夜中と言うこともあるが、天気の悪さも手伝って、明かりの灯されていない部屋の中は随分と暗かった。
窓の外を見ると、今にも降りだしそうな空。
それはまるで彼女の心を表しているようで……。
「……アメリアさん」
雷の光に、一瞬浮かび上がった彼女の姿。
私はアメリアさんへと近づき、そっと声を掛けた。
「……ユウさん……」
「何を見ていたんですか?」
暗い部屋の中、アメリアさんが持っていた一冊の本。
それを覗き込むと、そこには一枚の挿し絵が描かれていた。
───英雄の姿が。
「……むかし」
「ん」
「わたしがまだ幼かった頃、父さんが良くヒーローごっこをしてくれたんです」
「……………」
「ある時、わたし、二階の手すりに上って落ちちゃった事があったんです。父さんが慌てて受け止めようとしてくれたんですけど、勢い余ってわたし、父さんの頭の上に落ちちゃって……公務で忙しいのに、早くに母さんを亡くしたわたしに寂しい思いをさせない様に、なるべく一緒に居てくれて……わたしが寝るまで側に居てくれて……そんな……そんな父さんが……何故……」
ポタポタ……っとアメリアさんの瞳から滴が落ち、本に小さな染みを作る。
ギュッと本を抱き締める彼女の背中に、そっと手を置き、窓の外を眺めながら彼女に語りかけた。
「素敵なお父さんなんですね」
ガタタッ
「…………?」
突然の物音に何事かと振り向き見た先には、少し開いた扉と、廊下に突っ伏すリナさんの姿。
………………うん。
見なかったことにしよう。
何事もなかったかのように再び窓へと視線を戻すと、先程まで降り留まっていた雨が遂に地へと落ちてきた。
それはアメリアさんの……果てはこの国の人々の悲しみを例えるようで。
まるで代わりに泣いているようで。
段々と激しさを増す雨に、私は先程途切れてしまっていた言葉を紡錘いだ。
「……大丈夫」
「っ!!」
「絶対大丈夫ですよ」
何を根拠に。
哀しみと疑心が入り交じるアメリアさんの大きな瞳とかち合う。
そこで私は笑みを浮かべた。
リナさん達曰く、悩んでいるのが馬鹿らしくなる。
そんな微笑みを……。
「だって正義が負けるはずないじゃないですか」
「…………」
「ね?」
「……ユウさん」
「私に出来ることなら力になります。それに、アメリアさんにはもっと心強い味方もいることですし……ですよね、リナさん?」
「───えっ!?」
言って後ろを振り向けば、先程床に突っ伏していたリナさんが、私達の直ぐ後ろまで来ていた。
何だかんだ言って、結局はアメリアさんを放って置くことが出来なかったのだろう。
リナさんて意外とお人好しだし。
「元気だしなさいよ、アメリア」
「……はい」
「フィルさんを襲った連中ならさ、あたしが見付けてギューッて、とっちめてあげるから……ね?」
「得意分野ですもんね」
「どういう意味よ? それ」
「そのままの意味ですよ」
「あんたねぇ!」
「…………」
『…………』
冗談めかすものの、やはりアメリアさんは本調子ではない。
私はリナさんと顔を見合わせた。
───が、それも束の間。
焦れたリナさんはキッとアメリアさんへ視線を合わし、一気に捲し立て始めた。
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