「暇」

そう言って影から飛んだ甚爾に、先輩たちと手合わせ中だった恵は気づかなかった。











トン、と軽い音と共に屋根に降りた。何処だココ、気まぐれに影に飛ぶと意味わからん場所に飛ぶんだよな。恵の所にはオートで戻れるから良いんだけど。流石に沖縄まで飛んだときはビビった。
さて、と周りを見渡すと嫌な気配を発する場所を見つけた。学校か…ガキは簡単に呪い生むから嫌なんだよな。ほっとこうかと思った所で帳が下りた。

「あ?」

目を凝らした。1キロ先の校舎の屋上、居るな。あれは特級呪霊か?もう一体、いや一人居るな。見覚えがある。五条の相方、呪詛師になって五条に殺された夏油傑とかいうガキ。見間違いじゃねえな。見間違いでは無いがなにか違和感。まあなんでも良いか。何企んでんだかなぁ。あちらに気取られないように、学校へ近づく。
帳を目の前に、腕を伸ばした。問題なく入れる。どうすっかね、呪力無しの俺じゃ何も出来ねえけど。ドォン!と中から音から響いた。…見過ごせねえのは、恵の影響か?溜息一つ、俺は帳の内部へと侵入した。






◆◆◆



「人の心がまやかしなんて、あの人の前で言えんのかよ!!」

ありふれた日常は、何にも代えがたい幸福なのだ。家族がいて、笑い合って、なんてことない日常。俺にはもう送れない尊いもの。それを捨ててまでオマエは復讐したいのか、順平!

「人に、心なんてない」
「オマエっ、まだ!」

「そうでなきゃ!!母さんも僕も、人の心に呪われたっていうのか!?そんなの」

あんまりじゃないか…。
順平の心が、悲鳴を上げている。
順平の式神が俺に向かって攻撃を放つ。俺は、それを

「なっ…なんで避けないんだよ…」

ぼたぼたと胸から血が落ちる。痛え、痛えけど順平の心の痛みに比べたら、きっとなんてこと無い。ごめんな順平、何も知らずに勝手なこと言って。

「何があったか話してくれ。俺はもう絶対に順平を呪ったりしない」

順平から聞いた、最悪の出来事。なんで、どうして。あんな良い人が死ななきゃいけないんだ。初めて会った俺に飯をご馳走してくれて、馬鹿みたいに笑って、あんな幸せな日常をどうしていとも簡単に壊せるんだ。
どうして

「順平、高専に来いよ」

高専にはすげえやつがいっぱいいるんだ。自分を最強だって言う先生とか、あ、先生確かに最強だけどな。馬鹿みたいに強いし。頼りになる仲間がいっぱいいるんだ。俺だってめちゃくちゃ助けられてよ。だから、順平のこともきっと助けてくれる。

「皆で協力すれば順平の母ちゃんを呪ったやつもきっと見つかる。必ず報いを受けさせて、」










「呪ったヤツなら、そこに居るぜ」


バキッと鈍い音と共に、階段上から人が降ってきた。「な、」落ちてくる人がこちらに吹っ飛んでくる前に順平を抱えて後ろに飛ぶ。なんだ、人…いや違う…この感じ…

「真人さん!?」
「ッ、つぎはぎ顔の人型呪霊!!」

ナナミンが言ってた呪霊!「痛いなあ、誰?」と呪霊は立ち上がる。順平を守る為、俺の背中に隠す。
男が、階段上から呪霊を見下ろす。あ、あれ?なんかすげえ見覚えある顔…?

「でけえ伏黒!?いや違う!もしかして伏黒の父ちゃん!?」
「おー」
「ウッソ!めっちゃソックリじゃん!?顔だけ!ガタイ全然違うけど!」
「アイツ身体薄いからな」

マジで伏黒の父ちゃんだった。え、なんでこんな所にいんの?混乱しているなか、腕の中にいた順平がぎゅっと俺の腕を握った。

「どういう、ことですか。呪ったやつって」
「あ?そこの呪霊、呪詛師と繋がってんぞ」
「呪詛師、?う、うそだ。真人さんが、そんなことするわけ、母さんを呪っただなんて、な、」


「あったり〜!」

順平の手から力が抜け、ずるりと地に落ちた。

「順平はさ、まぁ頭はいいんだろうね。でも熟慮は時に短慮以上の愚行を招くものさ。君ってその典型!!順平って、君が馬鹿にしている人間の」

クソ野郎

「その次位には馬鹿だから」

それ以上、口を開くな!!





