1.
「ふっしぐろー!」
背後から大声。おはよ!と思い切り背中を叩いてきたのは同じクラスの虎杖だった。「痛ッ!」と身体が前のめりになる。もうちょっと力加減をしろよと目で訴えれば「ごめんごめん」と虎杖は手を合わせる。「はよ」と返せば何がそんなに嬉しいのか、にこにこと笑う。本当にコイツいつも元気だな。「数学の宿題やった?俺全然解かんなかったんだけど」「見せねぇぞ」「エッ!?」絶望的な表情を浮かべる虎杖に笑う。
虎杖悠仁は宮城に引っ越してすぐに友人になった人間だ。引っ越したところの近くに虎杖家があり、つまりご近所である。最初は気が合うタイプの人間じゃないなと思っていたが、なんでか俺に興味を持ったらしい虎杖がぐいぐいと来て、話しているうちに随分と仲良くなった。
人懐っこくてお人好し、口先だけじゃなく即行動に起こし見返りは求めない圧倒的善人。その人柄から何処と無く薫子姐さんを彷彿とさせた虎杖に、俺と甚爾は知り合って数日「頼むからオネェにはなってくれるなよ」と言い、それに対して虎杖は目をカッ開き「なんでオネェ⁉ならんけど⁉」と混乱の渦に陥れてしまった。あれから一年ほど経っているが、今でもたまに「…俺、別にオネェっぽくなってねぇよな?」と不安そうに聞いてくるから正直すまんかったと思っている。ちなみに甚爾は聞かれる度に肯定も否定もせず爆笑している。やめてやれ、せめて否定してやれ。
中学二年の途中で虎杖と知り合って三年でも同じクラスになって、高校に上がってもずっと一緒で。組合の人間ならまだしも、非術師の虎杖とこんなに仲良くなるとは思ってもいなかった。甚爾以外の人間なんか必要ないと思っていたのに、上辺っ面だけよくして上手く利用して、それでお終いの関係で良かったはずなのに。何故だか虎杖の隣は居心地が良い。甚爾とはまた違った居心地の良さで――
「浮気か?」
「ひゅッ」
「あ、甚爾さん。おはよーございまーッス!」
「おー、お前相変わらず元気良いな」
背後から突然の甚爾の声に心臓が口から出るかと思った。気配完全に消して後ろに立つなよ。そのまま俺を抱きしめる甚爾を特に気にすること無く虎杖は「甚爾さん朝帰り?」「人聞き悪い言い方すんな。仕事帰りだっつーの」「今帰りなら朝帰りじゃん?」なんて会話を続ける。
「面倒案件片付けてきたっつーのに俺の恵は同級生とイチャイチャしてるし、俺ってば不憫だな?」
「イチャイチャっておっさんぽいよ甚爾さん」
「誰がおっさんだ」
「親友と仲良く登校してるだけで難癖付けられたくありませーん!なぁ?伏黒」
口を尖らせる虎杖に頷いて同意する。上に視線を移し、俺の頭上にある甚爾の顔を見上げる。妙ににやにやしてる顔が若干イラッとさせる。
「俺が浮気してると思ってんのかよ」
「一ミリも?」
当然、といった表情だった。そのまま乱暴に顔を掴まれ頬が潰れる。何すんだ、と声を上げる前にがぶりと口を噛まれた。「この角度やりずれえ」なんて言いながら甚爾は二度三度と俺の口を食む。甘噛して、舌を絡め取られて。ふ、と息が漏れた。するりと顔を掴んでいた手は首筋へ、そして更に下へ。ボタンを一つ外していたワイシャツへと伸び、そして
視界の隅で何かが揺れた。
微睡みかけていた意識が覚醒する。
「…あ、」
「お、俺空気なんで気ニシナイデクダサイ。あ、でも流石に道端でそれ以上はマズイと思う!俺のことは気にしなくていいけどさ!空気だから!」
「空気なら気配消せ」
「無茶言わないでくれる⁉」
虎杖が顔を両手で覆いながら、それでも指と指の間からしっかりと俺たちを見ていた。
俺は甚爾を見上げ、虎杖に視線を移してそして甚爾をもう一度見てうんと頷いた。油断していたであろう甚爾の顎に拳を一発お見舞いしてやった。「おまッ」と声を上げて甚爾は蹌踉めく。腕が緩んだ瞬間を狙い甚爾の腕からすり抜け虎杖に向かって駆け、そのまま虎杖の腕を掴む。
「遅刻するから行くぞ」
「まだ時間に余裕」
「無ぇ!」
「ハイッ!ギリギリです走りますッ!」
そのまま俺と虎杖は走り出した。後ろから「チッ、逃げられたか」なんて少し不機嫌そうな声が聞こえた。次いで「めぐみぃー今日帰ってきたら覚えてろよ」どこか意地悪じみた声色で言った甚爾の言葉を背中に受けてそのまま恵達は甚爾の視界から自分たちが消えるところまで走り続けた。
虎杖は走りながらちらりと伏黒恵の顔を見た。驚くほど普通の表情だった。人前でキスされて恥ずかしがったり、不機嫌だったりという表情ではなく、いつも通りのちょっとクールぶってる伏黒の顔だった。
でも、うん。俺にはバレバレだぞ伏黒。
虎杖悠仁は伏黒恵の親友である。[[rb:今はまだ > ・・・・]]付き合いはそんなに長くはないが、それでも互いが信頼し合えるくらいに仲が良いと思っている。甚爾の次くらいには、伏黒恵に理解があって、そしてよく気づく人間だ。
「耳、真っ赤だぜ伏黒くんよ」
「……う、るせえ」
ツンツン頭からちょっと覗く耳が真っ赤になってるところを、虎杖は決して見逃さなかった。
こういうところがツボなんだろうなぁ甚爾さん、とか虎杖は思ったりした。
[newpage]
2.
