結局のところ、その後ドラゴンは現れず、私達は湖のほとりで野宿をするはめになったのだが……。
夜になり、食事の準備が整った時。
アメリアさんがアシュフォードさんの姿が見えない事に気が付いた。
「散歩でもしてるんじゃない?」
「……それなら良いんですけど」
「ほっときなさいって。この辺に盗賊が出るとかいう話も聞かなかったし、大丈夫でしょ」
「………………はい」
リナさんに諭され、渋々引き下がるアメリアさん。
その顔には『心配してます』と、ありありと書かれている。
そんな様子の彼女を見て放っておく事も出来ず、気づかれないよう息をついてから声を掛ける。
「気になるなら探しに行きましょうか?」
「……え?」
「多分そんなに遠くには行ってないでしょうし、直ぐに見つかるかもしれませんよ」
「そうですよね! 万が一って事もありますし」
「はいはい、それじゃあたし達は火の番してるからいってらっしゃい」
焼いた魚を食べながら手をヒラヒラと振るリナさん。
その様子から、アシュフォードさんを探しに行く気がないのは微塵も無いのが窺える。
私は苦笑しつつ、その場を彼女達に任せてアシュフォードさんの捜索を開始したのだった。
───それから暫し。
「アシュフォードさん!」
「……うん?」
「食べないんですか? お食事」
「何本か持ってきたので、一緒に食べましょう」
湖のほとりに佇んでいた彼を見つけた私達は、持ってきた焼き魚を渡してアシュフォードさんの隣に腰掛ける。
───そして。
「何か訳がありそうですね?」
魚を食べ終わった頃合いを見計らい、アメリアさんはそう尋ねた。
それに対して疲れたように相槌を打つアシュフォードさん。
「何が?」
「ドラゴン料理の事です。何か特別な思い入れでもあるんじゃないんですか?」
神妙な面持ちで付け加える彼女の隣で、私もアシュフォードさんの次の言葉を待つ。
するとアシュフォードさんは、ポツリ、ポツリと語り出した。
「……昔、わしには孫娘がいた。とても病弱な子でな。いつも病にふせっておった……」
夜の湖はひっそりと静まり返り、その寂しげな声が際立つ。
「その子が言うんじゃ。一度で良いからドラゴン料理を食べてみたいとな……わしはその子の願いを叶えてやりたい一心で旅に出た」
「……………」
彼が言うには、旅に出た後、とあるドラゴン料理の鉄人に弟子入りをし、特訓に明け暮れたらしい。
しかし、遂にドラゴン料理の技を手に入れ国に帰った時には、お孫さんは既にこの世を去っていたそうだ。
そんなやりきれない思いから、アシュフォードさんはドラゴン料理の技を封印したのだと言う。
「じゃあ、何故わたし達の?」
「それはなぁ、娘さん。その死んだ孫娘が、あんたにそっくりなんじゃ」
「っ!?」
ジッと見つめられて、アメリアさんは言葉もない。
それからアシュフォードさんはこの場を立ち去った。
他に話すことは何もない。
まるでそう言うかの様に。
「そんな事があったなんて……わたし全然知らなくて……」
「……アメリアさん」
「ユウさんっ、わたし達がアシュフォードさんにしてあげれる事って何でしょうかッ!?」
感極まって瞳に一杯の涙を溜めるアメリアさん。
彼女は真っ直ぐに私の目を見て問いかけてくる。
ここで「知らない」なんて言ったらどうなるか……。
そんな思いをひた隠し、私は微笑しながらアメリアさんに語りかけた。
「それは、ドラゴン料理を作ってもらう事じゃないですか?」
「……料理を?」
「はい。それを美味しく食べる事が、私達に出来る唯一の事だと思います」
「はい!」
「そうと決まれば、リナさん達の所へ戻りましょう。きっと彼女達も協力してくれるはずですよ」
元よりそのつもりだし、何より料理が食べられるとあれば、どんな苦労も厭わないだろう。
それがリナさんと言う人である。
そんな事を思いながら彼女の手を取り歩き、私はふと───後ろを振り向いた。
「……ユウさん?」
「あ……いえ。何でもないんです。行きましょうか」
誤魔化し笑いをしつつ、私は再び歩き出す。
───その後。
リナさん達全員が、アシュフォードさんから家族に似ている話をされたと聞き、私は苦笑せざるを得なかった。
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