0.
とある馬鹿二人の話をするとしよう。
とある馬鹿とは私の同期である。どっちも男。一方は呪術界で名を馳せる御三家の一つ、五条家の現当主の男。現在はフリーの呪術師。もう一方は一般家庭の出だが術式に恵まれた男。現在呪術高専の教師をしている。二人合わせて自称「最強」のクズ共。高校の時からクズの片鱗は見え…いや、片鱗どころの話じゃなかったか。すでにこの頃からクズだった。今現在26歳にもなって全く成長しないクソガキのままである。
傍若無人?いや、最早暴君。お偉いさん相手にもあんな調子で、敵は随分と多いと思う。いい加減立ち回りってモン覚えたほうがいいと思うんだけど、二言目には「俺たち最強だから」で済ませる。ヤバいなこいつら。毎日のように夜蛾センが頭を抱えている。夜蛾センちょっと頭皮薄くなってきた?白髪とか増えてきてない?何?パンダ吸う?気をしっかりもってくれ。ああうん、パンダは癒やしね。ハイハイ。最近頭の天辺が薄くなってる気がするのは気の所為ってことにしておこう。ああこらパンダ、お口チャックだ。
あいつらが本格的に調子乗りだしたのは、確か…そう、星漿体護衛の任務の時だ。2年の時だな。私はこの件に関しては一切関与していないんだが、馬鹿共が暫く同じ話ばかりしていたのでよく覚えている。呪詛師の集団やら盤星教やらが星漿体の天内理子ちゃんを狙って、それをクズ二人が見事撃退。呪詛集団は壊滅したし、盤星教に至っては現在夏油が乗っ取り、教祖なんてことをしている。意味がわからん。情報収集の場として活用してるらしい。たまに袈裟服着てるのを見かける。似合いすぎだろあいつ。あいつの本職は教師なはずなんだが。
まぁ自称最強と謳うだけあって中々の手腕だったらしい。腐っても特級だしな。「ま、俺たちにかかれば全員雑魚だよなぁ」相手はもうちょっと腕の立つヤツを見繕えと思った。調子乗るクズ共マジウザい。
無事星漿体を守りきって天元様と同化して、はいお終い。とならないのがこのクズ共のすごいところである。
天元様との同化を拒否した星漿体をクズ共が逃した。
吸ってたタバコを思わず落とすくらいにはびっくりした。マジ?ヤバいんじゃないの?天元様大丈夫?しかしそれを認めたのが他の誰でもない天元様であった。上層部どころか呪術界全土に衝撃が走った出来事である。
五条家の人間が泡吹いてひっくり返ったと聞いたが、そりゃあ当たり前だと思った。お前らのところの倅がやらかしたんだ、責任を取れ!と言われたら五条家は滅亡してただろう。というか禪院家と加茂家はそれを望んでいただろうな。天元様が「良い」と言ったお陰で五条家は首の皮一枚繋がったのだ。気が気じゃなかっただろうな、あの時の五条家当主。やらかした当クズ野郎は何処吹く風である。こいつ心臓に毛でも生えてんのか。
これがクズ二人を調子に乗らせた一番の事件だった。
そんなこんながあって上層部からの当たりはキツかった。しかしクズ共は全く気にしない。苛立つ上層部。巻き添えを食うのは、勝手に五条派だと認定された高専東京校の人間である。誠に遺憾、クズ共と私達を一括にするんじゃない。
嫌がらせが増えた。反転術式持ちの私だ、進路は自ずと決まって医療方面に進むつもりだった。エグい死体の解剖が増えた。気にするような性格でも無かったが、如何せん数が多い。一日中解剖解剖解剖解剖解剖解剖解剖解剖。あれ、私の術式って人を治すもんじゃ無かったか?たまに治療を頼まれる。でも基本解剖。生きた人間より死んだ人間の相手をする時間のほうが長くなった。タバコの量も増えたが夜蛾センは何も言わなかった。むしろ「俺に力が無いばかりにすまない」と謝られた。いや夜蛾センのせいじゃないっしょ。差し入れにペロペロキャンディをくれた。そこはタバコにしてほしかったな。
それでもまぁ、危険がない分私はマシな方だった。
後輩二人が身の丈に合わない任務を言い渡された。表向き何でも無い任務、しかし蓋を開けてみれば一級案件。危うく死にかけた二人の前に颯爽と現れたのは、まぁ言わずもがなである。
「やぁ七海と灰原、そんなボロボロになって鍛え方が甘いんじゃないかい?」
呪術師として学び始めて一年とちょっとの可愛い後輩相手に対応がクソである。「こっちとら二級案件と言われて行ったのに目の前には堕ちた土地神、私はボロボロで灰原は脚が引きちぎれてるっていうのにあの人「うわぁ、痛そう。私そんな怪我負ったこと無いよ」とかのんびり言ってやがるんですよ。ええ、土地神はあの人が秒で祓いましたけど「先輩の私達が輝かしい活躍をしているからって、身分不相応な任務を受けるなんて、七海も意外とお馬鹿さんだね」とか言うんですよ。キレる体力すらありませんよこっちとら」治療室でマジギレした七海の怒りを聞いてやった。「あの人が来なかったら確実に私も灰原も死んでいたでしょうけどね…ッ。感謝はしたくないです」感謝しなくていいよ本当に。
因みに治療を終え、意識が落ちていた二人を見舞いに来たもう一方のクズは「灰原脚千切れたんだって!?硝子の次にチビのくせに背ェちっさくなっちゃったじゃん!治してもらえてマジで良かったな!」寝てる灰原にケラケラと笑うクズ。カルテを挟んだバインダーで思いっきりクズの頭を叩いてやった。スパンッ!と良い音はしたが気持ちは晴れなかった。
「もうあの人達だけで良くないですか」
多分、当本人たちが一番そう思ってるよ。割とガチで「俺ら最強が二人居れば十分じゃね?」って言うやつらだから。
なんやかんやあって、山奥の時代錯誤の村を壊滅させたり、クズ二人と同じ特級呪術師を大爆笑させたり、在学中色々あった。
卒業した時の夜蛾センの「やっと開放される…」って表情が面白かったが、残念なことに夜蛾センの苦労はまだまだ続く。数年後に「次世代の呪術師を手ずから育てようと思いまして」とニコニコ顔のクズに夜蛾センは「お前が教師なんて出来るわけないだろう!」と怒鳴ったのも、苦い思い出である。
私達が卒業した翌年、七海と灰原は高専卒業と共に呪術師を辞めた。卒業までは高専に居たのだから頑張ったと思う。「元気出やれよ」そう言うと七海も灰原も目を緩ませ「ありがとうございました。家入先輩のお陰で、救われました」と言われた。あーあ、可愛い後輩が居なくなっちゃった。伊地知はめっちゃクズ共にパシられてるし、後輩みんな可哀想。
嫌いではないんだよ、二人のこと。クズでもたった三人の同期だし。笑い合ってた日々だって、確かにあったし。
でもいい加減に、一度痛い目見てメンタルでもバッキバキに折られればいいと思うんだよ私は。
なんて、真逆本当にそんなことが起こるなんて思いもしなかった。
とりあえず五条、夏油
ざまぁみやがれ
[newpage]
1.
「はぁー?馬ッ鹿じゃねーの?ハイ無理ィー!」と大声が聞こえた。相変わらず悟は騒がしいな、と思いながら今まさに入ろうとした部屋のドアを開く。と同時にバサッ、と数枚の書類が中を舞った。どうやら悟が書類をぶん投げたらしい。投げた書類は、多分その書類を持ってきたんだろう伊地知に降り注ぐ。「む、無理難題なのはわかっているんですが!なにぶん上からの…ヒイッ!」悟に睨まれ石のように固まる。床に散らばった書類を拾い上げる。なになに…呪詛師捕縛?ふぅん、別段難しいことでもなさそうだが。首を傾げていると、私に気づいた悟が「あ、傑。聞いてくれよ、クッソみたいな任務振られてさぁ…マジ腐ったみかんクソ!」不機嫌丸出しに口を開いた。
「所属人数不明、拠点地不明、呪詛師の名前も不明、詳細一切不明の呪詛師集団の捕縛とか無理でしょ」
「それは無茶振りが過ぎる」
「唯一わかってんのが、その集団は『組合』って呼ばれてるくらいだな」
…ん?組合だって?私はその二文字に反応する。「え、何傑、なんか知ってんの?」私の様子に気づいてずいっと顔を近づけてくる。いや、組合って割と有名だろ。名前だけは。
「そこの書類にもあるように『組合』は所属人数不明、拠点地不明の呪詛師の集まりだ…が、実際はフリーの呪術師の集まりだ」
「は、呪術師?呪詛師じゃねぇの?」
「爪弾きにされた、が付く」
組合の人間は殆どが呪術師家系の出であるらしい。四男だったり五男だったりと家督には無縁の人間だったり、術式に恵まれなかったりと、所謂落ちこぼれ組。そんな人間が家を出たり追い出されたり、行き場を失った術師が集まって出来た組織。
「呪詛師と呼び始めたのも上層部だったって聞くし、あれじゃないかな、追い出した自分の家の落ちこぼれ達が集まって妙に力を付け始めたから、牙剥かれる前に先手取って処分しようっていう魂胆なんじゃない?」
「はぁ?俺上層部がポイ捨てしたゴミ掃除する係?」
「でも確かに、ここ最近組合の噂はよく聞くようになった。所謂「ダークヒーローだ」ってね」
「なにそれ」
組合は限りなく黒に近いグレーな組織だ。組織の人間は殆ど呪霊を相手にしない。あれの獲物は大体が人間だ。呪詛師であったり呪術師であったり非術師だったり、そこらへんはバラバラであるが唯一共通点がある。人に恨まれることをしている人間が組合の人間に殺される。
ここ数年、呪詛師が大人しいのはこれが原因だね。目立つと組合の人間に殺されるから。組合の人間に取り入ろうとした呪詛師がバラバラ死体になって山奥に放置されてたって聞いたことがあるな。
等級をわざと偽って、術師に仕事を割り振った補助監督が消えるって話よく聞かない?あれ別に誰かがクビにしてるってわけじゃないんだよね。というか、あれ指示してるの上層部だし。クビにするわけが無いのにいつの間にか居なくなってる。ちょっと気になって、よく標的にされていた子に聞いてみたんだよ。「そういえばあの補助監督は?」って。そしたら「…さぁ、天罰でも下ったんじゃないですか」って言ってさ。暫くしてその子も居なくなっちゃったけど、後で確認したらその補助監督殺されてたらしいんだよね。ついでに上層部数名も謎の死を遂げて。結構そういうこと多いんだよね。
非術師は主に詐欺師だね。詐欺で財産全部取られたって女から「行く宛もなくフラフラしてたらめっちゃガタイの良いオネエに会って、泣きながら愚痴ったら次の日通帳のお金全部戻ってた。よくわかんないけど追い出された家にも戻れて、ポストには全裸で宙吊りにされた詐欺師が写った写真が入ってた」とか。
「最後のオネエ何。なんかそれだけ毛色ちがくね?」
「組合にオネエが居るのは有名だよ。ウチにも居るしね」
「あー、あの教団の…ていうかお前のとこの連中こそ呪詛師じゃん」
「使えるものは使わないと。まぁ組合の噂話って結構沢山あるんだよ。ただ噂話の域を出ないものばかりだ。最後のオネエ以外個人を特定出来るものは無い」
「詰みじゃん。何、オネエ片っ端から捕まえろってか?」
オネエをナンパする悟という絵面を思い浮かべてクッと笑いが込み上げてきた。気づいた悟が私を睨む。胸ぐらを掴まれそうな勢いだったので両手を上げる。
「面白がりやがって」
「だって面白いし。ふふっ」
「笑うなっつーの!」
「ごめんごめん。お詫びに組合について、調べといてあげるよ」
「おー、頼む。ったく、どうせ落ちぶれた雑魚しかいねぇのに面倒かけやがって」
「悟からすれば、全員が雑魚だろうね」
「トーゼン」
少し機嫌が戻った悟が「伊地知ィ!甘いもの!!」といつもの暴君を振りまく。「は、はいぃいい!」と慌てて菓子を出す伊地知に心の中からまぁ頑張れよとエールを送る。
悟の言った通り、所詮は呪術界の落ちこぼれ達だ。今まで誰も真剣に相手取ろうとしなかっただけで、調べればすぐに情報なんて出てくるだろう。なんて私はその時気軽に考えていた。それがまさか、教団の人間総動員しても情報のじょの字すら見つからないだなんて、思いもしなかったのだ。
「え、傑ってその程度だったの?」
「うるさいよ悟」
1週間もかけて、まともな情報が全然出てきやしない。組合の話を出せば、呪詛師どころか呪術師ですらその存在を知っているというのに、組合の人間の顔を知っている人間は誰ひとりとしていない。名前を知らないっていうんならまだわかるが、顔を知らない?あれだけ名の通った組織なのだから、誰かしら依頼をして顔くらいは憶えているはずだ。罰しないという縛りを設け、過去組合に依頼したであろう人物を当たっても「顔…20代くらい、いや50?未成年だったか…?」と当てにならない。というか男か女かも憶えていないというのは可笑しすぎる。
「記憶自体は消されてないみたいだから、認識阻害の術式持ちでもいるのかな…それにしては情報がなさすぎるだろ。これ、呪術師側にスパイが居るって考えて間違いなさそうだね」
「へぇ、スパイ…」
「なにワクワクしているんだ。私だってスパイみたいなことしてるだろ呪詛師相手に」
「お前胡散臭すぎて面白みに欠ける」
「面白さは不要だろ」
しかしこうなると手詰まりか。そうなると当初の予定通り悟が片っ端からオネエに声をかけるっていう手段になるけど。…面白そうだからそれで良くない?「おま、ふざけんなよ!」と悟が暴れだす。
「だぁーッ!伊地知ィ!なんか情報ねぇの!?」
「ひぇ…え、ええと、地味なんですが」
「伊地知が地味なのは誰でも知ってる」
「うう…、報告に無い二級以上の呪霊が祓われた場所をピックアップしました」
「呪霊が祓われた場所ォ?」
「はい、窓が呪霊の存在を認識はしていましたが、人手不足で祓えず放置されていた呪霊などです。三級以下ですと、呪力を持った人間が偶然祓ったという可能性もあります。なので二級、それと一級」
流石に一級レベルの呪霊が、報告なしに祓われるのはありえない。「これを全国地図でマーキングしていくと…大体関東圏に集中します。東京に集中してしまうのは仕方ありません、呪霊の数が他の地域と段違いですから」赤い点が東京に集中している。…が、東京都は別に赤い点が集中している場所が何箇所か。
「うーん、多くはないけど全部回るっていうと中々面倒だな。そもそも情報として押しが弱い。これ何ヶ月分の情報?」
「遡りまして十年ほどの記録を参照しました」
「じゅ…、全国十年分?」
「はい、十年分チェックしてマーキングして、ピックアップしたのがこちらです」
うん、本当に地味だけどすごいな伊地知。「それと、マーキングした付近で起こった過去の事件をチェックしていたら見つけたのですが」と取り出した一枚の新聞記事の切り抜き。『身元不明の死体、獣に食い荒らされる』と書いてあった。
「この事件、調べてみると他に数件起こっているんです。身元不明の死体も調べてみると」
「誰だったわけ?」
「全て禪院家の人間でした」
「お、きな臭くなってきたな」
「どうも揉み消されたらしく、めぼしい情報は見つけられなかったんですが、どうもその死体残穢が残っていたらしく」
「それは当たり前じゃないかな。禪院家の人間を殺すだなんて芸当、同じ呪術師の人間の仕業だろうし」
いえ、と伊地知は首を振った。致命傷は刃物による失血死。その傷に残穢は無く、無数の噛み傷から強い残穢が見つかったらしい。殺した後に呪霊に食わせた?綺麗さっぱり食わせて死体を処分させたのなら兎も角、無残な死体は残っていて…うーん?