虎杖悠仁は善人である。そう恵が言った時、甚爾は「んン…」と苦い顔をした。
確かに虎杖悠仁は底抜けのお人好しではあった。引っ越してすぐの頃、虎杖悠仁は俺たちの家に来て「ここらへんの案内しようか?安いスーパーとかおすすめの惣菜屋とか!あ、これじいちゃんが作った野菜!よかったら食べて!」初対面でぐいぐい来る。流されるままに虎杖について行き「あそこの八百屋のおっちゃんは気難しそうに見えるけど実はただの恥ずかしがり屋でさ〜」「あら、悠ちゃん知り合い?」「近所に引っ越してきた人!伏黒さん!」「あらあら〜どうぞよろしくご贔屓に」「ここのコロッケめっちゃ美味いんだぜ」「悠ちゃんったらもう嬉しいわぁ、ほら食べていきなさい!伏黒さんも!」「わーい!あんがと!」「…あ、ありがとう」「ゴザイマス」虎杖の人柄を見せ付けられた。めっちゃ近所の人たちに可愛がられてる。「お、ばあちゃん荷物重そうだね。持ったげるよ。家どこ?」なんて見知らぬ老人の荷物を持ってやっている虎杖悠仁を見て「あんな人間マジで存在すんのかよ」とびっくりしたこともあった。
まぁ、確かに善人ではあった。でも普通じゃなかった。
「伏黒さんはさ、伏黒のこと…って分かりづらいな。同級生だし恵でい」
「却下。気安く恵って呼ぶな」
「おおう…せめて最後まで言わせてよ。んじゃー甚爾さん?と伏黒でいっか。甚爾さんはさぁ、伏黒のこと好きなん?」
こてん、と首を傾げた。俺を真っ直ぐみる虎杖悠仁の瞳に少したじろぎながら「まぁ実の息子だしな」と言えば「そういうことじゃないってわかってるでしょ」と口を尖らせた。
「伏黒の鎖骨、めっちゃ痕付いてた」
「なんで俺に言う?」
「だってあれ付けたの甚爾さんでしょ」
「恵が言ったのか」
「んー、違うけど」
「…お前、俺にカマ掛けたか?」
「いや、カマ掛けんでもわかるって」
普通わかんねぇって。外では完璧に『普通の親子』を演じてたはずだ。変に怪しまれたことだって無いはずで。「え、でも甚爾さん普段からめっちゃ伏黒のこと、なんつーか甘ったるいっていうか…愛おしそうに見てんじゃん?」マジでか。「伏黒も甚爾さん目の前にするとテンションがちょっと上がるよね」それはまぁ確かにある。微々たる変化だけどな。
「んで、親子でそんな関係は異常だって言いてぇワケ?」
「え?別に。普通じゃねえなとは思うけど、でも普通である必要は無くね?」
本気で「何か問題でもあるん?」という表情をしていた。
ここで俺は確信する。コイツイカれてんな、と。
「俺さ、人が幸せな顔してんの見るの好きなんだ」
普通に生活して、普通の幸せを享受して、幸せそうにしてる人たちを見るのが好き。小さな幸せでもいいのだ、綻ぶような笑みでも、面白いことがあって大笑いしている姿でも、なんでもかまわない。ただ人が人として幸せにしている姿を見るのが好き。
「伏黒があんなに幸せそうにしてるの[[rb:見たことなかった > ・・・・・・・・]]からさ、どうしたんだろうなーって伏黒観察してたら視線の先に甚爾さんいて、伏黒の幸せは甚爾さんなんだってすぐわかった」
伏黒が心底愛おしい目で甚爾さんを見る姿を見るのが好きだ。幸せそうにしている伏黒を見ていると、自分も嬉しくなる。なんでだろうな、なんて理由はわかってるんだけど。だって、俺が最後に見たのは、アイツが苦しそうにしている顔だったから。…だから今この時、伏黒が幸せそうで良かったって心の底から思ってる。その幸せが一般的に普通じゃなくたって別に良いじゃん。別に誰かに迷惑かけてるわけじゃないし。男同士?親子同士?知らんよ、幸せならなんだっていい。
目線の先、少し遠いところで子供が楽しそうに遊んで笑っている姿を幸せそうに見ながら虎杖悠仁は言う。
コイツどっか壊れてんな。んでもって、コイツ自身も気がついてる。普通の家の子供だと思ってたが、いったいどんな生活送ったらこんな壊れた餓鬼になるんだよ。
呆れたため息が出る。
「お前の幸せはどこにあるんだ?」
「みんなが幸せなら、俺も幸せだよ」
自分で自分を呪ってる馬鹿みたいにお人好しな子供。善人であることを強要されているような、苦しい生き方をしている奴。虎杖悠仁は、絶対に他人を見捨てられない。
だからまぁ、組合の息が掛かった『窓』の人間から「今、お前の息子の同級生の虎杖悠仁、特級呪物食ってとんでもないことになってるぞ」と聞いた時は「いつか絶対やらかすと思ってた」と思いっきり本音が飛び出した。自業自得だ、んな馬鹿はほっとけばいいと…思えなかったのが俺の甘さだ。なんだかんだで恵と共に虎杖悠仁を気に入っていた。
ジュジュツキテーやらなんやらで秘匿死刑確定じゃね?仕方ねぇな、ちょっくら匿ってやるか…と腰を上げたところで窓の奴が俺に爆弾をぶち込んだ。
「あ、今お前んとこの息子、虎杖悠仁と一緒に五条悟に連れて行かれた」
「…あ"?」
とりあえず手加減無しで五条殺す。
[newpage]
3.
集団生活での弊害ってヤツだよな。部活入部強制とか面倒すぎるだろう、と思っていたら「名前だけ貸してくれればいいから!ユウレイでいいのよーオカ研だけに」とメガネの先輩に呼び止められた。
心霊現象研究会、通称オカ研。これを聞いた時に「都合が良いな」と思った。ボロを出す気はないが木を隠すなら森の中と言うし、鬱陶しい呪霊の跡を辿るときに例え高専所属の窓に見つかっても『心霊現象研究会』だから怪しい場所を探索してるといえば誤魔化しも効く。あとは普通に緩くて楽そうな部活だから、という理由。秒で入部届を書いた。隣に居た虎杖も「俺も爺ちゃんのお見舞いとか色々あって五時までには帰りたいから入りたい!」と一緒に入部届を書いた。「やった!新入部員が二人も!ようこそユウレイ!」俺らの扱いも中々なもんだが、あんたらも本当にそれで良いのか。「よろしくお願いっしゃーっす!」虎杖は幽霊らしからぬ元気な挨拶をした。多分虎杖は頻繁に顔を出すんだろうなと思った。俺は付き合うつもりはないが、とその時は思っていた。
入部して半月ほど経った頃。確かに幽霊で良いとは言われたが、それでもたまには顔を出した方がいいかと部室に行くと、これが意外と快適だった。教室は五月蝿いし、屋上はそもそも開放されていない。図書室も意外と人が居るし…と流れ着いた先が部室だった。先輩と俺達で最大でも部屋には四人しか居ない、いくら騒いでも教室より全然マシ。怪談話の最中は寧ろ静か。…快適では?そう気づいてからは結構部室に入り浸るようになった。
そしていつの間にか入学から二ヶ月が経過していた。
今日も部室は静かで居心地が…
「こっくりさんこっくりさん、生徒会長がギリ負ける生き物を教えて下さい」
今日はまったくもって静かではなかった。「クリオネだってぇー!雑ッ魚!」クリオネに負ける人間ってなんだよ。馬鹿騒ぎをしている三人の声をBGMに少し離れた場所で俺は本を読んでいた。
「伏黒もやろうよー!」
「遠慮します」
「オカ研部員の自覚は無いのか⁉伏黒部員!」
「幽霊なんで」
「やかましいわ!」
「幽霊で良いって言ったの先輩ですよ」
「ぐぬぬ…」
悔しそうにする佐々木先輩を井口先輩と虎杖が宥める。
「でも先輩、伏黒って結構付き合い良いじゃん?」
「えー、そう?そりゃあちょっとは部室に顔出してるけど」
「この前の心霊スポット行ったときだって、伏黒「あんたらだけじゃ心配なんで」ってついてきてくれたし。廃病院とトンネルと廃れた神社と」
「…あれ、本当だ」
「活動はしてなくても最低週三くらいは部室に顔出してるし」
