「あーぁ……」
炭になってしまった写本を見て、ガッカリするリナさん。
一方、写本が燃えた事により火傷を負ってしまったマルチナさんは、リナさんへと恨みがましい視線を向けていた。
「……よくもぉ」
「え?」
「おにょれリナぁ……」
「あたしじゃない……って言っても無駄よね……」
呆れて肩を落とす、リナさん。
勿論、マルチナさんのは完全に逆恨みである。
私は隣にいる真犯人へと、ジト目を向けた。
「燃やしたの、ゼロスだよね」
「おや、僕がやった証拠でも?」
「前に写本を燃やした事、忘れたとは言わせませんよ」
そう指摘すれば、彼はさらりと居直る。
「ま、どのみち読めなかったんですし、良いじゃないですかそんな事」
言って、肩を竦めるゼロス。
要するに彼の仕業と言う事なのだろうが、そこに悪びれる態度は一切見られなかった。
かと言って、これ以上追及したところで彼が口を割るとは思えない。
私は諦めるように、一つ溜め息をついた。
「まぁ、ゼロスが言いたくないならそれで良いけど……」
「…………」
それを見ていたゼロスから、何やら物言いたそうな視線が寄越される。
「……何?」
「……いえ……あの……本当に良いんですか?」
「……聞かれたら困るくせに」
「いや、それは……まぁ……」
ツッコミに、ゼロスはぽりぽりとそれこそ困ったように頬を掻く。
私が怒るとでも思ったのだろうか。
まぁ、リナさん辺りが真相を知れば、怒り狂っていたかもしれないが……。
「だって、写本はもう無いし、責めてゼロスが改心するでも無いし」
「………………」
「それに……私も勝手な行動取っちゃったしね。これで、おあいこ……って事で」
そう言って肩を竦めれば、ゼロスはポツリと呟いた。
「ほんと、変わった方ですねぇ」
───と。
その後、事態は急展開を見せた。
山の向こうに狼煙が上がったのだ。
私達は慌ててセイルーンへと引き返した。
その最中、涼しい顔で山を駆け登るゼロスが、リナさんの背中に向かって質問を投げ掛ける。
「緊急事態がセイルーンに?」
「フィルさんに万が一の事があったら、知らせてくれって頼んでおいたのよ」
「それじゃあ急ぐしかないですね」
言って振り向くと、ゼロスは後ろを走る私達へと笑顔を見せた。
「ね? ユウさん、マルチナさん」
それは勿論、百も承知である。
今は一刻も早く、セイルーンに戻らなくてはならない。
それは分かっているのだが───。
理解しているのと、行動できるのとは別の話で。
「……わ、わかっ……たから……手、離し……」
私は、ゼロスに繋がれている右手を離してくれるよう、息も絶え絶えに頼んだ。
ゼロスにしっかりと握られている私の右手。
こうなってしまったのには、無論のこと理由がある。
リナさんは全力疾走で山を行き、彼もまた、それについて行った。
けれど、もともと体力のあまり無い私が、二人のペースについて行けるハズもない。
そんな、やっとの思いでついて行っている私を見かねて、ゼロスが手を引いてくれたのだ。
しかしながら、この方法。
引っ張ってもらってるお陰で楽な面もあるが、強制的に『二人のスピードについて行かなければならない』と言う面もある。
これは結構つらい。
「お……お願……離し……」
「そんな事を言ってたら、いつまで経ってもセイルーンに着きませんよ?」
「じゃ、じゃあ……マルチナ……さん、も」
先程から背中に突き刺さる痛い視線。
後ろを振り向けば、割りと離れた場所を走っているマルチナさんに睨まれている。
私は背筋にタラリと汗し、手を握って離さないゼロスの後ろ姿に、マルチナさんの手も引いてくれるよう求めた。
すると、彼はニコニコ笑顔で振り向き、一言。
「あいにく右手は杖で塞がっていますから」
「…………………」
いや、そんな良い笑顔で言われても。
それに、そろそろ私も限界である。
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