウマ渋谷事変。みんな避けてるなぁ。記憶持ちだろうな、と察した。
他の記憶持ちの人間に会うつもりが無かった私は、昔の仲間達に会いたいであろう雄にその事実を伝えなかった。悪いね。でもほら、椛ちゃんも記憶が無いみたいだし、いつ自分が死んだ前世を思い出すかもわからないから前関わりがあった人間に会わないほうが良いんじゃない?無言の笑みを浮かべた。そんな心情を見抜いたのか、桜ちゃんはじとーっとした目で私を見ていた。この子察しが良いな。でも黙っているあたり同意見なのだろう。呪術師に良い思い出が無いからだろうな。つくづく呪術界に関わる人間は不幸だ。
「ちなみに椛ちゃん、前世って信じる?」
「ぜんせ、いまのもみじのまえのもみじ?」
「聞いといてあれだけど、よく知ってるね」
「まえのもみじはゲトーおにいちゃんのおよめさん!」
「夏油先輩ちょっといいですか?」
「大人げないぞ雄」
「いつ結婚したんですか!?許しませんよ!」
許される必要性がないし、結婚も何もそもそも前世で顔を合わせた事実がない。「いまもゲトーおにいちゃんすき!」と抱きつく椛ちゃんに「ぎゃああああああ!!」と雄は叫び声を上げた。ムンクの叫びみたいな顔だった。椛ちゃんの頭を撫でる。
「『初恋は雄お兄ちゃん!』が夢だったのに!夏油先輩よくも!」
「普通に気持ち悪いぞ雄」
「椛!お兄ちゃんは好き!?」
「おにいちゃんすきー」
「ヨッシャアアア!」
「うるさ」
「でもいちばんはゲトーおにいちゃん!」
「夏油先輩ほんとにゆるさない」
視線だけで人を殺しそうな雄が私を睨む。最近輪をかけてシスコン度が増している。「椛もなんでこんな胡散臭い男を!」なんて言ってきた。お前やっぱり私のこと嫌いなんだろ。「何言ってるんですか、俺夏油先輩の事好きですよ」なんて言うが白々しく聞こえる。お前もっと素直で邪気が無い人間だっただろ。
「椛はめいいっぱい幸せにならなきゃいけないので、ちょっと神経質になっちゃうんですよね俺」
「それは最早ちょっとのレベルじゃないんだけど。もし椛ちゃんの前に前世の彼氏現れたらどうするのお前」
「…は?」
「怖」
「ああいえ、前世の…別にどうもしません。今はまだ椛に記憶は戻ってませんし、今後いつ戻るか、そもそも記憶が戻らない可能性だってあります。それでも今世でも椛が好きだっていうんなら頑張ってもらっても良いですし、前世は前世って割り切ってるんならそれでも良いです」
「随分理性的じゃないか」
「椛が命かけて助けた子なんですから、きっといい子なんです。そんな子相手に大人気ない発言はするべきじゃないかなって」
「私に対してもそのスタンスで来てくれない?」
「椛の今世での初恋奪った夏油先輩は許さないです」
とんでもない冤罪である。
ちなみに私は「近所の優しいお兄さん」ポジションだ。椛ちゃんに対してそんな気は更々ない。
そして更に数年経った。私達は普通に働き始め、椛ちゃんは中学生になった。
私は実家を出て一人暮らしを始めたのだが「椛が成人になるまで、もしくは家を出るまでは絶対に実家から出ない」と心に誓った実家暮らしの雄から夜中鬼電が来て「ちょっと来てください!ほんとにマズいもの見つけました!!」いつぞやのクソデカボイス再来。流石に夜中で電車がないので朝一で行くから、と電話を切った。休みで助かった。なんだろうな、街中で悟とでも遭遇したか?でもマズいものって言ってたしな。まぁ雄のことだし、大げさなこと言ってるだけだろうと勝手に決めつけた。
とんでもないセカンドインパクトが翌朝到来するのだが、睡魔に襲われた私は知る由もなく寝た。
そして翌朝の灰原家。
雄と桜ちゃんがリビングでお通夜状態だった。それを見た瞬間「ア、事態はかなり深刻だ」と察した。とりあえず二人に習ってソファの上に正座する。
「…夏油先輩…これを」
「漫画?」
「読んでください」
「は?」
「読んでください」
圧が強かった。えぇ?私漫画を読まされるために朝から灰原家に来たのか?しかし雄だけではなく桜ちゃんも死にそうな顔をしていたのでただ事ではないんだろうと思い、本を受け取った。ふむ『呪術廻戦』か…呪術…嫌な予感がするぞ。ぺらり、ページを捲った。全員無言で時計の針の音だけが響く、居心地悪ことこの上ない。それでも読み進めて、
「これ悟か?」