「…えーっと、今週は」
「月水木、で今日は金曜だ。今週は火曜日以外来てるな」
「火曜日先輩たちが来てなかっただけで昼休みは俺たち居たよ」
「じゃあ毎日来てるじゃない」
「そうだよ。ツンケンしてるけど伏黒ここ結構気に入ってるもん」
「へぇー?ふぅーん?」
三人の視線が俺に集中したのがわかった。俺は読んでいた本に指を挟み顔を上げる。
「教室より五月蝿くないんで」
「恥ずかしがらなくてもいいじゃない。ほぼ毎日、しかも放課後まで顔だしてるんだもの。オカ研が好きってことよね!」
「甚爾が帰ってくる時間に合わせてるだけなんですけど」
「甚爾って誰だ?」
「伏黒のとーちゃん」
「仲良いのか?」
「んー…すごく仲良いよ」
「ちょっとの間は何だ?」
それはー…うん。と口をもごもごとさせる虎杖。「伏黒の父親の話はどうでもいいのよ!」と佐々木先輩。口をつまらせた虎杖を気にしながら「まぁまぁ」と佐々木先輩を落ち着かせようとする井口先輩。なんか今日はいつもより少し騒がし、
「オカ研ッ‼」
訂正、今日は随分と騒がしい。プランクトン会長、ではなく生徒会長が「活動報告の無い研究会に部室を充てがうほど〜」と勝手にぺらぺらと話し始め…待て、今日から陸上部の更衣室になるだと?それは困る。校内の避難場所が無くなる。
虎杖とアイコンタクトをする。うんと頷き虎杖は机の中から分厚いファイルを取り出す。にやりと佐々木先輩達と井口先輩が笑う。
「わが校のラグビー場が閉鎖されている理由はご存知ですね?」
「ああ、利用者の多くが体調不良を訴え入院したからな」
「その通り!おかしいと思いません?実は彼らが体調を崩す直前…」
まぁ簡単に説明すると、建設会社の吉田さんとやらが借金で首が回らなくなり、金を借りていたヤクザに殺されて死体をここに埋められた。殺された吉田さんが怨霊となって死体を埋められた場所、ラグビー場に居る人間を呪ったからラグビー部員は次々と入院していった、というありがちな話だ。
その話を聞いた会長は冷静に「マダニが原因だそうだぞ」と返した。現実的返答である。
沈む佐々木先輩。宥める井口先輩と虎杖。そんな三人をギッと睨みつけ、会長は口を開く。はぁ、仕方ない。ちょっとは援護射撃してやるか。
「ガキの遊びじゃないんだよ‼妙な噂ばっか流し、」
「因みに、二十五年前までは」
「…伏黒?」
「二十五年前まではラグビー場ではなくサッカー場だったらしいです。二十七年前、サッカーゴールが倒れてサッカー部員の脚が挟まれた。酷い怪我をしたらしいですよ。その翌年、またゴールが倒れた。幸いその年は怪我人は居なかったそうです。さらに翌年、またもやゴールが倒れた。生徒が一人、ゴールに頭を潰されて死亡しています」
「そ、そんな話信じられるわけ」
「事実です。そのファイルにも記事が挟んであります。そこから十年ほど、あの場所は曰くつきとして放置されます。その間、空き地となったあの場所で屯していた生徒やら他校の不良やらが怪我をしたり行方不明になったりという事件事故が多発。一度お祓いをしてもらったみたいですね、随分濁した表現でしたが学校活動記録に載っていました。それから数年は何事もなかったようですがここ最近で校長が代わり、あの空き地は勿体ないということで整備されラグビー場が出来ました。そうしたら」
「…また、へんなことが起こり始めた?」
「緩やかにですけどね」
「…だってさ、会長」
「そッ、そんな話信じられるわけ無いだろう!そんな非科学的な!」
「プランクトン会長めっちゃ震えてるじゃん」
ガクガクと身体を震わせる会長…と佐々木先輩と井口先輩。あんたらオカ研ならもうちょっとホラーに耐性つけろよ。
会長は佐々木先輩からファイルを強奪する。「全部デタラメだ!」とファイルを開きページを捲る。暇つぶしで作った割には中々いい出来になったヤツだ。活動報告…として成り立つかは不明だが。
人を騙すには嘘の中に本当を混ぜておくことが重要だ。これは嘘だがこっちは本当の出来事だ、ならばこれは?と人を疑惑の渦に落とすことが出来る。疑心暗鬼。嘘の情報を呪術師に流す時のコツと一緒だ。
まぁラグビー場に関しては嘘偽りなく全部本当の話である。死体云々も、生徒の怪我も。
死体が埋まってるから、引き寄せられて呪いが集まっている。それが学校の人間にちょっかいを出し少しずつ力を付けていく。ラグビー場の閉鎖がもう少し遅かったら大怪我するヤツも多分出てきてただろう。あとは呪術師の仕事なんだが、ぶっちゃけ来てほしくない。しかし自分で祓ったらそれはそれで問題だしな…暫く見ないふりを続ける。
…でも、最近少し呪霊の様子が…。
なんて考え事をしていたら「…ぃ、おい!君ッ!」すぐ前に会長が居た。なんですか、と顔を向ける。
「伏黒恵、だったか」
「そうですけど」
「これは君が作ったと聞いた」
「まぁ」
「見やすい」
「は?」
「見やすく、綺麗にまとめられている。知りたい情報もすぐに見つけられることが出来るし、ストンと頭に入る。内容は不快極まりないがな!」
「…どうも?」
「そこでだ。君その能力を活かし、オカ研を辞めて生徒会に入らないか?」
「入らねぇよ」
何いってんだコイツは。「ちょ、伏黒はわがオカ研の部員よ!生徒会なんかに渡すわけないでしょ!」「流石に黙ってられない発言だ!」「プランクトン会長海に帰れ!」と三人が騒ぎ立てる。「えぇい!うるさいぞオカ研!」アンタも五月蝿い。「そもそも虎杖悠仁!オマエの籍がオカ研ではなく陸上部にある時点でおかしいだろう!」「はぁ?俺オカ研ですけどォ⁉」「俺が書き換えた!虎杖は全国制覇に必要不可欠な存在だからな」五月蝿いのがまた増えた…。頭が痛くなる。
そして何故だか虎杖と陸上部顧問が、俺達のオカ研入部を掛けた陸上競技勝負をすることになるのだが…なんでそうなった。虎杖は兎も角、陸上部に俺は関係ないだろ。「では顧問が勝った暁には、伏黒は生徒会ということで」ふざけんなミジンコ会長。
「虎杖」
「ん?」
「勝てよ」
「俺を誰だと思ってんの?」
「お前が負けたら俺は生徒会行き、帰りが遅くなって甚爾との時間が短くなる。そんなことになったらお前マジで許さねえからな」
「こっわ…マジトーンやめて??」
まぁ甚爾や薫子姐さんと並ぶゴリラなので、当然のごとく虎杖が勝つわけで。「いえーい!」と嬉しそうに手を上げる虎杖に仕方無ねぇなとハイタッチをする。瞬間、ビリッと嫌な呪力を感じ取った。
「…虎杖、お前」
「あ、伏黒にはバレちゃう?やっぱり」
「お前俺が呪…いや、それよりお前何を持ってる?お前が持ってて良いもんじゃねえだろ」
「いや?これは俺が持ってなきゃいけないやつだよ」
「……」
「俺が、やらなきゃいけないこと。大丈夫、伏黒達には迷惑かけねえよ」
「…別に、迷惑じゃ」
「あ、やべ。もう半過ぎてんじゃん!俺、じいちゃんの[[rb:見送り > ・・・]]するから!じゃあな伏黒!」
俺がすべてを言う前に虎杖は走り出してしまった。流石50mを3秒で走る男、一瞬で虎杖の背中は点になった。一体虎杖が何を考えてるのか問いただそうと思ったのに…仕方ねぇな、明日無理にでも聞き出すか。
「…つーか虎杖、見送りとか言ったか?」
どこか違う病院にでも移転するのだろうか。最近虎杖の爺さんにも会ってなかったし、病院移転で余計に会う機会が少なくなるのなら俺も虎杖についていけばよかったな。今更姿が見えなくなった虎杖に追いつけるわけもなく、仕方ない、後で虎杖経由で見舞いでも送らせてもらおうと考えた。
[newpage]
4.
