1
俺には普通の生活がどんなもんなのか分からない。嫁と結婚して数年は、多分普通の生活をしていたんだと思う。恵が生まれて数ヶ月も、普通だった。それがクズどものせいで崩されて、ふたりぼっちになって、普通を教えてくれる人間が居なくなってそして。呪詛師が集まる組織に身を置く俺が普通なんてもの、恵に教えられるわけもなく、さてどうしたもんかねと今後の教育に悩んでいた。
「甚爾がすげーお父さんぽいことで悩んでる」
「ぽいじゃなくて父親だっつーの。今日オカマ居ないんだな」
「相方だけど四六時中一緒ってわけじゃねーぜ。薫子、集まりだってよ。めっちゃ濃いメイクしてたわ」
ああ、表の集まりな。『組合』は自由度が高いのでの所属してる連中は仕事時以外は割と趣味に走ってたりする。アキラははバンド組んでるらしい、ギターを担いでるところを何度も見た。オカマ野郎はお察し、同類で集まっては「おねえさまの会」とかやってるらしい。鳥肌が立つ。お前それ表の世界の集まりか?完全に裏世界じゃねえかと突っ込みたくなる。
「で、なんだっけ?普通の子供がどんな生活してるかだっけ?俺も子供ん時まともに教育されてねぇしなー…あ、現役学生いるじゃん」と黒セーラーの女学生…ナツメに視線を向けた。恵に文字を教えていたナツメが「うん?私ですか?」と目を丸くする。俺たちは頷いた。
「ええっと、普通に幼稚園に通って小学校に通って中学に上がって…」
「あ!そういえばここらへんの中学に転入決まったって相方に聞いたけど」
「はい、色々手を回してくださって…流石に通っていた学校は無理でした。名字を偽って近々この近くの中学に転入します。学校にはちゃんと通いたかったので本当に感謝です」
「学校って良いもんかね。恵を通わせるって想像が全くできねえ」
「呪術界の普通がどういうものなのか私はわかりませんけど…中学までは義務教育ですし、学ぶことは良いことだと思いますよ?あと、同じ年の子との交流ってすごく楽しいですし。友達、良いですよとっても」
そう語るナツメは寂しそうだった。普通に生きていたはずが呪術師のクソどものせいで両親が殺されて、命からがら逃げてきて、もう前のところには戻れない。「みんな元気かなぁ」なんて呟くナツメになんて声を掛けていいかも理解らず、男二人して「クソどもを殺してきてやる」なんて全く気の利かない言葉を吐いた。殺してきてやるっていうか、もう既に死んでるんだけどな。と、心の中で言う。ここの連中、身内にはすげぇ甘いからな。
「そういえば恵君ってそろそろ3歳になるんですよね、じゃあ幼稚園に通わせないと」
「…ようちえん」
「俺らの辞書にはない言葉だなぁ。なにするところだか俺もさっぱり」
「闇深すぎませんかね呪術界…」
そんなもんだぜ呪術界。特に上の方は顕著だしな。禪院とか禪院とか、あと禪院とか。「加茂もやべえよ。恵君の1個上だったかな?側室の子供なんだけど名前『憲倫』って付けられたんだって『加茂憲倫』だぜ?」「とんでもねえ嫌がらせじゃねえか」ナツメは首を傾げる。その様子にアキラが気づいて「大昔『加茂憲倫』って呼ばれる最悪の呪術師が居たんだけどさ〜何やったかって言うと」と説明する。
その間、ぼーっと窓の外を眺めていた、ら服の裾を引っ張られた。目線をそちらに向けると恵が「かいた!」と紙を渡してきた。紙にデカデカと書かれた「とうじ」の文字。漢字は流石に難しいもんな。「じょーず?」「おお、上手上手」満足そうに笑う恵。
普通の、生活か。