なんか趣味の悪い目隠しした不審者が出てきた。五条先生とか呼ばれてるし、悟確定じゃないか。お前私が死んだ時包帯巻いてたじゃないか、まだそっちのほうが幾分かマシだぞ。ていうか他人の空似だろうとスルーしていた伏黒と呼ばれてる少年、髪がウニだが顔は憎き猿にそっくりじゃないか?「ちなみに」桜ちゃんが口を開く。
「伏黒くんの名前は恵です」
「え、うんそうだね。悟…悟?も漫画の中で言ってるし…ん?めぐみ?」
「それでは続きをどうぞ」
「ハイ」
有無言わせない眼力を向けられ、大人しく続きを追った。そして一冊読み終える。うん、まあ設定は前世で生きていた世界そのものだったよね。でもだから?というのが本音である。
「椛、その主人公達と同い年で同級生だったらしいんです」
「え、」
「1年全員仲が良かったって…」
「ちなみにその伏黒恵くんが前世椛の彼氏です」
「…椛ちゃん出てた?」
「1コマも居ないんです!1年は3人って言われてるんですよ!椛が居なかったことにされてるんです!」
前も確かに俺達の妹で、絶対居たはずなのに!!と雄は泣き出した。桜ちゃんもわんわんと泣いて私は呆然とする。ああ、これは灰原兄妹発狂モノだ。いやでも
「私たちの前世の知り合いに似たキャラクターがたまたま同じ名前だったってだけでは…?」
「そんな貴方に2巻をどうぞ」
「桜ちゃんそのノリはいったい…」
受け取って読んだ。私ソックリのヤツが出てきた。「あ"あ"?」と声を上げた。「それが黒幕で、夏油さんの死体乗っ取ってる呪詛師です」ぐしゃり、漫画が潰れた。
「…理解した」
「ご理解いただけて幸いです」
「お焚き上げでもしようか」
「それが良いですね」
桜ちゃんずっと表情抜けてて怖い。雄のシスコンっぷりが際立っているが、桜ちゃんも中々のシスコンなのだ。ブラコンにはならないあたり、流石雄だなと思っている(褒めていない)。
「命を使って、という話は聞いた。死体が残らなかったとも。そしてこれを見ると代償は『存在そのもの』ってところか。よく今世で無事に生まれてこれたね」
「こここ怖いこと言わないでくださいよ!!」
「そういえば椛ちゃんは?」
「椛は朝から部活行ってます!」
だからこれだけ騒いでも顔を出さないわけか。まあ椛ちゃん居たらこんな話できないだろうしな。「それで」と私は机に置いた『呪術廻戦』を指で叩く。
「椛ちゃんに見せる?」
「…本気で言ってるんですか、夏油先輩。こんなの見せたら」
「思い出すかもしれないし、自分がこの本に居ないことによって思い出さないかもしれない」
「思い出したら大変じゃないですか!」
そうかな?私達は記憶を持っているが普通に生活しているじゃないか。前世の記憶に振り回されることもなく、私達は今も普通に生活している。
「でも思い出して、自分の存在が無いものにされたって知ったら…」
「多分椛ちゃん気にしないと思うけど」
雄の図太い精神完全に引き継いでるしね。
「俺は、見せるの反対です」
「私も反対します」
「君たち兄妹が言うんならそれでいいと思うよ」
あ、ちなみに聞くけど
「椛ちゃんって部活何してるの?」
「漫画研究部ですけど…?」
うーん、ツメが甘い。多分これはいつか思い出すな。
とりあえず今ここにある漫画はお焚き上げした。
そして更に数年後。運命の日である。
また雄からいつぞやのような鬼電が来た。第一声「どうしよう夏油先輩、椛の彼氏すごい病んでます」である。頭を抱えた。とりあえず順番に話を聞く。
発端は昨日、何やら黄色い悲鳴をあげていたらしい椛ちゃんが気になり、部屋に入ったら例の漫画が椛ちゃんの部屋にあったということ。黄色い悲鳴でちょっと察した。「ちなみに」と雄の電話を奪ったらしい桜ちゃんが「椛の推しは虎伏です」とても要らない情報もくれた。それ聞かされる私の気持ち考えて?前世の彼氏受けでいいの?違うそうじゃない。カップリングするな。ツッコミをぐっと抑える。それで泣きながら雄と桜ちゃんが椛ちゃんを抱きしめたと。この時点で記憶の有無はわからなかったらしい。私もわからない。思い出したとして、前世の彼氏でBL妄想をするのか。しそうな気がする(桜ちゃんが七灰ガチ勢ということを私は知っている。やめて差し上げろ)。
そして翌日の今日、主人公組3人と悟が今灰原家に居るらしい。件の伏黒くんが椛ちゃんに引っ付いて離れないそうだ。「ちょっと…もう本当に聞くに堪えないんです…。今世いくら探しても椛が見つからないから何度も自殺未遂したらしくって…椛にべたべたするなって言いたいんですけど、ちょっと重すぎて…離すに離せない」雄がドン引きするレベルって相当じゃないか?前世でどんな感じの2人だったかは知らないが、執着がヤバそう。椛ちゃんの前世の最期が最期だしね。しかも伏黒くん、今世で最初から記憶持ってたタイプらしいし…前世の仲間が側にいて椛ちゃんだけ見つからない現実。うわあ生き地獄。