「『クソ面倒な案件掴まされた。戻りは三日後』…か」
家に帰るとそんな置き手紙があった。『暇だったら悠仁と遊んでろ』と金まで置いてある。明日土曜だし、まぁ暇ではあるか。窓を開け、虎杖家へ視線を向ける。家は暗かった。虎杖は病院からまだ帰ってきてないようだ。窓を開けたまま、帰り道の途中で買った食材を冷蔵庫に仕舞う。飯…一人だし適当で良いか。湯を沸かし、カップ麺でも…と思ったところで
「…ッ、な…んだ?」
ぞわり、
全身を這うように重くどんよりとした呪力が襲いかかった。攻撃を受けたわけではない。とんでもない呪力が放出された、その余波だ。もう一度、窓から外を見渡す。…学校か?感じ取った呪力には覚えがあった。数時間前、虎杖から感じ取った呪力だ。虎杖自身の呪力ではなく、虎杖が持っていたであろう呪物が纏っていた呪力。
「あの馬鹿、なにやらかしたんだ…ッ」
印を結び鵺を呼び出す。鵺に掴まり学校まで頼む、と頭を撫でる。
嫌な予感しかしねえ。さっきからぞわぞわする呪力は不快で、それでいてどこか覚えがあるような…気の所為、じゃない気がするのに全然思い出せねえ。
学校が見えた。そんでもって、屋上に人影一つ。虎杖だ。鵺に指示を出して、屋上の虎杖の背後に降り立つ。
「…やっぱ気づく?」
「あんだけ異質は呪力出せば誰だって気付く。何をした。お前は術師じゃない、呪力だって無かったはずだ」
「うん、呪術師じゃない。呪霊だって見えない」
「虎杖、こっち向け」
虎杖の肩を掴み、無理矢理こちらを向かせる。見えた虎杖の顔は、苦しそうだった。
ふと、虎杖が何かを手に持っていることに気付く。目線を少し落として虎杖の手を見てぎょっとする。指だ。ずっと感じ取っていた呪力を放出する呪物。
「これ両面宿儺の指。さっき封印解いた」
「両面、宿儺…なんで、そんなもん」
「ちなみにこれ、ウチの学校の百葉箱にあったんだぜ。ウケんね」
「ウケねぇよ。なんでンなもんが百葉箱に」
「俺に取り込ませる為」
「…は?」
「俺は宿儺の器だから。だからアイツはわざと俺の近くに指を置く。興味を持たせるために。別にいいんだ、何度だって俺は宿儺の指を取り込むから。今度はちゃんと、終わらせてやる。今回駄目でも、次も、その次だって」
「いたど」
いつだって笑っていた虎杖が、いつも通りに笑っている。その不自然さが不気味で。だから反応に遅れた。虎杖は「指を取り込む」と言ったのに、呆然として俺は止めきれなかった。
虎杖が、両面宿儺の指を口に入れて――
「この馬鹿ッ!何して」
ごくん、と飲み込んだ。
瞬間、首に激痛が走る。「ッが…は」潰れた声が自分から飛び出す。虎杖の手が俺の首を掴んでいた。ギリッと皮膚が軋む。
冗談だろ。まさか、受肉した…?
「い…ッ、たどり…」
「――あァ?」
声色が違う。顔や腕には文様が浮かび上がっている。――虎杖じゃない。
出したままにしていた鵺が上空から『それ』に突撃する。避けるため、それは俺の首から手を離した。けほ、と咳が出る。痛みはあるが潰れちゃいない。印を結び玉犬を呼び出す。
「おまえ、両面宿儺か」
「…貴様は」
睨むように『それ』を見れば、目が合った。何故かそれは目を見開く。…どういう反応なんだ?「伏黒恵、か」名前を呼ばれた。何で知ってる?肉体の持つ記憶を見れるのか?『それ』はじっと俺を見つめる。
「…ハァ、なんだ。面倒な事になってるな。おい小僧、どういうことだこれは」
「は、どういうって…」
「伏黒恵には聞いておらん」
「あァ?」
ぶつぶつと何かを言いだした。「おい小僧、また…貴様なに勝手に…ハァ、めんど」ガリガリと後頭部を掻き、不快感を隠さず顔を歪めている。ちらり、と俺の方を見ては「フン、伏黒恵は持っておらんのか」と意味不明なことを言う。
「おい、一体何なんだ」
「知らん、小僧に聞け。俺は寝る」
「は?」
すう、っと文様が消えたかと思えば重苦しかった呪力も消える。次の瞬間にはきょとんとした、いつもの虎杖の顔があった。はぁ、と重たい息を吐き虎杖の胸ぐらを掴む。
「どういうことだ」
「え、いや?うん?俺もわかんない」
「さっきのヤツはお前に聞けって言ったぞ」
「えー、宿儺丸投げじゃん。ていうかなんでアイツやる気なさげなん…?」
「俺に聞くな。つーかさっきのアレは本当に両面宿儺なのか?」
「よくわかんねぇんだけど、俺も詳しく聞いていい?」
数年前に聞いた声が、上から降ってきた。俺と虎杖は上に顔を向ける。給水タンクの上に、その男は立っていた。憎き相手だ。甚爾の、甚爾の腹に穴を開け、身体をボロボロにした男。
虎杖が目を見開いて、そしてどことなく懐かしそうにその男を見て口を開こうとしていた。
「――ご」
「五条悟ッ!」
が、俺の口が止まらなかった。ギッと睨みつけると五条悟はサングラスを外し「んー…え、マジ?」と俺とは対照的に嬉しそうな顔をした。
「恵じゃん!ひっさしぶりだな!」
「何気安く名前呼びしてんだてめぇ…」
「えぇ?俺と恵の仲じゃん」
「アンタとまともに喋った記憶はない!」
え、え?と虎杖は俺と五条悟を交互に見る。俺は掴んでいた虎杖を引っ張り自分の後ろへとやる。五条悟はストン、と俺の前へ降り立つ。
「アレに似てクソ生意気な顔になってんね。瓜二つじゃん」
「褒め言葉か?」
「恵耳腐ってんの?」
「腐ってんのはアンタの頭だろ」
「あァ?」
「あ”ン?」
「チンピラ同士の喧嘩じゃん…」と背後から聞こえた。確かに頭の悪そうな会話である。自覚したらスッと頭が冷えた。馬鹿相手に熱くなるな伏黒恵。「あーあ、あの親にこの子供アリってか。マジクソ生意気〜」ブチッと頭の血管が切れる音がした。
「ふ、伏黒ちょっと落ち着いて!な?」
「ふーッ、俺は落ち着いてる。大丈夫だ問題ない」
「絶対問題無くないやつだよそれ」
「安心しろ。確実に仕留める」
「何をどう安心しろとッ⁉」
「布瑠部――」
魔虚羅を呼び出す為、祝詞を唱える。「うっわ、今回は殺し合いしに来たんじゃねえってーの。させねえよ」と五条悟が俺に手を伸ばすが影に忍ばせておいた玉犬が飛び出し五条悟に牙を向ける。「由良ゆ」「ッごめん伏黒!」再び首に衝撃。虎杖が俺にヘッドロックを掛ける。チッ、舌打ち一つ。虎杖を振り払おうとして
「よくわかんないけど、ナーイス」
その一瞬を五条悟が見逃すわけもなく、ゴッと鈍い音と共に俺の意識は沈んだ。
◇◇◇
「流石に魔虚羅出されると困るから、助かったぜ。よくわかんねーガキ」
「…う、うっす」
「で、お前何?」
「えーっと」
「ま、いっか。ところでこの学校に呪物あるらしいんだけどお前知らね?」
「ごめん、俺それ食べちゃった」
「…マジ?」
「マジ」
五条がジッと虎杖を視る。「…ははッ、マジじゃん。ウケる」まるで新しいおもちゃを見つけたように笑う五条に虎杖は「なんか…違くね?」と後ずさる。が、五条が逃がすわけもなく「ちょっと話しよーぜ」と無遠慮に肩を組む。
「特級呪物食って意識乗っ取られずにいるわけ?」
「そう、いうことになりますハイ」
「何食ったんだ?特級呪物があるってことしか聞いてねぇんだよ」
「りょ、」
「りょ?」
「両面宿儺の指を…少々」
「…は、ははは!マジで?呪いの王じゃん!…いや、それにしては呪力少なくね?ちょっと宿儺表に出してくんない?」
「え、あー…ちょっと待って」
目を瞑り、意識を集中させる。自分の中にある呪力の渦に向かって意識を落とす。奥底、海底のようにくらい冷たい場所。そこに宿儺の生得領域はある。宿儺はそこで。
「…えぇ…?」
「どうした?」
「『俺は惰眠を貪っている。邪魔をするな小僧』って言われて生得領域追い出された」
「宿儺プー太郎なの?」
「ん、んー?」
おーい、お前鏖殺がどうのとか言わねぇの?と中の宿儺に語りかけるが「ハー、そんなことしても面倒なだけだろう」と返された。いやマジかお前。キャラ違うじゃん。そう言えば伏黒にも興味持ってなかったし、お前別の宿儺か?「小僧を知っている時点で別の俺なわけなかろう」馬鹿にしたように返された。
「と、とりあえずやる気が無いらしいっす」
「なんかイメージと違うな呪いの王。つまんねーの。ま、いいや。とりあえずお前俺に付いてきてくれる?いくらやる気無い呪いの王つったって、受肉しちまったんなら無視はできねぇし」
「うっす。えっと、伏黒は」
「恵?連れてくよ。そいつ指名手配の呪詛師だし」
「……は、」
「知らねぇの?組合っていう呪詛師集団の一員。恵の父親の伏黒甚爾もな。まー呪詛師って言ったってやってることは呪術師と変わんねぇっつーか、むしろクソ共の掃除してくれてる連中なんだけどよ。上が煙たがってるから」
じゅ、え、呪詛師?伏黒が?え、甚爾さんも?虎杖の頭は混乱していた。「つーかお前も組合か?」と五条に問われぶんぶんと頭を振った。組合って何?初耳ですけど?そりゃあ甚爾さんカタギじゃねえなとは思ってたけどさ!流石に呪詛師は予想してなかった、しかも伏黒も含めてとか!
