(4/9)

「あーぁ……」



炭になってしまった写本を見て、ガッカリするリナさん。

一方、写本が燃えた事により火傷を負ってしまったマルチナさんは、リナさんへと恨みがましい視線を向けていた。



「……よくもぉ」

「え?」

「おにょれリナぁ……」

「あたしじゃない……って言っても無駄よね……」



呆れて肩を落とす、リナさん。

勿論、マルチナさんのは完全に逆恨みである。

私は隣にいる真犯人へと、ジト目を向けた。



「燃やしたの、ゼロスだよね」

「おや、僕がやった証拠でも?」

「前に写本を燃やした事、忘れたとは言わせませんよ」



そう指摘すれば、彼はさらりと居直る。



「ま、どのみち読めなかったんですし、良いじゃないですかそんな事」



言って、肩を竦めるゼロス。

要するに彼の仕業と言う事なのだろうが、そこに悪びれる態度は一切見られなかった。

かと言って、これ以上追及したところで彼が口を割るとは思えない。

私は諦めるように、一つ溜め息をついた。



「まぁ、ゼロスが言いたくないならそれで良いけど……」

「…………」



それを見ていたゼロスから、何やら物言いたそうな視線が寄越される。



「……何?」

「……いえ……あの……本当に良いんですか?」

「……聞かれたら困るくせに」

「いや、それは……まぁ……」



ツッコミに、ゼロスはぽりぽりとそれこそ困ったように頬を掻く。

私が怒るとでも思ったのだろうか。

まぁ、リナさん辺りが真相を知れば、怒り狂っていたかもしれないが……。



「だって、写本はもう無いし、責めてゼロスが改心するでも無いし」

「………………」

「それに……私も勝手な行動取っちゃったしね。これで、おあいこ……って事で」



そう言って肩を竦めれば、ゼロスはポツリと呟いた。



「ほんと、変わった方ですねぇ」



───と。






その後、事態は急展開を見せた。

山の向こうに狼煙(のろし)が上がったのだ。

私達は慌ててセイルーンへと引き返した。

その最中、涼しい顔で山を駆け登るゼロスが、リナさんの背中に向かって質問を投げ掛ける。



「緊急事態がセイルーンに?」

「フィルさんに万が一の事があったら、知らせてくれって頼んでおいたのよ」

「それじゃあ急ぐしかないですね」



言って振り向くと、ゼロスは後ろを走る私達へと笑顔を見せた。



「ね? ユウさん、マルチナさん」



それは勿論、百も承知である。

今は一刻も早く、セイルーンに戻らなくてはならない。

それは分かっているのだが───。

理解しているのと、行動できるのとは別の話で。



「……わ、わかっ……たから……手、離し……」



私は、ゼロスに繋がれている右手を離してくれるよう、息も絶え絶えに頼んだ。

ゼロスにしっかりと握られている私の右手。

こうなってしまったのには、無論のこと理由がある。

リナさんは全力疾走で山を行き、彼もまた、それについて行った。

けれど、もともと体力のあまり無い私が、二人のペースについて行けるハズもない。

そんな、やっとの思いでついて行っている私を見かねて、ゼロスが手を引いてくれたのだ。

しかしながら、この方法。

引っ張ってもらってるお陰で楽な面もあるが、強制的に『二人のスピードについて行かなければならない』と言う面もある。

これは結構つらい。



「お……お願……離し……」

「そんな事を言ってたら、いつまで経ってもセイルーンに着きませんよ?」

「じゃ、じゃあ……マルチナ……さん、も」



先程から背中に突き刺さる痛い視線。

後ろを振り向けば、割りと離れた場所を走っているマルチナさんに睨まれている。

私は背筋にタラリと汗し、手を握って離さないゼロスの後ろ姿に、マルチナさんの手も引いてくれるよう求めた。

すると、彼はニコニコ笑顔で振り向き、一言。



「あいにく右手は杖で塞がっていますから」

「…………………」



いや、そんな良い笑顔で言われても。

それに、そろそろ私も限界である。

<<>>
[ 戻る ]


ALICE+