「というわけで来てください夏油先輩」
「当たり前のように私を巻き込むよね」
まぁ行くけどさ。あーあ、私もとうとう悟と顔を合わせるのか。と少し気が重かった。殴られるかな、殴られる心構えはしておこう。
「というわけで助っ人です!」
「あれ、夏油お兄ちゃん?」
「久しぶりだね、椛ちゃん…と、」
「…傑?」
「久しぶり悟」
…は?と間抜け面した悟に笑った。
その横に綺麗に一列に座る前世高専生徒たちが目を丸くした。やぁ、君たちも。私は特に関わり合いが無かったけど随分と世話になったようだし。
「前世では私の身体乗っ取ってたクソ野郎をぶっ殺してくれてありがとう君たち」
「…え、あれ。もしかして羂索の」
「身体の本物の所有者だよ」
「本物って…夏油傑…?」
「え、夏油お兄ちゃんも呪術関係者だったの?」
実はそうだったんだよ、椛ちゃんとは面識まるで無かったけどね。といえば椛ちゃんは「ほへーそうだったんだー。ほえー」と聞いてるようで全く内容が入ってきていないような状態だった。まぁだろうね。君の腰にしがみついて離れそうにないウニ頭に視線を落とす。例の伏黒くんである。
とりあえず、彼らの真正面、雄の隣に座る。
「で、状況の把握は?」
「椛が前世を思い出して」
「うん。椛ちゃんは?」
「思い出したって思ったんだけど、漫画には私1コマも出てなかったから前世の記憶はオタク特有の妄想かと思って」
「そうはならないだろ」
「なったんだよぉ…だって前世の記憶とか普通じゃないし、その前世が漫画になってるって方が可笑しいじゃない…?」
「確かに」
「それでまあ気にしない方向で行こうってなって。それで今日普通にバイト行ったら恵くん達が居てね…色々あってあれが妄想じゃないって気付いたの」
通報一歩手前でした。という言葉に首を傾げながらも一旦置いとく。で、感動の再会を果たしたというわけで。うーん。私は一度立ち上がり、椛ちゃんの横に立つ。ここまで一度も伏黒くんは目を合わせないし声も発していない。
「とりあえず引き剥がそうか」
「ちょ、ちょっと待て傑。恵は椛の」
「椛ちゃんの前世の恋人、だろう?今世ではハジメマシテだ」
ビクリ、伏黒くんの身体が揺れた。自覚はあるようで何よりだ。「ま、まって伏黒は」「確かにヤベー絵面だけど無理矢理引き剥がすなら許さん」と確か、虎杖くんと釘崎さんだったかな?2人が止めに入ろうとする。
「君たちは確かに壮絶な前世を送っていたかもしれないけどね、結局『前』の出来事なんだよ。私達は『今』を生きてるしね」
「…傑は全然、気にしないっていうのかよ」
「全く、とは言わないけどさ。ああそうか、君たちほんと『前世』に囚われすぎなんだよ」
「途中退場してる奴が分かった口聞くなよ!伏黒はなァ、前世で死ぬほど辛くて悲しくて、それでも死ねなくて!今世だって生まれたときから、ずっと灰原を探してて!」
「ようやく再会出来た椛ちゃんは、当然のように今世でも伏黒くんのものだって?」
「…そ、それは」
口を噤む虎杖くんにため息をつく。君たちの気持ちも当然分かるよ。
「椛ちゃんと、ちゃんと話をしていないだろう?」
だから一旦離れなさい。
案外聞き分けの良かったらしい伏黒くんがそっと椛ちゃんから離れた。そしてようやく伏黒くんと目が合う。あー…うんごめん悟。ちょっと甘く見てた。思った以上に目が死んでて心臓が痛くなった。自殺未遂何度もしたって誇張じゃなくて本当なんだなぁ。しかしぐっと堪える。
「椛ちゃん、大丈夫?」
「…えっと、うん。ごめんなさい、ちょっとまだ状況飲み込めてないというか。とりあえず夏油お兄ちゃんが雄お兄ちゃんよりお兄ちゃんしてるね」
「え!?」
「というか、椛…灰原家と傑の関係って何?随分と仲が良いみたいだけど」
じとり、と私を睨むように見る悟。これは警戒されているのか。まぁ私も最期が最期だったしね。両手を上げて「実家がここの隣だからね、仲良くもなるさ」そう言うと更に目を鋭くさせて「じゃあ子供のときからの顔見知りってわけだ。ふぅん、へえ」チッと舌打ちをされた。えぇ…?よくわからないけど八つ当たりか?