しかしコレはマズイ。つまり五条と伏黒は敵対組織というわけだ。なるほど伏黒が埼玉ではなく宮城に居る理由がわかった。逃げているのだ、呪術師から。それをイレギュラーに俺が舞台に引きずり出してしまった。呪詛師って…もしかしなくても処刑対象では?やばいやばい、甚爾さんヘルプ!伏黒がヤバい!悲しいかな、伏黒甚爾は現在仕事で青森に行っている。頑張っても間に合わない。
ちらり、意識の無い伏黒を見る。
「あ、あのさ[[rb:五条先生 > ・・・・]]」
「…ん?」
「ふ、伏黒のことは見逃してくんねえかなー…なんて」
「何つった?」
「だ、だって伏黒良いやつだし、そんな悪いことしてないんだろ?」
「先生って言った?」
「え?」
「……へぇ」
「え、何?」
虎杖は知らなかった。五条が教師ではないことを。
そんでもって五条は閃いてしまった。良からぬことを。
「お前ら、同級生か?」
「え、うん」
「ここ高校だっけか?何年だ」
「い、一年」
「へぇ?」
にやり、と五条は笑った。己のポケットからスマホを取り出し、鼻歌を歌いながら電話を掛ける。『――どうした、悟』すぐに電話に出た相棒に高らかと宣言する。
「傑、俺教師になる!!」
目を丸くする虎杖、電話の向こうで『何馬鹿なことを言っているんだ』と呆れる五条の相棒、夏油傑。そして自分がとんでもないことに巻き込まれようとしているとは知る由もない、現在意識の無い伏黒恵。
「一年って女子一人だし、結局担当誰だか決まってないって話だったろ?傑が兼任するみたいな話も出てたけど、なら俺でも良くない?な、いいよな!んでもって宿儺の器と組合員の恵を高専に入れる!」
『――なんだって?宿儺の器?恵?君今どういう状況なんだ?』
「あの伏黒甚爾の息子を尻に敷くって絵面面白くね?」
『人の話を聞け!あと教師を何だと思ってるんだ!』
やっば!これから楽しくなりそう!とテンション爆上げの五条は夏油の話を一切聞かない。そんな五条の様子に「…俺、ヤバいこと言った?何、どういうことなの」と混乱する虎杖。そんな虎杖の中から「なんかまた一段とめんどくさそうだな」と他人事のように見る宿儺。
「じゃ、行くか!」
そう言って五条は意識の無い恵を肩に担いだ。
さっきの会話からして伏黒が今すぐどうこうされるってことはないだろうな、と思った虎杖は伏黒には申し訳ないが自分優先で「あー!待って!俺喪中!じいちゃんこんがり焼かないとなの!」と慌てる。
ぶつんと切られた電話の向こう側で「あの馬ッ鹿…!報連相をちゃんとしろ!」と夏油がキレていた。
[newpage]
5.
[[rb:前回同様 > ・・・・]]虎杖の祖父である倭助をこんがり焼いて、墓参りして荷物まとめて…と目まぐるしい1日を過ごした虎杖は、担任になるらしい五条と共に新幹線で東京へと向かっていた。ようやくゆっくりと腰を下ろして「あ、」と虎杖は声を上げる。
「なぁ、伏黒は?」
「恵?拘束中。大丈夫だって、お前も恵も上層部に差し出すだなんてつまんない真似しねえよ」
「う、うん…」
拘束中と聞いて虎杖は安心出来る人間ではない。大丈夫かな伏黒。なんか五条先生ちょっと違うし、大変な目にあってないと良いけど…。五条が絡んで大変な目にあってないわけがないのだが。知らぬ虎杖は「伏黒が無事でありますように」と祈る。そんでもって、ちょっと不安に思ってることが一つ。
伏黒甚爾である。
恵の事となると過剰反応する甚爾に、虎杖はなんのメッセージも送れないでいた。伏黒家の場所がバレたらマズイのでは?ずっと一緒に居る五条の目を掻い潜って伏黒家に置き手紙を置くなんて芸当は出来なかった。連絡先も、多分見られたらヤバい。隙を見て甚爾の連絡先を消した。普通に考えて恵が拘束された時点で伏黒家の場所も、連絡先も高専に押さえられているのだが、そんなことは露知らず子供だましの隠蔽工作をする虎杖。そしてその事に気付いてにやにやしている五条。相変わらず性格が悪い。
結局、虎杖が再び伏黒の姿を見ることが出来るのは二日後である。
翌日、高専入りした虎杖は入学試験を受ける。無事突破はしたが、学長と五条で一悶着。更に虎杖の知らぬところで五条と夏油でまた一悶着。
そして次の日。
「釘崎野薔薇、紅一点よ」
元々の唯一の入学予定だった釘崎野薔薇を、虎杖と五条二人で迎えに来ていた。
じっと、虎杖は釘崎の[[rb:左目 > ・・]]を見つめる。その顔は苦しそうに歪んでいた。その様子に気付いた釘崎はフンと鼻を鳴らし、
「シケたツラしてんじゃないわよ虎杖」
「え、釘崎…記憶が」
「二度目は無いわ。今度は絶対に死んでやらない。アイツをぶちのめす。アンタと二人でね」
「…おう」
釘崎が拳を突き出す。それを泣きそうになりながら、それでも嬉しそうに虎杖は同じように拳を作り、釘崎の拳に突き合わせた。
そんな様子を、不思議そうに見守る五条。
「お前ら知り合いだったのか」
「…『お前ら』…?」
「あー、釘崎。なんか五条先生ちょっと違うんだよ。口調とか」
「ふーん、なんかクソガキ感があるわね」
「おい聞こえてんぞコラ」
「そういえば一人足りないじゃない」
釘崎は五条をスルーしてきょろきょろと周りを見渡す。ツンツン頭のウニが居ないけど、と首を傾げたところで「んじゃ、最後の一人とご対面するか」と五条が虎杖と釘崎の肩を掴む。瞬間三人は『飛んだ』。
「うおっ」
「わ…、ちょっとアンタ飛ぶんなら言ってからにしなさいよ!」
「飛んだぜ」
「おっそいわ!」
飛んだ先は高専の、懐かしくも初めて来る一年の教室だった。「伏黒、いんの?」と五条の顔をみればにやにやとしていた。あ、嫌な予感がする。会って1分くらいしか経っていないであろう釘崎ですら「前と違った種類のクズだわ」と理解していた。さて、何が出るか。意を決して虎杖は教室のドアを開けた。
そして二人はドン引きする。
教室のど真ん中に設置された椅子。そこに腕を脚を全身を鎖でぐるぐる巻きに拘束され、猿ぐつわをさせられている黒髪の少年。言わずもがな伏黒恵である。「フーッフーッ」と獣のように息を荒げ、虎杖と釘崎の背後に居る男を睨みつける。
「…は、」
「ちょ、五条先生…」
「ハーイちゅうもーく!悠仁は知ってるだろうけどコイツ伏黒恵、お前らの同級生な!最初腕だけ拘束してたんだけど、俺の喉元食いちぎろうとするは「死ね、殺す」ってうるせえわで口も塞いだってわけ!狂犬だから注意しろよー」
「それ多分五条先生に対してだけだと思う」
「伏黒に何したのよコイツ」
あ、伏黒に記憶無いから注意な。と虎杖は釘崎に耳打ちした。まぁ、この様子から察しはついたけど、と釘崎はじっと伏黒を見る。五条と同じで、伏黒も性格が少し違うのかしら?