『普通』を教えられ学んだ恵は、将来俺のことをどう思うんだろうか。人を殺して殺して殺しまくった血に塗れた俺を、悪だと罵るだろうか。お前みたいな人間は、父親なんかじゃないなんて言われるのだろうか。言われて当然のことをしている。でも、恵にそんな事を言われたら俺は。
「とーじ」
「どうした」
「かおへん」
「あー」
「いたい?」
「痛くは、ねぇ」
「…こわい?」
コイツ本当にすげぇな。俺は返事をすることなく恵の頭を撫でる。
そう、今この瞬間の幸せが崩れるのが怖い。大の大人が、何を言ってんだが笑っちまうが、怖いものは怖いのだ。嫁が死んだ時の喪失感は今でも胸の奥底に根を張っている。失う恐怖を、もう知っている。
もし、もしも恵が俺から離れた時、俺は。
「めぐは、ずっととーじといるよ。やくそく」
「恵」
「ぜったいだよ」
だからね、とーじもはなれちゃ、ダメなんだよ。
足にしがみつく恵を抱き上げた。小さくて、大きい存在を抱きしめる。…はー、なんか変に悩むのが馬鹿らしいな。本当にソックリだよ、俺とお前は。
「おーい、恒例のイチャつき親子」いつの間にか加茂家の説明が終わったらしい、アキラとナツメの目は微笑ましく俺たちを見ていた。見世物じゃねえぞこら。
「呪術界のブラックさとか、伏黒親子の尊さを十二分に理解したところで幼稚園の話に戻りますね」
「そういやそんな話してたな」
「しれっと伏黒親子の尊さとか言っちゃってるよナツメちゃん」
「やだ…本音がでちゃいました。ええっと、幼稚園は小学校に入る前の教育施設ですね。義務教育ではないので強制ではないです。でも大体の子は行ってると思います」
「ほー」
「大体9時から14時…近年は共働きも増えて18時くらいまで面倒見てくれる園も増えました」
「ふーん、つまり俺が仕事してる間の恵の預け場所か」
最近はナツメに恵の面倒を見てもらっていたが、ナツメも学校に通うことになれば難しくなる。時雨に頼もうとすれば「俺も仕事だっつってんだろ!託児所じゃねーんだぞ!」とキレられるし、じゃあ仕方なしに恵を連れて仕事に行こうとすれば組合全員から「教育に悪い!」と怒鳴られる。それを考えると恵を預けられる場所ってのは結構良いんだが…でもなぁ。
「一般施設だろ?一応気を付けてるとはいえどっから呪術師…禪院が恵を見つけるかわかったもんじゃねぇしなぁ。その場に俺もお前らも居ないって事を考えるとやっぱ厳」
「そんな貴方におすすめの商品はこちら!」
「通販番組か」
「防犯ブザー!」
「呪具じゃねぇのかよ!」
普通にそこらへんに売ってる子供用防犯ブザーだった。犬の形をしたやつ。「いぬ!」と恵が喜ぶ。いや、喜ぶのは良いんだけどよ…こう、呪術師から認識されなくなるとかそういう呪具を期待した。いやいや、とアキラは首を振る。
「だって非術師が集まる場所だぜ?下手に呪具持たせるよりこーいう方が効くんだって。クッソウケるよ、普段踏ん反り返って非術師がなんなの、出来損ないがなんなのって馬鹿にするクソ呪術師がお巡りさんに職質される場面」
「アキラさん何したんですか…」
「あっはっは!」
何やらかしたんだよお前。そんな目を向ければ「何甚爾、聞きたい?聞きたい?」とウザ絡みしてきた。いらん、と突き返す。そわっと聞きたそうにするナツメに「多分聞くに堪えない話だからやめとけ」と忠告した。マジこいつのする事えげつないからな。いっそ殺せと思う事案ばかりだ。殺さずの拷問が得意だからなアキラは。ほんっと、敵にしたくないヤツ。
「ていうか甚爾気にしすぎじゃねぇ?絶縁状態で家出てきて非術師の嫁さんと結婚して、その子供狙ってくるほど禪院も暇じゃないだろ?あっちはあっちでぽこぽこ産んでるんだから」