「五条先輩、自分は夏油先輩とずっと会えなかったのに俺と夏油先輩が幼馴染っていうのが気に食わないんですね!」
「はぁ!?ちげーし。ていうか灰原なんか生意気になった?」
「なったよ」
「なってないですよ!何言ってるんですか!」
無自覚かよ。生意気っていうか発言がたまに失礼なんだよな。
「センセー、灰原…さん?って」
「ああ、灰原雄。僕の1つ下で椛の兄」
「灰原雄です!」
「虎杖悠仁です!オナシャス!」
「釘崎野薔薇」
「……伏黒、恵です」
「あ、灰原桜、雄兄さんの妹で椛の姉です」
しれっと混ざった。桜ちゃん今まで何処に?「お茶の用意してたんですけど、空気重くて中々出ていくタイミングが」出にくいだろうねそりゃあ。
「灰原の兄ちゃんも呪術師だったんスか?」人懐っこそうな虎杖くんが質問した。だがその質問は悪手だ。「あ、兄さ」と桜ちゃんが止める間もなく雄が口を開く。
「呪術師になろうと高専に通ってたんだけど2年の時に死んじゃってね〜!あ、俺七海と同級生だったんだよ!」
「死…え、は。ナナミン、と…同級生…」
「ナナミン!?その呼び方良いなぁ…あ!七海に今世会った?」
「あ、ハイ。会ってますハイ」
「いいなー!俺も会いたい!あの時死んじゃってごめんねって謝りたい!」
お前なんでそんな明るく自分の前世の死を曝け出すんだよ。「死…高専2年で…」「灰原にお兄さんが居たなんて聞いてない…死んでるだなんて聞いてない…」見ろ虎杖くんと釘崎さんが崩れ落ちたじゃないか。「兄さん…もうちょっと、空気読んで…」頭を抱える桜ちゃん。「マジかよコイツ」みたいな視線を送る悟。元々目が死んでる伏黒くん。
地獄かな?
「って俺の話は今はいいんだよ!椛の話でしょ?」
「この空気感で話題変えるの?嘘すぎない?」
「え?」
え?じゃねーよ。
◇ ◇ ◇
「じゃあまずは、状況整理から」
@私達は、仮に前世としておこう。前世で呪術師或いは呪術界に縁のある人間であり、その記憶がある。
A今まで椛ちゃんに前世の記憶は無く、『とある漫画』を読んで思い出した。それが昨日のことである。
B椛ちゃんは前世、呪術高専に通っていた呪術師である。オタクの妄想ではない。
C前世で椛ちゃんは瀕死の伏黒くんを助けるために、術式ではない力を行使し『消えた』。
D悟達高専メンバーは物心つくときには前世の記憶があり、居ない椛ちゃんをずっと探していた。
E『とある漫画』とは『呪術廻戦』という漫画であり、私達の前世が描かれる。だがそこに居るはずの椛ちゃんの存在は抹消されている。(前世での消え方となにか関係があるかもしれない。)
備考として、敢えて口にはしないが前世椛ちゃんの恋人であった伏黒くんだが、前世の椛ちゃんの死後も含めかなり病んでいる。
「と、いうところまではオッケーかな。実感が無い?」
「ずっと腰に巻き付いてた恵くんが居たから実感は湧いてるよ」
それは良かっ…よかった…か?
「ええっと…改めて。久しぶりみんな。ごめんね、死んじゃって」
「ほんっとうにな!伏黒なんか助けて死にやがって!馬鹿ほんっとうに馬鹿!!」
「ごめんね…野薔薇ちゃん」
「自爆仕掛けたアホなんてそのまま死なせればよかったのよ!」
「いや…駄目だろ…」
「うるせー!!」
「本当に、ほっといて死なせればよかったんだ」
空気が、凍った。
「釘崎の言った通りだ。自爆覚悟で馬鹿なことした男のことなんてほっとけばよかったんだ。俺は、俺は赦さない。赦せないんだ。灰原」
暗い暗い闇が、見つめる。
「俺はお前を死なせてしまった自分が赦せなくて仕方がない。なんでお前は消えなきゃならなかった?俺が浅慮な行動を起こしたせいだ。もっと上手く立ち回ればよかったんだ。そもそも力が足りなかったんだ。魔虚羅を調伏出来なかった時点で。ちがう、俺が、伏黒恵という存在が在ったのがそもそもの間違いか。俺が居なければ」
…うっわ。椛ちゃんを除く全員が頭を抱えた。闇が深い。これは椛ちゃんもドン引きだろうと目を向ける。無表情、いや、これは多分怒ってる。
「わたしは」
身体が震えていたのがわかった。
「私は、恵くんを助けたこと一切後悔してない。私は恵くんが死ぬのが嫌だった、死なせたくなかった」
「俺だってお前を死なせたくなんてなかった。俺なんかよりお前に生きていてほしかった」
「私もだよ。自分の命より恵くんが大事だった」
「結果論じゃないか?」
「…結果論?」
「お前のあれは術式じゃなかった。それがなんなのか分からず使って、命を代償にするだなんて知らなくて、結果死んでしまって、それをお前は「仕方ない」って割り切って。本当は…生きたかったんだろう?」
馬鹿の押し問答だなぁ、と旗から見て思った。
椛ちゃんが溜息を吐いた。