なんて思っていたらドカンッ!と窓側の壁がとんでもない音を立てて崩れた。今度は何だ、と顔を向ける。一面の壁が綺麗に無くなり風通りが大ッ変よろしくなった教室に、一人の男が降り立ったところだった。
「――よぉ五条のクソガキ。よくも俺の恵を攫いやがったな」
魔王が降臨した瞬間である。
とんでもない殺気を纏わせ、恵の横に立つ。「うわぁ、甚爾さんマジギレだぁ…」と虎杖は身体を震わせた。恵は「むーむ!」と塞がれた口から甚爾の名を呼ぼうとする。
じっと、甚爾は恵を見つめた。ぽたり、飲み込めない唾液が恵の膝に落ちる。
「…ちっとそそるな」
「は?」
「え?」
「甚爾さんアウトッ!」
「うううッ」
今この場面で冗談言うんじゃねえよと唸る恵。「悪い悪い」と大して悪びれる様子もなく甚爾は恵に巻きつけられた鎖をまるで細い糸を切るようにブチンブチンと素手で引きちぎる。釘崎はドン引きした。流石の五条もドン引きした。虎杖は特に気にしなかった。
「恵、なんもねぇか」
「…ッはー…、ん。大丈夫だ」
「遅くなって悪かった」
「ん、」
甚爾は腕に恵を抱きかかえる。恵は甚爾の首に腕を回し抱きしめた。どう見たって距離感が可笑しい男二人に、釘崎は「あん?」と眉をひそめた。遠い目をしている虎杖の腕を引っ張りコソコソと「おい、アイツ誰だ?」と聞く。
「伏黒のとーちゃんの甚爾さん」
「父親ァ?まぁ顔はクリソツだけど…距離感バグってんだろ。デキてんのか?」
「まぁ、有り体に言えば」
「…あァ?」
「ドン引きするくらいのバカップル」
「おいこの世界どうなってんだ。いくらなんでも伏黒の性癖歪みすぎだろ」
「俺が聞きたい…」
「でもここの伏黒めちゃくちゃ幸せそうだからいっかなって!」そう言った虎杖に釘崎は頭を抱えた。いや良くねえだろ…流石に良くねえだろ。男同士、ならまだギリ許容範囲内ではあるが親子は駄目だろ…ッ!しかし目の前でべったりくっつく伏黒親子を見て「…ま、軌道修正不可能ね」と諦めた。来世ではまともな性癖持って生まれろよ。さて、釘崎の願いは届くのか。
それは置いといて、
一方、恵を抱きながら五条と対峙する甚爾はガチでキレていた。秒で仕事は終わらせたが青森から宮城、そして東京に行くには流石に時間がかかった。監視を頼んだ組合の人間から随時恵の無事は報告されていたが、それでも恵の姿を見るその瞬間まで生きた心地がしなかった。もし恵に何かあれば高専及び上層部の人間を皆殺しにするつもりだった。
「随分遅かったじゃねーの?恵捨てるかと思ってたけど」
「誰が捨てるか」
「だってわざわざ敵地にまで来て取り返す?」
「取り返すに決まってんだろ。恵は俺のだからな」
「子供は自分の所有物だってこと?オッエー!禪院出ても結局子供は道具扱いってことか。流石禪院家の血筋」
「ハァ…馬鹿なクソガキにはわからねえ話だろうな」
いや、あながち五条の言うことは間違ってないかもしれないな。道具扱い発言はいただけないが、恵は俺の所有物であり俺は恵の所有物である。互いが互いに命令権がある。本気で命令されれば恵は俺に逆らえないし、逆も然り。まぁそんな真似滅多にしないが。
ぎゅうっと首に回された恵の腕に力が入る。ギロリと五条を睨みつけていた。ここに居るとどんどん恵の機嫌が悪くなるし、俺も居たくねぇからずらかるか。五条殺すのはまた後ででいいだろ。そう思い、足に力を入れようとして、
「つか恵今日からウチの生徒だから」
意味わからんことを言い出した。思わず動かそうとした足にストップをかけ「ああ"ん?」とドスの利いた声が飛び出る。「おっと、それについては私から」ひょっこりと五条の背後から夏油が出てきた。恵の顔が更に歪むがお構いなしで夏油は「やぁ久しぶりだね恵くん」と馴れ馴れしく話しかけてくる。
「『伏黒恵が高専に所属する間に限り、定められた機関に属す呪術師は組合への攻撃、及び介入を一切認めない』という縛りを提案しようと思ってる。定められた機関ってのは、高専所属の呪術師・呪術界御三家及び分家・更に上層部の連中。まぁフリーの呪術師以外って考えてもらって構わない」
「俺ら組合の人間じゃねえけど」
「流石に誤魔化すのは無理だと思うけど?」
「……チッ」
「それに破格の縛りじゃないかい?恵くん一人を高専に置くだけで組合の秘密を守れるんだから」
「組合はそれを是としない。んでもってそんな縛り、上層部が認めるワケ無いだろ」
「そこらへんは悟が力技でどうとでもするってさ」
「クソジジイ共の歪む顔見てぇよな」
「ほら」
「お前らもクソだろ」
「一緒にしてほしくないなぁ」
いやクソだろ。「どうだい、恵くんが頷いてくれれば組合も随分動きやすくと思うんだけど。私も組合とは仲良くしたいと思っているし、ね?」胡散臭い笑みを携え恵に近づく夏油を、恵は白けた表情で見る。
「組合にとっての利益が無い。だってアンタらは組合について何も知らない。いくら探りを入れようとも全く情報を手に入れられなかったくせに『攻撃及び介入を一切認めない』なんて縛りは意味がない。これからはそうじゃないかもしれない?組合の情報一つでも手に入れてから言えよ雑魚」
「…まぁ、その通りなんだけどね。年上に雑魚っていうのはやめようね恵くん」
「クソ雑魚」
「ッ、はぁー…。因みにこの縛りを結べば、現在施行されている伏黒甚爾及び伏黒恵の死刑は撤回される。逆に拒否したら今この場で死刑執行」
「脅しじゃん」
思わず虎杖が口を挟んだ。釘崎も不信感を募らせ、金槌を構える。
つーかコイツ誰よ、知らないんだけど。あーガワは前の黒幕?今の中身は俺も知らん。ガワ?中身?何の話よ。アイコンタクトで会話する虎杖と釘崎。
一触即発の雰囲気の中「お話中で大変申し訳ありませんが失礼します」と第三者の声が響く。
いやまだ人増えんのかよ、と釘崎は溜め息を吐いた。
覚えのある声にいの一番に振り返った虎杖は「あ、」と震えた声を漏らす。
「失礼します」
「あれ、七海じゃん」
「七海じゃねえか」
え、と五条は声が被った甚爾を見た。甚爾は特に気にすることなく「なんだ、お使いか。ご苦労なこった」と現れた男、七海建人に話しかけた。「はぁ、まったく。こんな形で再び高専に足を踏み入れるなんて思いもしませんでしたよ」とわざとらしく肩を落とす七海。そんな様子に五条と夏油は目を丸くした。
「知ってる方も多いと思いますが、七海建人と申します。組合からのメッセンジャーとして参りました」
「え」
「は?」
「ああ、お二人共お久しぶりです」
「いやいやいやいや、お前なんて言った?」
「組合からのメッセンジャーとして参りました」
「…つまり七海も組合の人間だってこと?」
「まぁそういうことになります」