「見せしめ?」
「ていうかなんで情報揉み消しなんかされてたんだよ。お前の言う揉み消しって表だけじゃなくコッチ側でもってことだろ。と、なると内輪揉めってなるんじゃね?あそこも内部で結構荒れてるからなぁ」
呪術界も結構腐っている。あーやだやだ、非術師の猿も嫌いだが、腐った術師共も嫌いだ。「五条さんの言う通り内輪揉めのようでした」と伊地知は続ける。「二十年ほど前の話になるのですが、禪院家から一人家を出ています。この人物が非術師と結婚するのですが…その奥方が、子供を生んですぐお亡くなりになっています。死亡した理由ですが…」はぁ、成程。呪詛でもかけられていたってところか。
「死んだ禪院家の人間が、この奥方殺しに関与していた線が濃厚でして」
「じゃあその男の仇討ちってわけだ。でもそんなの、良くある話じゃねーの?」
「よ、よくあるかは知りませんが…その、不可解な点も多くてですね」
「不可解?」
「はい…その男、禪院…いえ結婚して伏黒になったので伏黒甚爾になるのですが、天与呪縛、呪力を一切持たない人間だったようでして」
「死体には残穢があったのに、そいつらを殺した人間は呪力を持たない猿?致命傷は刃物だってことはわかってるからありえない話ではないけど…じゃあ残穢はどこから、って話になるね」
「…呪詛師の仲間が居た?」
「のかもしれないと、思っているのですが」
憶測の域を出ないな。ちなみにその後の禪院…伏黒甚爾の足取りは?と聞くと「彼の足取りは不明です。現在の所在地は新潟になってます。改竄された形跡がありました。その場所に行ってみてもそんな人物がいた記録は無かったです」まぁ家の人間殺してるんだから、根回しはするだろうな。
「なら、奥さんが生きていた時に住んでいた場所は?」
「埼玉です」
埼玉、と地図に目線を向ける。
「赤いな」
「赤いね」
「赤いですね」
赤い点が割と集中していた。
「まぁ、他に情報も無いし」
「この伏黒甚爾って男が組合に属してる可能性ってどんぐらい?」
「20%くらい?呪詛師になってる可能性は高いにしても、それが組合所属の呪詛師とも限らないし」
「つーかこれで当たりだったらビビるわ」
まさかの大当たりであることを、私達はまだ知らない。
因みにこの地域の呪霊が勝手に消えている理由だが、甚爾の息子恵がまだ小さい頃「なんか呪霊共が俺の恵にちょっかい出そうとしてる…気がする」と勘のみで近くの呪霊を殺しまくり、「ちょっと甚爾君、そんなにバカスカ呪霊祓ったら呪術師に怪しく思われるでしょ!?」「知るか、恵になんかあったらどうすんだ。そっちのが大事だ」積極的に掃除をし、恵が大きくなったらなったで「じゃあ恵君、あそこのクソザコ祓ってみよか」「わかった直兄」修行と称し中々の数の呪霊を祓っていた。これには情報統括の山さんも焦る。抱え込んでいた窓(スパイ)も無理です!と白旗を上げる。…まぁこんな情報誰かが見るとも思わないしな。呪術界の情報統制がクソなのを知っている山さん。大丈夫だろうと思いその情報に蓋をした。まさかその蓋を開ける者が現れるとも知らず。
「伊地知、これハズレたらビンタだからな」
「ヒィッ!」
伊地知がビンタを神回避することも、まだ知らない。
[newpage]
2.
「なぁ、楽しいか?」
「おう、楽しいぜ」
まぁ、それなら良いんだけど。と恵は抱き込まれるように甚爾の膝の上に座っていた。甚爾は甚爾で恵の首元に顔を埋め、スンスンと匂いを嗅いだり、ぐりぐりと頭を押し付けたりしている。猫のマーキングか?相変わらず距離感バグってんな、と仕事の斡旋に来た時雨は思った。思ったが口には出さなかった。「は、どこが?」と言われるのがオチだからである。一見まともそうに見える恵ですら「普通ですよ?」と首を傾げるので、これに関してはもう触れないことにしている。
「俺の方に仕事探しに来なくとも、組合の方でなんかしら無かったのか?」
「あっち今閑古鳥」
「またなんで」
「一ヶ月で誰が一番稼げるかって勝負して全員して仕事の取り合い、結果半月でやることなくなった」
「ノリが学生か。ちなみに誰が勝ったんだ?」
「俺」
「だろうな」
日中は恵が学校行ってるし、暇で暇で仕方ねぇの。かぷかぷと恵の首を噛む甚爾にぴくりと身体を揺らす恵。俺は一体何を見せられているんだろうなと思う時雨。ばちりと恵と時雨の目が合う。少し赤くなった顔が、妙に色っぽい。恵って確かまだ中学生だったよな…?まったく、悪い親に育てられたもんだと時雨は遠い目をする。
ちなみに、多少甚爾によって味付けはされたはいるが、元々恵がそういう[[rb:魔性 > タチ]]であることを、時雨含め誰も知らない事である。
「つってもなぁ、関東圏はお前ら組合と例の二人ですっからかんだしな…」
「あー、例の二人ってあれか。自称最強」
「そうだ」
「…最強?甚爾より強いのか、その二人」
「んなわけねーだろ。俺のが強い」
「ん、だよな」
まぁ俺もそう思う、と時雨は心の中で同意した。
自称最強の五条悟と夏油傑は呪術界で知らない者は居ないというレベルの人物だ。階級は二人とも特級。
五条悟、フリーの呪術師。呪術界名立たる御三家が一角、五条家の現当主である。六眼と無下限呪術の抱き合わせという、名実ともに最強に相応しい人間。
夏油傑、もう一方の最強。呪術師の家ではなく非術師家庭から生まれるも強力な術式である呪霊操術を持ち、高専時代から五条悟とタッグを組んでいる。
この二人がまぁクソガキなのである。高専時代からかなりの曲者だったらしいが、二十六歳になった今現在でもその自己中心的な思考は変わらず、というか拍車を掛けて酷くなっているという噂だ。人の任務を勝手に取ったと思えば自分の任務を他人に押し付ける。他人を馬鹿にするのは当たり前。上層部連中を『腐ったミカン』と呼ぶ五条、非術師を『猿』と呼ぶ夏油。二人合わせて最低最強最悪である。それでも誰も二人に文句も言えないのは(上層部は割と言ってるが)相応に実力があるからだろう。
だがしかし、甚爾からしてみれば只々「イキがってるクソガキ共」である。
敗北やどん底を知らず、蝶よ花よ甘やかされてきた子供たち。負けを知らないということは、それ以上の場所に行けないと同義だ。高専時代の1年の頃くらいであれば、あれが出来ないこれが出来ない、なら努力して出来るようにしよう、となっていただろう。そのまま四年間「本当の学生のように」学べば多少違っただろうに、早々に二人に「特級」という名誉を与えてしまった。自分たちは凄いのだと当人たちに自覚させてしまったのが間違いなのだ。最強と呼ばれた二人はその時点で進化を止めてしまった。そこで満足してしまった。
だから、なお進化を続ける甚爾にはきっと勝てない。甚爾はそんな相手に負けるつもりがない。
「甚爾は最強じゃないのか?」
「あ?俺が素手でやりあって薫子に勝てたことなんてあったか?」
「…十回に一回…いや、八回に一回くらい?」
「そ、八回に一回しか勝てねぇ。呪具使えば俺に多少アドバンテージはあるがな。素手じゃ薫子に勝てねぇ。術式ありきではどうだ?」
「そもそも甚爾には呪力も術式も無い」
「そうだ。んじゃあ俺とアキラが戦った場合はどっちが勝つ?」
「甚爾…じゃないのか?手合わせではいつも勝ってる」
「でもいつも直線攻撃だろ。あの手合わせはアキラの苦手分野克服のためだしな。アキラは基本術式ありきで戦う。あいつの術式は小回りがきくから便利なんだよ。んでもってあいつが術式使用の自分の戦い方で俺に挑めば」
「甚爾…アキ兄に負けるのか?」
「いや流石にアキラには負けねぇわ。でも薫子とアキラが組んだら?」
「…甚爾が負ける」
「あいつら二人が組むと死角がなくなるからな。たかが二対一で負けるだなんて、最強なんて言えねぇだろ」
「そういうもん?」
「そういうもんだろ。最強っていうくらいなんだから百対一、千対一でも勝てるっていうロマンがねぇと面白くねぇ」
ふぅん、そんなものなのか。俺は、甚爾が最強だと思っていた。でも確かに甚爾の言うように、薫子姐さんのほうが力が強いし、アキ兄も力はないけど身軽で術式も使える。組合内でも薫子姐さんとアキ兄コンビはすごいって聞く。…そうか、甚爾は最強じゃないのか。
恵は自分の手をギュッと握りしめて、それを見つめた。
呪具ありきなら、薫子姐さんに勝てる確率が上がる。アキ兄も、結構強いけど単体なら勝てる。…なら、甚爾に『俺』という武器を与えたらどうだ?俺自身、力は弱いし体力だってそんなに多いほうじゃない。でも俺の強みは術式だ。御三家が一つ禪院家の相伝術式、十種影法術。俺の最大の武器。
「俺がもっともっと強くなって、甚爾と一緒に戦えば甚爾は最強になるかな」
ぽろりとこぼれた言葉に、甚爾と時雨が目を丸くする。あ、と恵は口を押さえた。
「んんッ、恵、なんだって?」
「…いや、なんでも」
「俺と恵で最強ってか?」
「や…ちょっと、口に出されると恥ずかしいから…」
「なぁ時雨、俺の恵最強に可愛くねぇか?」
「惚気は間に合ってる」
「つーか恵が最強だわ。あーくっそ可愛い」
「真顔やめろ」
あーマジ可愛い、俺の恵最高に最強、とぎゅうぎゅうと恵を抱きしめる甚爾。そんな様子に時雨は呆れた。斡旋できる仕事もねぇし、帰って良いかな俺。帰るか。腰を上げる時雨は、ふと思い出した。これ伝えるために来たんだよなと口を開く。
「そういえば甚爾、お前高専の呪術師に探られてんぞ」
「お前それウチ来ていの一番に言えよ」
◇ ◇ ◇
「あー、つまりいい加減組合が目障りになった呪術師上層部が組織討伐を五条と夏油に命じたと」
「おう。組合の情報は山さんだっけか、あの人が統制してるおかげでぜんっぜん無いんだが…ていうかあの人何者だ?」
「元内閣情報調査室だってよ」
「どんな人材抱え込んでんだよ組合…。あー、それでだ。組合の情報はマジで一つも出てこないんだが…甚爾、お前単体での情報はあってだな」
「いつヘマやらかした…?」
「嫁さん殺した連中殺したとき。お前あん時ばかりは派手にやっただろ」
「…あー…」
「ついでにまだ小さかった恵が術式の…なんだっけか、犬…玉犬?にやつらの死体食わせてたから」
「えっ、俺そんなことしてました?」
してたんだよなぁ…と甚爾と時雨の声が重なる。うわ、マジか、やらかしてるな俺と恵は顔を引き攣らせた。「わんわんに餌って死体齧らせてたんだよな」玉犬に死体を…申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「組合の情報は無いけど、術師殺しの一件をドンピシャ引き当てて…お前さん嫁さんと結婚して住んでたのもこの辺だろ?」
「適当に所在地誤魔化してたけど、流石にバレたか」
「そういうこった。で、さっき言った最強二人がこっちに向かってきてるらしいぞ」
「お前なんでそんなこと知ってんだよ」
「ここ来る前に組合に顔だして、山さんに伝言頼まれた」
「山さん情報じゃ確実じゃねぇか」