「でも恵やらかしただろ?そっから術式持ちだってバレる可能性も」
「あー死体喰い荒らし事件?あんなん情報操作で野犬に食わせたことにしてんよ」
「そういうことも出来ちゃうんですね、組合って」
窓に潜入してる組合員が居るからね、そこらへんいくらでも捏造出来るんだよね。その言葉に「あ、私の学校転入も」とナツメが反応する。そういや情報整備担当の山サンが楽しそうになんかやってたな。ナツメの編入手続きだったか。血生臭い情報操作より、そりゃあ揚々とやるだろうな。
組合の連中は優秀だ。家を追い出され、或いは逃げてきて、生きることに必死になって、死にものぐるいで身につけた力は、血筋や術式を盾にのうのうと生きているクソどもよりずっと強い。それに、ワンマンプレーが基本で、例え同じ家の人間だろうが平気で貶め合う連中に、弱点を補い合い『家族』を守り合う組合連中が遅れを取るわけがない。
「ほんっと、居心地良いよな」
弱者同士の傷の舐め合いなんて御免だと思ってたのに、どうにも此処は居心地が良すぎる。だが決してぬるま湯ではない、全員が生きることに必死で、それでも楽しんで生きて。それが俺と恵の救いの場であった。
「あ、」
やべ、壁に取り付けられた時計を視界に入れて声を漏らす。俺仕事あったわ。椅子から慌てて立ち上がり「仕事行くから恵を」「恵君は私にお任せください」ナツメが間髪入れずに言う。
「悪ィ、頼むわ」
「はい、行ってらっしゃい甚爾さん」
「甚爾いてらー」
「とーじ、いってらっしゃい!」
本当に、全員が家族のようだ。恵の頭を撫でてから、背中を向ける。
今日の仕事は、最近組合を嗅ぎ回ってる奴らの処理だ。念入りにやらねぇとな。
◇ ◇ ◇
パタン、と部屋のドアが閉まる。甚爾の背中を見送った恵たちは、さて何をして時間を潰そうかと考えた。
ふと、ナツメが口を開く。前々から、思っていたことだ。
「甚爾さんって、良い人ですよね」
「え、ナツメちゃん甚爾みたいなのがタイプ?」
「あ、いえ、そういうのではなくて…失礼ながら、初めて見た時は何処ぞのヤクザの方かと思ってしまいまして…」
「顔付き怖いし口元の傷が更にそう思わせるよね〜。成程、見かけによらず面倒見が良くて意外と優しいと」
「そう、それです。なんか…他人に興味なさそうなタイプかと思ったんですけど、意外と気安い方ですし」
「まー、最初はそんな感じだったよ。一匹狼みたいな。それが徐々に軟化したんだよね」
「最初、ですか?」
そうそう、アイツ禪院を出てすぐ組合に所属したわけじゃないんだよ。禪院を出て、暫くはフラフラしてたんだって。見てくれはすげー良いから女受け良くてさ…まぁ、所謂ヒモってヤツ。女の家にあちこち渡り歩いて…あはは、ぽいって?帰ってきたら甚爾に言ってみなよ「…昔、ヒモやってたんですね…」って。アイツ「その話はマジで勘弁してくれ」って顔覆うから!黒歴史黒歴史!ヒモやりながらちょーっと悪いシゴトやって、そうやって何年か過ごしてたらさ、なんかそれを叱る女が現れたわけよ。そ、嫁さん。最初はうぜーって思ってたらしいんだけど会う内に絆されたらしくってさ、甚爾の性格変えた嫁さんとか見てみたかったよな〜…。
あ、うん…お察しの通り、甚爾の嫁さんは死んでるよ。ぜーんぶ聞いた話。組合の人間は誰も甚爾の嫁さんのこと知らない。禪院の…甚爾の出てきた家ね、禪院家の末端で甚爾の事を家に居た時から気に食わなかった連中が嫌がらせに嫁さんを殺したんだ。あいつら、他人の命なんてなんとも思ってないから、そーいうこと平気ですんの。甚爾と恵君が家に居て、ちょっと買い忘れしたから行ってくるね〜って出ていって、それっきり。
