……何だか分からなくなってきたな。
静かな神殿の中。
私は一人佇み、目の前にある『赤の竜神』を振り仰いだ。
「……ここは変わらないのね」
私の居た時代にも聖王都は存在し、この石像も存在している。
聞くところによると罰当たりな賊がこの像を壊し、作り直した事もあったそうだが……。
「案外リナさんだったりして」
紡錘がれた言葉は闇へと消えた。
───……今。
リナさんとアメリアさんは手紙の主、アルフレッドさんの所へと向かっているはずだった。
アルフレッドさんと言えば、この一連の暗殺騒ぎの重要人物であり、容疑者であるクリストファさんの息子さん。
一体その彼が何の用でリナさんを呼び出したのか?
リナさんは罠かもしれないと知りつつ、その要求に応じる事にした。
曰く『罠だったら罠だったで、少しは進展もあるでしょ』との事。
ちなみにガウリイさんとゼルガディスさんは、フィリオネルさんの警護。
そして私は───息抜き中。
張りつめ過ぎると、いざという時に動けないからと、交代で休憩することになったのだ。
「……それにしても」
天窓を見上げると、ほんのりと陽が射している。
時は夕刻。
日の沈みかけた空は紫色。
それは誰かを彷彿とさせ、私はそっと息を吐いた。
「………………」
───……あの日。
約束をした日。
それ以来、彼の私への接し方が変わったように思う。
それまでも徐々に打ち解けていた感じではあったが……。
───彼自身気付いているのだろうか?
冗談の中にある接する時間の長さに。
言葉の端々にある楽しげな雰囲気に。
優しくなった───その瞳に。
「はぁ……何やってるんだか」
溜め息とともに吐いて出たのは自嘲の言葉だった。
私はコツン……と石像に額を押し付け、瞳を閉じる。
初めてこの時代に来た時、肝に銘じたはずなのに。
いずれ帰らなければならないのなら、深い付き合いは避けるべきだと。
あとで辛くなるなら、一線を引くべきだと。
それなのに。
分かっていたのに。
彼らのそばに居るのが心地よく、気づけば国のお家騒動に首を突っ込んでる始末。
……そろそろ潮時かな……。
本来なら、一生逢うことの無かった人々。
そんな彼らと仲良くする必要なんか……───。
「……必要なんか……」
『無い』。
その一言が言えなくて、否定の言葉は吐息とともに消えた。
───と、その時。
突然入り口の方から爆発音が聞こえ、一瞬で意識が引き戻される。
耳をすませば、何者かがコチラに駆けてくる足音。
私は用心の為に、急いで呪文の詠唱を始めた。
反響していた足音が徐々にクリアになり……。
───来る!
そう思った刹那。
入口から飛び出してきたのは、リナさんとアメリアさんだった。
「ユウっ!?」
「ぇ……どうして、お二人がココに?」
アルフレッドさんに話を聞きに行ったはずなのに。
突然の二人の出現に、頭が追い付かない。
「話は後よっ! 新手の魔族が現れたの」
「っ!?」
「ユウ、崩魔陣は使える?」
「……はいっ」
ためらってる暇などない。
すぐ後ろには魔族がいるのだ。
作戦は急ピッチで進められ、アメリアさんと私は像の後ろへ隠れて、呪文を唱え始めた。
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