「恵くんって、馬鹿だよね」
「…お前を死なせて、馬鹿な奴だとは思ってる」
「ばーか!ばーか!そんなんじゃないやい!大体、私『それ』を使えば自分が『消える』ってこと理解ってたもん」
間。
はくり、伏黒くんの喉から息が漏れる。
「なんで死ぬって、消えるって理解ってて俺を助けたんだ」
「だから、さっきから言ってるじゃない。ばぁか!…自分より恵くんが大事だからだよ」
「なんで」
「なんで、ってそんなの」
「恵くんがすきだからだよ。それ以外の理由って、いる?」
純粋で、一切汚れのない瞳だった。
それ故に気味が悪い。寒気がした。ああ、成程な。これは中々イカれてる。いつぞやの自分の死のきっかけである、愛するものを呪った彼を思い出した。
幼少期から椛ちゃんを見守っていたのに、こんなの全く気づかなかった。
「ほんッとに、愛ほど歪んだ呪いはないよねぇ」
「…本当に、同感だ」
ぼろぼろと、伏黒くんが涙を流す。
「おれも、すきだったんだ。灰原のことが。一緒にいただけで幸せで」
「うん、私もそうだったよ」
「だから、自分を死ぬほど恨んで」
「ごめんね恵くん」
「ひとりは、つらい」
「うん、ごめん。1人は嫌だね、ごめんね」
「くるしい」
「うん。じゃあ今度はちゃんと一緒に生きようか」
んぐっ、と息を詰まらせたのは誰だっただろうか。多分、自分を含めたここに居る殆どの人間だろう。雄が真っ青な顔で首を横に振っている。うん、気持ちはわかる。
というか、こういう流れになるの予想できただろう。
「お前の人生に、一緒に居て良いのか」
「うん」
「死ぬまで、ずっとだぞ」
「もちろん」
どろり、煮詰めたような瞳にぞっとする。
アカンやつや。駄目だろこれ。悟も顔が青い。「恵。ちょっとそれについては話し合いを」と口を開いたところで
「よかったな伏黒!!!」
号泣した虎杖くんがクソデカボイスを放って喜んだ。バシバシと伏黒くんの背中を叩く。
マジか、この色んな意味で不穏な空気を読めない人間が居たのか。その隣の釘崎さんは顔を青白くし「いや、でも…」複雑そうにしている。どちらの気持ちも分からなくはない。が、病みまくってる伏黒くんをみて「大丈夫か」と問われれば「駄目かもしれない」と誰だって答えるだろう。
「だ、だめ。駄目だよ椛!」
「お兄ちゃん?」
「だって絶対監禁するやつじゃん!?」
よく言った!ほぼ全員の心の声が一致する。
そんな私達の様子に虎杖くんはキョトンとし、笑い出した。
「監禁?いやいや、伏黒そんなことしねーっすよ灰原の兄ちゃん!」
「どう考えてもする流れ」
「もー五条先生もなんか言ってやってよ!なぁ釘崎、大丈夫だよな?」
「いやー…僕ちょっと…危ないと思うなー…なんて」
「………ノーコメント」
「えぇ…みんなどうしたん?伏黒、そんなことしねぇよな?」
「……………しない」
「間」
不穏すぎる間だった。
「だよな!」
素直か。人を疑うことを知ってくれ。
「だって伏黒が灰原の嫌がることするわけ、ぜってぇねーもん!…あんだけ、灰原が死んだことを後悔して苦しんだんだ。その灰原の幸せを願ってる伏黒が態々自分で、灰原を不幸にすること、しねぇもんな」
良い子かよ。目頭が熱くなった。
伏黒くんの視線が一度空を仰いで、ああ、そうだな。と声を零す。
「そうだ。俺は灰原を幸せにしたい、今度こそ。灰原の嫌がることは絶対しない。灰原の幸せが俺の幸せだ」
これは闇落ち回避か?判定
雄:△
桜:○
悟:○
釘崎:△
虎杖:◎
私:△
当本人たち
椛:○
伏黒:◎
「多数決の結果、セーフってことで…うん、一応」
「これ多数決になってるか?」
「俺怖いんですけど…椛ぃ…幸せになって…」
「伏黒なら大丈夫です!」
「その信頼は何処からくるんだ…」
まぁ抱きしめ合って幸せそうにしてるんだから、大丈夫なんだろう…大丈夫か?悟が「最強のセコムが付いたと思えば良いんだよ」すべてを受け入れた顔で言った。ああ、もう再会した時点で運命は決まっていたんだな。ならもう全部諦めて受け入れるしか無いんだろう。全てを悟った顔、悟るだけにってか。馬鹿か。
「元生徒なんだからちゃんと教育しろ」
「ちなみに今世僕が保護者です。伏黒親子が自殺未遂ばっかりする恵にノイローゼになって」
「地獄かよ」
「これから幸せで楽しい地獄が始まるんだよ」
どこまで行っても地獄か。
「ここが地獄の終着点だからね」
◇ ◇ ◇
数日後。私は悟ととあるカフェに居た。
「ありがとう椛、恵と再会してくれたお陰でようやく普通の生活を送ってくれるようになったよ…ありがとうほんとに…ウッ」
「マジ泣きじゃないか」
「いやほんと、学校通わせるのも困難だったんだよ。知識は『前』のがそのままあるから学力は全く問題なかったんだけど」