2人が残されて、もしかしたら次は恵かもしれないって思って甚爾は宛なくふらふらして、そーして俺らと出会った!って感じ。マジ初見ヤバかったよ、手負いの獣みたいで。でもさ、俺らはほっとけなかったんだよ。同類は空気で判るからさ。ああ、こいつもクソどもに人生めちゃくちゃにされたんだなって。必死になって腕の中の、まだ赤ん坊の恵君を守ろうって、近づいてくる人間全員殺してやるって殺気立ってるの見て、俺ら組合の連中はほっとけねーのよ。お人好しで人でなしの集まりだから。
「ま、誘ったところで甚爾超警戒して俺らに全然着いてこねぇし?手荒に気絶でもさせようかって思ったらめっちゃつえーの。見るからに満身創痍なのに俺ら軽く五、六人はふっ飛ばされて」
「うわぁ」
「さてどうしたもんかねって思ったところで恵君の大泣き。赤ん坊の対処がわからん俺らは動けんし、甚爾も「どうした恵」ってマジ半泣きであやすの。面白い絵面ではあるけど笑えんよね流石に。ほんとあん時の甚爾顔色酷かったし」
「で、どうしたんですかその後」
「ここで満を持して姐さん登場」
「ああ、薫子さん」
「やべーよ薫子。先ず恵を必死にあやす甚爾にマジビンタ。吹っ飛ぶ甚爾」
「ひぇっ」
「甚爾の腕から恵君を奪い取り、代わりにあやす薫子。そして更にギャン泣きする恵君」
「んんっ」
「お父さんぶん殴られて、いきなりオカマ化け物に抱っこされたらそら怖いわ」
「ふ、ふふふっ」
「ごめんなさい、めぐおぼえてない」
「覚えてたらトラウマもんだから良いんだよ〜!」
あ、ていうかこれ子供に聞かせていい話?まぁいっか!とアキラは開き直る。
「そんでなんだったっけな〜、確か甚爾が秒で復活してマジ殺す勢いで恵君奪い返そうとして薫子が「アンタがそんな死にそうな顔してるからこの子が泣くんでしょうが!!」って2回めのビンタをして、そこでようやく気絶した甚爾を運んで」
「結局気絶させたんですか」
「気力も体力もギリギリだったらしいからねぇ。今の甚爾だったら2回のビンタで倒れやしないだろうけど。で、事務所連れてきて適当に甚爾転がして、恵君は結局母親経験ある人間があやしたんだっけかな。数時間経って甚爾が目覚めて、なんとか話し合いに持ってって仮で組合に籍置くってことになって」
「仮?」
「いきなり信用できねーってね。まぁ普通はそう思うわな、俺だって最初組合に誘われた時何企んでるんだってなったし」
仕事をすれば金は出るし、足がつかない住処も用意する。取り敢えずその条件で甚爾は組合に籍を置いた。最初はめっちゃギスってたけど、赤ん坊の育て方わかってねぇ甚爾に色々教えてやる人間が居て、甚爾もほっときゃメシ食わねえから面倒見のいいヤツが飯作って食わせて、色々世話焼いてさ「お前ら、なんなんだよ」なんて甚爾に言われて「ただのお人好しの呪詛師」って答えるんだ。実際そうだし。ほんっとお人好しばっか集まる場所なんだよ。
…でも、誰にでもってわけじゃねえ。俺らは同類にだけ優しくする。嫌いなわけじゃねえけど、非術師がそこらへんで呪霊に襲われて野垂れ死のうが興味がない。もちろんただの呪術師にも興味はない。俺らは『呪術師』に人生めちゃくちゃにされた人間だけを助ける。
「幻滅する?ナツメちゃんは非術師社会で生きてたもんね」