山さんが知ってるってことは、組合員には知れ渡ってるってことだよな。うっわマジか。甚爾は頭を抱えた。「ついでにいうとやらかした甚爾達に対して特にお咎めは無いし、ぶっちゃけ殺る気満々になってたぜ。特にアキラ辺りが」時雨の言葉に顔を覆った。呪術師と戦争でもするつもりか。
まだ「禪院家の人間を殺した伏黒甚爾」が見つかっただけなのだ。組合の存在を匂わせるのはよろしくない。
「後で組合に顔出す。自分の落とし前は自分でつけるわ」
「面倒くせえって言いそうなのに珍しいな」
「ぶっちゃけ暇つぶし」
「暇つぶしでやられる自称最強が可哀想だな」
思っても無ぇこと言ってんじゃねえよ。とりあえず向かってきたらぶちのめすってことで良いか。とりあえず呪詛師感出して、組合とは無関係を装って…面倒くせえな。つーか引っ越ししたほうがいいか?組合本拠地に住まいを構える人間は多いが別に本拠地付近に居なきゃいけないってことはない。少ないが沖縄にも北海道にも組合所属の人間は居る。
…事が済んだら心機一転、引っ越しするか。
「恵」
「なに」
「どこ行きたい?」
流石に言葉が少なすぎた。言葉が少なくても大体通じる伏黒親子。しかし脈絡を読めず、でもまさか本拠地から離れるなんて可能性を全く考えていなかった恵の頭は「(旅行)どこ行きたい?」である。甚爾は仕事がてら全国を飛び回ることがある。[[rb:プチ旅行感 > デート]]で恵を連れて行くことも少なくない。
「んん…」どこと言ってもな…と恵は考える。そういえば少し前、テレビで仙台牛の特集やってたとき「牛タン美味そ」と呟いた甚爾を思い出した。珍しく自分も惹かれた。うん、肉食いたいな。
「宮城」
「お、いいな。仙台牛食おうぜ」
「牛タン」
「この前テレビでやってた店何処だったかな…」
ぐぅ、とお腹が鳴った。もう夕飯時だ、晩飯の準備を始めなければ。抱きしめられていた甚爾の腕を解く。「飯何が良い?」「なんでも」一番困るんだよな。冷蔵庫の中身見てから考えるか。「時雨さんも食べていきますか?」と聞くと「…いや、この後用がある」と言われた。というか親父が睨んでた。時雨さん相手にやめてやれよ。立ち上がって一人台所へ向かった。
だから、その後の甚爾と時雨の話を聞いていない。
「ていうか何の話だ?」
「引っ越しするならどこが良いかって話」
「言葉少なすぎるだろ。よく通じるな」
「はッ、俺と恵だからな」
「ドヤ顔やめろ」
実は全然通じてなかったなんて、甚爾は知る由もない。
[newpage]
3.
「やっべ、めちゃくちゃ田舎」
「東京に比べたらそうだろうね」
「高専とどっこいどっこい?」
「あそこも東京の奥地にあるからねぇ」
最強二人は埼玉県へと降り立った。「とりあえず、伏黒甚爾が昔住んでた地域を中心に探しますか?」と伊地知の助言の元、栄えた街から少し離れた土地に来たわけだが緑が多い。駅前には飲食店等が並んでいるが少し歩いたらそれも少なくなるだろう。
さて、とりあえず例の伏黒甚爾が住んでいた家にでも行くか。と歩き始めようとした夏油を、五条がくいっと服を掴んで止めた。後ろのめりになる夏油は「なに、悟」と振り向く。すると五条はただまっすぐ一点を見つめていた。なんだ?と思い夏油も視線をそちらに向ける。
「…悟、悟。私達が探しているのは呪詛師集団であってオカマ集団ではないよ」
7、8人のガタイの良い女物の服を着た集団が居た。肩が震える。君、オカマ情報に囚われ過ぎだろう。ふふッ、と押さえきれなかった笑いが出た。「いやでもよ…」悟がたじろぐ。
「こんな場所にオカマ集団が居るの可笑しくね?」
「いや、どんな場所でも目は引くけどさ…ふふ」
「お前笑いすぎじゃね?」
「ぶふふ…ッ。だって悟、まさかあの人達が呪詛師集団だと思うかい?」
「ありえなくは…ないだろ」
「オカマばっかりの呪詛師集団なんて嫌だ。…く、くくくッ。駄目だ笑う」
ふー、息を深く吐いて気持ちを落ち着かせようとしたら「あらぁ?」と野太い声が背後から聞こえた。バッと私と悟は後ろへ振り向く。一際はガタイの良いオカマがそこに居た。身なりはあの集団のオカマと違って普通…いや、かなり派手派手だがパンツスタイルだった。
コイツ…図体の割に、気配が無かった?少し警戒を強める。そのオカマは少し首を傾げ「…もしかして警戒させちゃったかしらぁ?」と苦笑いをした。
「オカマが背後に居たら誰だって警戒する」
「こら悟!」
正直に言いすぎだろ!と悟の頭を叩く。「うふふ、良いのよ。慣れているから気にしないわぁ」オカマの心が広くて助かった。ほっと胸を撫で下ろす。
「オカマが沢山…あんたらなんの集団?」
「仕事仲間よぉ」
「仕事ぉ?」
「そっ、あれよ」
オカマが指差した先には小さい入口の建物。その近くにある小さな看板には「Snack Bar」と書かれていた。あまりに簡潔すぎる。店名は書いていない。まぁ、看板の通りなのだろうと推測。
「オカマバーのキャストよぉ」
「オカマ」「バー」
「まだ開店時間じゃないのだけれど…うふふ、興味があったら開店時間にいらっしゃぁい?可愛い男の子たちが来てくれたらアタシ達もやる気でちゃう!」
え、こわい。と五条と夏油は身体を震わせた。オカマのやる気…何、されるんですか?オカマバーが未知過ぎて一切想像出来ない二人。五条は完全に口を閉ざし、夏油は震える声で「ご、ご遠慮させていただきます…」と言った。「あら、残念」と肩を落とすオカマ。
「うふふ、でも気が向いたらいらっしゃい?おねえさんいつでも大歓迎よぉ!指名は薫子でよ・ろ・し・くっ!」
多分、最後にハートマークがついたであろうテンションだった。ぶんぶんと激しく首を横に振った。「それじゃあ可愛子ちゃん達、さようならぁ」オカマが集団の方へと歩いていった。…危機は去った、と二人して重い息を吐いた。あれ、全然呪術だとか呪詛師だとかとは関係ないのになんでこんなに疲れたの…?この地に降り立ってまだ5分の出来事である。
「す、傑…早く行こうぜ。ここらへん居たらオカマに捕まりそうで怖い」
「呪術界最強を謳う五条悟を怖がらせるって凄いよね」
「お前だってビビってるだろ!」
「…」
「…」
「行こうか」
「おう…」
オカマ一人でとんでもない気力を使ったのだ。あの集団に絡まれたら…と思うと早々にこの場から立ち去りたかった。そそくさと去る五条と夏油。その後姿をすっと冷たい目で見つめる一人のオカマ。「あら、ごめんなさぁい。少し電話するわ」とバッグから端末を取り出した。
「甚爾君、来たわよぉ。可愛いお客様が」
「わかった、あんがとよ」と向こう側から男の声が聞こえた。ただそれだけ、ぶつんと通話が切られる。
さぁて、一体どうなるのかしらねぇ。
うふふ、と笑いながら薫子は店の中へと姿を消した。
◇ ◇ ◇
元々期待はしていなかったが、昔伏黒甚爾が十年以上前に住んでいたアパートへ赴いた。現在は別の人間が住んでいて、建物の管理人に聞いても、伏黒甚爾のそれ以降の足取りはわからないとのこと。まぁ想定通り。その当時の様子を聞いてみた。
見た目はとってもカタギの人間には見えなかったそうだ。ガタイが良く、目付きは悪い。口元には刃物か何かで深く切ったような傷痕があって…冗談抜きでどこかの組の構成員かと思ったとのこと。「普段は結構刺々しい雰囲気だったけど、嫁さんと一緒に居る時は雰囲気は随分柔らかかったし、嫁さんの方もほわほわしながらも芯の強い人でね。あんな成りして嫁さんに尻に敷かれてるんだ。ははは。いやぁ、いい夫婦だったと思うよ」そんな管理人の言葉に五条は「へぇ」と感嘆した。
自分の嫁を殺したであろう禪院家の人間相手に復讐したのだから、少しの情はあったんだろうと思っていたが、五条が思っていた以上に伏黒甚爾という男は女に惚れ込んでいたようだ。あの禪院家の出だと聞いていたから、例に漏れず[[rb:そういう > ・・・・]]人間かと思っていたが。
「赤ちゃんが生まれてからは特に空気が柔らかかったなぁ。赤ちゃんの抱き方がたどたどしくて、こっちがハラハラさせられたもんだ。随分微笑ましかったよ。…でもなぁ、ちょっとして奥さんが急に身体を悪くしたらしくて…それからはあっという間だったなぁ…」
呪われたのだろう、禪院家のくだらない連中に。心底伏黒甚爾に同情する。
「伏黒さんはいつの間にかどっか行っちゃってねぇ…置き手紙に『今までお世話になりました』って多めの家賃を置いていって…。恵ちゃんと一緒にどこかで元気にしていればいいけどねぇ」
「めぐみちゃん?」
「ああ、伏黒さんの息子さんだよ。ご両親そっくりでねぇ。ふふ、可愛かったなぁ」
写真などは無いかと聞いたが「流石にそういうのは無いなぁ」と返された。粗方話を聞いて「ありがとうございました」と管理人に頭を下げる。管理人が立ち去り、五条と夏油は互いに顔を見合わせた。
「今に繋がる情報は無かったな」
「だね。聞いた話も、伊地知がまとめてくれた報告書そのままだった」
でも、書類上の文字より人から聞く情報のほうがずっとずっと重く感じられる。たかが非術師が一人殺された、というだけの話ではないのだ。男が人生を狂わせられた、復讐を生み、また人が死ぬ。その連鎖だ。
「私、猿は嫌いだよ。猿は理解もせずに呪いを生む。天与呪縛の禪院の男も、その男と結婚した非術師の女もどうでもよかった」
「傑、」
「でも、そうやって弱者を食い物にして、甚振って貶めて嘲笑う呪術界の腐った連中はもっと嫌いだ。私は、その男の復讐は正しいものだと思ってる。正直羨ましいかな、気に入らない人間を事由に殺せるという立場は」
「傑ッ!お前…」
「…冗談、とはいわないけど、呪詛師になるようなことはしないさ。悟の野望に賛成したじゃないか。『腐った連中をぶちのめす』っていう馬鹿みたいな野望。もし上層部のようなクソの塊みたいな連中が総入れ替えになって、御三家の古臭い考えを改められるようになったら…少しは、みんなが生きやすい世界になるのかな」
「そういう世界にしてやろう、って目標だろ」
「…うん、そうだね」
誰もが当たり前の生活を送れるように。
夏油がとある村から引き取った子供たち。似たような境遇の子たちが虐げられることもなく普通に生活できるように。術式が無いから、呪力が少ないからという理由で爪弾きにされる呪術界の人間達が、誰かに横槍を入れられることなく呪術師として活動できるように。
「いやあんたら、自分より弱い連中のこと雑魚って言って馬鹿にしてんじゃん?」というイマジナリー硝子の言葉はスルーさせていただく。
五条も夏油も好き勝手やっているが、何も考えてないわけではない。
呪術界を二人で変えてやろうぜ。これが二人の野望である。
「しっかし聞けば聞くほどやり辛くなる相手だな。私情なんて挟みたくねーけど」
「なんとか言いくるめてコッチ側に来てもらえばいいんじゃない?」
「そうだな。呪詛師でも、縛りかけて首輪でも付けてれば上も文句言わねえだろ」
未だに自分たちが優位だと信じて疑わない、自称最強ズである。
[newpage]
4.
