「魔術が使えん割にはやるな、リナ=インバース」
「ま、魔族ッ!? 何でこんな所に……」
驚きの声を上げるリナさん。
私は少しでもフォロー出来るように、彼女の側へと近づこうとし───いきなり後ろにのけ反った。
ゼロスにフードを引っ張られたのだ。
「はい、ユウさんはコッチです」
「ちょっ、ゼロスッ!?」
戸惑う内にも首根っこを掴まれ、先程吹き飛び瓦礫と化した家の裏側へと連れ込まれる。
「ちょっと何してるんですかっ! 遊んでる場合じゃ無いんですよっ!!」
「わかってます」
何とかゼロスの手から逃れると、私は直ぐにリナさんの所へ戻ろうと足を踏み出した。
しかし。
腕を掴まれ、それすらもゼロスに阻まれる。
「……離してください」
「承服しかねますね」
「……っ!」
私の腕を掴んでいるゼロスの手に、力が込められる。
今、彼の気まぐれに付き合ってる暇はない。
苛立ちから彼を睨みつけると、ゼロスの両目がスッと開かれた。
普段は閉ざされている紫電の瞳。
その鋭く真っ直ぐな視線に、思わず息を呑む。
緊迫した空気の中、聞こえてくるのは空に浮かぶ魔族とリナさんの会話。
「我はカンヅェル様の僕。ご命令とあらば何処へでも行き、任務を果たすだけ」
「カンヅェル……! やっぱり……でもアンタ命令を間違えてるわ!」
「何?」
「セイルーンはあっち! フィルさんは今回一緒じゃないの! 命令聞き間違えてどーすんのよ!?」
見るとリナさんはビシッとセイルーンの方を指差していた。
魔力の戻ってない今、争いはなるべく避けたいと言うところだろう。
が、しかし。
魔族はどことなく小馬鹿にした口調で語る。
「間違いではない。リナ=インバース、お前に用があるのだ」
「あ、あたしにっ? 一体何のッ!?」
「そう、お前に死んでもらう事よ」
その言葉が合図であったかのように、魔族の周りには何体もの手下が現れた。
驚くリナさんと、マルチナさん。
「やれ! 手下どもっ!!」
そして、ついに火蓋は切られた。
魔術の使えないリナさんとマルチナさんに、この場を切り抜けられる方法は皆無に等しい。
腕を掴まれてる事も忘れ応戦しようとするが、ゼロスに引き留められそれも叶わない。
そんな状態にヤキモキしている間に、彼女達は逃げに打って出た。
「リナッ! 何なのよアレっ!?」
「こんな所に魔族が現れるはずがないのにっ!!」
「まぞく? アレって魔族なのっ!?」
「アンタねっ!! 見りゃ分かるでしょっ!?」
「ふんっ! お育ちの良いわたくしが、魔族なんて見たことがある訳が無いでしょ〜」
「威張るなーっ!!」
「まぁ、魔道士風情が偉そうにっ!!」
敵に追われつつも喧嘩し始める二人。
「………………」
……なんか大丈夫そうな気もしてきたな。
呆気に取られる内にも、リナさんは地に落ちていた棒を掴み取り、敵へと向かえ打っていた。
しかし、普通の剣ですら効かない相手に、ただの棒が効くはずもない。
一方、マルチナさんは大鍋の中に入りながら(まだ入ってた)逃げ回っている。
「きゃあぁっ!! 助けてぇっ!! ゼロス様ぁッ!!」
と叫びながら。
「……呼んでますよ、ゼロス様」
私は未だに離してくれない彼に、嫌味を込めてそう言った。
それに続き、隣に避難して来ていたキラちゃんが、心配そうに尋ねる。
「良いんですか? 助けなくて」
「色々事情がありましてね。あんまり大っぴらに出る訳に行かないんです」
そうこうしている間にもリナさんへの執拗な攻撃は続き、彼女はみるみる傷を負って行く。
「ふぅ……やはり戦況は不利ですねぇ」
「離して、ゼロス。もう……見てられない」
このままジッとしてるなんて出来ない。
あんな傷だらけのリナさんを前に、何も出来ないなんて。
けれど、ゼロスは掴んだ腕を離そうとはしなかった。
「行ってどうするんです? ユウさんも魔術を使えないんですよ?」
「だとしても、黙って見てる訳にはいかないわ」
「わざわざ死にに行く気ですか?」
真面目な彼の視線。
その表情から、本当に心配してくれているのがわかった。
でも、私の答えは───。
「……離して」
「嫌です」
「離しなさいッ! ゼロスっ!!」
「っ!」
ピクンと肩を震わせるゼロス。
その隙に、私は彼の手を振り切り、リナさんの居る場所へと走り出していた。
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