「…しませんよ。全部を守ろうだなんて思いません。私も…『此処の家族』と…えっと、申し訳ないんですけど非術師の友達は、守りたいです。あ、私に人を守る力なんてまだないですけど」
「ああ、うんいいんだよ。あーでもそうだね、非術師って言っても俺もバンドの連中は好きだし、なんかあったら助ける気満々だし。えーっとつまりアレだ、自分と関係ない人間はほんとどうでもいいんだよね」
「あ、はいそうですね。でも人間ってそんなもんじゃありませんか?」
「おっ、俺ナツメちゃんは育ちの良いただの良い子だと思ってた〜。うんうん、良いね!ウチにピッタリじゃん」
「あはは、そりゃあ私もみなさんと同じで」
呪術師に人生めちゃくちゃにされた人間ですもん。
ナツメはにこやかに言った。その声に、温度はなかった。
そう、そういう人間が集まる場所だ。
甚爾も、暫くしてそれを察して、少し角が取れた。「傷の舐め合いは御免だ」とか、最初はみんな思うんだよな。でも、結局同類が集まるのはひどく居心地がいい。人は結局一人では生きられないのだ。
そして敵が全員一緒である。俺らを蔑み、踏みにじり、嘲笑い、捨てた呪術師ども。絶対に赦さない、殺してやる。同じ志を持てば、そこには情というものが芽生えてくるもので、仲間意識がより一層強くなる。
そうやって、出来上がったのが『組合』だ。もう随分前から誰が作ったかも分からない組織。延々と引き継がれて、今も無くならずに此処にある。昔から、この形は変わっていないそうだ。…つまり、昔っから呪術界は何も変わってないってことになる。
今も昔も、呪術界はクソってことだ。
「そんなこんなで…確か1年くらいかな?一緒に生活して絆された甚爾が正式に組合に籍を置いて今に至るってわけ。あん時の甚爾知ってると、よくもまぁここまで軟化したなぁってびっくりするわ」
でもまぁ、多分恵君にとって此処にいることが一番良いって思ったからなんだろうな。甚爾一人だけだったら、多分組合に馴染もうと思わなかっただろう。そもそも甚爾が恵君と一緒じゃなければ、もしかしたら組合は甚爾を拾おうとすら思わなかったかもしれない。同類で、仲間を守れる人間。組合の最低条件。
「めぐはね」
「うん?」
「よく覚えてないけど、でもとーじがずっと泣いてたのは覚えてる。つらいって言ってるのも覚えてる。とーじがつらいの、悲しいのいやだったから、泣いちゃった日があった」
「…それが、あのときだったんだね」
「とーじ、今しあわせそうだよ」
「それは多分恵君と一緒に居られるからかなぁ」
「んーん、とーじみんなといると楽しそう。めぐだけじゃないよ、みんないるからしあわせなの。めぐも、とーじだいすきだけど、とーじだけじゃなくてみんながいるからしあわせなんだよ。みんなみんなだいすき!」
「……ウッ、圧倒的天使」
「恵君は本当に良い子ですね…うっ、胸が」
二人して胸を撃ち抜かれた。伏黒恵は天使、異論は認めない。
これから数時間後、仕事から帰ってきた甚爾に二人が「恵君マジ天使」と言うと「恵が天使なのは当たり前だろ」と真顔で返されたことをここに記しておく。
[newpage]2
真新しい水色の服に黄色い帽子、幼稚園の制服を着こなす恵。そして響く無数のシャッター音。すげぇ連写音。俺が言うのも何なんだが、お前ら写真撮りすぎじゃないか?特に前に仕事から帰ってきたら「恵君マジ天使」と言ったアキラとナツメのケータイのシャッター音がすまさまじい。親バカ(自覚しかない)の俺よりも写真撮ってないか?数枚写真を撮るだけだった薫子と時雨も少し引き気味に二人を見ている。
