「……嘘……でしょ……」
そんなアメリアさんの呟きは、大きな聖堂へと静かに消え───……やるせない静寂が辺りを支配した。
異界黙示録の手掛かりを探す為、私達がやって来たのはココ───聖王都セイルーン。
古い寺院や魔道書を目的として訪れたのである。
更に、セイルーンはアメリアさんの生まれ故郷でもあり、何と言っても彼女はこの国の王女様。
例え正義のヒーロー的発言が多くても。
例えリナさんと張り合える程の大食いであっても、アメリアさんは、まごう事なき第一王位継承者の娘。
その彼女が「セイルーンの事は父さんに聞くのが一番!」と豪語するのも道理だろう。
そんな訳で私達はアメリアさんの案内のもと、城へと訪れたのだが……。
───彼女の父親に聞く。
それは叶わぬ夢と消えた。
私達の前には大きな石像と白い花───白き柩が横たえてある。
そして先程のアメリアさんの呟き。
それは自らの父親の死を受け入れられないと言う思いが込められていたのだ。
そう……彼女の父親は既にこの世には居ない。
私達は城に来るなりその事を告げられた。
「な、何でだよ……死んじまったのか? フィルさん」
「……らしいな」
「ちょ、ちょっと! これは一体どう言う事よっ!? おっちゃんっ!」
「……リナさん」
落ち込むアメリアさんを見ていられなかったのだろう。
リナさんは私達をここまで案内してくれた男の人に掴みかかった。
「わ、わしはおっちゃんではない! クリストファ=ウル=ブロッゾ=セイルーン。 この国の第二王位継承者だ!」
「えぇっ!? それじゃあアンタ、フィルさんの弟さん……?」
驚きとともに彼女はクリストファさんから手を離す。
柩の前の石像がアメリアさんの父親の姿を模ったものらしいので、クリストファさんとは似ても似つかなく、リナさんのその驚きも無理はないだろう。
そんな彼は襟を正し、憮然としながらも答えた。
「兄上がこの様な事になり、わたくしとて遺憾に思っておるわ」
「おい、もう少し詳しく説明しろよ」
「……ここ数日間、このセイルーンで兄上、つまりフィリオネル殿下を狙った暗殺事件が続出したのだ」
「暗殺ですって!?」
「自分が狙われる事で一般市民を巻き込む事を恐れた兄上は、我々が止めるのも聞かず一人街を離れ………そして遂に」
───爆発に巻き込まれた。
……否、そう仕組まれた、と言う方が正しいだろう。
「我々が駆け付けた時には既に遅く、焼けただれた大地に残されたものは……唯、ひとつ……」
そこで一旦言葉を切ると、彼は何処からともなく取り出した一本の短剣を、アメリアさんへと差し出した。
それはセイルーンの紋章が描かれた、おそらくフィリオネルさん自身の護身用の剣。
アメリアさんは柩から静かに視線を離すと、その短剣にそっと手を置いた。
「……あの柩は空って事か」
「それで? フィルさんを襲った暗殺団の手掛かりは?」
「それが……その行方はようとして知れず、何とも……」
「今は敵も息を潜め、その姿すら見せない状況が続いています」
うつ向くクリストファさんに続き、そう説明したのは、先程から彼の側にずっと佇んでいる青年。
確か先程、アメリアさんがアルフレッドと呼んでいたはず……。
クリストファさんの面影があることから、きっと息子さんか何かなのだろう。
「それって、狙いはあくまでフィルさんだったって事?」
「セイルーンを狙った敵国の陰謀……」
「そうね、それとも……」
「嘘よっ!」
ゼルガディスさんの推察に、リナさんは頷き───けれど、それに異を唱えたのはアメリアさんだった。
「こんなの嘘よっ!」
「……姫」
「父さんが悪に負けるはずない! わたしを置いて居なくなるはずないわっ!!」
それは希望を込めた叫び。
切なる願い───。
彼女は父親の剣を胸に、聖堂を走り去った。
「アメリアっ!!」
「……リナさん」
呼び止めようとする彼女を引き止め、首を振る。
「……今は一人にしてあげましょう」
「……そう……ね……」
力無く頷く彼女に、私は微笑み、そっとリナさんの肩を叩いた。
───大丈夫。
きっと彼女なら大丈夫。
そんな想いを込めて。
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