───犬みたい。
言い得て妙とはこういう事だろうか?
今回の仕事は、リナさんと行動を共にするのと同時に、異界黙示録の写本を消し去るというもの。
それは獣王様から与えられた命令。
そう、僕は主に仕える者。
消して切れる事なき鎖に繋がれた───。
そんな僕は従順な犬と言えるかもしれない。
けれど僕は曲がりなりにも魔族。
犬などと言う愛玩動物の様に尻尾を振るだけではない。
───それにしても。
彼女は一体何者なんでしょうか?
彼女からは何か不思議な力と懐かしさを覚える。
そう、だから彼女に近づいた。
だから声をかけ、
そして───興味を惹かれた。
『一目惚れ』だなんてリナさん達は冗談めかしていたが。
僕の彼女に対する興味は面白いというもので、それ以上でもそれ以下でもない。
何か不思議な雰囲気の彼女に興味がわいた。
そう、ただの興味の対象。
なんてことはない。
ただ、それだけ。
「…………のはずなんですけどねぇ」
「はい?」
ポツリと呟いた言葉に、彼女は不思議そうな顔をしながら聞き返してきた。
あぁ、そうだ。
今は『異界黙示録の写本』を探している最中だった。
あまり他の事に気を取られている場合じゃない。
「ゼロス?」
「あ、いえ……少し考え事をしていただけです」
「そう? じゃあそろそろ先に進みましょうか」
言って再び奥へと向かって歩き出す彼女。
その後を異論も無いのでついて行こうとし、
「……って、あれ?」
ふと先程の言葉に踏み出しかけていた足を止めた。
「ユウさん今僕の事ゼロスと呼びました?」
『さん』付けでは無しに。
さっきは他人だと言い切っていたのに。
すると彼女は立ち止まり、呆れたような顔をしてこちらに向き直り言った。
「ゼロスって呼べって言ったのは貴方でしょ?」
「それは……そうですが」
正直、あの感じじゃ無理だろうと思っていた。
「それに……」
「それに?」
「犬相手にかしこまるのもどうかと思って」
…………今度は完全に僕を犬扱いですか。
それは……。
「喜んで良い所なんですかねぇ?」
「……さぁ?」
困ったようにポリポリと頬を掻くと、彼女は悪戯っぽい笑顔を浮かべ、「こんな所で油売ってないで行きますよ」と促しながらまた奥へと歩き出す。
そんな彼女から離れないように付いていきながら、僕はまた知らず知らずのうちに先程の思考に想いを巡らせるのだった。
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