「これは永久保存版ですね。ケータイの画質だとこの恵君の可愛さを十二分に焼き付けられないのでカメラを買うのはいかがですか甚爾さん!」
「金なら出すから良いカメラ買おうぜ甚爾」
「大賛成だがどうしたお前ら」
「俺達、」
「恵君を愛でる会なので」
「俺の知らねぇところで変な会作るんじゃね―よ」
会長は甚爾だぜ、とアキラが言うので、じゃあまぁ良いかとなった俺に「お前はチョロすぎるだろ」と時雨のツッコミが入った。「会報づくりは私にお任せください!尊い伏黒親子の魅力を十分お届けします!」なんかナツメはやる気のベクトルが迷走してるな。まぁ好きにしてくれ。
「情報がどこから漏れるかわからないんだから、こう…紙媒体とかで何かを残そうとするのはやめなさいよぉ?」
「それもそうですね。なら電子媒体…組合の人だけがアクセスできる場所を作ってそこから配信というのは如何ですか?セキュリティ面も気をつけます。そうですね…不正アクセスしようものなら埋め込んだウイルスで相手のシステム完全破壊くらいまではやってみせましょう!」
「…き、気をつけるのならいいのよぉ…?」
珍しくオカマが狼狽えていた。俺以外のモンペが爆誕している。「甚爾君一体何したのよ。恵ちゃんを宗教にするんじゃないわよ」と俺を突く薫子。ひでえ言い掛かりである。一切心当たりがないんだが?
写真を撮られるだけで飽きたらしい恵が俺の足にしがみつき、俺を見上げる。抱き上げれば、恵は俺の身体に抱きついてきた。
「とーじ!似合う?」
「おー似合う似合う」
「んー!」
嬉しそうに笑う恵と、カシャカシャカシャ!と響く連写音。いや、うん…まあいいんだけどよ。「あとでその写真俺に送ってくれ」と言えばいい笑顔の二人に親指立てられた。
「あっという間に明日が入園式ねぇ。やっぱりアタシ、母親役として」
「帰れ!」
「だから最後まで言わせなさいよォ!」
「私はお姉ちゃん役として参加してもよろしいでしょうか?」
「ナツメ学校あるだろ」
「お兄ちゃん役は」
「お前は仕事あるだろ」
「時雨!チェンジで!」
「そんなシステムねぇよ。朝イチだからなアキラ、サボったら一生お前に仕事回さねぇ」
「この人でなし!」
「呪詛師に言われてもな…」
あいも変わらず通り騒がしい組合本部だ。
「んじゃ帰るか」と本部を後にしようとしたら「え、お前何しに来たんだ?」時雨…そりゃあお前恵見せびらかしにに来たに決まってんだろ。と言うとすげぇ呆れた顔をされた。言っとくが主にそこの二人に念押しされて「恵君の園児服姿を見せに来てくださいね!」と言われたから来たんだぞ。そうじゃなかったら普通に家でのんびりしつつ恵独り占めしてたに決まってんだろ。「…親馬鹿が」うるせえ、お前も仲介作業終わったならさっさと帰れ。俺は帰る。あ、帰りにカメラでも買ってくるか。
恵が俺の腕の中で少し体勢を変えて、連中の方へ向く。
「お姉ちゃん学校、がんばってね!お兄ちゃんはお仕事がんばって!シウくんも」
「シウくん…時雨アンタくんづけなの…っ、ブフッ!時雨オジサンでいいんじゃね?」
「アキラお前明日仕事追加な、いい案件があるんだ」
「明日帰ってこれねぇヤツだろそれ!」
「お…おしごとがんばってね!おねえさんは…」
「アタシはぁ?」
「めぐのおかあさんじゃないよ」
「ン…っぶ、く、ククク」
「改めて拒否られたな薫子」
「…ふふっ、そうよね。恵ちゃんのお母さんはただ一人だものね…」
哀愁漂わせて、いい感じにまとめようとすんなオカマ。