何やら甚爾が一人で動いているようだ。多分、この前時雨さんが言ってた案件なんだろうな。
自称最強の二人、五条悟と夏油傑。甚爾曰く「イキってるガキ」らしい。ガキと言っても26歳、自分より一回りも年上だ。どんな奴らなんだろうなと一人家で頬杖をつく。恵は、組合員以外の術師を知らない。二人の術式については聞いている。でも実際どういうものなのか。特に夏油傑の呪霊操術という術式が気になる。式神とは似て非なるもの。呪霊を調伏する術式で特級クラスの呪霊を何体も所持していると聞く。…俺の式神とどっちが強いのだろうか。自称最強相手に、俺の力はどこまで通じるのか。考えて、名前と術式とその他諸々ぐらいしか知らない人物相手にそれ以上の想像が出来ず、ぐてっと机に突っ伏した。
…甚爾が居なくて暇なのである。最近は特にこっちに遊びに来る直兄も、偶然五条と夏油に会ってしまってはマズイということで接近禁止命令を発令。甚爾狙いな為、一緒に住んでいる恵は当然組合本部に顔を出すわけにも行かず、恵は毎日まっすぐ学校へ行き、学校が終われば真っ直ぐ家へ帰るという真面目学生をしなければいけなくなってしまった。しょっちゅう全国を甚爾に連れ回され学校を休みがち、かつ面倒だと思うとサボるクセがある恵。ただ出席日数も危なくなっていたこともあり、仕方なく真面目学生になっている。
甚爾だっていつも忙しくないわけじゃない。組合内でもトップクラスの実力持ち。組合の繁忙期だってある。がしかし、恵との時間を減らすわけにはいかねえと沢山の仕事を秒で仕事を終わらせ、術式使った直哉もびっくりなスピードでダッシュで家まで帰る。電車?車?知らねえな。天与呪縛だから出来る所業。人間やめたフィジカルゴリラ。稼ぎが良い割に家にいるのはそういうことである。
でも今回ばかりはそうは行かない。なにぶん相手が持っている情報が少ないが故、どう動くのかが判断しづらいのだ。こっちから仕掛けてぶっ飛ばせば良いという簡単な話でもない。判断をミスれば組合の存在が露わにされる。それでなくても甚爾がうっかり特級呪術師を二人も殺してしまったら、組合など関係なしに呪術師と呪詛師の大戦争に発展してしまう。甚爾・五条・夏油のたった三人しか動いていないこの案件が、どんな変貌を見せてしまうのか。だから、甚爾は慎重に事を運ばざるを得ない。
と、いうわけで事が終わるまで甚爾の帰りが遅いわけで。
「…なんか凝った夕食でも作るかな」
この際料理スキルでも磨こうかと思った。普段から食事は恵が作っているが、男らしい大雑把かつ普通に食べられる食事だ。スーパーの惣菜だって結構買って食卓に出している。あんまり料理に時間を割きたくない、そんな時間があったら甚爾とくっついてる方が有意義な時間だと思っている。でも俺の作った料理が甚爾の血肉になるのだと考えると、全部自分が作りたくなるという気持ちも湧いてくるわけで。
「とりあえず、冷蔵庫の中を見…あ、」
凝ったものを作ろう以前に、冷蔵庫が空だった。買い物、行かないと何もないな。すぐそこのスーパーに行くくらいなら、まさか偶然にも件の呪術師に会うこともないだろう。財布を手に、外へ出る。
まぁそんな偶然が、起こるわけなのだが。
そう、うっかりだった。
ついうっかり、ブンブン蝿みたいに飛び回る蠅頭が目障りでべちんとはたき落としてしまい、更にはその場面をばっちり見られてしまったのが恵にとって運の尽きだった。
「やぁこんにちは。もうこんばんはかな?君、それが見えているんだね」
髪の長い胡散臭さ満点の男に声を掛けられて、恵は内心焦りまくった。恵も組合員の端くれ、表には出さず平静を装う。
…こいつ、多分呪術師だよな。自称最強の呪術師二人、ゴジョウサトルとゲトウスグルが来ているということだけは聞いている。容姿等は全く無情報。こいつがゴジョウサトルかゲトウスグルのどっちなのか、そもそもその二人のどちらかで本当に合っているのか。判断材料が無い。
「警戒、させてしまったかな?ごめんね。でも気になってしまってね。君、それが何なのか、わかるかい?」
「…しらない、でも良くないヤツだってのはわかる。たまに襲ってくるから」
「よく今まで無事でいられたね。祓えたりするのかな」
「ずっと逃げてた。…祓うってことはやっぱり幽霊か妖怪の類なのか?」
「似てる非なるものだよ。私達はそれを『呪い』と呼ぶ。形あるものは『呪霊』」
「呪い…呪霊…」
「うーん、時間があるようだったら少し話そうか?」
激しくご遠慮願いたい。でも何も知らない風を装ってしまった為、「一体あれがどういったものなのか」を『何も知らない一般人の恵』は知る必要がある。しかし話してる内に自分がボロを出すとも限らない。さて、どうしたものかと思案していると「あれ、[[rb:恵斗 > ・・]]?」と自分に声を掛ける人物が居た。恵と正体不明男はそちらに目を向ける。
「津美紀」
「あ、ごめん。邪魔しちゃった?こっちの人は…」
その瞬間、その男がとても小さな声で「…猿が」と呟いたのを聞いてしまった。うっわ、恵は心のなかでドン引きした。本当に一瞬だけだった。すぐに男は笑顔で「先程知り合ってね、少し話をしていたんだ」と答える。
「こっちの子は」
「俺の(隣の家に住んでる)姉です」
[[rb:全てを言葉に出したわけではない > 嘘は言っていない]]。
津美紀は察しがいい。笑顔で「姉の津美紀です」と頭を下げる。
「もう、恵斗ったら荷物持ちに来てくれるって言ったから待ってたのに」
「悪い津美紀」
「ああ、私がケイト君?を引き止めてしまったんだ。悪いねお姉さん」
「あ、いえ!何か込み入った話があるようなら私一人で買い物行くので…」
「駄目だ。最近不審者の目撃情報があるんだ。津美紀一人には出来ない」
「でもまだ明るいし…」
「ああ、ごめんね。急ぎの話じゃないんだ。ケイト君、時間があったらここに連絡くれれば予定を合わせるよ」
男は取り出したメモに何かを書き、それを俺に手渡した。紙には電話番号が書かれていた。む、と眉を顰める。「それじゃあね」と立ち去ろうとする男に「え、っと…名前は…?」と聞く。
「ああごめん、全く自己紹介をしていなかったね。私は夏油傑、呪術高専という場所で教師をしているんだ」
それは、教師だから安心していいよという意味なのか(別に安心する要素は無い)。それとも、特級術師夏油傑が来たぞという知らしめなのか。…人の良さそうな笑みを浮かべているが、そこに温度はない。だから、つまりそういうことなのだろう。
「連絡、待っているよ」
「――ええ、また会いましょう。夏油さん」
そんなこんなで、恵と夏油の初邂逅は終了した。すっかり夏油の姿が見えなくなったところでおずおずと津美紀が口を開く。
「ええっと、恵斗」
「もう普通に呼んでいいぞ」
「じゃあ恵…私余計なことしちゃった、かな」
「いいや。タイミング的には凄い助かった。でも話しかけられた時からもう目を付けられてたし、多分俺の表情読み取られてた。俺が嘘言ってるって気づいてる。完ッ全にあっちが上手だったな…あー、どうするか」
俺がやらかした、と恵は自己嫌悪に陥る。甚爾に迷惑をかけてしまう。「ああああ」と唸る恵の背中を、津美紀は気遣うようによしよしと撫でた。
因みに、甚爾がそんな報告を受けたとして「はぁん、夏油傑にバレたのか。ほーん、じゃあお仕置きだな。勿論ベッドの上で」っていうくらいには気にしない人間である。
「どーするかな…」
「あらん?恵ちゃんと津美紀ちゃん、どうしたの?」
「あ、薫子姐さん」
ド派手な衣装の薫子姐さんが居た。「今日はバーのヘルプですか?」と聞くと親指立てて「今日のアタシはバーのママよ!」と元気溌剌に言った。あそこのバーのオーナー、今日休みなのか。まぁどうでもいい話だが。
「夏油傑に遭遇して、バレました」
「あらあらぁ…災難ねぇ。じゃあソレは」
「監視用の呪霊、ですかね」
「多分眼の機能は無いわねぇ。何のための呪霊なのかしらん?」
「連絡先貰ったんで…多分圧掛ける為だけの呪霊だと思います」
ぐるりぐるり、蛇のような細長い呪霊が俺の身体に触れることなく纏わり付く。居場所を知らせるためだけの、雑魚呪霊。「そう」薫子姐さんはニッコリと笑ってその呪霊の頭を鷲掴みにした。え、何する気ですか、と言う前にグシャッ!と何かが…言わずもがな呪霊の頭部が潰れる音がした。
「えっ」
「?どうしたの恵」
「素手で、いや、えっ」
「たかが4級の呪霊よぉ、恵ちゃんにだって素手で潰せちゃうわ」
例えできたとしてもやりたくねえ…。ぐちゃ、びちゃっと滴る呪霊の血液…?体液が地面に広がる。ていうか潰しちゃったよ監視用の呪霊…。「えいっ」と潰れた呪霊を適当にぶん投げる薫子姐さん。電柱にぶち当たり、ぐちゃっ!と音を立てながら地面に落ちた。
「どーせあんなもの潰したところで問題ないでしょお?恵ちゃん、もうやることを決めてるんだから」
「まぁ、そうですけど…参考に聞きたいんですけど」
「なにかしらぁ?」
「俺と夏油傑、どっちが強いですかね」
薫子姐さんはにんまりと笑った。それだけで十分だった。
ゆらゆらと、自分の影が揺れる。
「ところで、恵ちゃんちょっと怒ってる?」
「ちょっと…どころか結構ですかね。夏油傑、津美紀に小声で『猿が』って言ったんですよ」
「えっ、わ、私…猿…?」
「ああ、有名よね。非術師のことを猿っていう特級術師。呪霊を生むのが非術師だから、毛嫌いしてるのよ。津美紀ちゃんのどこが猿なのかしらねぇ。こーんな可愛い子ッ!」
津美紀は薫子姐さんのお気に入りだ。というか薫子姐さんが津美紀を拾ってきて、実質保護者となっている。一方タジタジの津美紀。少し気の毒だなと思い「薫子姐さん、津美紀照れてますよ」とか嘘を言ってみる。
「うふふ、ついスキンシップが激しくなっちゃう。ごめんなさいねぇ津美紀ちゃん」
「い、いえ!」
「…で、猿呼びした夏油傑ですけど、呪力の無い人間をそう呼んでるんですよね」
「ええそうよぉ…あ、ああ成程。そういう」
甚爾は実家禪院家で、呪力が無いからと家の連中全員から『猿』と呼ばれ罵られていたと聞く。呪力の無い人間は、そもそも人間扱いされない家である。芥虫を見る目、嘲笑い、死んでも構わないというレベルの嫌がらせを平気で行う家。そもそも、それは禪院家に限った話ではない。呪術界の名家と呼ばれる殆どが、この思想を持っている。
同じように非術師をそう呼ぶのであれば、夏油傑もまた、腐った呪術師共と同類なのだろう。非術師の家庭の出だって聞いていた気がしたが、結局そんなものか。
恵にとっての地雷は甚爾だ。直接的間接的に甚爾のことを悪く言う奴は全員死ねと思っている。
だからそう、夏油はたった一言で恵の地雷を踏み抜いた。
「甚爾のことを同じように猿と罵るんなら、俺は夏油傑を許さない」
「そうよねぇ、甚爾君猿って言うよりゴリラだものねぇ」