「あれ、でも高校の制服着てなかった?」
「無理矢理捩じ込んだ。悠仁と野薔薇が居る学校なら多少は平気だろうって。いい加減人と触れ合うことを憶えてほしかったし。まあ…今まで殆ど不登校だったんだけどさ。でもしくったな〜、もっと早く再会できてれば椛の高校に恵を裏口入学させられたのに」
「椛ちゃん女子校だよ」
「…それは、無理だ。名前だけなら行けそうだけど」
伏黒くんの淀んだ瞳は鳴りを潜めた。今は普通に学校に通い、普通の生活を送っているらしい。
ただ毎朝灰原家に来ては椛ちゃんをぎゅっと抱きしめ、手を繋ぎながら椛ちゃんの学校まで送り迎えをしているらしい。桜ちゃん情報(写真付き)。バカップルか。いいえ隠れ病み彼氏です。しかし椛ちゃん受け入れるの早すぎるだろう。図太すぎる精神だった。
「逆に恵は喜んでたよ。害虫が寄ってこなくて良いって」
「…まぁ分からなくはないけど」
「だから『女も女で結構クソみたいなヤツは居るよ』って助言した」
「なんで鎮火しかけてた火に燃料注ぐんだ…」
「恵は当然なんだけど、椛にも幸せになってもらいたいからね。うん、2人の幸せを邪魔する奴は片っ端から潰しちゃえ」
「お前本当に教師やってたのか?」
「慕われる五条先生でした〜!」
本当かよ。胡乱な視線を送るが目が合わなかった。
「ていうか渋谷に住んでるとか反則でしょ。みんなのトラウマだよ?」
「知らないよそんなの」
「あと傑、僕とわざと会わないようにしてたでしょ?」
「さぁなんのことだか」
「僕に会うの、嫌だった?」
嫌ではない。が、会ってどういう顔をすればいいか分からなかった。
「自分の事を僕と言う五条悟とは、あんまり関わりがなかったからね」
「はぁ?なんだよそれ。俺だろうが僕だろうが全部五条悟だっつーの。何お前、繊細?」
「悟よりはずっと繊細さ」
「嘘つけよ!」
ケラケラと笑う悟。なんだ、本当に変わらないな。
「硝子も居るし夜蛾センとか歌姫も…つーかお前以外全員居るんだ。今度みんなで飲みにいこーぜ!」
あの日の、青春の続きだろうか。
楽しそうな悟をみて、色々考えるのが馬鹿らしくなる。
「悟、お前飲めないだろ」
「飲めなくても、お前ら居れば楽しいし!」.
「モブなので前世を描いた漫画に描写されていません。でも1コマも出てないってあんまりじゃない?」の続きです。
前作へのコメント・スタンプ・タグありがとうございます!続くとは自分でも思ってなかった。調子乗って書いてみたものの割と難産でした。
難産だったのにだいぶ長くなったのなんでだろう。こんなつもりじゃなかった。
例のごとく、シリアスの皮かぶったシリアルです。
本編:「灰原家のお隣さんは夏油家」夏油語りのお話。お前が主人公か??
おまけ:「ここが地獄だ」ある意味こっちがほんへ。さて誰にとっての地獄か
*****
クロスオーバーもので×戯言ネタ(供養でうpしたやつ)
東京校に姫ちゃん(2年生)・京都校に子荻ちゃん(3年生)がいる話IN交流会を書きたいなぁって思ってるけど思ってるだけで書けない。誰か書いて。
生存ifの非術師大嫌いな夏油先生と、割と夏油さん気に入ってる非術師いーちゃんと、いーちゃん嫌ってる夏油さん大嫌いな崩子ちゃんの話とか、誰か書いて。夏油至上主義ミミナナvs崩子ちゃんと崩子全肯定bot萌太くんとか。
夏油さん唆す狐さんと、傑ナンパしてんじゃねーよってブチ切れる五条先生とか。
プログラム組むみたいに自在に術式組む友が好き勝手やってやる話とか(術式の付与とかいうチート)。
だれか書いて。
いーちゃんおめーぜったい天与呪縛「無為式」だろ。見えてないし感じもしないのに周りを勝手に狂わせていくセルフ脳みそ(偽夏油)か??脳みそとぶつけたら脳みそが負けそう。うわぁい!いーちゃんつよい(人類最弱)
まぁ最後は人類最強が全てかっさらっていくんですけどね。はん?五条?ああ、あの雑魚ね。
ところで人識くんはどこですか。
だれか、かいて。
注意事項
※夢主に名前が付きました:椛(もみじ)
※夢主姉(灰原家長女)に名前が付きました:桜
※キャラ崩壊注意
※拙宅の灰原家はみんなネジが何本かぶっ飛んでます
*ふんわりではありますが腐向け表現があります(前回くらいです)主に灰原姉妹のせい
*基本的にギャグです。ギャグしか書けない呪いに掛かっています。
*人の心が無いヤツばっかり
おまけ
【ここが地獄だ】
世界最大級のイベントに参戦することに決めた。某同人即売会である。勿論一般参加ではなくサークル参加だ。ふふふ、まだ脱稿してないけど生きる。人気が出てきたとは言え、まだまだ知名度が低いこのジャンルを広め沼に落とす為に私頑張る!