ナツメが「相手方バツイチと結婚したけど子供と距離が合ってなんとか話し合いをして『貴方の母親はきっと産んでくれたその人だけ…きっと私は貴方の母にはなれないわね。でも、あなた達の家族の一員にはしてほしいの』みたいな流れの、家族ドラマですか?」なんて言いやがる。嫌だよそんなクソみたいなドラマ。というか伏黒家にゴリラを入れるんじゃねえ。「ゴリラ筆頭が何いってんだ」うるせえぞ時雨。誰がゴリラだ。「アタシだってゴリラじゃないわよ!」オカマ全員の表情見てみろよ。何いってんだコイツって顔してるからよ…。
全員ゴリ…オカマに殴られた。そして解散。
そして翌日、恵の入園式当日。
アキラは本当に朝っぱら、というか夜明け前に仕事に行ったようだ。オカマは知らん。すれ違った情報整備の山さんに聞いてもいないのに「薫子さんはオカマバーのヘルプから帰ってきてないぞ」と言われた。マジで要らん情報だった。そして丁度学校に向かおうとするナツメとばったりと出会い、そして。
「甚爾さんのスーツ姿…、ヤクザにしか見えないですね」
綺麗に梳かしたであろうナツメの髪をぐっしゃぐしゃにしてやった。
[newpage]
3
やはり同じくらいの年の子供と一緒に遊ばせるのは良い事のようだ。最初の方は「とうじと居るほうがいい」なんて引っ付いていた恵だが、集団生活に慣れたらしい「今日はまーくんといっくんと遊んだよ!」と毎日幼稚園での出来事を楽しそうに話していた。大人しめだった性格も、少しやんちゃが見えてきて、こうやって子供は成長していくのかと恵の頭を撫でた。
「いやでも寂しくねぇ?今まで俺の名前呼んでは引っ付いて来たんだぞ?それが最近じゃあ、まーくんだのいっくんだのしーちゃんだの静香先生だの」
「心狭いな甚爾…」
「大体俺はどっかの誰かが無駄に持ってくる仕事の消化で幼稚園の迎え行けねぇしッ!と!」
刀を振るう。真っ二つに斬られた異形はギャアアア!と断末魔を上げのたうち回る。見えなくても呪具さえあれば呪霊を殺せるが、多少のやり辛さから呪霊が見えるようになる眼鏡を買い取ったが…なんつーか、呪霊の姿って見るに堪えないからやっぱ要らなかったかもしれねぇな、と少し後悔。俺が倉庫にしてる呪霊見た時「…こんなビジュアルしてんの?」と顔を覆ったのは記憶に新しい。おぇええ、とか言って武器吐くんじゃねえよ使いづらいわ。巻き付くんじゃねえよ気色悪い。
「甚爾、恵君の入用なもん買うんに金使うからって時雨が気ィ利かせて仕事回してるんだぜ?俺だって新しいギター欲しいのに最近暇だし!」
「だから着いてきたのかお前」
「手伝ってやってるんだからちょっと報酬寄越せよ」
「ついでに今んところ金に困ってねぇから仕事も回してやるよ」
「よっしゃ!」
と言っても最近は専ら呪霊狩りの仕事ばかりである。呪霊狩りってあんま金になんねぇんだよな。
普段の俺らは呪霊なんてわざわざ殺したりしないんだが、どうにも呪霊が多すぎる。術師ではない俺ら組合と関わりを持つ奴らが「最近怪我人が続出する」だの「気持ち悪いやつが家の前にずっと居るんだ!」だの、普通に呪術師に頼めよという仕事がこちらにもわんさか流れ込んでいる。おかげで報酬が少し高いわけだが。
「なんか高専の2年に五条が居るらしくてさ」
「五条…あの無下限呪術と六眼持ちの坊か」
「そうそう。んでもって同じ学年に五条と同じく特級呪術師の呪霊操術持ちの男と反転術式持ちの女が居るらしくてさぁ」
「やべえな。黄金世代ってヤツか」
「そうそう。それで調子乗ってクソガキムーブ全開らしくってよぉ「はぁ?そんな雑魚なんで俺らが祓わなきゃいけないわけ?雑魚には雑魚でジューブンだろ?」って言ったらしくてよ」