…それは、ブーメランでは?んぐ、と咄嗟に出かけた言葉を飲み込んだ。「いや、薫子。ブーメランだろそれ」うっかり口から出てしまったのかと思い慌てて口を押さえた。が、自分の声じゃなかった。薫子姐さんの背中から、ひょっこりとアキ兄が顔を出す。
「あらァ、誰がゴリラですってぇ…?」
「お前と甚爾がウチの二大ゴリラだよ」
「うふふふふふふ、良いわよぉアキラ。話し合いは大事だものねェ…?」
薫子姐さんとアキ兄は肩を組みながら歩いていった。「相変わらず薫子さんとアキラさんは仲が良いね」にこにこと笑いながら見送る津美紀。間違っちゃいないんだが、あれは殴り合いの喧嘩になりそうだ。あれで気の合うコンビなのだから不思議なものだ。
「じゃあ、私はスーパー行くね」
「俺もスーパー行く」
「じゃあ一緒に行こうか。恵は夜ご飯何作るの?」
「…こう、そんなに難しくはないちょっと手の込んだ料理とか…」
「そんな大雑把じゃ、買うものの目星も付けられないじゃない…。うーん、一緒に作る?レシピも家にまとめてあるし」
「んー…じゃあ、ちょっと教わる。お前、料理上手だよな」
「ふふ。薫子さん、すごい料理が上手だから教わってるうちにだいぶ料理スキルがあがっちゃった。恵も今度どう?薫子さんのお料理教室。すぐ近くで毎週日曜の午前中にやってるの」
あの人そんなことまでしてんのか。ちょっとだけ興味がある。そわっとした俺に気付き津美紀が「じゃあ今度の日曜一緒に行こうか」と言った。ん、と頷く。
まぁ結局、薫子姐さんのお料理教室とやらには一度も行けないことになる。
◇ ◇ ◇
ワンコール、ツーコール、スリーぶつん、と呼び出し音が切れた。「はーい、こちら五条悟ぅー」やる気のない声が響く。
「やぁ悟、そっちはどうだい?」
『ファミレスでパフェ食ってる』
「この野郎」
『で、傑の方はー?』
「はぁ…。呪詛師は見つけられなかったけど大収穫。『恵ちゃん』見つけたよ」
『…え、田舎に来てまでナンパ?胸デカかった?』
「脳みそ砂糖で出来てんのか?伏黒甚爾の息子だよ」
『あー、そういえばそんな名前だったっけか。めぐみなのに息子かよ』
「管理人がそう言ってただろ」
『で、とっ捕まえた?』
「いいや、GPS用に呪霊は憑かせたけど」
『はぁー?逃げられたらどうすんの』
「それは無いかな。うん、良い目をしてたからね。あっちから出てくるよ」
『ふぅん、なら良いけど』
「でもまぁ、これで父親のほうが出てくるかはわからないね。誘き寄せられたら御の字だけど…んー、言いくるめて恵少年を飼い慣らすのも手だね」
『お?何傑、ちょっと気に入った感じ?』
「ふふ、まぁね。ああいう教え子が欲しいと思って…あ、」
『何』
「憑けてた呪霊消された」
『どうすんの』
「連絡先は渡してあるし、予想通りなら今晩にでも掛かってくるさ」
『あっそ。まぁお前の予想は外れたことねえしな。んじゃ年下イビリの準備でもすっか!』
「ほどほどにね」
『お前もな』
ぶつん、と通話が切れた。
さて、楽しませてくれると良いのだけれど。夏油は微笑みながらその場を後にした。
[newpage]
5.
「というわけで、夏油傑ぶっ飛ばしてくる」
「なにがというわけで、だ。それに夏油傑ゥ?お前会ったのか」
「それに関しては大変申し訳なく。汚名返上のため、とりあえずぶっ飛ばしてくる」
「待て待て待て待て!どうしてそうなる」
「俺の地雷を踏んだ」
「何したんだよ夏油傑…」
一旦家に帰ると、恵が呪具の手入れをしていた。殺気立ってるので何があったのかと聞いたら「夏油傑ぶっ飛ばしてくる」である。というかその呪具アキラのじゃね?「組合に行って使えそうな呪具いっぱい借りてきた」と自分の影に腕を突っ込み、ずずっと引っ張り出す。アキラの呪具から始まり、組合員が普段使っているであろう呪具がまぁゴロゴロと。あいつら自分の武器気軽に貸し出しすぎだろ。術式がない者、使い所が難しい術式持ちは、大体呪具を使う。ぶっちゃけ命の次に大事なものである。
「殺るからには全力で殺れ。応援してるぞってみんなから激励貰った」
「あいつら殺意高えな」
なんか慎重に事を運ぼうとしてる俺が馬鹿みたいじゃねえか。頭をガシガシと掻く。あー、もう。なんでも良いか。「で、お前夏油傑の居場所知ってんのか?」と聞くとぺらり、一枚の紙を取り出す。その紙には番号が書いてあった。
「連絡取った。深夜零時、山奥に廃病院あっただろ。あそこ」
「最悪建物吹っ飛ばしても問題ねぇな」
「むしろ更地になる」
「間違いねぇ」
ククッと二人して笑った。さて、遠慮要らねえんなら俺も全力で行くかね。ずるり、使役してる呪霊から呪具を取り出す。恵が、不思議そうにそれを見た。
「見たこと無い呪具だな」
「おう。使い所が今まで無かったから奥に仕舞い込んでたんだが、五条にこれは天敵だろうな」
特級呪具『天逆鉾』。
甚爾が禪院家を出る少し前に、どこぞのお偉いさんの忌庫に侵入して盗んだものである。高専のように、結界が張られていた場所ではあったが、そんなものは呪力を持たない甚爾には何の問題もなかった。あっさり盗み取り、いつ売ろうかと思っていたところ、その効果を聞き今までずっと隠し持っていた秘蔵の呪具である。ちなみに、結界を過信しているお偉いさんは、凄い呪具を持っているだけでステータスになると考えている阿呆なので、特に手入れをすることもない。盗まれて二十年以上経つが、未だに盗まれたことに気づいていないマヌケである。
「五条のガキは無下限呪法持ちだ。最強と言われる所以だな。あいつ自分自身に常時無限張ってんだ。どうあがいても攻撃が届かない。あいつの無限を上からぶっつぶせる呪力持ちだったら行けるかもしんねえけど、まあ俺には無理な話だ。そこでこれだ。術師殺しの天逆鉾」
「術師殺し?」
「こいつな、相手の術式を強制解除すんだよ」
「えぐい、それはえぐい」
わかりやすく恵は顔を歪ませた。そりゃあ術師からしたらこれ以上に嫌な呪具は無いだろう。
天逆鉾の術式強制解除能力と、五条の無下限呪法をぶつけたらどちらが勝つか。と疑問に思ったことがある。中国の韓非子ってやつだ。何でも貫く矛と何をも貫かせない盾、この二つをぶつけたらどうなるのか。「天逆鉾が勝つんじゃね?知らねえけど」呪具使いのアキラに聞いたことがある。
「天逆鉾って術式を消してるってわけじゃねえと思うんだよ。憶測だけどさ、多分反転術式を使ってる。マイナスとマイナスを掛けたらプラスの呪力になるってやつ。例えば無下限。無下限はマイナス呪力を使った術式、天逆鉾自体もマイナス呪力の呪具。普通に術式と術式や術式と呪力をぶつけても、別に掛け合わせてるわけじゃないからプラスにはならない。でも天逆鉾は多分相手の呪力に介入できるんだ。だから無下限に天逆鉾をぶつけたら、マイナスとマイナスでプラスの呪力になる。でも無下限はマイナス呪力でしか術式が成り立たない。だから形が保てず術式が崩壊する。だから術式強制解除」お前よくそんな難しいこと考えられるな、とその時思った。まぁ結論として、多分天逆鉾が勝つだろうってことになった。
「ま、これが効かなくてもやりようはあるしな。あ、それ良いな。貸してくんね?」
「みんなが甚爾には貸すなって」
「なんでだよ」
「呪具折られるかもしれないって」
「あいつら俺を何だと思ってんだ…」
二大ゴリラらしいぞ、という言葉を恵は飲み込んだ。手入れの終わった武器をまた影の中へ戻していく。九時過ぎ、約三時間余裕がある。そう言えばスーパー行って食材は買ったけど、結局組合寄ったり激励貰ったり武器や呪具の手入れしてたせいで料理なんかしている暇が無かったな。「なんか簡単に作るけど、何食い」ぐいっと恵の腕が引っ張られる。そのまま甚爾の腕の中へ。
「食うんなら恵だな」
「…いや、ちょっと待て。流石に無理」
「だいじょーぶダイジョーブ、いれねえから」
「そ…れ…だ、いじょうぶじゃな」
首をかぷりと噛まれた。「ん、あ」溢れる恵の艶のある声に甚爾は舌を舐めずる。移動時間考えて約二時間か…ま、物足りねえけど仕方ねぇか。横抱きに恵を持ち上げる。そのままベッドに放り投げ、どさりと転がった恵の上に乗っかる。無理、とか言う割にやりたいって顔するからいけねぇんだよ。口に食らいつき、貪り尽くす。
いれない、と言いながら結局最後まで致してしまうのは仕方のないことだった。
◇ ◇ ◇
午前零時、山奥の廃病院。にこにこと笑う胡散臭い男と、つまらなそうにする男。目をギラつかせ、獲物を狩らんとする男。そして、無表情に対面の男たちを見つめる少年。
先に口を開いたのは、つまならそうな顔をする男だった。
「おいガキ、保護者同伴か?」
「おーよ。未成年相手に零時に呼び出す教師ってどんな奴なのか見たくてよォ」
「え、つーかガキ幾つ?」
「十三」
「やば、傑。思ったよりガキだぞ」
「悟ちょっと黙ってて」
ガキ、と呼ばれた恵は五条を睨む。その様子に気づいた五条は馬鹿にするように舌を出した。夏油ははぁ、と溜め息を吐く。
「まったく悟は…すまないね、恵君。呼び掛けに応えてくれてありがとう。」
「名前、知ってるんですね」
「ははは、まあね。あの猿が機転利かせて偽名で呼んでたけど」
ぴくり、恵の身体が揺れた。ああ成程、ああやって地雷踏まれたのかと納得した。この話し合い中に何回恵の地雷踏むのかね、あの男。
「そういえば、そこの男も猿だったね。伏黒甚爾」
「ああん?」
「恵君は幸運だったよね。そんな呪力無しの猿と、非術師の猿との間に生まれて、でも呪霊が見える。呪力がある。術式はどうなのかな?筋は良さそうだし、きっと良い術師になる。――恵、か。うん、ぴったりの名前だね」
すっげ、恵の地雷の上でタップダンスしてるわ。正直甚爾もイラッとしているが、隣から刺さってくるとんでもない殺気に、自分が殺意を抱くことすら忘れてしまう。恵の殺気で皮膚がぴりぴりする。あと、俺は見えてねえけど多分影から何か出かかってるぞ。落ち着けよ恵。「あ?」呪力の流れが可笑しいのに気づいたのか五条はサングラスを外す。
「いや、いやいやいや!マジで?」
「何、どうしたの悟」
「アイツ術式持ってんぞ!」
「へぇ。本当に恵まれた子だねぇ」
「その術式!十種影法術…お前禪院家の相伝じゃねえか!」
「…それはそれは、禪院家の連中が喉から手が出るほど欲しがる逸材じゃないか」
でも、んんー。とわざとらしく顎に手を当てる夏油。「腐った連中に渡すのは、忍びないよねぇ」と笑い、視線を甚爾に向ける。温度を宿さない瞳。本気で呪力の無い人間を猿だと思っている目。禪院家の奴らと、同じ。
「伏黒甚爾」
「なんだよ」
「貴方が呪詛師だっていうことはわかってる。組合と関係があるかはまだわからないけど、私達が貴方を捕縛して拷問でもすればわかることだ。うん、でも息子さんは可哀想だよね。貴方みたいな猿の人生に付き合わされて。子は親を選べない、心底哀れだ。だから、私達が勝ったら恵君、貰うね」
「――あ"?」
「悪いようにはしないさ。立派な術師になる。貴方みたいな猿に育てられるよりずっと立派な人間に、」