七海建人、元呪術師。高専卒業とともに腐った呪術界に見切りをつけ呪術師を辞め、会社勤めをしていたがまさかの真っ黒なブラック企業。毎日毎日毎日毎日死ぬほど働いて、なんかもう全部がクソ、生きるのもクソ。自暴自棄になりかけていたところをまさかの見知らぬオネエに救われるという変な運命を持った男である。「じゃあウチに就職してみる?」と軽く組合に誘われた。その時七海の判断能力はだいぶ低下していて、もうなんでもいいやと投げやりだった。流されるまま入った組合が割とホワイト。実働部隊ではなく情報統括部に配属され、上司は山さん。滅茶苦茶良い上司だった。残業はほぼ無い、ゆっくり寝られる、休日がある。職場の人間はみんな(普段は)穏やか(クズ呪術師やクズ人間のことになると全員殺意が高くなる)で居心地はとても良い。クズはぶっ潰すべきである。なるほどここが理想郷か。
ちなみに七海が働いていた会社は黒い部分が沢山出てきて倒産した。
そんなこんなで七海は組合に腰を落ち着かせている。
「ちなみに灰原も組合員です」
「なんでだよ!」
七海が誘ったら「七海が居るんなら!」と二つ返事だったからである。「ダークヒーロー格好良いよね!」実働部隊で仲良くなったアキラ達と仕事であっちこっち飛び回っている。組合は仲間を大事にする組織なので、いつぞやの下半身喪失で死にかけてるところを先輩たちに馬鹿にされたり爆笑されたりすることがない。というか普通はしない。
「俺、一生組合で働きたい」真顔で言った灰原に力強く七海も頷いた。
「こちらに戻ってくるつもりは?」
「呪術師より組合のほうが何百倍も待遇良いので無いですね」
「うっわ、ばっさり。そんなに組合が良い?」
「自分の胸に手を当ててよく考えてみてくれませんかね」
「…?」
「やはり呪術界はクソ」
ハァ―と七海は溜め息を吐いた。二年前に伏黒親子にフルボッコにされた後、多少大人しくなったらしいという噂を聞いたのだが、それでも先輩たちの性格は相変わらずなようで。
まぁそれは置いておこう。自分はメッセンジャーとして来たのだから。
「さて、『伏黒恵の高専所属』の件ですが――」
[newpage]
6.
よたよたと校舎の廊下を歩くツンツン頭を見つけ、虎杖は駆け出す。トンっとその背中を軽く叩き笑顔を浮かべる。
「伏黒、おはよ!」
「…はよ、」
「相変わらず伏黒は朝に弱いよな…って、あ、ちょっ…伏黒サンちょっと首隠して」
「…あ?あー…甚爾また首に痕付けて…。体術の授業あるから、あのやろう」
「俺の所有物感ヤバいよ」
「…とーじの、しょゆうぶつ…」
「ちょ、伏黒さーん、自分の世界入らないでくださーい」
伏黒と甚爾さんは相変わらずだなぁと虎杖は苦笑した。寝ぼけてボタンを掛けていない制服を、なんとか正す。すっぽりと首が隠れた事に安心し、そのまま二人で教室まで歩く。辿り着いた教室のドアを開けると「よーっす」と既に教室に居た釘崎が二人に挨拶した。
「釘崎おはよー」
「はよ」
「おう。今日任務であの馬鹿居ないって、座学は自習よ」
「そのまま帰ってこなければいいのに」
「まったくの同意見だわ」
「伏黒も釘崎もあんま五条先生に冷たくすんなって…」
「無理」と二人の声が重なった。二人の五条への評価は底辺である。「五条先生もさぁ、二人と仲良くしたいって思ってるから、こう…もうちょっと軟化してくれると」苦笑いする虎杖に二人の鋭い視線が刺さる。
「お前五条の味方か」
「あのクズ味方する必要ある?」
「…だってさぁ」
「だってもクソも」
「五条先生、二人が冷たすぎるってここ最近ずっと俺に泣きつくんだもん」
「ゆーじィ、あの二人マジで俺に冷たすぎねえ?そりゃあ俺だって態度悪いって思ってるけどさー」と事あるごとに虎杖に泣きつく五条。それを無碍に出来ない虎杖は苦笑しながら五条を甘やかす。そんな虎杖にどんどん甘える五条。
それを聞いて恵と釘崎は顔を顰めた。最近妙に虎杖にべったりだったのはそれが理由か。まぁ確かに言動はアレだが、歩み寄ろうとしているのはわかっている。わかってはいるんだがすぐ飛び出すクソ発言にイラッとする。そして噛み付いてしまう。繰り返される悪循環。
「でも俺は五条が嫌いだ」
「伏黒ぉ…」
「でも俺達の態度で虎杖に被害が被るのも、ちょっと考えものだな」
「よし、殺るか」
「おう」
「違う違う、なんでそっち行っちゃうの」
「冗談だ」
「冗談よ」
「絶対冗談な声色じゃなかったよ⁉」
一年は今日も仲が良い。
恵はこんな他愛もない会話が出来る学校が、嫌いではなかった。五条と夏油と、あとここが呪術高専じゃなければ良いのに、と本気で思っている。でもまぁ、仕方ない。
お察しの通り、伏黒恵は高専預かりとなった。
「『五条悟と夏油傑が呪術界を変えようとしていることは知っている。それによってより良い呪術界になるのなら、組合は協力したいと思っている』――これが組合のボスの考えです」メッセンジャーとして高専に訪れた七海は、そう言った。伏黒恵は、高専と組合を繋ぐ架け橋とする。それが組合の考えだった。「多分これ、荒れに荒れて決まったんだろうな」と甚爾も恵も察しがついた。
「伝言ですが、ボスから甚爾さんへ『嫌なら拒否してもらって全然構わないわ。生贄差し出すようなものだもの』だそうです」
「あー…」
「ただ、恵君や甚爾さんへの物理的損失、被害はほぼ無いと思ってもらって構いません。『二人に何かあれば即組合が報復に向かう』と明言されています」
「物理的?」
「精神的には…ええ…」
ちらりと七海は五条と夏油に視線を向けた。ああ、うん、そういうことな。と理解する。蓄積するストレスはどうにもならないと。
「別枠で『恵君に何かあったらマジぶっ殺す』と呪術師の皆さんへ伝言があります。殺す気しか無いのでご注意ください。主に自称兄姉からの殺意です」
「あいつら本当に恵の事好きだよな」
「当然でしょうね。あと偶然居合わせた某兄も賛同してます」
「アイツまだ組合に入り浸ってんのかよ。大丈夫か?」
「仲良かったですよ」
身内話についていけない人間が首をかしげる。某兄とは言わずもがな禪院家次期当主のその人である。一番組合とつるんでるのを見つかってはいけない男であるが、本人は最早全く気にしていない。家より断然居心地良いし仕方ない。
「そういうことで」七海は契約書と書かれた紙を甚爾に渡した。
「当事者であるあなた達に一任します。どう判断を下しても、組合はあなた方を守りますよ」
「…はぁ、どうするよ恵」
恵は考える。高専所属なんて嫌に決まっている。誰が好き好んでこんな場所に。俺は甚爾さえ居ればそれでいい。それで、いいはずなのに。ちらりと虎杖や七海を見た。そして契約書に視線を落とす。
どっちでも良いとは言ってるが、多分薫子姐さんは希望を見出している。今まで俺たちを助けてくれた薫子姐さんのその希望を、無視なんて、そんなの、出来るわけなかった。
「…わかった。高専預かりで構わない。その代わりあんたら二人、俺が卒業するまでにクソ掃き溜めみてえな上層部ぶっつぶせよ」
こうして組合と高専との契約は成立した。