あー成程な。それで普通呪術師がやるような仕事がこっちにまで流れ込んでるってことか。御三家やらそれなりの呪術師の家なんかもそんなスタンスだし、下っ端が頑張っても追いつかないわけで。年中人手不足って言われてるけど、ただ単に上が全然働かないだけなんだよな。やっぱ呪術師はクソばっかりだ。
「雑魚相手に死にそうになってた呪術師、うっかり助けちまったんだけどすげー感謝されて複雑だったって言う奴らも結構居てよぉ」
「なんだかなぁ」
「ほんっと、なんだかなぁ…」
ぐしゃり、最後の一匹を潰す。「一度痛い目見てメンタルへし折れればいいのになぁ、クソガキ共。いっそ甚爾が五条をボロクソにしてやれば?」なんてアキラが笑う。ハァ?嫌に決まってんだろ、そんな面倒くさいこと。
十年後、真逆のアキラが言ったように俺と恵が五条とそのお仲間のメンタルをへし折ることになるのだが、今の俺には知る由もない。
「そういや時雨が持ってきた仕事の中に高額の依頼があったな。俺は蹴ったけど」
「どんなヤツ?」
「星漿体のガキを殺せってヤツ。なんつったかな、ナントカって宗教団体が「天元様と不純物が同化するなんて認めない」とかだったかな。アホくせえ」
「じゃあ俺が立候補しようかな。結構な大仕事だし報酬期待できるな」
「星漿体のガキ、14歳の女子中学生」
「…ウッ…ナツメちゃんと同い年…」
「ちなみに呪術界とはあまり関わらず、普通に一般人として生活してる」
「ナツメちゃんじゃん…」
「天元サマとの同化は受け入れていて、それまでは普通に暮らしたいってことで今現在の生活。もうじき同化予定」
「…新しいギターがなんだ!若者には青春送らせろ!」
「青春って何すんだ?」
「…俺に聞くなよ…俺だって知らねえよ」
「お前もまだ若者だろ」
「俺バンドで青春してまーっす!そうさ、今が楽しいからな!恵君にも青春送らせろよ!」
言われなくても。当たり前の幸せを、当たり前に与えてやるつもりだ。然しそうした場合、呪詛師であることが幸せの足枷になるのでは、と思ってしまう。「別に抜けたいなら抜けても良いんだぜ、そこら辺は融通効くぞ。非術師のヤツと結婚するから組合を抜けたヤツだって結構居るんだ」そういう手もあるのかと思った。
いつか、組合を抜けるかもしれない。恵の為に、居心地の良い場所を捨て。
「恵君第一ってのは分かるんだけど、恵君にとって一番何が良いかってのは本人が決めるんだぜ?」
「…わかってるよ」
全部、恵の好きなようにやらせるさ。
でもまあ、恵がなんと言おうと俺は恵から絶対離れないから、そこんところは理解しておけよ。「マジ甚爾親馬鹿〜!」とゲラゲラ笑うアキラに、心のなかで「家族愛なんて疾っくの疾うに通り過ぎてるんだけどな」と呟いた。.
或るあいの顛末第2章
ほのぼの回です。園児回と銘打ったはずが園児恵全然出てきてません。可笑しいな…こんなつもりじゃなかった。
どうしてもモブキャラズとの絡みが多くなっちゃう。
モブが名無しだと動かしづらいので名前を付けました。
オネエさん:薫子(源氏名)
オネエ相方:アキラ
セーラー少女:ナツメ
Newキャラ
情報管理担当イケオジ:山さん
>>薫子<<
1章取り敢えずそのままにしてあります。まとめ(るかわからないですが)で修正掛けます。
しれっと1章、甚爾の孔時雨の孔呼びを時雨呼びに変更しました(モブズ下の名前しか考えてないから名前呼び合わせるため。山さんは知らん)。本来はどっちなんでしょうね、わからん。
前 次