夏油の言葉は続かなかった。「カハッ」と喉が詰まる。夏油だけじゃない、五条も、そして恵も同じ状況に陥る。甚爾の殺気が、全身に刺さり息ができない。巻き添え食らった恵は甚爾の腕を掴み、息を整えようとする。
「おい恵、お前の獲物寄越せ」
「…は…ッ。ふざけ、地雷踏まれたの、甚爾だけじゃねえってぇの」
「チッ」
甚爾の殺気により、五条も夏油も臨戦態勢に入っていた。元より話し合いで解決しようだなんて思っていなかっただろう。こっちだって、始めっから殺る気で来てんだ。どぷん、影に腕を突っ込み呪具を取り出す。扱いやすい刀。甚爾も自分の呪霊から呪具を取り出す。
「俺ら最強に勝てると思ってんの?お前ら」
「ハッ、てめえ最強でもなんでもないだろ。勘違い野郎共が」
「ぶっ殺す」
「やってみろよ五条のクソガキ」
「悟、あまり相手の挑発に」乗るな、と言おうとしたところで「満象」と呼ぶ声が響いた。瞬間とんでもない質量の水が襲いかかった。ザバンッ、と身体が水に押し流される。慌てて自分の呪霊を取り出し、水から這い上がる。その瞬間を空を飛ぶ式神に追撃される。チッ、舌打ち一つ。ちょっと侮りすぎたかな。
随分と悟との距離が空いた。
「[[rb:窮奇 > かまいたち]]」
呪霊『窮奇』、その名の通り鎌のような爪を持ったイタチだ。とりあえず様子見程度で二級呪霊を空飛ぶ式神にぶつける。様子見とは言ったが、窮奇の爪は鉄を紙のように切り裂く。その切れ味は抜群だ。式神くらい簡単に、って
「はぁ?」
ぐしゃり、あっけなく私の呪霊は式神の足に握りつぶされていた。どろり、泥のように私の呪霊が溶ける。へぇ、ふぅん、そうか。結構やるみたいだね?キィン、と横から飛んできた斬撃を槍で受け止める。
「チッ」
「君、術だけじゃなくて体術も中々出来るみたいだね。本当に、将来有望だ」
「ハッ、アンタの仲間になるなんざ御免だ」
「それは残念」
正面から真っ直ぐ飛んでくる刃を受け止める。式神使いって、術式上前衛になることはないと思っていたけど、うん中々だ。でもやっぱりここらへんは経験の差かな。足払いで恵の態勢を崩し、脇腹に柄を打ち込む。
「ぐっ」
「君、術師に徹底したほうが良いと思うよ」
「助言ありがとうございますッ舐めんな!玉犬!」
元々森に忍ばせていた玉犬が左右から夏油に牙を剥く。隙を見て脇腹の痛みに耐えながら恵は印を結ぶ。「あれが術発動に必要な動作か」と横目で見ながら槍で空気を切る。左から来る犬を躱し、右から来た犬の脳天を穂先で穿とうとしてピタリ、止まった。「蝦蟇、そのまま掴んでろ」大きな蛙の舌が、槍を掴んでいた。恵は刀を構え夏油の懐に入ろうとする。
「甘いよ」
仮想怨霊『口裂け女』を呼び出す。能力は互いの不可侵を強制する簡易領域、これにより玉犬と恵の動きが制限される。動けなくなった恵の首にひたり、大鋏の刃が当てられる。鉄の冷たさがじわじわと首を侵食する。ゆらり、恵の眼前に口の裂けた女が立つ。
【わ、わタ】
【わタシ、キれい?】
じっと、恵は口裂け女を見つめる。そして眉をハの字にした。
腕も足も動かない、印を結べなきゃ追加で式神は出せない。玉犬は俺と同じ状況。蝦蟇は夏油の武器を押さえてる。突破口は正攻法のみ、質問に答えるまで動けない簡易領域。ならば
「綺麗って思われたいならもっと身なりをしっかりするべきだと思う。よく姐さんも言ってるぞ、自分磨きは大事だって。女だからってちやほやされたいって思うのは傲慢だって。側面も内面も磨いて、いつも『一番の自分』を魅せることが大事だって姐さん言ってた」
【ア…ァア…】
「姐さんは『女性には優しくね』ってよく言うけど、女を盾にした勘違い女には真正面からぶん殴れって言われてる。悪いな。頭ボサボサで服もボロボロで、自分磨きも出来ない奴にお世辞言う気にもなれない」
【アァアアアアッ!】
「あと俺のほうが美人」
【ガアアアアァアア!】
うわ、なんか既視感。とその様子を見ていた夏油。口裂け女相手に「自分の方が美人」と言ったのは二人目である。まぁ言わなくてもわかるだろう。ていうか呪霊相手に正論述べないでくれ。あの子天然か?
大量の鋏が出現する。シャキン、と恵の首に当てられていた鋏がその首を落とそうと――したところで恵は影に自分の身体を飲み込ませる。刃は恵の首を切り落とすことなく空気を切った。
「黒、アイツの足食いちぎれ」
玉犬が口裂け女に食らいつく。【アァアアアア!】と絶叫を上げる呪霊に、影から引っ張り出したバタフライナイフを突き立てる。ぐちゃり、肉のような、それでも肉とは違う感触が手に伝わる。その感覚に眉をひそめながら、形が崩れ始めた呪霊からナイフを引き抜く。
ぱちぱちぱち、と手を叩く音が響いた。いつの間にか蝦蟇をふっ飛ばしていた夏油が、ニコニコとこちらを見ていた。
「いやぁ、ほんと中々のものだ」
「…アンタ、俺と真面目に戦う気ないのか?」
「うーん、そうだね。私は君を仲間に引き入れたい。だから君を傷つけるのは嫌だな」
「仲間?手駒じゃなくてか」
「術師は手駒じゃないよ」
「口ではなんとでも言える」
「…随分私は君に嫌われているようだね。何かしたかな?」
本気でわかんないのか?恵は呆然と夏油を見る。あんたが非術師を猿と呼ぶからだろう。津美紀も、死んだ母も、そして俺の一番である甚爾も。ゴミを見るように、俺の大切なものを見下して。ギリッ、唇を噛む。血の味がした。
「あんた、非術師がこの世から全員消えればいいとか思ってるのか」
「まぁ無理難題だけどね。でもこの世から非術師が消えれば呪霊も生まれない。綺麗な世界になるとは思わないかい?」
「…あんた、飯食ってるか?」
「は?」
「ここらへんの野菜、三丁目の飯塚さんが作ってるんだ。爺さん婆さんとその息子さんと。ここから離れたところだけど広い田んぼがある。甚爾の知り合いに農家が居て、ウチの米はいつもここのだ。美味いし」
「うん?」
「俺の知ってる限り、そういう人たちに呪霊が見える人は居ない。今着てる服、着心地いいしデザインも気に入ってる。これを作ってるのは誰だ?生活に必要なインフラを支えてるのは?」
「…非術師、だねぇ。まぁ私もそれは考えたことがあるよ。確かに、私達が生活する上で非術師は必要なものになっている。でも別に非術師に任せなくったって」
「非術師がやっていたことを術師にやらせる?それもおかしな話だな。それに非術師に比べて術師は圧倒的に少ない。術師だけで賄えるわけがない。――じゃあ次はこう考える。術師が非術師を管理すれば良い、とかな」
ぴくり、夏油の笑顔に影が落ちる。マジでそんなことも考えてんのかよ。ドン引きだ。
「非術師が呪霊を生まないように監視をしつつ、その労働力だけを使い潰す。それって、お前らも気に入らない上層部とやらと同じ思考回路じゃねえか」
夏油の笑顔が崩れた。
「――あのクズどもと、一緒にしないでくれるかい?」
「何が違う?呪術師を使い潰す呪術界の上層部、非術師を飼って使い潰そうとしてるあんた。結局は同じクズだろ」
「同じじゃない。巫山戯るなよ、私の苦悩も知らない餓鬼が」
痛い目見ないと分からないようだから、仕方ない。大人気なく本気になろうか。
「特級仮想怨霊『化身玉藻前』」
殺すつもりはなかったんだけれど、馬鹿は死んでも治らないと言うし、何を言ってもわからないだろうから、邪魔になる前に殺してしまおう。
「そして呪霊操術 極ノ番 『うずまき』…今まで取り込んだ呪霊6283体を一つにして、君にぶつける」
術式開示により、その威力を強める。オーバーキルも良いところだ。一度に6283体の呪霊の質量が君に襲いかかる。さて、君の死体は残るかな?
ふぅ、恵は息を吐いた。「玉犬・鵺・蝦蟇、戻れ」そういうと式神は影へと溶けた。真っ直ぐと、夏油傑と対峙する。
「命乞いでもするかい?」
「まさか。図星突かれてキレる奴に命乞いなんてするわけ無いだろ」
「…頭良さそうに見えたけど、意外と馬鹿なんだね君」
「ハッ、言ってろ」
ズドンッ
重苦しい恵の呪力が夏油に襲いかかった。待て、こんな呪力悟より強いんじゃあ…ッ。ギッと恵を睨みつける。先程までの影を媒介とした式神を召喚する印とは異なる、きっと別格であろう式神を召喚する印を結ぶ恵。
マズイ、多分これは自分が思ってる以上にマズイ…!
「歴代十種影法術師の中に、これを調伏できた奴は居ないらしい。過去に自爆同然でコイツを召喚した術師が居た。五条悟と同じ六眼無下限呪術使い相手の御前試合でな。そん時の五条の当主と十種影法の禪院家当主は仲良くコイツに殺されたんだとさ。――まぁ[[rb:俺には関係ないけどな > ・・・・・・・・・・]]」
なぁ、あんたが怒ってるのと同じくらい…いや、それ以上に俺はキレてんだぞ。わかんねぇだろ、夏油傑。
大切なものをクズ共に傷つけられる痛みをわかってるくせに、なんであんたも他人に同じことすんだよ。
「布瑠部由良由良」
殺しはしねぇよ。[[rb:扱いには慣れてるんだ > ・・・・・・・・・・]]。
「[[rb:八握剣異戒神将魔虚羅 > やっちまえ魔虚羅]]」
◇ ◇ ◇
「流石に十三歳の恵チャンに傑の相手は可哀想でしょ」
「さて、どうだかな。お前が思ってる以上に俺の恵はやる奴だぜ?」
「ハッ、じゃあお前はどうなんだよ。伏黒甚爾」
「テメエより強い」
「言ってろ雑魚が」
瞬間、二人の姿が消える。ガンッ、ガキン!と何かがぶつかる音は聞こえるが、常人にはその姿を捉えることは出来ない。
五条が拳を放つ。それを甚爾が游雲でいなす。相手の攻撃を受け流すことは出来るが、やっぱり当たらねぇな。ドンッ、と足を踏み込むと地面がへこんだ。溜めた力を足に乗せて放つ。
「いや、ウッソだろ」
五条の身体が吹っ飛んだ。背後にあった廃病院に五条の身体がぶち当たる。甚爾の足自体は五条まで届いていなかった。そこにある空気ごと圧でふっ飛ばすという力技。空気は無限透過してるもんな、止めると息できなくなるし。人間技じゃねえだろそれ。ふっ飛ばされたところで、建物は無下限ガードで悟の身体には怪我一つ無い。びっくりしたけど、ダメージ入らねえんじゃ意味がない。恐れるに足らず。
ざりっ、ざりっと朽ちた地面を踏む音が響く。天井が崩れ落ち、月の光が差し込むそこに甚爾が現れる。
「空気は無下限範囲外な。じゃあお前を湖の底に沈めたらどうなんだろうな。無限の内側の空気が無くなったら酸欠で死ぬか?」
「…お前、中々えげつないこと考えるのな。でも俺を捕まえるのが無理だろ。無限で触れられないんだから」
「いいや、案外お前を捕まえるのは簡単そうだ。まぁ湖なんてここらへん無ェからやんねえけど。しっかし予想はしてたけどお前を相手にすんの[[rb:面倒 > ・・]]だな」
面倒で終わらせんじゃねえよ、余裕振りやがって。手を構える。手っ取り早く蒼でも赫でもぶっ放して…ってこいつ殺しちゃマズいんだっけ?組合の情報吐かせねぇとだったか。チッ、こっちだって面倒だっつーの!