「ンなもん、どうでもいいわ」
「ーーは?」
「ガキが馬鹿なのは当たり前だろ。俺だって馬鹿やってんだ。ただよぉ、そんな人間見下せる程、オマエらも偉くねえだろ。何様だってんだ。あーあ、バッカみてえ。人間様弄んで愉しかったか?」
「楽しいけど?」
「は、じゃあその程度ってことだ」

「きみ、ムカつくな」
「気が合うじゃねえか。同意見だ」

呪力が爆ぜた。
ガシャン!と廊下の窓ガラスが全て割れる。
伏黒の父ちゃんの拳がつぎはぎ顔の呪霊にめり込むのが見えた。え、つよ。伏黒の父ちゃんめっちゃ強いじゃん。アイツ、ナナミンが言ってたヤバい呪霊だよね?
そんな事を考えてたら「…ゆうじ、」順平が小さな声で俺を呼んだ。ああ、そうだ。俺順平に聞かなきゃいけないことがある。

「アイツ、知ってたんだな」
「うん、俺に力の使い方を教えてくれて…真人さんは…悪い人じゃ…わ、悪い、人…」

順平に付け込んで、アイツは、アイツは順平の母ちゃんを殺した。
コイツらはどこまでいっても"呪い"なんだ。

すぅ、息を吸う。

「伏黒の父ちゃぁあああああん!」
「うわ、なんだよ。うるせえ」

とん、遠くに居たはずの伏黒の父ちゃんは一瞬で俺の横に飛んできた。マジハイスペックじゃね?いいな、俺も強くなりたい。強く。

「俺にやらせて」
「あん?」
「俺アイツぶっ飛ばしたい。伏黒の父ちゃんは順平安全な所に連れってって」
「俺から獲物奪うなんざ、いい度胸してんじゃねーの。俺に酒貢いだら、譲ってやらんこともない」
「うっわー悪い大人だ。普通未成年に酒貢がせる?いいよ、おまけに俺特製のつまみ用意する。酒飲み爺ちゃんに好評だったんだぜ」
「気が利くじゃねえか。恵もこんぐらい気遣いが出来たらなあ」

ぐしゃり、伏黒の父ちゃんの大きな手が俺の頭を乱暴に撫でる。父ちゃんって、こんな感じなのか。

「思いっきり行け」
「押忍!」







◆◆◆


「ま、ここなら安全だろ」

校舎の屋上。どさり、小脇に抱えたジュンペーとかいう学生を床に落とした。さて、どうすっかな。そろそろ限界か。恵からの呪力供給を切る。アイツあっちでぶっ倒れてるかな、またうるせえ小言が飛んでくるな。

「あ、あの…悠仁は」
「死にはしないだろ。今一人呪術師合流したし」
「…そう、ですか」

しん、場が静まる。居心地悪いな、俺居ても仕方ねえし帰るか。一歩踏み出そうとしたところでジュンペーが口を開く。

「結局、俺が全部悪かったんですね。俺が真人さ…真人なんかと関わり合いになったから、母さんは」
「100%真人とかいう呪霊が悪いだろ。オマエはさ、運悪く呪霊に目を付けられて、運悪く家族が巻き込まれた」
「…そんなの、納得できるわけ」
「呪霊は人の弱い部分に付け込む」
「結局弱い自分が悪いんじゃないか…!」
「ガキが、何でもかんでも自分が自分がってうるせえ」

ゴッ、と頭を殴る。

「い、痛っ!」
「ガキが弱エのは当たり前だろ。短期間で術式使えるようになったからって粋がってるんじゃねえよ雑魚が」
「ひ、ひどい」
「弱いんだから周りを頼れ、仲間を頼れ、宿儺の器…じゃねえや。虎杖を頼れ。悔やんでも後ろばかり見るな。前を見ろ」

