「ま、まさか異界黙示録の写本が見付かるなんてっ!? これもあたしの日頃の行いが天に届いたんだわ〜っ!!」
日の傾き始めた山の中腹で、リナさんは写本を抱き締め、終始ご機嫌だった。
……届いたら手に入らなかったと思うんですが。
そんな私の呟きも聞こえないほどに。
「で、クレクレバイブルって何ですか?」
「決まってるじゃない! ウクレレの教本よっ!!」
キラちゃんの疑問に、胸を張って答えるマルチナさん。
ゼロスはそんな彼女達へと歩みよると、マルチナさんを窘めた。
「はっはっは、嘘を言ってはいけません。わたしが少々教えてあげましょう。異界黙示録とは何かを」
「はい! ゼロス様っ!!」
彼との会話なら大歓迎。
そんな雰囲気のマルチナさんに、ゼロスは説明を始めた。
「『異界黙示録』───それはこの世界に伝わる伝説なんです。こことは別の世界の魔王や魔族達の伝承。果ては、わたし達の知らない魔道の奥義までが克明に記されていると言う伝説の魔道書。それが異界黙示録なんです」
ま、なかなか本物の写本にはお目にかかれないのですが。
そう付け加えたゼロスに、しかしマルチナさんは苦笑しているだけ。
どうやら分かっていなさそうである。
「これってルーン文字じゃないの! いよいよ伝説の異界黙示録っぽいじゃない! えーと、何て書いて……」
早速表紙を捲り、読み進めるリナさん。
すると彼女は幾ばくもせずに驚きの声を上げた。
「えぇっ!? これってまさか……」
「一体何が書いてあるんですか?」
私も内容が気になり、彼女の横から写本を見せてもらう。
───そして。
「……ぅ゛」
そこに書かれていた文字に、文章に。
私は思わず呻いていた。
何故ならそこに書かれていたのが、ロードの───……。
『金色の魔王』の事柄だったから。
───そう。
何を隠そう、私をココに送り込んだ張本人。
『彼女』の事が……。
「これなら……前から試してたあの魔法、完成するかも……」
こくん。
喉を鳴らし、はやる気持ちを押さえるリナさん。
彼女は待ちきれない様子で最後のページを捲り───……。
ドガッ!!
あまりの衝撃に、リナさんは地に倒れた。
「肝心な所が……わかんない」
「これは……まぁ……何と言うか……随分カラフルですね……」
他に言いようがないくらい、そのページは彩り豊かだった。
赤や青や緑や黄色。
それはもう、書いてある文字が解読不能なくらい。
「あ……コレ、わたしのイタズラ書き」
固まる私達をしり目に、写本を手にしたキラちゃんが問題のページを見て微笑む。
「……いたずら書き?」
「三歳ぐらいの時の……何だか懐かしいなぁ……えへ♪」
「『えへ♪』じゃないでしょうっ!?」
「キラさんたらお茶目さんだなぁ」
「お茶目さんでもなーいっ!!」
ゼロスの言葉はまさに火に油。
リナさんは立ち上がるなりキラちゃんが持っている写本を取り上げ、二人に怒りをぶつけた。
「何よコレっ!! 散々期待させといて肝心な部分が全然読めないじゃ……」
けれど、リナさんの怒りの声もそこで中断される。
その替わりとでも言うように響くのは、マルチナさんの高笑い。
その手には、たった今リナさんから奪った、異界黙示録の写本があった。
「オーホホホホホッ! 何だか分からないけど残念だったわねぇ?」
「はぁ……何言ってんだか。ほら、さっさと返しなさいよ」
呆れながらも、マルチナさんに向かって手を差し出すリナさん。
しかし、彼女がおとなしく言う事を聞いてくれるはずがない。
案の定、マルチナさんは返す素振りを見せずに勝ち誇った。
「この写本とやらが手に入ればこちらの物! コレを使ってゾアメルグスター様の復活の資金にしてくれるわっ!!」
「……しょうがないですねぇ」
「ぇ……?」
小さな声に振り向けば、そこには瞳を開けたゼロスの姿。
───って、まさかっ!?
その瞬間。
私はある出来事を思い出していた。
「待っていて下さい、ゾアメルグスター様。復活の暁には、にっくきリナを……」
「ゼロス、待っ……」
───けれど。
私が彼を止めるより先に、クレアバイブルの写本はものの見事に消し炭と化したのだった。
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