明けて翌朝。
私達は一人の女の子の案内で、魔法医ルナンの家に訪れていた。
魔法医の家の大体の場所は聞いてたものの、詳しい場所は分からず、お使い中の少女に尋ねたのだ。
すると女の子は快く案内を引き受けてくれ、ここまで連れてきてくれた───と言う訳である。
「えっと、魔法医の先生は? あ、往診中かな?」
お使い物をテーブルの上に置く少女に、リナさんは辺りを見回しながら質問する。
すると女の子は、「あれ、言いませんでしたっけ?」とコチラを振り向き、そして衝撃の事実を述べた。
「わたしが魔法医ルナンです」
リナさんの驚くまい事か。
マルチナさんなど、大声で笑い出す始末である。
かく言う私もあんまりな展開に言葉もない。
どう見たところで少女の歳は十歳くらい。
その子に命運を託すと言うのだ、心配にもなると言うもの。
「おじいちゃんは去年亡くなったんです。それで魔法医ルナンの名をわたしが継いだんです。わたしの名前はキラ……っくしゅ! あ、いっけな〜い」
薬の材料を量ってる途中、クシャミで粉を撒き散らし、キラと名乗った少女は口を押さえた。
「……スッゴい不安」
「ま、まぁ……ダメで元々と言うこともありますし……」
「さてと、ここに横になって下さい」
コチラの不安をよそに、自称魔法医は床に魔方陣を描き、その上に敷いた古そうな布団へと私達を促す。
それを見たリナさんはフラりとよろけ───と、そこへ。
「リナさん、見たところ調合は間違っていないみたいですし。ま、物は試しです。やってみたら?」
「じゃあ、アンタが飲んでみるかっ? アレッ!!」
ゼロスの耳打ちに、リナさんはグツグツと煮える大鍋の中身を差す。
そこには得体の知れない、紫色の液体が入っていた。
しかもそれは、かき混ぜていた棒を溶かす程の威力があるのだ。
「で、どうする? ユウ……」
「あー……ここはやはりレディファーストで、リナさんからどうぞ」
「って、アンタも女でしょーがっ!!」
「アレ飲む位なら魔力が戻らなくても良いです、私」
「うぐ……あたしもそう思いたいけど……」
きっぱりハッキリ言った私に、リナさんはたじろぎ、と───次の瞬間。
ゴグォッ!!
爆発が起き、気づけば辺りの物が吹き飛んでいた。
それは例えではなく、家一軒を吹き飛ばすほどの威力で、結界が張られていなければ、私達の身もただでは済まなかっただろう。
その窮地を救ってくれたのはゼロス。
彼が咄嗟に魔力障壁を張ってくれたおかげで、私達は無傷で済んだのだ。
「……ふぅ」
「ゼロス様!」
その事に気づいたマルチナさんは、ゼロスに憧れの視線を注ぎ───そして。
障壁を消した途端、落ちてきた大鍋が彼女を直撃。
ゼロスは若干申し訳なさそうに、頭をポリポリと掻いた。
「……あー」
「な、何なのよっ!?」
「あぁっ!? こんな物入れたら爆発するに決まってるじゃないですかぁ」
鍋の底に開いた穴から中を覗き込んだキラちゃんの手には、ドクロの絵が描かれた瓶が握られている。
こんな物を入れて喜ぶのはマルチナさんぐらいだろう。
ちらりと彼女の方を見ると、その向こう側でリナさんが眉を吊り上げていた。
「マ〜ル〜チ〜ナ〜っ!?」
「え? 何々? わたくしは知らないわよ〜」
「くぅあ〜っ!!」
シラを切るマルチナさんに、リナさんが怒りの声をあげる。
それを見ていたゼロスは、涼しい顔で報告してくれた。
「いけませんねぇ、マルチナさん。おまけに今ので要らぬお客さんを呼んでしまった様ですよ?」
お客さんて……まさか。
嫌な予感は的中し、空には暗雲が立ち込め、雷鳴が轟き始める。
「まぁたアンタ何かやったんじゃないでしょーね?」
「へ……? オーホホホホッ。よく分かったわね! これぞゾアメルグスター様の呪い!」
「……違うな、こりゃ」
「ですね」
などと言ってる間にも、空が瞬き、私達の間に雷が落ちた。
その後も意思を持っているかの様に、立て続けに落ち続ける雷は無論、自然現象などでは無い。
リナさんは攻撃の隙をついて短剣を手にすると、空に向かって投げつけた。
短剣は宙を裂き、何もないはずの場所でピタリと静止する。
そして。
その場から現れたのは、予想通り───……魔族。
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