虎杖が呪霊をぶっ飛ばすところが見えた。虎杖をじっと見つめるジュンペーが口を開く。

「俺も強くなれるかな」
「これ以上雑魚にはならねえだろ」
「言い方がひどい」
「俺に優しさ求めんのはお門違いだ」
「あはは」

さてと、俺は手すりに足をかける。「帰るわ」という俺に「え!?」と声を上げた。

「参戦じゃなくて?」
「俺他の呪術師に見つかるとやべーんだわ」
「えぇ…?」
「オマエも、俺のこというんじゃねえぞ」
「無理では?」
「通りすがりの強面兄ちゃんに助けられたって言え」
「伏黒?さんの父親って言ってたってことは結構歳行って」

もう一回殴ってやった、割と強めに。「痛ッ!!」頭を抱えたと同時に俺は屋上から身を投げた。



「消えた…?」




【後日談1】

「そういえば、あの場に伏黒君の残穢がありましたね」

一体どういうことなんでしょうか?とナナミンの言葉にピタリ、体が止まった。伏黒の父ちゃんのことだろうか。そりゃああの場に伏黒の父ちゃんがいたんだからそうなんだろう。…え?ナナミン伏黒の父ちゃんのこと「伏黒君」って呼ぶん?五条先生は「五条さん」だったよね?え、伏黒の父ちゃんと仲いいんかな、絶対合わなそうな性格だと思ったんだけど。ていうか君て。伏黒の父ちゃんいくつよ、若そうに見えたけど伏黒くらいの子供が居たら少なくとも…ナナミンよりダイブ年上だよね?君て、伏黒君て。

「ナナミン意外すぎる…」
「はい?」





【後日談2】

「で、言うことは?」
「虎杖とかいうガキ元気だったぞ」
「違うそうじゃない」

親父が知らない間にどっかいって、知らない間に虎杖と合流して、俺の許可一切無しに俺の呪力がっつり持っていって、禪院先輩と手合わせ中にぶっ倒れたんだぞ。

「いきなり呪力が無くなるのは可笑しい、呪われてるんじゃないかって疑われて、俺が言い訳するのにどんだけ苦労したか…」
「おつかれさん」
「クソ親父反省しろよ」

なお、甚爾がやらかした神奈川に何故、東京に居たはずの伏黒恵の残穢が残っていたのか、と七海建人に詰め寄られる未来を、伏黒恵はまだ知らない。




【後日談3】
交流会直前の一年生組集合

「そういや伏黒の父ちゃん、めっちゃ良い人だった!」
「は?」
「は?」

何とち狂ったこと言ってるんだ…?良い人、あのクソ親父が良い人なわけがないだろ。

「あ、そうだ。約束で伏黒の父ちゃんに酒買わないとだったんだ」
「おい、オマエの良い人の定義ってどうなってんだ」
「おい、伏黒の父親ってアレだろ?クズヒモ野郎だろ?んでもって再婚相手と蒸発したクソだろ?」
「エ?」

そうなん?と虎杖が俺を見る。一部勘違いは有ったが大体合ってる。そう、大体は事実なのだ。

「虎杖髪の毛とか持ってねえの?釘打ってぶっ殺す」
「釘崎なんでそんな殺意溢れてるん…?」
「私の伏黒を捨てたんだ、これくらい当然」
「…い、いつから付き合い始めたんですか伏黒君」
「違う…」

「親権は私のもの」
「どういうことなん??」.




伏黒甚爾
影から影を渡り、遠くに行ける。指定は出来ないから使い勝手は悪い。恵のところには戻れる。
気紛れに順平救済する。オカンはごめん。


虎杖悠仁
伏黒の父ちゃんつえー!かっけー!ちょいワル!かっけー!パパ黒に憧れるが後日野薔薇から明かされる事実に驚愕する。あんな大人にはなってはいけません。


吉野順平
死亡フラグをへし折られた。高専に行くことになる。
ちょっとだけ甚爾をかっこいいと思っているが滲み出るクズ感に気づいている。


伏黒恵
手合わせ中にぶっ倒れた。


釘崎野薔薇
「親権は一応ぼくが持ってるんだけど」
「どう足掻いてもクソじゃない。じゃあまずオマエから死ね」


両面宿儺
悠仁の中から甚爾を見て「伏黒が2人…?」とスペキャ顔してた。
両手に伏黒を目論む。

 
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