なお件の前世漫画は私の周りのみんなが即お焚き上げしてしまう。表紙を見るどころか「呪術廻戦」というワードを聞くだけでみんなの目が死ぬ。気持ちはわからなくもないんだけど…うん。紙媒体で持ってると高確率で五条先生に燃やされてしまうので電子書籍でタブレットに入れてある。流石に五条先生もそこまで手を出さない。
意外にも、漫画にまったく反応を示さないのが恵くんだったりする。周りはびっくり。
結構前の話になるが、こんな会話をしたことがある。
「恵いいの?地獄の[[rb:詰め合わせ > ハッピーセット]]みたいな本が存在してて。しかもそこには『灰原椛』の存在は完全に抹消されてる」
「はぁ。別にいいですよ」
「…ふ、伏黒が一番落ち着いてる…だと?」
「今まで病んでた反動か?もう本物が居るから良いってか?」
「それもある、けど」
けど?と虎杖くんと野薔薇ちゃんと五条先生の声が重なった。
いつも愛が重い恵くんを理解している私は「あっ」と察していた。ヤンデレに理解があるオタクです。自分が対象になるなんて思いもしなかったけどね。
恵くんは漫画の背表紙を撫でながら口を開いた。
「これに椛が描かれていたら、椛を見る人間が増えるってことだろ」
「お……ん?」
「椛を知ってるのは俺たちだけでいいし、もしこれに椛が描かれていて、そんな『灰原椛』というキャラクターを好きだっていう人間が1人でも現れたら俺は絶対に赦さない。そうなったらこれを見た人間全員呪うし作者も呪う。椛を見るのは俺だけでいいし必要ない。椛を好きなのは俺だけだ」
「安定の恵だった。ねぇ本当に椛監禁してない?大丈夫??」
「安定の伏黒…。いや、安定とは?」
「安定に不安定ね」
日本語が可笑しいのに可笑しくない不思議。
しかし一同納得。「恵はやっぱり恵だった」という五条先生に、いや恵くんそんな性格じゃなかったでしょうに…と零すと、全員して「お前のせいだからな?」ってなるから解せぬ。いやごめん私が悪かったね。
「それに」
「まだ続くのか」
「椛を好きじゃない俺は俺じゃないから、それに描かれている『伏黒恵』は俺じゃない。だから一切気にならない」
「んーそうきたかぁ」
「起こった出来事そのまま描かれてるけどな?」
「椛が居ないからそのままじゃない」
「あ、うん。そうだね」
「だからそれは俺の前世じゃない」
「もう怖いからこの話やめよう」
安定に恵くんがイカれていたので、この時の会話はここで終了した。自覚は十二分にあるらしい恵くんが「こんな俺は嫌いか?」なんてぐるぐると濁った目で見つめてきたので「どんな恵くんでも大好きだよ」と言ったら抱きしめられた。勿論嘘偽りはない。「恵がアレすぎてあんまり気にしないんだけど、中々に椛もイカれてるんだよね」という五条先生の言葉に「ただの純愛です」キメ顔で言った。
と、まあこんな前に会話があって私と恵くんだけが件の漫画を普通に読んでいる。
普通どころか私、虎伏の同人誌書いてるけどね(現在進行系)。終わるか〜?初参加のコミケで新刊落とすとかしたくないので頑張る。部屋に籠もってひたすら描いていた。
もう私が虎伏本を描いていることは恵くんにバレているため、割とオープン…でもない。流石に描いてるものをまじまじと見られるのは死にたくなるので、基本恵くんは私の部屋への侵入を禁じている。原稿描いてる時だけね!割とすんなり「わかった」と頷いてくれたので安心した。トイレ以外、料理中だろうがお風呂だろが引っ付いてくるあの恵くんが、である。
ドアの隙間から私の背中をじっと見つめる恵くんに、私は気づかない(ホラー)。
どうしてだいだいだいすきな恵くんを自分ではなく他のキャラ(マジ主人公お前が一番虎杖悠仁)に絡ませるのか。腐女子だからですね。ハイ。夢本は描かないですね読みはするけど。いやでもね言い訳をすると『呪術廻戦』の恵くんは恵くんじゃなくて『伏黒くん』なんですよ。本人だって言ってたじゃない!「あれは俺じゃない」って!じゃあセーフだよ。私が人として好きなのは恵くんで、二次元の推しが虎杖くん×伏黒くんってだけって話なんだから!恵くん本当に全く気にしてないんだけど、虎杖くんの超複雑な顔見るとちょっと心が痛い。ごめんね、でも描かずには居られないんだ…!
そんなこんなで頑張って描いて脱稿した。
一日中私の背後を見つめていた恵くんには最後まで気づかなかった(ホラー)。
「というわけで明日は野薔薇ちゃんと2人でお出かけするね」
ごめんね恵くん、大嘘である。行くのは野薔薇ちゃんとのデートではなく戦場だ。勿論一人で。「わかった」と疑うことのない恵くんの瞳に心が痛い。でも「明日虎伏本の頒布にコミケに行ってくるね」とは言いづらい。今更何を言ってるんだって思うかもしれないけどやっぱりちょっと…これが夏五本とかだったら堂々と「明日コミケで夏五本頒布してくるよ!」って言うんだけどな。あ、ごめん嘘嘘!死んだ目をした脳内の夏油お兄さん!例に上げただけだから!夏五は守備範囲外です!描いてないよ!