「おっさん、手加減してやるから死ぬんじゃねえぞ。聞かなきゃいけねえことあんだから」
「手加減されなくったってしなねえよ」
「赫」
瞬間、衝撃波が生まれる。それはまっすぐ甚爾に向かう。ドンッ、と赫にぶつかる音。直撃したな。壁、天井がガラガラと音を立てて崩れる。げ、やっべ足元まで崩れるじゃん。無限を使って浮かび上がろうとして「で、吹っ飛ばすだけしかできねえ術式でどうしようっていうんだ?」眼前に居た男に蹴りを入れる。が、その脚はあっさりと掴まれる。身体を捻り、もう片方の脚を甚爾の首目掛けて放つ。「おっせ」ブンッ!掴んだ脚をそのままに甚爾は五条の身体をぶん回す。そしてそのまま放り投げる。
「っと。お前、赫直撃したよな?」
「手加減してもらったおかげで耐えきれたぜ?」
「調子乗るんじゃねえよ。クソが」
「へーへー。んじゃ、本気で行くぜ?」
トンッ、軽やかな音と共に甚爾が消えた。
馬鹿な奴、どうやったって無限を張ってる俺に攻撃は届かない。でも俺の攻撃も効きやしない。やっかいだな。蒼で手足潰すか。
相手の呪力を追おうとして、あ、そういえば呪力無しの天与呪縛だったかと思い出した。本気で面倒くせえ!あいつが持っていた呪具の呪力を追って、そこに赫を打ち込む。炙り出して目の前に出てきたところを蒼で――ってあれ?赫を打ち込んだそこ。床に呪具が乱暴に刺さっていた。そして崩れた床には、四角い箱。――呪霊を一時的に捕縛出来る補助監督や窓が使う量産型の呪具で――アッ。ばきん、と四角い箱が音を立てて壊れた。
「この廃病院、呪霊がわんさか居たんだがぶっ殺そうと思ったところツテの呪詛師からそれ譲ってもらってよ。まぁトラップには使えるかなって呪霊詰め込めるだけ詰め込んで置いといたんだ。お前、大当たりだぞ」
「嬉しくねーッ!畜生!蒼!」
箱から大量の、六眼で情報を読み取るとその数は約100…詰め込みすぎだろ…!雑魚どもを『蒼』で一箇所に収束させる。呪霊は蒼に耐えきれず空間ごと潰される。ったく、俺は廃墟の掃除しに来たんじゃ
「最初からお前は俺に油断はしてたが、隙見せたのは初めてだな?」
「は?―― ぁ、」
ざくり、胸に呪具が突き刺さっていた。は、無限をすり抜け…違う、今の俺の身体に無限が纏われてない!ゴフッと血を吐く。大丈夫、致命傷じゃない。赫で男を吹っ飛ばす。同時に後ろに飛んで胸に突き刺さった呪具を引き抜く。びしゃっ、床に血が飛び散る。傷を、反転術式で。
頭を掴まれた。そのまま地面に叩きつけられる。腕を掴まれ木の枝を折るようにポキンと折られる。
「ッ、がァ!」
「お前他人馬鹿にし過ぎなんだよ」
甚爾が五条の手から天逆鉾を取り返す。それをそのまま自分に纏わりつく呪霊の中に戻す。
「俺が組合と繋がってるかもしれねえから生かして捉えようとして手を抜いた?違うだろ、[[rb:最初 > ハナ]]っからやる気がねえんだお前。自分以外のヤツは取るに足らない雑魚、興味がない、どうでもいい。だから他人を相手にしない」
なんだよ、その哀れみの目は。術式も、呪力すら無い人間がなんで俺にそんな目を向けるんだ。
ぐるぐると身体中に反転術式を巡らせる。傷口を閉じて、動けるレベルまで回復したらこいつをぶちのめして。
「おっと」ざくり、治した端から再び身体を切り刻まれる。びちゃり、びちゃり。自分の血が、床に撒き散らされる。傷は、治せるけど血を戻すのは…ッ。
「お前なんの為に生きてんの」
意味わかんねえ。
「俺から見たら、お前はただ意味もなく息をしてるだけに見える」
目ェ腐ってんじゃねえの。意味ィ?俺たちには野望があるんだよ。呪術界を塗り替えてやるって、傑と一緒に。
「それ本当にお前の意思か?夏油傑に言いくるめられてねぇ?お前の家の力を考えたら、仲間に引き込んだほうが動きやすくなるし利用もできるからな」
――は?
「夏油傑の良いお人形だよ、お前」
ばかに、
「馬鹿にすんじゃねえよ…ッ、俺が傑のお人形?ばっかじゃねえの!俺は、俺達は親友だ…ッ!信頼できる仲間だ!お前の言葉は俺と傑に対する侮辱だ!ふざけんな!」
こう、背中を預け合える関係って何ていうんだろうな。
うん?そんなことも知らないのかい悟は。
知らね、そういうやつ居なかったし。
――親友っていうんだよ。
ふぅん、親友…。俺と傑って、親友って事でいいのか?
えっ。
えっ?ち、違うのか?
ああ、いやそうじゃなくて。もう随分前から親友だと思ってたんだけどね、私は。
――そ、っか。
照れられると私も照れるんだけど。
うっせ!
「あああああ!ムカつく、オマエほんとムカつく!いいぜ本気出してやろうじゃねえかッ!」
身体は治癒済み、血が足りなくてふらつくが問題なし。逆に頭がスッキリしてる。気分は、言われたことが癇に障り最悪なはずなのに、でも随分心地良い。
「顔付き変わったじゃねえか。随分マシになったんじゃねえの?」
「オアイニクサマ。礼は言わねえぞ。代わりに全力でぶっ殺してやるよ」
「やってみろよ」
今まで何度やっても不発だった。でも今なら出来る気がする。
順転と反転、それぞれの無限を衝突させることで生成される、仮想の質量を押し出す――虚式、
「茈」
俺の全てを賭けて、オマエを
[newpage]
6.
「悟は術式をぶっ放した後貧血でぶっ倒れ、傑は式神使いの少年に完敗した、ということか」
「センセー!傷口抉るのやめてください!」
「もうオマエの先生ではない!まったく…田舎の山奥だったとはいえ帳も下ろさず暴れおって…!」
「それに関しては、大変申し訳なく…」
「つーか傑よく生きてたな?恵が言った通り魔虚羅を調伏できた術師は存在しない。恵が初だよ!やっべー!」
「君なんでそんなにテンション高いの…?」
ケラケラと笑う五条に若干引き気味の夏油。頭が痛いと唸る夜蛾。なんだか嫌な方向に一皮剝けたな?「生きてるってサイコー!」と両腕を上げてテンションマックスな五条に夜蛾の拳が降り注いだ。夏油の頭には大きなたんこぶが一つ、五条の頭には三つのたんこぶが積み重なっていた。
「ていうか伏黒甚爾の死体なかったって?」
「血と肉片はあったが、付近を探してもそれらしいものは発見できなかったそうだ」
「ゲーッ!茈にぶち当たっといて死なねえとか、アイツバケモンだわ。今度絶対殺す」
「…まぁ、こんな感じで任務失敗ということです」
組合の情報に行き着くかも知れないと当たりをつけた伏黒甚爾には逃げられ、その息子の恵にはこてんぱんにやられ意気消沈だ。勿論組合の情報など何一つ得られていない。
甚爾を相手にした五条は兎も角、夏油は一廻り以上違う少年に死ぬギリギリまで痛めつけられたのだ。大口叩いてこのザマ。手足は真逆に、いや、ぐにゃぐにゃに折れ曲がり、治癒に来た硝子に「夏油が軟体動物になった!」と爆笑された。硝子のメンタルの強さも中々である。同級生の身体がとんでもないことになってんだから少しはショック受けろよ。夏油のメンタルはボロボロである。「あはははは!傑の身体が軟体動物!」ひたすら爆笑する五条には、ちょっとだけ恐怖を感じている。
「どうしたお前、正気か?」硝子の言葉に「あっはは!正気だと思う?」と返す悟に私と、流石の硝子も引いた。
そんなこんなで完敗の最強二人。もう最強でもなんでもないな。
「とりあえず休養と、あと帳下ろさずにやらかした反省をしてろ!」と夜蛾に部屋を追い出された。
「はー、まじウケる。俺らぼろっぼろじゃん!あははは、は、は…あー…」
「突然電池切れるのやめなよ。なんなのさっきのテンション」
「…馬鹿にならないとやってらんない」
「伏黒甚爾はそんなに強かったかい?」
「強かったけど、そんなんじゃなくてさー…」
あいつわざと俺に本気出させるために炊きつかせたんだぜ。意味わかんねえ。と五条は唇を尖らせた。こっちも似たようなものだったよ、と夏油も肩を落とす。
「なぁすぐるー」
「なんだい?」
「俺、お前の親友…だよな?」
「えぇ…私は親友だと思ってたけど、悟は違うの?」
「最強じゃなくても?俺が五条じゃなかったとしても?俺、人形じゃないよな?」
「え、え?何、人形?何の話、」
思ったより五条のメンタルもボロボロだったらしい。「俺、ちゃんと自分の意思で生きてるし。人形なんかじゃねえもん」ぶつぶつと言う五条に、ああこっちもメンタル攻撃受けたのかと理解した。
「ずっと、悟は私の親友だ。たとえ最強じゃなくとも、悟が五条じゃなかったとしても、だ。何があっても私は悟を信頼してるし信用してるよ。あ、やっぱ信用はしてないかも」
「このやろう」
「あははは」
◇ ◇ ◇
組合事務所内の一角。反転術式使いのナツメの城でもある医務室でのこと。白いベッドに横たわる男が一人。その男を知っている人間は「なんとも似合わない光景だ」と言うだろう。ベッドに横たわっていたのは伏黒甚爾だった。その横には、息子である伏黒恵。
甚爾が目覚めるまで、恵は甚爾の側を離れず地蔵のようにぴくりとも動かずそこに居た。
昨晩のことである。
ボロ雑巾のようになった夏油を魔虚羅が摘み上げ、さて甚爾の方はどうなったかなと様子を見に行ったらとんでもない大惨事になっていた。五条の放った茈が甚爾の身体を半分抉っていた。それでも立ち、息をしていた甚爾は間違いなく化け物である。
初めてぼろぼろの姿の甚爾を見て恵は発狂した。「ああああああああ!!」と叫び声を上げる恵に、血を吐きながら「、ナツ…呼べ」と小さく零せば恵はナツメに鬼電をした。「ナツ姉えええええ!!!甚爾がああああああ!!!」ただ事じゃねえぞと思ったナツメは真夜中に飛び起きることになる。全く要領を得ない発狂中の恵にどうしようかと思っていたらドカン!とナツメの家の壁が無くなった。え?風通しが良くなった部屋に呆然。そして、そこには巨大な式神が。魔虚羅タクシーである。発狂してる主に代わり、冷静に物事を判断する魔虚羅。摘んでた夏油を適当に捨て、ナツメを迎えに行っていた。出来た式神である。
身体は半分抉れ、死にかけの甚爾を見た瞬間、ナツメは「あ、この人ちゃんと人間だったのか」と思ったり。でもこの状態でも生きてるんだからやっぱり化け物っぽいな、とも思った。だって臓器が重力に逆らうことなくバシャバシャ地面に落ちてるんだけど。発狂してボロボロの甚爾の身体にしがみつく恵を魔虚羅が無理矢理引き剥がし、ナツメは急いで反転術式で甚爾の身体を治す。「ひ、ひッ…とーじ…とうさ…あ、やだ…」号泣する恵をあやす魔虚羅。お母さんかな?