まぁ勘違いしてはいけないのは契約は契約であり、恵自身はまーったく呪術師を信用していないのである。是非とも恵と仲良くしたい夏油は幾度も撃沈することになるし、無理を押し通して一年の担任になった五条も仲良く撃沈している。まぁ仕方ないことである。
さて、契約上なんら関係の無い甚爾の扱いだが「俺が恵と離れるわけ無いだろ」まぁ当然である。じゃあどうするか、フリーの術師扱いか?となったところで七海が一つ提案を出した。
「体術を教える非常勤、というのはどうでしょう。確か二年に甚爾さんと同じ天与呪縛の禪院家のお嬢さんが居たはずです。甚爾さんと同じように体術を極めていると聞いていますが」
「あーそういや聞いたな。マキだっけか。直接会ったことは無いな」
「甚爾さん、意外と教え方も上手いですし学生全体の能力の底上げになると思いますよ。どうでしょうか夜蛾学長」
どいつもこいつも勝手にやらかして胃が痛い夜蛾は頭を抱えながら「もう、好きにしてくれ…」と項垂れた。流石に七海も同情した。強く生きてください。でも救いの手は差し伸べなかった。
そんなこんなで伏黒親子は仲良く高専所属となった。
「三限は二年と合同で体術の授業だったかしら。伏黒父の担当?チッ、また真希さん取られちゃうじゃない」
「真希先輩、甚爾さんと相性いいよなぁ…あ、いや!深い意味はなくてだな伏黒」
「流石に気にしてねえわ」
「そうよ、伏黒だって真希さんとは初対面だったはずなのにすっごく仲が良いじゃない!なんなのよアンタ達!」
「兄経由で互いの話はよく聞いてたからな」
「兄?」
「兄貴分」
前回、恵を殺す気満々だった禪院直哉が恵と真希真衣姉妹の兄貴分になっているとは思いもしない虎杖である。「へぇー禪院にも良い人居たんだなぁ」くらいに考えていた。
兄貴分の話が出て、そういやここ数年直兄に会ってないなと今更ながら思い出した恵。高専預かりになって自分の存在はあらゆるところで公になっているであろう。会いに行くより先に、まず気付いた直兄が高専に突撃してくるだろう。それまで待てばいいか。ちなみに恵の予想は大当たりとなる。
「ところで一限と二限なにする?」
「サボってショッピング行くぞ野郎ども」
「えぇ…それはどうなん?」
「甚爾の授業までに戻ってこれるなら良いぞ」
「伏黒も安定の伏黒」
「二時間じゃちょっとキツイわね…」
「なんだテメエら、遊び行くのか」
三人以外の声が聞こえた。ぬるり、気配もなく恵の背後から甚爾が現れる。「うっわ!びっくりした…」と釘崎が声を上げる。そんなもの一切気にせず、甚爾はそのまま恵を抱きしめる。
「サボりの算段か?」
「一二限自習なのよ。特に課題も出されてないし」
「三限は甚爾さんの体術授業だから伏黒サボりたくないんだってさ」
「あー、なるほどな。じゃあ出かけるか」
「何がじゃあ、なのよ」
「体術の授業だからじゃなくて俺の授業だからサボりたくねえんだろ恵」
「ん」
「じゃあ俺もサボってオマエらについていくから問題ねえだろ」
「おい教師」
「ただの非常勤だっつーの。メシぐらいなら奢ってやるぞ」
「伏黒父ってば最高ね!」
「釘崎ゲンキンすぎ〜」
よし決まりよ!と釘崎が立ち上がる。「代官山!私代官山のカフェに行きたい!」「もっと高いモン要求されるかと思ったんだが」「そんなもんは五条に奢らせるわ」五条の扱いが酷ェな、同情はしないが。「行くわよ、野郎ども!」その声に恵と虎杖も立ち上がる。
「サボりならさぁ、別に俺と釘崎で代官山?行ってくるから伏黒達も二人でどっかいけば?」
「変な気回さなくていい」
「えー?甚爾さんもいいの?」
「ガキはガキの時間大事にしとけ」
「良いなら良いんだけどさぁ。みんなで出掛けんの、すげー楽しいし!」
「おっせぇぞ!」と怒鳴る釘崎の元へ虎杖が走り出す。そんな背中を見て「俺だって、三人で出掛けんの楽しいっつーの」と恵がぼやいた。くくくッと甚爾が笑い「寧ろ邪魔者は俺だもんな」と恵の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
とあるカフェにて
「このケーキが食べたかったの!」
嬉しそうにケーキの写真を取る釘崎。おしゃれな店内に「なんか俺ら場違い…」なんて思いながらも同じくケーキを前にする虎杖。恵はなるべく甘さ控えめなケーキを頼んだ。甚爾は珈琲のみを頼み「こいつら三人集まるとクッソ可愛いな」と三人を眺めている。
満足する写真が撮れたのか、ようやく釘崎がケーキを一口食べると「んんー!おいしい…」頬を押さえる。俺も、と虎杖と恵もケーキを食べる。ぱぁ、とあからさまに明るくなった雰囲気に「ふ、くくく」と甚爾は笑う。ケーキ代だけでこれが見られるんだから良い買い物だわ。
「甚爾」
「ん?」
「ひとくち」
恵がフォークに突き刺したケーキを甚爾の口元に差し出した。まぁ家ではよくやるやつである。あ、と口を開けてケーキを食べる。
「ん、美味い」
「うん」
自分がケーキを食べたとき以上に顔がほころぶ恵に、やっぱ恵が一番可愛いわと再認識した甚爾。
「…ケーキは美味しいんだけど、クッソ甘いわ」
「釘崎、俺さぁ…伏黒と甚爾さんと三人でどっか行くとき、必ず珈琲頼むんだ。絶対砂糖もミルクも入れないブラックを」
「一口ちょうだい」
「はい」.
或るあいの顛末、第五章。
原作1巻の話。
一応本編最後となります。あと終章書いて完結(予定)です。
コメント・スタンプ・いいね、いつもありがとうございます!
あとちょっとで終わるので最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
虎杖悠仁
死んだら時間が巻き戻ってた。
一回目は途中まで原作通り。渋谷で仲間がどんどん死んでいくし、結局五条悟の封印を解けなかった。
最終的に宿儺の指を十九本取り込んで上層部に処刑された。
二回目では「他人を幸せにしなければならない」という呪いを自分で自分にかけている。罪滅ぼし。俺なんて全然善人じゃないよ。人殺しだから。
ちなみにこの世界、甚爾は生きてるし恵はほぼ無敵だし、元凶羂索は夏油の身体乗っ取れていないので結構な難易度イージーモード。そのことに気付くのはだいぶ後のこと。
そもそも宿儺の弱体化とやる気の無さがすごい。
両面宿儺
ハァ〜?二回目?だる。
一回目の処刑後、虎杖悠仁と地獄に堕ちた。罪の数がやばいので閻魔様の胃が痛い。
二回目の世界ではかなりの弱体化。呪力と共にやる気も地獄に置いてきた。
釘崎野薔薇
一回目で真人の攻撃で結局死んでしまった。
記憶を持って二回目の世界へ。なんか色々違いすぎて困惑。
七海建人
元呪術師。現在組合所属の術師。今回はメッセンジャーとして高専に現れた。
組合にて灰原とのびのび仕事してる。ここが理想郷。
組合ボス
言わずもがなオネエの人
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