でも最近五条先生の目が…あ、うん。多分気の所為かな。なんでもないよ。
「何時に出るんだ?」
「8時前…とかかなぁ」
「わかった」
私は今世の恵くんを甘く見ていたのだ。
そして翌朝。一緒に朝ごはんを食べて「じゃあ私は出かける準備するね」と自分の部屋に戻り着替えてまとめてあった荷物を持って玄関へ…そこには同じく家を出る準備をした恵くんが居た。
「…えーっと、恵くんもお出かけ?」
「一緒に行く」
「え」
「俺が売り子やる」
俺 が 売 り 子 や る
どしゃ、と膝から崩れ落ちた。全部バレてますね、バレた上で「売り子する」と言われた私の心情を答えなさい。いたたまれないです。
「え、えーっと何を言ってるか」
「?コミケ行くんだろ。サークル入場9時までなんだからゆっくりしてると間に合わないぞ」
「詳しいね?うそでしょ??」
「荷物これだけか?」
「え、恵くん本当に行くの?」
「当たり前だろ」
当たり前とは。
そして私の荷物とは別に、恵くんが最初から持っていた手提げに目をやる。ごくり、ちょっと嫌な予感がするんだ。恐る恐る、恵くんの荷物を指差し「それは、なに?」と聞いた。
「制服」
制服?首を傾げて「高専の制服」と再び告げられた言葉に雷が落ちた衝撃を受ける。高専の…高専の制服!?どこでそんなものを!?「相談したら桜さんが作ってくれた」お姉ちゃん!なにしてるの!?
「ちなみに」
「うん?」
「お前の分もある」
「う、うそでしょ…」
そこに冗談は一切無く「ほら、間に合わなくなるから行くぞ」と手を引かれる私は呆然としていた。コスプレしながら頒布って本気?残念、本気でした。
「お姉ちゃんBL大好きだけど伏椛は別枠でだいだい大好きだから、虎杖くんのコスはさせないわよ?」
なんかどっかから、天の声が聞こえた気がした。
「ということがこの前ありまして」
「どっちも頭おかしいわよ」
「うう、おっしゃるとおりです…」
「見なさいよ、元気だけが取り柄の虎杖が死にそうな顔してるわ」
野薔薇ちゃんの隣で生気の抜けた虎杖くんが居た。わぁ、こんな虎杖くん見たこと無い。頭が机に付きそうなぐらい深く頭を下げた。心の底からごめんなさい。
「伏黒の彼女は灰原であって、俺は伏黒の彼氏じゃない…」
「すごい支離滅裂」
「ていうか伏黒はなんも思わないのかよ!」
我関せずの恵くんに視線が集まる。すごいよね、話題の中心は恵くんなのに一切興味がなさそうなんだもん。実際興味ないんだろうな。
「何がだ?」
「何がだ?じゃねーよ!自分の彼女が、別の…ていうか…俺、俺と伏黒のなんか…男同士の…そんな感じの本描いてるの!なんか思わんの!?」
「別に」
「別に!?」
「ていうかアンタ伏黒に一回襲われたわよね」
「未遂です!」
「でもキスはされたらしいじゃない。ディープなやつ」
「そんな過去は無かった!そんな記憶オレニハナイ!」
「襲い受けもありだなぁ…って」
「灰原ァ!いくら俺でも怒るからな!!」
「待て虎杖、椛は何も悪くない」
「今の流れでよくそんなセリフ吐けるなおまえ…いや伏黒、あんたが一番悪い」
「椛が望むことは何でも叶えてやるつもりだ」
「一周回って私が悪いみたいな感じになった!?私GOサインなんか出してないよ!?」
「2人揃うとやばいってことはわかったわ」
酷い扱いである。「私は!二次元のそういうのが好きであってリアルはそうじゃないから!」バンッっと机を叩き思いをぶち撒けた。「でもあんた、伏黒が虎杖襲ってる時顔赤らめながらスマホ構えてたらしいじゃない。撮ったんでしょ?」野薔薇ちゃんの言葉に撃沈した。濁った目をする虎杖くんの視線から逃げるように目線を壁に移した。ほんと、ごめんなさい。ごちそうさまでした。
「参考資料にはなっただろ」
「さんこうしりょう」
「恵くんもうやめたげて…」
「あんたら人の心前世に置いてきたんか?」
お、置いてきたつもりはないかなー?
◇ ◇ ◇
「ねぇねぇ椛」
「なんですかー?五条先生」
「夏五の本は描かないの?」
「なんて?」
「二次創作でもいいし実録本でもいいよ」
「なんて???」
[[rb:灰原椛 > フルスロットル腐女子]]
恵くん大好き。虎伏ガチ勢(二次創作に限る…?)
[[rb:伏黒恵 > ヤンデレ]]
同担拒否の椛大好き全肯定bot
[[rb:虎杖悠仁 > 圧倒的被害者]]
俺は伏黒の彼氏じゃない
[[rb:釘崎野薔薇 > 薔薇なのに百合]]
…ところで、まきのばっていうのがあるらしいじゃない?
[[rb:灰原雄 > アルティメットシスコン]]
実は兄友に脹相(年齢不詳)とかいう人がいる
[[rb:灰原桜 > お腐り神諸悪の根源]]
裁縫が得意。コスなら任せろ
[[rb:五条悟 > 伏兵]]
まさかの夏五ガチ勢
[[rb:夏油傑 > お前はもう逃げられない]]
「えっ」
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