「許嫁って……どこの誰が決めたのよ?」
怒りに震えるリナさんは、静かに問い掛けた。
「ホッホホホホっ、知れたことを!」
「えっ!?」
マルチナさんは恥ずかしそうに頬を染めると、はっきり答える。
「昨日、わたくしが決めたのよ!」
『だぁあぁっ』
その言葉に、私とガウリイさん以外は地面へと突っ伏した。
……なんと言うか、この人。
根っからの妄想癖の持ち主らしい。
まぁ、私はある程度予想がついたから額に汗する程度で済んだのだが、問題はガウリイさん。
「なぁ、1つ聞いていいか?」
彼は後ろ頭をポリポリと掻き、呟くように疑問を口にする。
「……『イイナヅケ』って何だ?」
「……もしもしガウリイさん?」
「漬け物かッ!!」
あたかも『閃きました!』的な彼のボケにリナさん達は呆れ果て、マルチナさんもあんまりな事に木から落ちてくる。
「なぁ、『イイナヅケ』って塩味? 正油味? 旨いのか?」
「鬱陶しぃ……もぉ、このクラゲッ!!」
「うぐっ」
リナさんに蹴られ、ようやく沈黙する彼。
……それにしても。
攻撃はダメで、ツッコミは大丈夫と言うこの呪い。
殺意に対してのみ反応する優れものなのか、それとも所詮、空想の産物である魔人のグダグダな術なのか。
微妙に悩むところだが、今は黙っていよう。
創った本人はそれどころではないみたいだし。
「わたくしの伴侶となるには強靭な肉体とともに、知性が必要。許嫁も知らない馬鹿だったなんて……よくも騙したわねっ!?」
打ちひしがれた後、花びらを風に舞わせて叫ぶ彼女。
それに呆れたのは私だけではないようで、リナさんは苦笑した。
「あんたとことん自分勝手だねぇ」
しかし、そう言ったところで彼女が聞き入れてくれるはずがない。
リナさんは真顔になると、マルチナさんを見据えて身構えた。
「とにかく頭にきた! やったろーじゃないのっ!!」
「リナさん! 攻撃したら自分もやられちゃうんですよ? わかってますかっ!?」
アメリアさんの心配する声に、マルチナさんは不敵に笑う。
「フンッ! そうよ、これがある限り……はっ!?」
そしてリナさんのバンダナに刺さった抜き身の剣を取り出し───……自分の手を切った。
まぁ、抜き身の剣を素手で掴めば、そうなるのは当たり前で。
彼女は剣から慌てて手を離し……───重力に逆らう事の出来ない呪いの剣は、サクッとマルチナさんの靴へと突き刺さる。
「……これは……」
ゼルガディスさんの呆気にとられた呟きに、毎度毎度どこから現れるのか。
神出鬼没の彼は言う。
「どうやら……自分にも呪いを掛けてしまったようですね」
「……ゼロスさん」
「い、いつの間にッ!?」
「くっ……だからなんだって言うのッ!? わたくしの力を持ってすればこれ位……あっ!」
「……気付いたみたいね」
短剣を抜こうとして手を止めたマルチナさんに、リナさんはにじり寄る。
「その呪いを解けば、あたしの呪いも解けんのよ!」
「どうすれば……どうすれば……」
追い詰められた彼女は悔しそうに爪を噛み、そして。
「そうだ! わたくしがリナを倒してから呪いを解けば良いのよ!」
……いや、ダメでしょ……それ。
呪いが掛かってる今、マルチナさん自身も攻撃が倍になって返ってくると言うのに。
「靴からだけ剣を抜けば良いような気もしますけど」
「あの様子では気付いていないでしょうねぇ」
「言っても聞かないでしょうしね」
「ですねぇ……」
まぁ、どの道教える気はないけれど。
完全に一人の世界へと浸っているマルチナさんの一人芝居を眺めつつ、私は一つ息を吐いた。
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