身体が抉れていたなんて嘘のように、甚爾の身体は元通りになった。息も、してる。一安心したナツメ。「恵君、もう大丈夫だよ」と声を掛けると恵は顔を上げ虚ろな目で寝ている甚爾を見つめた。
「とうさん、とーさん」
恵君が甚爾さんのこと父さんって呼ぶの、久しぶりに聞くなぁ。そう思いながら、ナツメは廃墟であったはずの更地を見回す。見知らぬ男が二人ぶっ倒れていた。…あー、そう言えば組合を探っている呪術師が居たって話でしたね。最強と呼ばれている二人。ぴくりとも動かないので近づいて様子を伺う。髪の長い男は手足がバッキバキに折れ曲がり、とんでもない事になっていた。うわぁ、と顔を引き攣らせるナツメ。もう一方は白髪の男。服はボロボロだが、怪我をしている様子は…ん?これ反転術式か。怪我をした先から反転術式掛けて動いてたんだろうけど、途中で血液不足になったなと予測した。とりあえず、敵だから放置でいっか。と立ち上がり、さて甚爾さんを組合に運びましょうかと振り返った眼前に、無表情の恵が立っていた。「ひえっ!」と声を上げるナツメ。
「め、めぐみくん?」
「…父さんの、身体抉ったの五条悟」
「そ、そうなんだ…それより、甚爾さん組合に」
「殺す」
えっ、とナツメは声を上げた。恵は影から呪具を取り出す。刃渡り15cmほどの妙に厳つい装飾が施された柄。おや、見覚えがあるぞ?確か刺した相手の呪力を奪い、呪力が尽きたら生命力を奪う呪具じゃなかったっけ?「楽には死なせねえ」とそれを五条の腹に突き立てようとする恵を「うわー!」と叫び声を上げながら必死に止めた。
い、一応位置づけは呪詛師だし人を殺すこともあるとは思うんだけど!でも恵君まだ十三歳だよ!?そんな子供に人殺しさせるのはちょっと!組合内でも「恵君にはまだちょっと早いし…」って言われてた案件だよ!?「殺す殺す殺す」それしか言わなくなった恵に「甚爾さんを!」と大声を上げた。ぴたり、恵の手が止まる。
「とーじ」
「そ、そう甚爾さん。傷は治したけど疲労は蓄積してるだろうし、こんな野ざらしの場所に寝かせておくのはよくないよね」
「…とーじ」
「だから組合の綺麗なベッドに寝かせよう?一応血も戻したけど、万が一もあって輸血の準備もしたほうがいいし、ね?その人達ほっといて、甚爾さん運ぼう?」
「…」
「……」
「…うん」
ナツメ姉さんはやりましたよ…!心のなかでガッツポーズした。
そして魔虚羅タクシー再び。片手に甚爾と恵を乗せて、もう片手にナツメが乗った。ズドンズドンと巨体が町中を歩く。これ非術師に見られたやヤバイやつだ。とりあえず数日経っても噂一つ立たなかったのでセーフだった事を追記しておく。
組合の事務所に到着し、さて医務室までどうやって運ぼうか悩んでいたら(魔虚羅がまた壁を破壊しようとしたけど全力で止めた)薫子が騒ぎに気付き顔を出したので甚爾をどう運ぼうかと相談したら、薫子がにっこり親指を立てて甚爾を横抱きした。衝撃の映像である。無事甚爾を医務室のベッドに寝かせ、そのすぐ隣に椅子を置き陣取る恵。まぁ、仕方ないよねとナツメは苦笑した。
「朝また様子見に来るからね」
「…うん」
「恵君も、ちゃんと寝るんだよ」
「ん」
そうしてナツメは自分の家に戻った。戻って、魔虚羅が壊した壁を見て「…あ、忘れてた」と崩れ落ちた。とりあえず壁修理の請求は甚爾さんでいいかなぁ…?夜中、下手すれば明け方に近い時間ではあるが迷惑承知で津美紀に連絡を取り、なんとか一晩を凌いだナツメである。
そんなこんなで夜が明けた。ぱちり、甚爾は目を開けた。
「あー…ここ組合の医務室か?…めぐみ?」
「…とーじ」
「おう、心配掛けたみたいだな」
「とーじ、とーじ」
上体を起こせば、恵が抱きついてきた。壊れたラジオみたいに「とーじ、とーじ」としか言わない恵に不謹慎だが可愛いと思う甚爾。顔を上げさせれば、目が赤くなっていたことに気付き「悪かったな」と素直に謝った。
「とーじ、なんで、そんな死にかけで」
「煽ったからなぁ。だってあいつクッソつまんねえんだもん。本気出させて、殺り合いたかった。押し負けてるけどな。下手したら死んでたかもな」
恵の瞳から光が消えた。あ、やべ。地雷踏んだわ。
今までこんな無表情な恵を見たことがあっただろうか。咄嗟にベッドの上に正座する甚爾。
「甚爾」
「はい」
「次死んだら殺す」
…どうやってだよ。と言いたい気持ちはあったがこれ以上地雷踏むとどうなるか甚爾にも予測できなかったので大人しく黙った。
「おれも、甚爾が死んだら死ぬからな」
「そりゃあおちおち死んじゃいれねぇな」
「でも俺が死んでも甚爾は生きろよ」
「ふざけんじゃねえわ」
「…ふふ、よかった。甚爾生きてて…」
すとん、と恵の意識が落ちた。くぅ、と寝息を立てる恵を甚爾はしっかりと抱きしめた。
[newpage]
終.
数日後、完全回復した甚爾と恵は組合事務所に居た。
「つーわけで俺ら県外に引っ越すわ」
「つーわけでって説明何もなかったんだが?」
「細けえこと気にすんなよ」
「細かくねえよ!」
両手に荷物を持った二人を、組合員が囲む。「俺も、まさか引っ越すとは思ってなかったんですけど」申し訳無さそうにする恵の両肩にも、しっかりと荷物が入ったバッグが下げられていた。準備万端行く気満々じゃん?と組合員の心が重なった。
「組合の情報は多分流れてねぇし、俺らは一応ってことで雲隠れするわ」
「どこいくつもりなのよぉ?」
「暫く言わね。お前ら着いてきたら嫌だし」
「着いていきたいです!」
「俺も!」
「自称兄姉は帰れ!」
アキラとナツメはぶーぶー!と文句を言う。知らん着いてくんな、俺と恵の生活の邪魔すんじゃね―よと手でシッシッと払う。
薫子は少し複雑な表情をしていた。組合の事を考えると、勿論甚爾達にはここを離れてもらったほうが良い。またいつ呪術師が甚爾を追ってここに来るかもわからない。…でも死んだお嫁さんと出会ってずっと住んでいた場所でもあるのよねぇ。そんな薫子の表情に気付いた甚爾が「気にすんじゃねえよ」よ薫子の肩を叩く。…甚爾君が良いのなら、それでいいわ。
「でも居場所くらいは教えときなさい。仕事の連絡は入るのよ」
「山さんに教えてあるから山さん経由してくれ」
「どんッだけ教えたくないのよ…!」
暫く恵と二人きりでいちゃいちゃしたい甚爾。絶対に引越し先教えねえと心に誓っている。それじゃあ、と標的を恵に変えるが「俺どこ行くのか知りません」嘘一つ無い顔に組合員全員が肩を落とした。
「つーわけで俺たち行くわ」
「別れの挨拶が十分程度だと…?」
「わーん!恵君ばいばい!元気でね!」
「ナツ姉も、元気で」
「一生の別れじゃねえんだからよ。どうせ仕事で顔合わせんだろ」
「仕事は仕事だろ!」
「うっせ」
むぎゅっと組合員にもみくちゃにされる恵を引っ張り出し、窓枠に足を掛ける。「じゃあな、元気にやれよ!」そう言って甚爾は事務所三階の窓から飛び降りた。「鵺」恵が式神を呼び出す。
「とりあえずどこ」
「駅。大宮まで行って新幹線だな」
「ん」
「なんで引越し先宮城…?」
「お前宮城が良いって言ったじゃねえか」
「…えっ、あれってそういう?」
「え?」
「…いや、なんでもない」.
文字数狂ってる。
或るあいの顛末、第4章です。
過去一で長い話になりました。9月中アップ予定でしたが無理でした!
幕間で硝子語りを書く予定だったんですけど合体させました。
甚爾・恵 (中2)VS 五条・夏油
ばちくそ書きたかった話です。特に恵VS夏油が。夏油が伏黒親子の地雷の上でタップダンスしてます。
天逆鉾その他諸々考察とか捏造になります。馬鹿なりに考えたけど意味わからなくなった。さらっと流してください。
あと津美紀ちゃんを捩じ込みました。保護者は薫子姐さんです。
次回は原作1巻のお話。本編はラストになります(多分)。
その後終章を書いて一応の完結予定です。
いつも読んでくださっている方々ありがとうございます!
コメント、スタンプ下さる方々、とても嬉しいです!ありがとうございます!
もうちょい続きますので引き続きお付き合いいただけたら幸いです。
誤字脱字多分あると思います。見つけ次第修正します。
あとがき
このシリーズであとがきとか書いたことなかったのですが、おまけ書きたくてあとがきを書きました。
いつも読んでくださっている方々、ありがとうございます!
どうにかこうにかして津美紀ちゃんねじ込みました。拙宅の津美紀ちゃんはママ黒のお兄さんが津美紀ちゃんのお父さんです。つまり恵とは親戚になります。津美紀パパは病気でお亡くなりになり、津美紀ママは暫く頑張るのですが蒸発しました。一人で居たところを薫子姐さんに拾われます。「この子、伏黒津美紀ちゃんですって!」「はぁ?」「え?」「…えっ」ざわつく組合。全員の目が甚爾に向けられる。
↓ ↓ ↓
【おまけ】
台本書きでごめんね。組合と津美紀ちゃんの初邂逅話。
恵「…え、母さん以外との人と…子供作ってたのか…?俺の姉…?」
甚「いやいやいやいや!ねえよ!恵の一個上だろ?そん時はもうアイツと付き合ってたし」
秋「そこらへんの女をヤリ捨てした可能性」
甚「ねぇよ!恵の教育に悪いこというんじゃねえ!」
彰「おまいう」
棗「実の息子に手を出してるギルティ。お巡りさんこの人です」
津「あ、あの…」
彰「でもほら、噂によると死んだ嫁さんに出会う前はヒモやってたんだろ?」
棗「えっ!本当ですか甚爾さん…うわ…ヒモ似合う…」
甚「おいナツメてめえ」
恵「紐?ってなんですか」
棗「エッ…えーっと…」
彰「仕事もせずに女の人の部屋に上がりこんで好き勝手するクズ男のことをいうんだよ〜恵君はそうならないように気をつけようね」
恵「甚爾一筋なんで心配しないでください」
棗「心配しかないのですがそれは」
彰「そん時の女の子供とか、無い?」
津「あ、えっと…あのー…」
甚「時期が合わねえだろ」
棗「時期とか言っちゃった」
甚「うわ墓穴」
彰「墓穴とか言っちゃった」
恵「…えーっと、実家に帰らせていただきます?」
甚「お前の実家は俺のところだろッ!」
棗「この場合の恵君の実家ポジションってどこです?組合?」
津「す、すみません!あのッ」
彰「直哉んところじゃない?」
棗「控えめに言って地獄になるのでは?」
彰「恵君迎えるってことになったら直哉が禪院ぶっ壊すって言ってたからむしろいいんじゃない?多分ノリノリで禪院家更地にするよアイツ」
棗「めちゃくちゃお兄ちゃんやってますもんね直哉さん…」
甚「だから!恵の実家は俺のところだし、禪院にはぜってえ渡さねえっつーの!あと、コイツは俺の娘じゃねえ!!」
棗「DNA鑑定でもしましょうか」
彰「めちゃくちゃ疑うじゃん、ウケる」
津「あ!あのッ!私のお父さんは病気で亡くなりましたし、この人が私の父親ってことは絶対ないです!」
甚「ほらみろ!違っただろ!」
棗「日頃の行いが悪いから疑われるんですよ」
甚「日頃から恵しか愛してないのになんで疑われるんだよ」
彰「そういうところだよ」
山「そして俺からも一つ」
彰「山さんまで乱入してきたぞ…」
山「ざっと調べてみたら、甚爾の嫁さんと伏黒津美紀の父親が血縁関係だったぞ。嫁さんの兄がその子の父親だ」
棗「えっ…つまり、親戚ってことですか?」
山「そういうことになるな」
彰「つまり甚爾の娘と言っても過言ではないと」
甚「過言だろ」
棗「流石に無理があります」
薫「あら、津美紀ちゃんの親は私よぉ。書類ちょちょっと書いてきたわ」
甚「えっ」
恵「えっ」
彰「えっ」
棗「えっ」
津「えっ」
甚「いや、津美紀が驚くの可笑しいだろ」
津「は、初耳でした」
彰「薫子が親とか可哀想…」
薫「ああん?」
彰「ドス効きすぎィ!」
恵「あの、すごくデリケートなこと聞いてもいいですか」
薫「あら、なぁに?」
恵「この場合、薫子さんは母親になるんですか、父親になるんですか」
彰「…」
棗「…」
甚「ぶはははッ!ひぃ、ははははは!はっ、ゴハッゴホゴホッ!」
彰「…ヒッ、ぶ…あははは!た、確かにデリケートな問題だわ!」
棗「笑いたくなる気持ちはすごいわかるんですが、甚爾さん爆笑し過ぎでは?」
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